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抱えるあたたかいもの 1

 まだ安定期に入ったばかりのアントニアは悪阻でほとんどをグッタリと過ごしており、悪阻(つわり)がなくなるまでにかなりの時間を要した。

 悪阻がなくなり、元気に過ごすことが出来るようになってからは、庭を短い時間散歩するくらいの運動はしていても過保護なトニーのおかげで、ほとんどの時間を屋敷の中でゆったりと過ごすことが多かった。

当然のようにお茶会や夜会のような招かれるものは全て断っていたし、お茶会をグリフィス侯爵邸で主催することもなかった。

 実母がお茶会をするのであれば、アントニアも顔を出すことは可能だっただろうが、トニーの過保護振りに理解を示しているアントニアの両親によってその機会も奪われていた。

突然の妊娠は、アントニアの自由を奪ったと考える者は少なからずいたかもしれない。が、本人は日々自身のお腹を優しく撫でては、まだ人の形すら成していない頃の小さな命の頃から声を掛けていた。

そんな様子を見ている者達にとっては、アントニアが間違いなく新たな命を慈しんでいると理解していたし、ましてや夫のトニーや両親にとっては、新たな家族をアントニアと共に守っていかなくてはいけないと強く誓うには充分過ぎる光景だった。

 グリフィス侯爵家の絆は、本当であればあっさりと溶けて消えてしまうような儚いものだった。それが、トニーを養子に迎え、アントニアがアーヴィンと婚約を解消したことで、大きく変化していた。

トニーとアントニアの婚約、そして結婚、妊娠。

 彼らにとっての家族の絆は目に見えて強くなっていく。

アントニアのお腹がゆっくりゆっくりと膨らんでいく。その緩やかなふくらみは、彼らにとってこれ以上ないほどの幸福の象徴だった。

 特にアントニアにとっては、自身が生きていること、未来を繋げていけること、何より自分の命ではなく新しい命を育んでいることが幸せそのものだった。


 §


 随分お腹が大きくなった頃、アントニアとトニーは二人で街へと出かけた。

子供のための物はすでに買いそろえてはいたけれど、アントニアの気分転換も兼ねて、ベビー用品を見るためだった。

本来なら屋敷に商人を招き、品物を手に取って選ぶほうがトニーも安心出来る。が、街へと出かけたのは、アントニアの気分転換もそうだが、アントニア自身が実際に出かけたいと望んだからだった。

 選んで入った店は、様々な物を取り揃えている大きな商会だった。その商会の中でも比較的大きな規模の店で、店内は扱う商品をフロア毎に分けていた。子供向けの商品の多くが二階にあったため、トニーはアントニアの腰を支えるように階段を上っていた。

階段を上り切ったところで、背後から声が掛けられた。


「アントニア…」


 その声はもうずっと聞きなれたものだった。でも、愛称呼びではなかった。トニーは眉間に皺を寄せてはいたが、アントニアは感情を出すことはなく声の主の方へと体を向けていた。

予想通りまだ階段の途中にいたのは、アーヴィンだった。


「お久しぶりです。エクルストン様」

「久しぶりだね。元気そうで…良かった。グリフィス小侯爵殿もお久しぶりです」

「お変わりなく、お過ごしのようですね」


 アントニアが挨拶をし、アーヴィンもそれに返す。トニーにも。トニーは感情を見せず、笑顔を貼り付けて応えていた。

アーヴィンは、アントニアのことで後悔を抱えたままなのは事実ではあったが、二人を見ても胸が痛むことはあっても、苦しくなるほどではなくなっていた。

 そんな様子はアントニアも感じ取れたのだろう。


「エクルストン様、良い事でもございましたか?」

「! いや、特別なことはないよ。ただ…お二人を見かけて、お声だけでも掛けたくなっただけだから」

「そうでしたの。こちらへは何を?」

「今日は筆記具を見に来ただけなんだ。お二人は?」

「私達は子供のための物を探そうかと思っておりますの」

「そのついでに、アンの気分転換もしようかと」

「ああ、ここでなら欲しい物も見つかるでしょう」

「ええ、きっと」


 互いにこれ以上の会話はもう続けようがないと感じるタイミングだった。アーヴィンが静かに微笑みながら、言葉を発した。


「アントニア、やっと言えるようになれたよ。お二人のこと、祝福出来るまでになったんだ。結婚、それからお子さんのこと、おめでとう。

私も前を向いて歩いているよ。今、婚約を考えてる人がいるんだ。だから…お二人のような幸せな夫婦になれるようにがんばるよ」

「…ありがとうございます。それから…おめでとうございます」

「その方とアンとは築けなかった関係を、大切に育んでいってくださいね」

「ありがとう。それじゃ、私は失礼するよ」


 そしてアーヴィンはやっと肩の荷を下ろしたと言わんばかりに、けれどどこか清々しい空気を纏って、二人に笑みを見せていた。そして互いに別れの挨拶をし、それぞれの目的のフロアへと足を向けた。

 さらに上の階へと向かうであろう背中を見送るトニーは、小さく息を吐いていた。


「やっと、彼も本当の幸せを掴むんじゃないのかな」

「そうだといいわね」

「でも! もう彼とは会いたくないな。アンをずっと苦しめてきたわけだし。今の彼はそこまでではなくともね。出来る限り近付かないようにするだけ…なんだけどね」

「…最低限度、はね。でも、私…エクルストン公爵夫妻にはお世話になってたし、可愛がってもらってたから…挨拶くらいはしたいの」

「お二人は問題ないでしょ」

「…いいの?」

「勿論。公爵夫妻と関係は悪くないというのを見せるのも必要だしね。きっとあちらも安心するだろうし」


 次期公爵ではなく、現当主の公爵とは関係が悪いわけではないことを示すために、アントニアが出産し落ち着いてから夜会などでは挨拶もするし会話もする方向で二人は折り合いをつけることにしたのだった。

 それが結果的にどういうことになるのかは、トニーは理解もしていたし、アントニアも分からないわけでもない。

ただ、今はまだ十八歳という年齢の先を考えるだけの余裕はないだけだった。

お読みいただきありがとうございます。


細々と書いていますが、最近地味にアクセス数が伸びてる気がしています。

なろうさんに登録されていない方が見てくださってるのかなぁ?とかぼんやり考えてみたり。

以前は私もそっち側だったなぁ…と思い返してました。登録してからは、以前読んだ作品を評価入れさせてもらってますが、読んだ作品全部には…無理でした。

すでに削除されてる作品もいくつかありましたし。今思えばその時に作者(神)様に面白いよー楽しんでるよー!と意思表示出来ていれば、と心残りです。

なのでなろうさんの登録をしてからは、基本的には完結作品ではない場合、気分次第ですけど比較的早くに評価入れてます。

ブックマーク登録だけして読めてない作品も多々ありますが…(;´・ω・)


ある絵師様が仰ってました。他の方も仰ってるかと思うのですけども。

好きな絵師がいるなら、そのことを伝えないといつか筆を折ってしまうかもしれない。

だから、言える時に言ったほうがいい。筆を折ってから伝えても遅い。もしかしたら、伝える術すらないかも。

というわけで、簡単にできることなので、私は評価をポチっとしてます。

この作品にしてもらえればありがたいですけども、他にもたくさんの素晴らしい作品がなろうさんにはあるので読んで面白いと思っていて、まだ評価されてない作品があるようなら、是非!


本編より語った気がする~(笑)


次回の投稿は金曜日です。三章は残り二話です。まとめて投稿します。が、がんばって文章見直してきます!


ブックマーク登録、評価の☆を★にしていただけるととても嬉しいです。

モチベーションも上がります!

どうぞよろしくお願いいたします。

いいね!も感想も評価もブックマーク登録もありがとうございます!

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