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出会うために 3  *side:トニー*

トニー視点3話目です。

幕間はこれで終わりになります。

 僕が子爵邸に行ったのは、手紙が届いてから五日後だった。その日は商品の搬入はなく、店で仕事をしていても良かったけど、子爵邸に行くことが分かっているから、休みを貰っていた。


「…アントニア嬢に会うための一歩になるはずだから、がんばらないと」


 そう呟いた僕の声を拾う者なんて誰もいない。ただ、僕はアントニアに会うために必死で動くだけだ。彼女を守りたい、今度は彼女を誰にも殺させない、そう心に決めていた。だから、ただ彼女を守る為に今はその初めの一歩だ。


 §


 子爵邸に少し早くに到着し、いつもなら出入りの商人や使用人達が使う裏門に行くところ、今回は正門のほうへと行く。

門に立つ私兵に手紙を見せ、子爵様に招待されたことを伝えると、中へ入れてもらえた。玄関前には執事らしき人物も立っていた。彼に案内されて、子爵様の待つ応接室へ入る。


「本日はお招きありがとうございます」

「わざわざ来て貰って済まないね。さ、座りなさい」

「失礼いたします」


 ソファに子爵様と向かい合わせで座ると、すぐに目の前に置かれたローテーブルの上に小振りなお菓子と紅茶の入ったカップが並べられた。一通りの準備を終えると、部屋にいた執事以外の使用人は下がっていった。


「君のことを調べさせてもらった。君の両親はもう亡くなっている。合っているかい?」

「はい」

「君の父親は君が幼い頃に事故死。母親はその後しばらく健在だったが、何年か前の流行り病で亡くなった」

「はい、そうです」

「君は父親がどういう人だったか聞いているかい?」

「いいえ」

「それでは、母親のことは?」

「母は…王都の生まれで、どこかの貴族のお屋敷で使用人だったと聞いたことがあります。でも、そのお屋敷がどこかは知りません」

「…なるほどな」


 子爵様に問われて、答えていく。今より十歳以上年齢が高かった頃には、親の記憶そのものがなかった。それは僕がモブでしかないからだと思っていた。

けど、今回は親と過ごした記憶がある。これは、どういう意味があるのか考えてみても、きっとこの世界がどうして繰り返しているのか分からないのと同じレベルの不明瞭な物の一つだと思って、気にしないことにした。

 それにしても驚きだったが、少年の過去と僕の()()()過去は非常に似ていた。

父親がどういう立場の人間か僕も少年も母親から聞いていないこと。それから、母親が貴族の屋敷で働いていたということ。だから子爵様が調べた伝手がどういうものかによっては、僕は偽物判定されるだろうな、と思った。けど、あまり気にもしていない。その場合はアントニアのいるグリフィス侯爵邸で雇われて、そこでアントニアと知り合い、それこそ最悪はアントニアを屋敷から連れ出せばいいと考えていた。

逃げた後は僕なら何でも出来るし、生きていく術はいくらでもあるから。


「君の母親だが、君と顔立ちがそっくりだったかい?」

「…そう、ですね。僕は母と似ているようです」

「やはりそうか…」

「あの、一体どういうことでしょうか?」

「いや…君が、もしかしたら、私の兄の子供かもしれないんだ。だから、ちゃんと調べたい。何か…君の出自に関わる物を持っていないだろうか? それか、父親に関わる話を聞いているといいんだが…」

「僕が、子爵様のお兄様の…、え?」


 僕が異様に驚く様に、子爵様も執事もその驚きは当然だという様子で見ていた。僕は、暫く驚きで混乱した振りをしながら、「あ」と小さく声を出して、上着のポケットに入れていた、少年から譲り受けたカフスボタンを取り出した。


「あの…これ、なんですけど。母から、父の形見だと渡されたものです」


 子爵様に見えるようにローテーブルの上に置いた。すると、子爵様はそれを手に取り、じっくりと見始めた。そして、小さく何か呟いてから、カフスボタンをテーブルの上へと戻した。

そして、額に手を当て、一つ大きく息を吐いていた。


「これは、兄の物だ。間違いない。このボタンの裏に子爵家の証であるブラックオニキスが嵌め込まれているだろう? そんなことを知っている者は限られている。それに何より、兄が…君の母親を思って一緒に嵌め込んだんだろうな、ブルーレースもある」


 子爵様の言葉を確かめるために、カフスボタンの裏側を眺めてみた。確かに二つの小さな石が並んではめ込まれていた。


「…父と、母の…証」

「そうだ。君は私の甥だ。そのカフスボタンが証明してくれている」

「…あ、そんなまさか、僕が…子爵様の? いや、そんなこと…間違いではないのですか?」

「間違いではないよ。このカフスボタンの意匠は、この子爵家のものだ。そして、裏側に石を嵌めるのもこの子爵家特有のものだ。それを持っているということは、君がこの家に関わる人間だということになる。何より、君は兄が…君の父親が愛した人と面差しがそっくりだ。当時、私付きの侍女だった人と、君の面差しがあまりにそっくりで驚いたんだ。

それに、彼女が言っていたんだよ。ブルーレースの花も石も好きだと」


 なるほど、と僕は思った。子爵様が僕の腕を掴んだ理由はそこだったのか、と。

母親が子爵家で働いていた時に、子爵様の兄君と何かあったかもしれないし、なかったかもしれない。

ブルーレースアゲートのことは、僕には確かめようもないことだ。少年の母親のためを思って石を選んだものかもしれないから。

ただ子爵様の兄君が、少年の母親といつ出会ったのか? 僕の母親とはこの子爵邸で知り合ったのは間違いないよう…だから……。

そこまで考えて、僕はその先を考えることを放棄した。考えても意味がないから。

僕の母親も少年の母親ももう亡くなっている。それに父親も。僕達は二人して同じように何も知らないという事実があるだけ。


「…叶うなら、君をこの家に迎え入れたい。でも、正直に言うと現時点で迎え入れられるほど、この家に余裕がない。申し訳ないと思う」

「そ、そんなこと! 僕は商会で働いて、ちゃんと給金もいただけて、日々楽しく充実していますし、困っていることもないですし!」

「いや、それは駄目だ。君は貴族の血が流れている。ちゃんと貴族として生きるべき人間なんだ」


 再び戸惑う振りをする僕は、戸惑うより狼狽えるというのが正解という風に、慌ててみせた。


「孤児院で育って、働き始めて、いきなり貴族の子供だと言われても、戸惑うだけだというのは分かる。でも君は貴族として生きなくてはいけないんだよ。私はそれを望んでいる。ただ、この家では君を立派に貴族として育ててやれない。本当に申し訳ない」

「いえ、あの…子爵様が謝るようなことではないと…」

「今すぐにはどうすることも出来ない。ただ、一つ当てがある。暫く君をこの家で教育させてもらうが、それ次第では可能になるだろうと思っている。…兄の息子だ。きっと君は優秀なはずだ。暫くは窮屈な思いをさせることになるだろうが、いいかい?」

「え? 僕は…子爵様のお屋敷で暮らすということ、でしょうか?」


 僕が子爵様の言葉で、辛うじて理解しただろうというように言葉を紡げば、子爵様は頷いた。


「仕事を中途半端に…したくないのですが…」

「そう、か。でもそれは貴族だと分かった時点で、辞めることにはなるから諦めて欲しい」

「…そうなんですね。あ、でも、今日は帰らせてもらっても問題ありませんよね? 商会の会頭や店長にも話をしたいですし、孤児院の院長様にも伝えたいですし…」

「帰るのは問題ない。君の持ち物の整理も必要だろうし。ただ、三日後にはまた来て欲しい。その間に私の方でも君の将来を考えて動くから」

「分かりました。それでは、三日後にまた伺います」

「待ってるよ。今日は君と話が出来て良かった。兄の…忘れ形見に会えるとは、思ってもいなかったから…」

「父のことを…知ることが出来て、僕も嬉しかったです」


 そうして僕は予定通り、子爵家の所縁の者として貴族という立場を得られるところまできた。

その後は思うよりも早く様々なことが動いた。子爵様の甥という立場を正式に得た後、グリフィス侯爵家の養子として決まるのも早かった。そして、僕が正式にグリフィス侯爵家の養子として迎え入れられた日、やっとアントニアと再会出来たのだった。


 僕がどれほど彼女に会いたいと願ったことか。そして、彼女を守りたいと望んだことか!

彼女が自ら命を絶ったことに絶望した前回と違い、今回は絶対にそんなことにならないように、何よりアーヴィンから彼女を必ず奪ってみせる、と決意していた。

お読みいただきありがとうございます。


活動報告でトニー視点を書いた後に設定というほどではありませんが、考えてたことを少し書いてます。

ただの思い付きを書いただけなので、見なくても全然問題ありません。

気になったら眺めてみてください。


次回の投稿は、月曜日です。さて…4章スタートになります。

今までと違い、かなり直近に書いたものを寝かせる時間もない状況で(推敲の時間が…)の投稿になるので、色々やらかしてる気がします。

その為、直前まで読み返して確認して(主に誤字とか)、直しをしてますが…目が疲れて、読み飛ばしている気がするので誤字が増殖するのではないか、と。

誤字があったら是非ともお教えいただきたいです。

さくさくと修正していきます。

来週月曜日からまた読んでいただけると嬉しいです♪


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モチベーションも上がります!

どうぞよろしくお願いいたします。

ブックマーク登録、いいね!に感想、ありがとうございます(*^▽^*)

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