表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/63

アントニアの日記 3

 婚約者となったお義兄様は、義兄だった頃よりも恋人だった頃よりも甘い人だった。

私が想像するよりも、もっともっと…。

婚約者と言うと、ずっとアーヴィン様しか知らなかったから、お義兄様のように接してくれたことなんて一度もなかったから私には戸惑いのほうが強かった。

そんなことを言ってしまったら、きっとお義兄様は落ち込んでしまいそうだから言わないけれど。

でも…私は、そんなお義兄様のことが本当に好きで仕方ない。

自分でも驚くほどの気持ちの揺れだったなって思う。


 ずっと婚約者だったアーヴィン様に裏切られ続けて、殺され続けてきた。繰り返せば繰り返すほど、私はもう誰の事も愛することなんてないんだろうと思ったし、それ以前にアーヴィン様以外の人と出会う機会すらもなかった。

 それに、自分が裏切られたからと言って、婚約者がいる状態で他の人に気持ちを移すのは、きっと違うんだって思ってもいたから。

でも、()()()が私をアーヴィン様から奪ってくれた。

もうずっと自分の心の扉に何重にも鍵を掛けていて、そんな私の心に優しくノックをし続けてくれてたのがトニーだった。

私にとっては信じられないくらい、簡単に恋に落ちた気がしてる。でも、本当は簡単なわけではなかった。だって、アーヴィン様が強制力のために私からやっぱり離れていくのを見てしまうと、苦しいわけでもないのに、心の奥のほうで何かがきしむのを感じていたから。


 アーヴィン様のことは嫌い。大嫌い。だけど、幼い頃は大好きだった。

その時の気持ちはどうしてなのか、捨てられない。あの頃は二人仲良く手を繋いで、一緒に走り回ってた。一緒に色んなものを見て、触れて、笑って。言葉は少なかったけど、それでも楽しかった。

 私にとってはアーヴィン様は幼馴染だという気持ちだけは、残り続けてる。今となっては、もうそれだけの情しかないのだと分かってる。

 私にとっての初恋だった。あの頃のままでいられたなら、きっと私達が離れる未来はなかっただろうとも思う。

そんなことを考えてみるけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

だってトニーがいてくれるんだもの。

 結局は、トニーがただ私をいつだって見ていてくれる安心感や、絶対に守ってくれると信じていられること、それに私だけを一番に考えて愛してくれることが分かるから。


 『トニーというモブ』だと言い切るあの人は、ただ私が心穏やかにいられるようにいつだって気遣ってくれる人。本当にモブなのだろうか。彼は、私の為に神様が用意してくださった人じゃないのか、といつだって考えてしまう。

この世界が繰り返していることを知っていたし、私がそのことを知っているとすぐに気付いてくれたもの。

 私はただこの世界で、殺されるのではなくて…静かに、穏やかに暮らしていければそれでいい、そう願い続けてきた。そのことが難しいこともトニーは理解してくれた。

だから、そのためにたくさん考えて動いてもくれて…今は私の婚約者になってる。

それがどれほどの奇跡だろう。


 アーヴィン様との婚約を解消するためにたくさん動いてくれてたと思う。私が知らない所できっとたくさん。

それだけじゃなく、私の気持ちを一番に考えてくれてたのは間違いなくて、…なんて言えばいいんだろう。どう言えば伝わるんだろう。自分の気持ちを分かり易く伝えられる言葉を探せないことがもどかしい。


 本当は、照れてしまって言葉にちゃんと出来ていない自分の気持ちを、トニーにいつだって伝えたいって考えてる。

だけど、トニーは私が今まで欲しいと思っていた以上の言葉や気持ちを与えてくれるから、それに慣れない私は、照れてばかりで全然素直に言葉や気持ちを返せないことが、とても情けないって感じてる。

でもね、私だってちゃんとトニーに伝えたいって思うし、伝えていきたい。

トニーが大好きだということ、大切だということ、あなたの代わりはいないということ。

そういうことを…どう言えば、ちゃんと伝わるのか知りたい。誰か教えてくれないかしら…。



 日記に書くことって、今日は何をしたかとか、どんな出来事があったとか、そういうことも書いていくものなのかなって…()()()()()()()のことを考えると、そういうものだと思うんだけど、今までと違って気持ちだけしか書いてないのは…間違いなくトニーとの関係のせいだって分かってる。

だって、トニーっていつだって私を優先してくれるから、そういうことだけでもくすぐったいくらいに気持ちは嬉しいけれど、やっぱり戸惑ってしまう。どうしたって、そんな自分の気持ちを整理するためにも文字にしてしまう。そうして、気付けば気持ちばかり書いてしまってる。

 本当は、トニーと一緒にデートしたこととか、どんな会話をしたかとか、そういうことだって書いていこうって思ってた気もする。結果的にそれは…出来ないって気付いてしまってるけど。

いいのよ、これは私しか見ない日記なのだから。私だけのものなのだから。

間違ってもトニーにだけは知られたくないの。こんなこと考えてるだなんて! 知られてしまったら、きっとたくさんお仕置きされてしまうわ。私が耐えられないような甘いのを!!

 日記帳をちゃんと隠して、トニーに気付かれないようにしなくちゃ…。勝手に覗き見るような人じゃないって信じてるけど、誤って落としてページが開いてしまうなんてこともあるでしょう?

そうならないように、トニーが分からない場所に仕舞っておくわ。


 もう一つの日記は、もし…またこの世界を繰り返した時の為に自分が何を何時、何処で、どんなことをしたのかを記録するために残してるものだから、あれはトニーと共有するためのものなんだけれど。

…トニーの日記も私が読ませてもらっていて、お互いに次の時に備えるっていう意味もあるんだけど…出来るのなら、次はないといいなって思うの。

正直、このままトニーと結婚出来れば、きっと私も十八歳より後を生き残れるんじゃないかしら。そうなるなら、アーヴィン様に殺される未来も避けられると思うの。

そうなるように私もトニーも…ううん、トニーが特に、かしら。頑張ってるから…私が死ななくてもいいようにって、動いてくれてるから…私が生き続ける可能性は、今までのことを考えると可能性はかなり高いと信じたいわ。

 そうよね、その為に私も生きることをもっと強く願っていかなくちゃいけないわよね。トニーが望んでくれてるんだもの。私と結婚することも、子供を残すことも、お父様やお母様に孫を見せたいと言ってくれてるんだもの。私だって…そうしたい。ずっと結婚すら、ううん、違うわ。卒業式より後を生きたことがないんだもの。ただ生きる可能性を考えて動いてみたけど、結局私一人ではどう足掻いても無理だったのよ。

 でも今はトニーもいて、婚約も無事解消出来た。トニーとも婚約出来た。まだ貴族学院に入学してもいないのよ。彼女と顔を合わせてもいない今の時点で!

今までの繰り返してきた中で、初めてのことなのよ。トニーがいなければ、こんな風にはなってなかった。私にとって、やっぱり彼は神のようにも思えるの。

だって、私が生きられる可能性を高めてくれたのよ? 今まで誰もこの状況を作ってはくれなかった。私だけしかこの世界の本当を知らないって思ってたのだから、仕方ないって分かっていてもね。

それでも、トニーが私の前に現れてくれて、私の味方になってくれてた。

そして、私のために動いてくれてる。私と向き合ってくれてるのも彼だけ。私にとって、彼だけが生きる希望になったし、彼だけが生きる理由にもなった。

 彼が私を望んでくれるから、私も彼を望むの。誰でもないトニーが望んでくれるから。

生きる理由なんて、きっと私にとってなんでも良かった気がする。今までは、ただ自分の生を諦めながら、でも生きていたいとぼんやり考えてただけ。でも今は違うわ。ちゃんとトニーと一緒に生きていく未来を考えているし、叶うなら子供をたくさん産みたいって思ってる。彼との間に残せる愛情の形だって思ってるから。

もちろん、それは簡単じゃないって知ってるの。お母様は私を産んだ時に危険だったって言ってたから。そのせいで二人目の子供を望めなくなったってことだったから。

きっと私は子供の命を優先してしまうだろうし、子供の為に死ぬことになるなら後悔もしないだろうなって思う。

でもね、それはその時にならなくちゃ分からないでしょう? だったら、そんな先の不安は気にしないの。


 いけないいけない。何も考えずに書いていたら、内容があちこちしてしまって、意味が分からなくなってしまってるわ。…でも、いいわ。私だけが読み返すものなんだから。

きっと後から「意味の分からないことを書いてしまってる」と反省してしまうんでしょうけど。

 もうすぐ王立貴族学院に入学するのね。入学してしまえば、嫌でもアーヴィン様にもステファニー様にも顔を合わせる機会が…。アーヴィン様は、きっと同じクラスよね。

気まずいけれど、仕方ないのね。座席は離れているからなんとか耐えましょう。ステファニー様はきっと別のクラスだから、こちらは大丈夫よね。

とにかく、今は生きていくこと、生き残ることをがんばりましょう。その一歩はもう踏み出せているんだもの。


 トニー、ありがとう。

 私にとっての幸いは、あなたに出会えたこと。

 十八歳で死ぬことがないようにがんばるわ。

 だから、これからもよろしくね。

お読みいただきありがとうございます。

この話で2章が終わりです。次から3章に入ります。

アントニアの日記に関しては、アントニアの心情の説明回のような役割になってました…。

なくても説明が足りてれば良かったんですけどね…( = =) トオイメ

振り返れば「足りてない!?」ということが多いので、サクサクと進めることが出来ず、色々スキル足りなさ過ぎて、笑うしかないです(;・∀・)


さて、3章ですが…相変わらず見直しタイム必須なので、投稿を少しお休みします。

来週には大丈夫だと思います。がんばります。

というわけで…もしかしたら3章の頭に前回のあらすじをまた書くかもしれないし、しないかもしれません。

…むしろ、描いてみたいのはトニーの腹黒日記的な感じの…4コマ漫画。無理だけど。


ブックマーク登録、評価を☆から★にしていただけると非常に嬉しいです。

そして、いいね!もいつもありがとうございます<(_ _*)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ