表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/63

出会うために 2  *side:トニー*

トニー視点2話目です

 かつての自分がどんな仕事をしてきたのか、本当に分からないくらいたくさんの仕事をしてきたはずだ。どういう経過を辿ってその仕事にありついたのかも()()()()()()()()()()

忘れるほうが幸せだと知ったのは、忘れることを心掛けるようにしてからだ。

 好きでしていたわけじゃない仕事が圧倒的に多かった気がする。誰が好き好んで人を殺すような仕事をしたがるんだか。少なくとも僕はしたくはない派。でも、仕方なかったから諦めてしていた気がする。

あの時は…尊い身分の方に仕える人間に拾われて、そのまま仕込まれた。気付いたら暗部にいた。本当嫌になるくらいに平和な時代に生きているという自覚は既にあったけど…。それでも様々な事が王家にもあった。

まぁ、おかげで当時の…つまり繰り返してるのがその当時と同じ時系列なわけだから、今のと言っていいのだろうけど、国のトップにいる貴族達の名前と顔はしっかり頭に入ってる。彼らの裏の顔も。

ただ…僕の平和で穏やかな生活に彼らは必要ないから、彼らのことを利用する日はきっと来ない。まぁ、アントニアやグリフィス侯爵家に何かすると言うのなら、話は別だけど。


 一番多かったのは、無難に穏やかに生きていけるような仕事ばかり。手に職を付けるというけれど、本当にそういうものが一番生きていくのに丁度良かった。

この世界で誰でも出来る一般職、知識が必須な専門職、親方に師事して学ぶ技術職、だいたいは平民に寄り添う仕事のほうが楽だったし、感謝されることも多いし、何より潰しがきく。

 さぁ、そんな僕の平和で穏やかな生活の為に、僕が()最大限利用するのは…アントニア嬢の義弟になる予定の少年だ。彼が望む少女との未来。少女も彼との未来を望んでいる。

つまり、僕の持つ『とある権利』と少年の持つ『カフスボタン』と交換するだけだ。


 僕は夕食を終え、片付けの手伝いをした後、少年と約束した屋敷裏へと向かった。

少年は少女と一緒に並んで僕を待っていた。まだまだ季節は暑く、夜になる時間だと言っても太陽が明るい。だから、二人が一緒に待っているのが遠くからでも見えた。


「ごめん、手伝いしてたら遅れた」

「いいよ、それは」

「それより、昼間言ってたこと…教えてくれる?」


 二人は僕が遅れた理由を分かっていたから、とくに文句は言わなかった。代わりに、用件を早く知りたいということを隠しもせず口にしている。

そんな二人の様子に安心しながら、僕は自分でも胡散臭いだろうなと思える笑顔を浮かべてる自覚がありながら、でもその笑顔のままで話を切り出した。


「君達が離れなくていい方法が一つある」

「どんな方法なんだ?」

「二人共知ってるだろ? 僕が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…知ってる」

「親方達に誘われてるんだ、うちの工房へ来いって」

「それが一体どう関係あるんだ?」

「簡単だよ。あるガラス工房の親方からも声を掛けてもらってる。そのガラス工房の弟子になる権利と、工房内の掃除や食事の準備、他にも色々な雑用をする使用人もいると助かるなぁって親方が言っててさ」


 僕が説明をする途中、言葉の区切り区切りで相槌とか要らないんだけど、と思いながら話をしていく。そして、一番肝心な部分を伝えると、流石の二人も目を見開いて、僕に期待の眼差しを向けてきた。


「それって…」

「まさか?」


笑いが漏れそうになったけど、さすがに声には出さなかった。代わりに胡散臭い笑顔を深めただけ。


「少年は案外手先が器用だし、真面目で、根性もある。絶対親方も気に入ると思う。だから、僕が親方に君のことを推薦するよ。それと、使用人の件だけど…僕はあまり女の子達と仲良くしてないから、知らないんだ。ただ、君が正直で丁寧に仕事をするというのはこの孤児院で見ていて分かってるから、きっと大丈夫だと思う。

だからね、二人を同じガラス工房で働けるように、親方に話そうかと思ってね」


 前半は少年に向けて、後半は少女に向けて話し、二人からは期待に満ちた瞳を向けられた。更には僕の事を恩人だと思っていそうな程の好意的な表情すら見せられて、苦笑してしまった。


「代わりに、君の持ってるカフスボタンを貰うけどいいかな?」

「勿論だ! あ、けど…親方からちゃんと雇ってもいいと言われないと渡せない」

「そんなの当たり前だよ。交換条件だからさ、こちらとしても約束はちゃんと守るよ」

「それならいいんだ」

「だったら、早速明日にでも親方のところに行くけど、一緒に行かないか?」

「そんなすぐに?」

「大丈夫…なの?」


少年との約束だから、カフスボタンのことは少年との約束を果たせた後で問題ないと伝えれば、少年は安堵したようだ。

口約束だけで奪うようなことはしないのに、と思いはしたが…よく考えれば実父の遺品だと言われているものなのだから、手放すのはやっぱり考えてしまうのだろう。

用が済んだら返すか…。

そう考えながら、早速親方に会うことを話せば、戸惑う二人に僕は少し首を傾げた。


「…うーん、親方が気に入らないってなったら、別の工房を紹介するけど、とにかく君達が一緒に行って、話をしたほうが早いだろ?」

「そう…だな」

「ええ、そうね」

「じゃ、明日だ。午後からでいいかな?」

「俺は大丈夫」

「私も」

「了解。それじゃ、昼食の後出かけよう」

「分かった」

「分かったわ」


 そんな風にして約束を取り付けた。

翌日昼食を食べ終え、三人で一緒に街へ行く。職人街のいくつかあるガラス工房の中でも、比較的大きめの工房へと向かった。その工房の親方は厳しいことで有名だったが、弟子に対して丁寧に指導をすることでも有名な人だ。弟子たちに惜しみなく技術を教えてくれる。だから、独立した弟子達がそれぞれの故郷で工房を持つことも多いそうだ。そのまま工房に残り、親方と一緒に工房を盛り立てている人も何人かいて、彼らのうち誰かが親方の後を継ぐことになるだろうと言われている。親方には息子がいなくて娘ばかり、というのも理由のようだ。

 そんな工房に連れて行くと、二人共ガチガチに緊張していたけど、でも僕が親方に二人が真面目なこと、丁寧になんでもこなすことを伝えると、それだけでも好感触だった。

実際に少年については、工房の練習台にしていい場所で、試しに色々とさせてもらっていた。親方はその様子に小さく何度か頷いていた。

少女の方は親方の奥さんに話を聞いているようだった。親方と奥さんが話をした結果、即決で二人を工房で雇うことを伝えてくれた。

 二人は心底喜んでいた。僕も二人が親方に気に入られて本当にほっとしていた。だめだったら、別の工房を紹介しなくてはいけないからだ。その手間が省けて本当助かったよ。

僕達は孤児院に戻ると、少年からカフスボタンを受け取った。これでアントニアに会うための下準備は整った。

後は、少年の父親の家と関りのある人物と接触するだけだ。少年が一度だけ接触したという人物はきっとだめだ。少年の顔を見てしまっている。彼の父親と少年はよく似ているそうだから。

だから、少年の父親の家の近くで誰かと接触するべきだろう。そんなことを考えながら、僕はしばらくの間、少年の父親の家について調べ、グリフィス侯爵家と縁戚であることも確かめ、実際に子爵家が現在どういう状況なのかも調べ上げた。

その後は子爵邸の周囲を様子を窺いながら、出入りの商人や使用人達の顔を覚えていった。

 出入りの商人と知り合うのは案外簡単で、あっさりとその商人の商会で雇われることになった。本当に簡単過ぎて大丈夫か? と思うくらいだったけど、元々あの孤児院は孤児達の教育がしっかりしてることもあって、この街の人達からの信頼も厚かった。だから、当然なのだろう。

 そうしているうちに、あの子爵家への荷物の搬入を手伝うようになった。そこで使用人達と親しくするのは当然で、でも少しだけ驚いたのは、僕を見た数人の使用人達が複雑そうな顔を向けてきたことだ。それがどういう意味なのかは後で分かったけど、その時には意味が分からなくて正直戸惑いはあった。

その戸惑いを振り切るような出来事が起こる。僕が荷物を屋敷内に運び入れ、屋敷から辞そうとしたタイミングで、子爵様がたまたま僕が荷物を運び入れた厨房にやって来たようだった。

そして、僕を視界に捉えた瞬間、僕の腕を掴み、そして僕の出自を聞いてきたからだ。


「子爵様、何か不都合でもございましたか!?」


一緒にいた商人が慌てて子爵様と僕の間に入るように声を上げたが、子爵様はただ僕を強く見つめ続けているだけだった。


「えっと、僕は孤児院の出身で、今はこの商会で雇ってもらっていますが…」


だから、僕が困ったように、戸惑いがちに答えてみれば、子爵様はハッとしたように僕の腕を放してくれた。


「今日は私の都合がつかない。後日商会に連絡をするから、来て貰えないだろうか?」

「はい、承知いたしました」

「それじゃ、帰っていい」

「それでは、失礼いたします」


 僕はもしかして、少年の父親と駆け落ちした相手と似ているのではないか? と予想を立ててみた。そう考えてみると、他の使用人達の複雑そうな表情にもなんとなく分かる気がしたからだ。

子爵家の令息を誘惑した相手とそっくりだというのなら、当時のことを知る使用人達にとっては、迷惑を掛けられて困ることばかりだっただろうから、それが思い出されていい顔なんか出来ない、と。

ただ似ているだけなら、きっと特に問題もないから表情だけに留める、そんなところだろう。

 そして、数日後に子爵家から僕宛に手紙が届いた。内容は非常に簡単で、日時の指定があって、子爵邸に来い、そういうことだった。

お読みいただきありがとうございます。


ちょっとだけ、トニーらしい部分があったなぁ、と思いながら書いてました。

さて、次回の投稿は金曜日です。トニー視点は次で終わりです。がんばって誤字探し頑張ります。

誤字…きっと見落としばかりの4章になりそうなので、気付いた方いらっしゃったら、教えて頂けると嬉しいです(*^^)


ブックマーク登録、評価の☆を★にしていただけるととても嬉しいです。

モチベーションも上がります!

どうぞよろしくお願いいたします。

ブックマーク登録、いいね!に感想、ありがとうございますヽ(=´▽`=)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ