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抱えるあたたかいもの 3

本日は二話投稿しています。

こちらは二話目なので、この前の「抱えるあたたかいもの 2」を読んでいない方は、そちらからどうぞ<(_ _)>

 子供が生まれてからずっと領地へは戻らず、王都に滞在している義両親に対し、トニーは一つの相談をしようと考えていた。

それを話してしまえば、信じられないものを見るような顔をされることは分かっている。だから、ほぼ嘘を伝える形になってしまう。それでも彼らにアントニアを、孫を、守る為には必要なことだと理解してもらうためには仕方のないことだとトニーは判断している。


 当主の執務室へ、いつものように向かう。扉をノックし、トニーが執務の手伝い出来たことを伝え、中へ入る。


「義父上、お時間が空いてからでいいので、少しよろしいですか?」

「大丈夫だよ。今日は少し仕事量も少ないし、早めに切り上げて昼食の時にでも聞こう」

「ありがとうございます」


 まずは現当主である義父から、とトニーは考えた。そして時間となり、執務室で手軽に食べられるものを用意させた義父と食事を摂っている。


「トニーの話というのは?」

「はい。…その、実は信じてはもらえないような話になるのですが…」


 §


 トニーは今まで何度もこの世界を繰り返し生きているということを、繰り返し夢で見続けていると話した。

その夢で、毎回アントニアが不慮の事故に遭ったり、病魔に侵されたりして、十八歳になる頃に死んでいることを伝えた。

トニーもさすがにアントニアが元婚約者に剣で切られたことが原因で死んでいるとは言えなかった。ただ、全ての夢で『王都にいると起こる』というように伝えた。王都でなければ大丈夫な印象を与える為、領地なら安全なのでは? と誘導するためだった。

 あくまでもトニー個人が見た夢の話だ。だから、アントニアが知るはずもない話。


 話をしてみれば、やはり信じる信じないの話ではないな、と思うトニーだったが。


「そういう夢も、あるのだな…。アンを心配するあまりに見てしまっている、そういうわけではないのだろう?」

「勿論です。アンが安全で安心して生活出来るのは当然ですが、だからと言ってそればかりに気を取られていては、領のこと、領地のこと、領民のことを守れませんから」

「そうだな。トニーがそこまで愚かだとは思っていない。となると…万一ということもあるのかもしれない、か」

「義父上?」

「いや…幸いアン達を領地に送るには、冬前の今が丁度いいのかもしれないな、と思ってな」

「!」


 トニーは義父が話をあっさりと信じたとは思っていない。けれど、アントニアの身の安全のために領地へ行くことについて、口にしたことに内心安堵していた。

そんなトニーを見ていた義父だったが、条件を付け足すように更に口にした。


「トニーも一緒に領地へ行くように」

「義父上!?」

「家族は一緒でないとダメだからね」


 トニーがグリフィス家の養子となり、アントニアと恋人になるまでの間、本当の親として接してくれた義父は、人として大切なことを多く伝えてくれてた。中でもアントニアの義兄となるモブの立場は、親を亡くした子という役割。

義父という人は、親を知らずに育った子を実の子と同じに育ててくれた厳しくも優しい人だ。だからトニーも義父が本当の父親なら良かったのに、と思う程に慕っている。実際にアントニアと実の兄妹となっては困るから、あくまでも心情の話だが。

義理の父ではあるけれど、自身の親として、アントニアの実父として、家族として、大事な人として考える一人だった。


「アントニアよりも、トニーのほうが寂しくなるだろう?」

「否定は……しません」

「私もだよ。妻と離れて過ごさなくてはいけない状況は、寂しくてね」

「だから、これはトニーのために付けた条件だ」

「ありがとうございます!」


 義父の言葉に笑いが漏れる。義母と離れていると微妙に機嫌が悪くなるというのは、侍従や執事からも聞いていたことだからだ。そして、トニーも義父と同類だという自覚があるからだろう。

ただ、やはり義父はこれだけで終わることがなかった。


「本当のところだが、その夢というのは確実に起こることなのかな?」


 この人はどこまで把握してるのか。そう思いながら、小さく息を吐くトニー。


「確実とは言えません。繰り返し見てきた夢とは状況が変わってきています」

「状況?」

「はい。私がアンと結婚したこと、そしてアンが学院を退学したことで、変わってきています」

「…もしかして、夢の中では全て学院で問題が起こっているのかい?」

「はい」


 義父が何か思う事でもあるのか、右手を額に当てていた。


「そうか…。夢ではないんだが、断片的な、既視感のような場面が何度かあったんだよ。いずれ、何か良くないことが起こるような、そんな感覚を伴うものでね…」

「それは…」


 義父は酷く苦し気に笑っていた。


「アンの身に最悪なことがあったかもしれない、そんな感覚なんだ」

「…義父上」

「他にも些細なことだ。家族との会話や、夫婦での会話、そんな中にかつて同じ会話をしたかもしれない、同じ経験をしたかもしれない、既視感が拭えないことがよくあるんだ」


(もしかしたら、他にも同じようにこの世界が繰り返しているのだと気付き始めてる人間がいるのかもしれない)


 トニーは瞬時にそう思う。そして、義父も繰り返し続けるこの世界に気付き始めているのでは、とも思う。本来なら話せるはずもない同じ時間を繰り返し生き続けていること、もしかしたら義父になら話してもいいのかもしれないとは感じた。けれど、アントニアがアーヴィンに殺され続けてきたと知れば、義父がどう思い、感じ、この先どう行動するのかを考えると、安易に言えることではないと思い直す。

 アントニアとこの家族の繋がりが以前は薄いと感じていたけれど、それはグリフィス家のために、少しでも悪い状況に陥らないようにとアントニアが考えて、行動していたからだと理解してしまえば、もう義父と義母には何も伝えないほうがいいことも分かる。

 アントニアにとって、彼らは繋がりが薄く見えても、大切な家族なのだ。そして今はもうその繋がりは決して薄くはない。そう自身の考えに結論が出れば、トニーはただ義父の言葉をただ聞いて、受け止めるだけだった。


「だから、トニーの夢は軽視してはいけないものだと、私に訴えかけるものがある」


 ただ黙って聞くトニーに、義父はただ淡々と、けれど決してふざけているわけではなく言葉を紡ぐ。


「アントニアを、失いたくない。私達の宝だ。だから…トニー、すぐにアンを領地へ」


 トニーは一度大きく頷いた。そして、大きく息を吐いて安堵した義父を見る。


「義父上、必ずアンを守ります」

「頼む。嫌な既視感の中で、アンを…失う言葉を聞いた気がするんだ…」

「そんなことが起こらないように、相談をさせていただいたのです」

「ありがとう、トニー」


 この後の二人の行動は、兎に角早かった。

グリフィス侯爵は義理の息子であるトニーに引継いでいる途中の仕事を、改めて暫くは自身で続けるように、仕事の段取りを組み直した。また執事にも娘一家が領地に戻るための準備をさせた。

その後は、妻である夫人に話をするために彼女の部屋を訪ねた。

トニーの夢のこと、自身が繰り返し感じてきた既視感のこと、何よりアントニアを守るためだと伝えれば、彼女も頷いていた。


「行動したことで何もなかったというのなら、それでいいのよね。行動しなかったことで大切なあの子を失うくらいなら」

「そうだ」

「親ですもの。子供を心配して当たり前だわ。だからアンの安全のためにも私も領地へ戻すことに賛成するわ」

「良かった…。しばらくはまた二人きりになってしまうのは寂しいけどね」

「そうね。でも、私達の大事な家族のためだもの。我慢しましょうね」

「ああ、勿論だ」


 そして、トニーは言わずもがな。アントニアに領地へ戻ることになったと早速伝えていた。

アントニアにしてみれば、領地へ戻ることは急ぐこともないか、と考えているところがあった。実際、アーヴィンと婚約していた以前の時でも、ステファニーに直接会うことはなかったし、遠くから婚約者とその恋人が一緒にいる場面を見ることが殆どだったから、卒業式より前に王都にいなければいいか、という程度にしか考えていなかった。

けれど、夫のトニーによれば父である侯爵も既視感という形で、この世界がループしていることを微かに感じ取っているような状況なのでは、と知らされた上に、領地へすぐに戻る様に準備すべきだと考えてくれたと聞けば、すぐにでも王都から出るべきなのだと理解したのだった。


 そうして、アントニアとトニーは子供を連れて、領地へと翌週には発ったのだった。

お読みいただきありがとうございます。


無事三章を終えられました。一安心。

そして四章の準備の為に、しばらくお休みします。…というか、本気でラストが決まってるのに書けなくて唸ってます。

ということで、目標は年内にこの作品を完結することなんですけど、ラストが書けるまでは、投稿できないかも、という状況なのですぐには無理だろうと思います。

でも遅くとも11月には出来るといいな、という希望はあったりします。ということで、がんばります!

のんびりし過ぎないように自分に鞭打って、がんばろう…。きっとだらけたら何もしなくなる人だから…。でも読み専だから読むことは止めない!(言い切った)


ブックマーク登録、評価の☆を★にしていただけるととても嬉しいです。

モチベーションも上がります!

どうぞよろしくお願いいたします。

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