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ただ笑っていてほしいだけなんです

今回文字数少な目です。

 アントニアの元婚約者であるアーヴィンと恋人のステファニーの噂は、アントニアを故意に貶めるような悪意のあるものと言えた。しかしアントニアにとっては、アーヴィンは過去の人間であり、もう関わり合うことのない相手でしかなかったため、アントニアから彼に声を掛けることはなかった。

 そんな様子を見知っているクラスメイト達は、アーヴィンに対しアントニアが未練があるとは思ってもいない。むしろアーヴィンの友人達はアーヴィンのほうがアントニアに未練があるのを感じ取っているくらいだった。その為、やはり「アントニアがステファニーに対し悪意ある行為をしている」という噂は嘘だと言える状況でもあった。


 実際のところ、アーヴィンとステファニーは恋人同士というわけではなかった。が、アーヴィンがアントニアのことを吹っ切るためにもただ寄り添ってくれているステファニーを利用している部分が大きかった。

その関係が長く続くかどうかは、アーヴィン次第のところもあったが…ステファニーはアントニアに貴学祭の時に言われた言葉をただひたすらに守る様に努力をしていた。

 ただ寄り添うだけでも難しい。相手をちゃんと知って、受け止めて、励ますだけでもダメで、だから何も言わずにいることも必要で。

 そんな二人が、徐々に互いの気持ちを向け合うようになるのは必然だったと言えた。


 いつからだったのか、アーヴィンの中に些細な変化があった。まだ心の中にはアントニアが居座っていて、気付けばアントニアを目で追ってしまう自身を自覚してもいた。

ステファニーが黙って話を聞いてくれるから、アントニアのことをつい話してしまっていることも、自覚していた。

それでも、そんな自身を否定もせずただずっと一緒にいてくれるステファニーに救われていると感じる瞬間が幾度とあったことに気付く。

 アントニアはアーヴィンではなくトニーを好きだと言った。はっきりと言えば、婚約者がいるのに、他の人間に好意を寄せるアントニアを浮気者と責めることも出来た。

けれど、アーヴィンにはそれを言うだけの資格がないのだとアントニアにもトニーにも証明されてしまっていた。


『本当に好きな子のことは、何だっていいから知りたいと思うものなんですけど』


 この言葉をトニーに言われた時には理解してしまった。アーヴィンがただ過去のアントニアが自身に向けてくれた笑顔や言葉が未来永劫続くものと驕ってしまっていたのだと。

だから、もう間違えてはいけないのだということも。

 そしてそんな驕ってしまっていた情けない自身を慕ってくれているステファニーを、ただ利用しているだけの、本当なら彼女を利用する自身がどれほど矮小な存在なのか。

それでもアントニアとは違う彼女が傍にいることに、どれだけ救われているのか。

 まだアントニアを求める自身が居なくなることはない。それも正しく理解をしている。けれど、それではダメなことも理解している。

だから、寄り添ってくれているステファニーに感謝をし続けてもいる。そんなアーヴィンが、彼女にかけた言葉は、ただ飾り気も何もない、素っ気ない程の言葉一つだった。


「メイプル嬢、いつも…ありがとう」


 ステファニーは唐突に言われ、一瞬驚きはしたものの、すぐにアーヴィンに微笑を向けていた。


「どういたしまして」


 どちらともなく互いにクスクスと笑い出す。そして、アーヴィンが今までの、彼女に対する態度や彼女を利用してしまっていたことを詫びた。


「そんなことはどうでもいいんです。アーヴィン様が元気になれるなら、それでいいんです。ただ笑っていてほしいだけなんです」


 あっけらかんと明るく笑いながらステファニーはそう言ってのけた。それが、アーヴィンには眩しく感じられた。アントニアとはまるで違うステファニーという少女に、本当の意味で興味を持った瞬間だったのかもしれない。

 二人の距離は容易には近付くことはなかった。アーヴィンがまだどうしようもない程にアントニアを求めて止まなかったから。けれど、ステファニーと過ごす時間が、アーヴィンの心の奥をゆっくりゆっくりとほどいていく。これ以上ない程にアントニアに絡め取られてしまっているアーヴィンの恋心をステファニーが柔く優しくほぐしていく。


「いつかアントニア様への気持ちが、優しい思い出になるといいですね。まだ今は痛くてツライでしょうけど」

「…そうだね」

「大丈夫ですよ。私も…大失恋したことがあるんです。大好きな人がいて、でも…目の前でその人が別の女の子とどんどん仲良くなっていくのを見ているしかなかったんです」

「…」

「彼とはちゃんと恋人でした。だから、その女の子と仲良くしないでほしいって伝えました。でも、友達だから気にしなくていいよって言われたら…どうしようもないですよね」

「…」

「その後は、彼がその子と恋人になってしまって、私は捨てられました。ある意味今のアーヴィン様と同じです。でも…私今は笑っていられます。ちゃんと前を向いて、歩いています」

「…」

「あ、でも…アーヴィン様と私は違うので! すぐに大丈夫だとは言えませんよ。でも、きっと大丈夫です。自分を信じてあげてください」

「自分を?」

「はい。信じてあげてくださいね。アントニア様を好きになった自分も大事にしてあげてください。だって、アントニア様はとっても素敵な方でしょ?」

「…確かに」

「だったら、そんなアントニア様を好きなアーヴィン様はきっと…前を向いて歩いて行けるようになりますよ。アントニア様に笑われるようなアーヴィン様にならないでほしいですし」

「…そうか。そう、だな。アンに…笑われるのだけは、嫌だな」

「そう思えるなら、いつかきっと大丈夫になりますよ」


 学院のひと気のないガゼボで向かい合わせに座り、話をしている二人の間には、まだまだ恋人だと噂されるような関係性はない。でも、未来は違っているのだろうと思えるものがそこにはあった。


 もし、この場にアントニアやトニーがいたとしたら、間違いなくステファニーにエールを送っただろう。

ステファニーとアーヴィンが気持ちを通わせることが出来れば、アントニアの死というフラグを折ることが出来るから、それだけでしかないが。

お読みいただきありがとうございます。


アーヴィンとステファニーの回でした。

今週の三回分の投稿を無事出来て、やってやった!的な達成感があります。…これが精一杯。

現時点でラストを必死で考えてるところなんですけど、書いていて「これ違う」が出てしまって、それ以上進めなくなってました。

先に進みようがなくて、筆が止まるって感じでしょうか。…キーボードが押せないが正解かな。

ともかく、別方向で解決出来そうなネタが降ってきたので、書き直し中です。それをまたねかせて発酵させて…。

無事完結マークが打てるようにがんばります。

最初から決めていたラストも少し変わってるので、まだまだ変わるかもですが…。


来週の投稿は月曜になります。次回もどうぞよろしく♪


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