表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界転生という〇ナニー

作者: 幸福賢者

創作に対して極めて辛辣・不快な表現が含まれています。

特に冒険もの・バトルものが好きな方は閲覧せずに、ピンポンダッシュでお帰りください。

四大欲求。

食欲、性欲、睡眠欲、そして『悪を叩く欲』

これらは種の繁栄に不可欠な要素であるが故に、ドーパミンによって報酬が与えられるようになっている。


美食を楽しむように、交尾を楽しむように、私達は『敵への攻撃』を楽しんでいる。

正義の名の下に暴力を振るい、悪者を打ちのめす。

これ以上の喜びはない。


なのに、自分を善良だと思い込んだ人々は『悪を叩く欲』を否定する。

「人間は理性的で、調和と規律に従って生きられる」

そう偽って、自分の裏にある暴力的な側面に蓋をする。


だが、四つ目の欲望は確実にある。

それは現代社会における娯楽コンテンツ、中でもベストセラーと呼ばれる冒険作品が証明している。


・ウルトラマン

・アンパンマン

・ドラゴンボール

・エヴァンゲリオン

・ゲゲゲの鬼太郎

・ワンピース

・進撃の巨人

・水戸黄門

・ヒーローアカデミア

・仮面ライダー

・鬼滅の刃

・ガンダム


これらはほんの一部だが、いずれも作中に明確な『悪』が存在する。

怪獣、バイ菌、宇宙人、使徒、妖怪、海賊、巨人、悪代官、怪人、吸血鬼、ジオン軍のモビルスーツ・・・

形は様々だが、何らかの生命体が人類社会の脅威となり、正義の味方によって滅ぼされる。

いわゆる『勧善懲悪』が物語の根底にある。


どれでもいいから、少年だった君が胸を躍らせた冒険譚をひとつ思い浮かべてほしい。

その主人公は、大義のために敵と戦わなかったか?

ギルドや国王から依頼を受けて、魔物を討伐しなかったか?

激闘の末強敵を倒してその命を奪うとき、君の心は高揚していなかったか?


もしイエスなら、君は間違いなく『悪を叩く欲』を抱えている。

それを満たすために漫画やアニメに嵌り、異世界のモンスターを狩って経験値を稼ぐ中で、ジャブジャブ溢れるドーパミンに溺れている。


人類史の99%において、外敵を殺すのは当たり前のことだった。

ホモサピエンスは、ネアンデルタールと戦って滅ぼした。

縄文人は、イノシシやクマを殺して食料にした。

戦国時代の大名は、合戦を繰り返して領土を拡張した。

旧日本軍は、中国やロシア、米国と戦い続けた。


正義とは、『集団にとって都合が良いか』で決まる。

身内に振るえば処罰の対象になる暴力も、社会を乱す相手に振るえば正義の行為と見なされる。

侵略者や犯罪者を取り締まらなければ、社会的動物である人類は存続できない。

だから『悪を叩く欲』は、食欲や性欲に負けない快楽として刻み込まれてきた。


しかし、驚くことに世界は急激に平和になってしまった。

ほんの一世紀足らずで大型の獣は絶滅し、大規模な戦争は急減した。

生存に必須だったはずの『悪を叩く欲』は、いきなり活躍の場を失ってしまったのだ。


だが、悲しいことに人類の本質は変わっていなかった。

新人類から数えて20万年。

猿人からすれば300万年以上。

膨大な時を費やして培われた最強の本能が、たった100年で覆るわけもない。


現代は食欲・睡眠欲に優しく、『悪を叩く欲』にとって厳しい時代だ。

他は金を積めば解決できるが、正義の暴力は悪がいないことには許容されない。

嫌いな上司や政治家を敵認定するのは簡単だが、うかつに手を出せばこっちの方が犯罪者になってしまう。


倒すべき悪が消えた現代日本においても、私達は未だに「敵を殺したい」という衝動を抱えている。

それどころか退屈な毎日に虚無感を募らせ、『暴力を振るっても許される相手』が現れることを今か今かと待ち望んですらいる。


この平和な時代において、『悪を叩く欲』を満たす方法は大まかに三つある。


一つは、敵を攻撃しても許される集団に所属すること。


・軍隊に入って、敵軍と戦う

・スポーツマンになって、ライバルと戦う

・狩人や漁師になって、動物と戦う

・タリバンに入って、神の敵と戦う


実際に外敵を叩きのめせるので、満足感はピカイチ。

だが、相応の能力が求められるため難易度はかなり高い。

当然、こちらも命を狙われるリスクがある。

アルカイダやオウムの正義は殺害を肯定するが、代わりにより大きな社会の正義に反する。


二つ目は、ネットを利用して中傷すること。


・不倫した芸能人を叩く

・失言したメンタリストを叩く

・買い占めを行った転売屋を叩く

・クソみたいなエッセイを書いたこのなろう作家を叩く


SNSやコメント欄が炎上するのを、君も見たことがあるはずだ。

芸能人が不倫しようが薬物を服用しようが金メダルを噛もうが、大衆にはたいした害がない。

けれど、そんな些細な悪事ですら、『悪に飢えた人々』にとっては格好の標的になる。


道徳や倫理のためと建前を並べながらも、彼等の動機は明らかに『欲望』だ。

欲しいのは攻撃時に放出される脳内物質であって、社会の繁栄ではない。

平和で退屈な日本社会では正義感が満たされないから、日々ネットを徘徊して悪を探し続ける。

そして『殴っても許される罪人』を見つけた瞬間に喜び殺到して、コメント欄を阿鼻叫喚の地獄に変える。


正義の名の下に犯罪者を裁くほど、心を満たすものはない。

いつも誹謗中傷でネットを燃え上がらせたのは根っからの悪人ではなく、欲望のはけ口に飢えた普通の人々だった。

餓死寸前の者が盗みを働くのを咎められないのなら、彼等もまた責められるべきではないのだろうか?


一つ目を行う度胸もなく、二つ目に参加するほど野蛮でもない者は、きっと『空想の世界』に逃げるだろう。

漫画やアニメ、何よりなろうに氾濫したファンタジー小説がその典型だ。


ゴブリン、スライム、ウルフ・・・

ゾンビ、ダークエルフ、ギガント・・・

姫をさらった魔王から、俺を追放した勇者パーティまで。


異世界に転生すれば、敵はいくらでもいる。

いくら殺害しても殺人罪は適用されない。

それどころか英雄と認定されて、ギルドや王様から討伐報酬が届く。

仮に民衆に評価されなくても、読者の視点から見て正義であれば心は満たされる。


空想の怪物を討伐して、『悪を叩く欲』を満足させる。

これはAVを見て、性欲を満足させるのと変わらない。

一種の『自慰行為』だ。


日本は世界から『オタクカルチャーの国』『ポルノの国』と見なされているが、どちらも発達しやすい土壌を持っていたのは間違いない。

ムラムラしたって、相手にしてくれる相手が都合よく現れるわけじゃない。

男女交際や暴力行為に対する法規制が厳しいほど、『代替行為』に対する需要が高まることになる。

アニメやゲームが犯罪を助長するという指摘もあるが、実際は逆だろう。


外敵が排除された文明社会は、君に安心安全の生活を保証した。

しかし、その一方で戦闘民族であるはずの君から活躍の場を奪い、満たされない焦燥感を植え付けることにもなった。

そんなぬるま湯の中で、どうやって自分の願望を叶えるのだろうか?


ソシャゲの周回プレイのように、異世界の怪物を延々と倒し続けるのか?

ネットの海に貶める相手を見つけて、コメント欄を真っ赤に染めるのか?

それとも自らの能力を磨き、未だ克服されない脅威に立ち向かうのか?


どうか君の答えを聞かせてほしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
どっちかというと幼稚園時代から転校で叩かれ続けてきましたアホなんでねぇ…。 わしは部外者として叩かれ、外敵として叩き返してたわしには刺さりましたわ。 これがなくなったらFPSか、妄想で発散するんでし…
[良い点] 一面の真実ではある [気になる点] レンジを広く取りすぎかつちょっと乱暴
[良い点] >欲しいのは攻撃時に放出される脳内物質であって、社会の繁栄ではない。 それな!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ