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結婚 2

 結婚式を無事に終え、アントニアとトニー、それにグリフィス侯爵夫妻は改めて家族として絆を感じられたことで、幸福に浸っていた。

結婚式はしたものの、披露宴については後日ということになっているため、侯爵邸には親しい親類だけが残っているだけだった。

 式に招かれた友人達については別の機会にゆっくり祝いの席を設けるから、とトニーは言われていた。

アントニアも似たようなもので、ただし令嬢達ばかりのため、お茶会を用意するからと言われている。

 二人共友人達を招いて親しい友人達用に披露宴程ではないものの、パーティを考えていたが、友人達が祝わせてほしいと言ってくれたこともあり、その言葉に甘えることにしたのだった。

おかげで今は身近な人達だけの気楽な空気の中、ゆったりと過ごしている。


「アン、お疲れ様。披露宴がないだけ助かるね」

「トニーもお疲れ様。披露宴まで詰め込んでいたら、きっと夜なんてすぐに眠ってしまうと思います」

「…それは、困るな」

「…!」


 親類も集まっているサロンの一角、二人だけが並んで座れるソファを陣取り、空気になっている二人だったが、主役の二人を早々に空気にはさせてくれるはずもなく、気付けばアントニアの従妹がやってきていた。

従妹はアントニアの母の妹の娘で伯爵家の御令嬢だ。一歳違いと年が近く幼い頃から仲の良い関係だ。


「アン、トニーお兄様、おめでとうございます! 少しアンをお借りしてもいいですか?」

「ありがとう。アンをかい? 出来る限り早く返してくれるならいいよ」

「わ、ありがとうございます! それじゃ、アンをお借りしていきますね」

「どこに行くの? トニー、すぐに戻りますね」

「ああ、行っておいで」


 従妹はアントニアをトニーから引き剥がすように連れ出し、サロンの窓際へと連れて行った。そこには二つ並んだ椅子があり、二人一緒に並んで座る。

きっと根掘り葉掘り聞かれるのだろうと思いながら、従妹の言葉を待つアントニア。


「アン、トニーお兄様とは本当に望んで結婚したの?」

「当たり前じゃない、でなければ結婚なんて出来ないわ」

「…良かった。私ね、少し前にお茶会で変な噂聞いたの」

「変な噂?」

「ええ。アンが前の婚約者の方に想いを残していて、その前の婚約者の方と今親しくしている御令嬢に対して、冷たい仕打ちをしているって」

「…まぁ、酷い濡れ衣だわ」


 従妹は少し不安気に、けれどアントニアを心配するように見つめている。

結婚したばかりのアントニアのことをとても気遣ってくれているということが、アントニアには感じられた。だから、従妹に微笑みかけていた。


「大丈夫よ、そんな噂なんてすぐになくなるわ。だって、私トニーのこと、とっても愛しているんだもの」

「良かった。アンから本当の気持ちが聞けて安心したわ。今度変な噂聞いたら、私が訂正して回るわ! だって私にとってアンは大好きなお姉様なのよ? そんなアンを貶めるような嘘は許せないもの」

「ありがとう。あなたのその気持ちが嬉しいわ」


 その後従妹にはしっかり二人の馴れ初めやどちらから告白したのか、他にも色々と聞かれて、答えられる範囲で応えていくアントニアだった。

満足した様子を見せた従妹に苦笑しながらも、トニーの許へ戻ることにし、従妹とは別れた。


「お帰り、アン」

「ただいま、トニー」


 また二人一緒に並んで座る。アンが席を外したタイミングでトニーもグリフィス侯爵の伯父と話をしていたようだ。グリフィス侯爵の当主の座を弟に譲り、騎士団に入団し騎士として成功を収めているという人物のためか、少し癖のある人物だった。

けれど、トニーにとってはモブとして様々な人間になり生きてきた記憶があるため、かつて騎士だった人生を思い出しながら話をすることが出来た。

おかげで、かなりトニーは気に入られたようだった。


「伯父様とお話されていたのですね」

「ああ。家督を弟に譲って騎士になるという御仁だから、どんな方かと思ったんだけど。とても愉快な方だったよ」

「伯父様は豪快だし、女の私にはちょっと怖いこともあるけど、でも優しくて良い方ですわ」


二人してそんな風に話をしていると、飲み物を片手に伯父が戻ってきた。そして、アントニアを見つけると、破顔していた。


「アントニア、今日はおめでとう。本当に美しくなったね。母君そっくりだ。弟に似なくて良かったよ」

「伯父様、ありがとうございます」


 幼い頃から母親に似ていることを褒める人だったな、と思い出しながら伯父に笑顔を向けた。そして、伯父は少ししんみりした顔をさせて、けれどそれも一瞬のことで、すぐに笑顔を見せた。


「幸せになっておくれ。そして、私が掴めなかった幸せを見せておくれ」

「はい、幸せになります」


 伯父の言う幸せが何を示すのかは分からなかったが、アントニアは素直に頷いていた。しばらくは三人で話をしていたが、他の人に呼ばれ伯父も去って行った。

もっと二人のことを囲む人間がいるのかと思っていたアントニアだったが、案外そうでもなく、のんびりと過ごしていた。

 夜も更け、大人達は興が乗り酒を片手に互いの近況を伝えあいながらも、久しぶりに会ったということもあるのだろう、なかなかサロンを立ち去る者もいなかった。けれど、アントニアはさすがに睡魔に勝てなくなってきて、トニーに連れられて、サロンから辞した。


 §


 自室に戻り、侍女達に寝支度を整えられたアントニアだったが、もう湯浴みの途中から目が半分落ちているような状態だった。

けれど、侍女達の手によって新婚初夜の仕様に仕立て上げられてしまったアントニアは、途中から少しは睡魔が飛んでいたようだ。


「…こんな寝衣を着なくちゃいけないの? さすがに恥ずかしいわ」

「いえ! お嬢様だったら、どんなものもお似合いですから自信を持ってくださいませ」

「………でも」

「大丈夫ですよ。この透け感がお嬢様の持つ清楚さに愛らしい色気を引き出しますし、トニー様も絶対にお喜びになります!」

「…そう、なの?」

「はい!」


 侍女達が準備していた初夜の為の寝衣は、意匠そのものは非常にアントニアの好みのものだった。適度にフリルがあしらわれていて、少女らしさも感じられたが、白のそれがアントニアの持つ純真さを引き出しながらも、大人へと一歩を踏み出したアントニアの凛とした様も引き立たせているようなものだった。

 ただ、隠すところはちゃんと隠されているものの、そうじゃないところはよく透けている生地で作られていて、アントニアには戸惑いしかなかった。良く見なくてもリボンを解けばすぐに開けてしまう仕様で、アントニアはただただ羞恥でしかなかった。

けれど、侍女達は他の寝衣はないとばかりに、ただガウンを上から羽織るくらいしか出来ず、諦めるしかなかった。

 そんなアントニアは、侍女に連れられて自室の寝室ではなく、トニーの寝室へと連れて行かれた。

どうして? と侍女に視線で訴えれば、にこりと笑顔を向けられ、「トニー様にそのように言われております」と返された。

 アントニアは、もしかして寝衣も込みで犯人はトニーなのだろうか? と考えてしまったが、それに答えが示されるのかは分からず、とりあえずは考えるのはやめたのだった。


 トニーの部屋の寝室へと行けば、すでにトニーも寝室にいた。湯浴みから上がったばかりのようで、少し上気した様子のトニーに胸が騒いでしまい、緊張が強くなった。

今まで誰にも触れられたことがなかった唇も、今ではキスも慣れて…きたはず、と胸元をきゅっと右手で掴みながら、トニーへと向かう。

 アントニアに向かい手を差し伸べて迎えてくれるトニーに、アントニアも少しホッとしていた。


「疲れたね。でも、今夜は眠らせてあげられないと思うから、それだけは…ごめんね」

「…えっと、はい」


 トニーの差し伸べた手にアントニアが手を重ねれば、そのまま引き寄せられて抱き締められた。その後すぐに横抱きに抱き上げられると、そのままベッドへと運ばれてしまう。

そして二人はそのまま朝まで互いの気持ちを確かめるように時間を過ごした。

それはとても幸せな時間となったのだった。

お読みいただきありがとうございます。


やっと結婚式終わりました!

濡れ場を読むことは出来ても、書けないのでさらりと流しました(笑)

次の投稿は月曜日になります。

3章も終わりが見えてきました。残り数話がんばります!


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どうぞよろしくお願いいたします。

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