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一つ試してみましょうか 1

誤字報告ありがとうございます。

非常に助かります(^▽^)

 もう何度目の()()()()()()()()()だろうか。

 少女は十八歳の誕生日に婚約者に剣で切り捨てられ、事切れる。そして次に目覚める時は、必ず十三歳のとある朝で、ベッドの上だった。

翌日には新たな家族がグリフィス侯爵家にやってくるという日。特別に何かあるわけでもない、そんな日に目覚める。


「また今日がやってきたのね。ということは、そろそろ私を起こしに侍女のドリーが来るはずだわ」


 ベッドの上で体を起こしたばかりの少女は、やっと先程の茶番にも似た物語のクライマックスを無事退場したことで一息つきたい気持ちだった。

改めて見渡してみる使い慣れたこの部屋は、淡いクリーム色の壁紙とダークブラウンの家具で纏められていて、落ち着いた雰囲気だ。

 まだこの世界がループしていると気付く前は、派手なピンクと白の二色使いの壁紙と淡いピンクをベースにした家具で揃えられていて、目覚めた瞬間目がチカチカとしたのを覚えている。

 ループしていると気付いてからは、何度繰り返してもループしたことを理解出来たし、今の落ち着いた色合いの部屋に変えても、次のループでもこの色合いを引継ぐようになっていた。


「一体どういうことなのかしら? 部屋の雰囲気を変えてからずっとこの色合いのままだけど。…分からないことは分からないのだから、考えるのはやめましょう。きっと答えなんて出ないのだもの」


そう呟いて、小さく息を吐いたタイミングで扉をノックする音が聞こえた。続けて侍女がやってきたことを告げる。

少女がそれに応えると、扉が開かれた。


「おはようございます、アントニアお嬢様」

「おはよう、ドリー」

「今日も良いお天気ですよ。朝食の時間にはまだありますが、御仕度いたしましょうか」

「ええ、お願いするわね」


 アントニアと呼ばれた少女は侍女のドリーに手伝ってもらいながら、身支度を全て終えると、一息つくために紅茶を淹れてもらった。

カップを手にし、静かに口を付ける。この行為もいつものこと。


(こういう今まで何一つとして行動を変えたことのないものって、もしかしたら物語の脚本のようなものがあるのかしら?)


 そんなことを思いながらアントニアは美味しく紅茶を頂いていた。

その後、朝食を両親と一緒に食べ、家族の予定を話の中で確認し、明日には養子になる子供がやって来ることを頭に入れるのだった。



 §§§



 目覚めた後、朝食を家族揃って摂り、明日の予定を確認することが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと気付いたのはいつだろうか。

翌日新たな家族となるべくやってくる子供は、遠縁の子供だとアントニアは父親から聞かされている。

 平民の使用人と駆け落ちした縁戚である子爵家の次男の子供で、その駆け落ちした次男と使用人は事故で亡くなったらしく、残された子供は孤児院に行くか、子爵家で引き取るか、という事だった。

ただ、子爵家では現在経済的な事情から引き取ることが難しい為、父親が代わりに引き取る、と声を掛けたようだ。

 アントニアには婚約者がいる。婚約者は公爵家嫡男なのでアントニアは結婚と共に家を出ることになる。だから、彼女の親にすれば家を継いでくれる子供が必要で、だから迷いなく養子の話に挙手した形だった。

子爵家の人々も貴族社会の中で中立であり評判の良いアントニアの父親、すなわち侯爵家当主自ら引き取ってくれるなら、と安堵したらしい。

アントニアもその両親も養子となる子供と、今までも必ず仲良くなっていたし、アントニアが殺される原因に養子となった義理の兄弟が絡んだことはなかったので、アントニアの死が原因で侯爵家が没落することはないはずだ、と彼女は考えている。

今回の生では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と心に決めているアントニアだった。


「…多分、私の死で全てがまるく収まる…んじゃない、かな? と、信じたい。死にたいわけではないけれど」


 そしてループ一日目を終えて、翌日になると養子となった義弟が父親と一緒に屋敷にやってきた。

アントニアより一歳年下の義弟は、非常に可愛らしく見えた。でも、成長すればきっと令嬢達から注目されそうな、整った容姿をしていた。髪の色がアントニアのミルクティーブロンドにとても近い淡いブロンドだから、実の姉弟だと言っても信じてもらえるだろうと家族揃って話すのはいつものこと。


(わたし)はアントニアなのだけど、みんなアンって呼ぶの。だから、あなたもアンって呼んでくれるかしら?」

「はい! アンお姉様」

「これからよろしくね」


 アントニアは義弟とソファに並んで座り、お互いに好きな遊びが何かを教え合い、互いに知らない遊びを教え合ったのだった。

 まだ十二歳の義弟は、目を輝かせてアントニアの話を聞いているし、彼女も彼の話から貴族ではない子供達の様子を知ることが出来て、好奇心を掻き立てられるばかりだった。


 ある日のことだ。アントニアは義弟とお茶とお茶菓子を前に話をしていて、手を滑らせ手に持っていたクッキーをカップの中に落としてしまったことがある。

本来ならば、クッキーをカップに入れてしまうなんてことはない。が、この日は少し失敗をしてしまったようだ。

この場面は、映画で言えば全くスクリーンに映らない時間である。スクリーンに映し出されるその時間に演じる人物以外のキャラクター達にとっては自由時間、ということになるのだろう。

 ループ世界にいると気付いてからアントニアは色々試してみたのだが、スクリーンに映らないであろう場面では脚本の通りに動く必要がない為、本来のアントニアの初期設定とも言える性格とはまるで違う言葉使いや行動をしてもあまり気にも留められることがないことを確認していた。

 なぜ彼女がスクリーンに映らない時間、自由時間だと思うに至ったのか。それはとても単純な理由でしかなかった。


(この世界って絶対に言わなくてはいけない言葉が、一言一句違わず強制的に、自動的に、声として出てくるのよね)


 アントニア自身が実際に体験しているからこそ判ったことだった。つまり、自由時間は彼女が脚本から離れて自由に出来るという意味なのだが、家族との時間や一人の時間、他にもスクリーンには映ることのないお茶会だったり、他家の御令嬢達との交流だったりと案外自由に動き、友人を得ていたのだった。


 物語が本格的に動き出す十五歳までは、この映画のような世界の主人公とも言える人間がメインで動いているのだと彼女は考えている。誰が主人公なのかは…何度繰り返していてもハッキリとは分かっていない。

ただ、多分あの人物がそうなのかもしれない、そんな程度の理解だ。

 殺される度に彼女は繰り返し考えている。


(どうして私が引き立て役のように死んで退場しなくちゃいけないのかしら?)


 彼女自身の死の結果が、主人公の幸福に直結しているという事実は彼女は知らない。だが、後にとある人物によりそのことを知らされるアントニアは、それもあって試してみたいことが出来るのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

しばらくは、毎日投稿を心掛けます。

日曜日はできませんが、他の曜日は無理がない範囲で、と考えてます。

夏休み前までは…がんば、れるといいな。

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