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有り得ないバッドエンド

一部修正しています。

内容的にはそれ以外に変更点はありません。

時間の齟齬があったことに気付いてしまったので、直さなくては…と。

投稿前に気付け、自分! というツッコミをしながら直してました...( = =)

 それは本当に唐突だった。

冬期休暇に入り、貴族学院の学生達が皆一斉にそれぞれの家族が待つ家へと帰ってすぐのことだった。


 この繰り返し続ける世界で、最初に以前の記憶を持ったままで転生し続けるアントニア・グリフィスという人間が存在したことで、この世界にゆがみが生じた。

本当なら生じてはならない(もの)だったのか、それとも望まれている願いだったのか。


 そんなゆがみであるはずのアントニアが死んだのだ。

その報せは、学院に在学中の、彼女の友人達に伝えられ、次にはその周囲の人間に伝わるという形で、グリフィス侯爵令嬢がこの世からいなくなったことが広く伝わっていったのだった。

 真っ先に知らされるなら、エクルストン公爵家だった。なぜなら嫡男のアーヴィンと婚約をしていたから。けれど、実際に知らされたのは少し遅れて、だった。

理由ははっきりとしていた。婚約者であるアーヴィンがアントニアを蔑ろにし続けたという事実があったからだ。

この時アーヴィンが公爵夫妻からどう扱われたかは、考えるまでもないだろう。

グリフィス侯爵がアーヴィンに対し、不誠実な相手として婚約の解消ではなく一方的な破棄をしようと考えるには充分な状況が揃っていたようだ。実際にするかどうかは、アントニアと話をしてからの予定で、結局はその時間すら得ることのないまま愛娘を失うこととなった。


「遺書なんかなかった。きっとアーヴィン君とのことが原因で、咄嗟にしてしまったのだと…思う。あんな…、自ら首を…切る、だなんて…」


 侯爵や夫人、義弟の悲しみがどれほどのものだっただろうか。

誰がどれほど悲しみ苦しみ、悼んだところで彼女が帰ってくることはない。


そして、この世界のルールは完全にあるべき姿から変わっていくことになる。


 §


 アントニアがいなくなったことで、絶望にも似た状況に陥った者が二人いた。

一人はアーヴィン・エクルストン。もう一人はステファニー・メイプル。

アーヴィンは不誠実な婚約者として、ステファニーは婚約者のいる令息を奪うふしだらな令嬢として。

 当然のようにアーヴィンとステファニーが婚約出来るはずもなかった。二人は二度と会うことは叶わず、ステファニーは領地から出ることを両親から禁じられた。後に修道院入りしたという話だ。

 アーヴィンも領地へと戻され、後継としての立場を失った。エクルストン公爵家にはアーヴィン以外の嫡子はいない。後継はエクルストン公爵の実弟の三男に決まった。アーヴィンよりも五歳年下だが、大変優秀な子供として公爵が望んだ結果だった。


 そんな中、ただ一人だけ。深く悲しみながらも希望を持ちながら未来を信じた者がいた。

それがトニーだった。


「アントニア嬢、次こそは君を守るから。絶対に幸せにするよ。だから、しばらく待っていて。

今のこの()では君を守れる力がないんだ…」





 §§§



「な、んで………。どうして、アンが? 自ら…命を、絶った? 死ぬ理由なんて、ない…だろ、う?

僕は……ずっと、アンをあ、い…愛して……。なの、に…ステファニーに……」


 そんな呟きを感情を失くした青年が溢した。零れ続けた涙は、枯れたように止まってはいたが、代わりに心が枯れていくのが、青年には分かった。

自室で謹慎するよう父親の公爵に言われ、ただ返事も出来ないまま、自室へと戻るとそのまま頽れた。




 アーヴィンは朝食を終え、剣の鍛錬をしている時だった。

父親に呼ばれ、公爵の執務室へと向かった。そこまでは特に問題もなかった。

だが、執務室のドアをノックし室内へ入った途端、今までの空気が一変したことを悟った。


 沈痛な表情をし、額に手をやる公爵は初めて見る姿だった。執務机の向こう側にいる公爵はただ黙っているだけだった。

狼狽えながらも父親である公爵に声をかけようとすれば、その前に公爵から手で制された。


「確認したいことがある。ステファニー・メイプル。この名前に憶えはあるか?」

「!? …っ、はい」

「そうか。それならアントニア嬢との婚約はどうするつもりだった?」

「え? あ…それ、は」

「メイプル男爵の令嬢だったか。家格が合わない。そうは思わなかったか?」

「そ! そんなこと関係な…い、……っ」

「メイプル男爵令嬢のことは遊びだったと?」

「違う。ステファニーのことは本気です!」

「じゃ、アントニア嬢との婚約は解消するという事で良かったのか?」

「………」

「無言ということは、肯定した、と思っていいのだな」

「……」


重い沈黙が続いた。それを破ったのは公爵だった。蟀谷に親指を当て、眉間に寄せられた皺に苦悩が見て取れた。


「アントニア嬢が五日前、亡くなったよ」

「…え?」

「お前が彼女にどういう態度で接していたのか、お前の友人達やメイプル男爵令嬢の友人達に聞いた。

メイプル男爵令嬢はないことばかり言うのが得意なようだね。驚いたよ」

「な、どういうことですか!?」


公爵の突然の爆弾は、アーヴィンを混乱させるには充分だった。続け様に聞こえた言葉には一瞬意味が理解出来ず、何の言いがかりなのか、と思ったようだ。


「アントニア嬢がメイプル男爵令嬢に嫌がらせをしたんだって? 他にも色々酷いことをされたと吹聴していたらしいね。お前はそれを信じたのかい?」

 

公爵の目は、あからさまな嫌悪が浮かんでいたが、アーヴィンはそれを見ないようにして冷静になろうと、取り繕っていた。


「…アンが、ステファニーに…何をしたのかは、聞いていました。実際にステファニーの持ち物が破かれたり、捨てられたり…本人も負傷させられた、と…怪我した箇所も、見ました」

「具体的に何をされたのかを見聞きしていたのだな。でも、それは本当にアントニア嬢がしたことか?」

「だ…って、ステファニーが実際にされた、と…」


アーヴィンはあくまでもステファニーの立場で、彼女を信じただけなのだと訴えたかったのだろうか。

公爵はただ淡々と事実を告げるだけだった。


「メイプル男爵令嬢が負傷した日だが、あの時アントニア嬢と一緒にいたという人物が最低でも三人はいた。私はその三人に直接話を聞いてきた。

メイプル男爵令嬢は確かに負傷をしただろう。それが嘘だとは言わない。でも、アントニア嬢が出来たはずがないという結論に至ったよ」

「そ、その三人がアンの協力者かも、しれないじゃないですか!」


公爵の出した結論がどういう理屈で出されたものなのかを聞く前に、ステファニーを庇うように声を発したアーヴィンだったが、それが公爵の失笑を招くことになった。

それに戸惑うばかりのアーヴィンがいた。


「いや、有り得ないよ。一緒にいた一人が、あの日メイプル男爵令嬢の怪我の手当をした医務室の医師だったのだからね。しかも、その時アントニア嬢はその場にいたそうだよ」

「…どうし、」

「アントニア嬢はその日、朝から体調が悪かった。だから、友人の御令嬢と教師に付き添ってもらい医務室へ行ったところだった。ベッドで横になったところでメイプル男爵令嬢が現れて、怪我をしたから診て欲しいと言ったそうだ」

「…!?」

「アントニア嬢は熱が出ていたらしい。しばらく横になって、落ち着いたところで侍女と教師が彼女に付き添って女子寮へと向かったそうだ。調子の悪いアントニア嬢は、朝からずっと教室にいたそうだ。彼女の友人である令嬢達がずっと付き添うようにいたそうだ。そんな状況でメイプル男爵令嬢はいつ彼女に負傷させられるような事になったんだろうな?」

「……っ」


 公爵はステファニーの嘘を丁寧にアーヴィンに説明した。それが息子の招いた結果を自覚させるためだったからだ。そしてアーヴィンは、酷く胸が痛む自分に気付く。

気付けば涙が流れ落ちていた。どうしてなのかは、きっとアーヴィン自身も分からないだろう。

そんな息子をただ見つめる公爵は、しばらく謹慎するように言い渡すと執務室から出るよう告げた。

ただ、止まらない涙でアーヴィンはなんとか退室すると、自室まで重い足取りで進んでいった。

 強制力から解放されたアーヴィンにとって、最悪な形でのアントニアとの別れだった。



 §§§



「どうして私がこんな目に遭うの!? おかしいでしょ!!」


 自室で叫ぶようにクッションを壁に投げ付けたのはステファニーだった。壁に当たったクッションはたいした衝撃も与えることなく、ポスンと落ちた。


「アントニアはただの悪役令嬢でしょう!? だったら、いつ死のうが関係ないじゃないの!

アーヴィンが殺さなかっただけ、彼の手が汚れなくて良かったんだし。でもだいたい、なんで今死ぬのよ!

悪役令嬢らしくヒロインの私をイジメればいいのに、全然イジメないんだもの!!

だからちゃんとお話の通りに仕立ててあげてただけでしょう!? それなのに、まるで私が悪者みたいに言われなくちゃいけないわけ!?」



 メイプル男爵領に戻っていたステファニーだったが、彼女の元にアントニアが死んだ話が届いたのは死後三日経った頃だった。

エクルストン公爵が男爵に直接話をするべく動いた結果、彼女が知ることになったのだが、もし公爵が動かなければ彼女が知ることになったのはずっと後の事だっただろう。

 公爵の話を聞いた男爵が、娘のことでどれほど恥ずかしい思いをしたかは想像に難くない。

そして、公爵嫡男と婚約していた令嬢が亡くなった原因が、自身の娘にあることが事実か事実でないかは問題ではなく、容易に想像される状況に陥ってしまっているという事実が、すでに重要なことだった。

そう、ステファニーがアーヴィンと恋人であろうとなかろうと、もうそういう問題ではないということだ。

実際に二人が恋人なのは間違いないが、例え違っていたとしても侯爵家の令嬢が二人の関係を気に病み自死したかもしれない、そう誰もが思ってしまう状況が作り上げられてしまっていることが問題だった。

けれど、ステファニーにはそれが理解出来ない。決して頭が悪いわけではない。が、理解出来ないのだ。


 ステファニーにとって、この世界は小説の世界でしかない。物語の展開通りに進むものだと思っているし、その主人公である自身はアーヴィンと結ばれ幸せになるだけだと信じている。ただそれだけの、幼い少女だと言っていいのだろう。

 彼女は前世日本に生きた現代日本人の高校生だった転生者だ。貴族の考え方を理解出来るはずもない。

 そしてこの世界がループしていることすら彼女は知らない。そう、彼女はステファニーに転生し続ける異世界の転生者だが、アントニアやトニーが知るこの世界の本当を知らないのだ。


 そうして今回初めて誰もが望まない結果の、そして小説の筋書きからも大きく外れた、全てのメインキャラクターにとってのバッドエンドを迎える結果となった。

 最終的にこの世界のヒロインであるはずのステファニー・メイプルは、生涯修道院で過ごすという罰を与えられたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


つい先日ネット回線が繋がらなくなり大慌てしたのですが、プロバイダのメンテのせいでした。

接続機器の故障じゃなくて良かったなぁ、とほっとしました。

…小説の投稿出来なくなったらどうしよう!?と思ったのは内緒です。


今回で1章が終わりです。

アントニアの死で、アーヴィンとステファニーにあった強制力は強制解除されて、二人にとってはバッドエンドとなりました。

2章は来月からの予定です。それまで投稿はちょっとお休みします。

2章からはアントニアが生きることに頑張るようになります。

またそんなアントニアをトニーが応援していきます。モブ男子もがんばります。


投稿を再開したら、またよろしくお願いしますo(_ _)o

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