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婚約発表?!

「今、なんて言ったの?! 婚約? 誰と、誰が?!」


「アンナお嬢様、落ち着いて下さい」

レディの仮面も忘れて、取り乱したアンナを、リリスが何とかなだめる。

「信じられないなら、パーシヴァル家に戻ったら、確認してみるといい」

正面に座るアンナを、真っ直ぐ見据えて言い切るジェリーの言葉には、偽りの影は無い。

それでもアンナは、すぐには受け入れる事が出来ない様子だ。

「わかりました。これから帰って、お父様に直接確認します」

もはやアンナの中では、お茶会どころの騒ぎでは無いようで「今日はこれで失礼します」と一言告げると、リリスを連れてその場を後にしたのだった。

「まったく。相変わらず、慌しい娘だ」

アンナの後ろ姿を見送りながらそう言ったジェリーの表情は、言葉とは裏腹にとても穏やかに見えた。


「兄さん、どういうつもりなんですか? 急にあんな突拍子も無い事を言い出すなんて……きっと、アンナは本気にしましたよ?」

アンナが慌しく去った後に、最初に口を開いたのはルークだった。

「本気にしてもらわなければ、困る。何せカンター男爵からの、直々の申し出だからな」

ジェリーは、傍に控えていた若いメイドに、熱い紅茶を頼みながら、何気ない日常会話の様にそう言った。

「な……」

兄の言葉に唖然として、二の句を継げないでいるルークに、ジェリーは更に続ける。

「俺達兄弟のどちらかが、アンナと結婚する事になっているのは、お前も承知してる事だろ。今更、何を驚く必要があるんだ?」

「ですが……本当にそれでいいのですか? 兄さんがアンナを……」

「まあ、アンナは知らなかったみたいだがな。ルーク、話しはここまでだ」

ルークの言葉を遮り、有無を言わせぬ口調でそう言ったジェリーに、これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、ルークが深いため息をつく。

「分かりました。まずは、アンナの意思を確認してから、また話しをしましょう」

ルークは、それだけ言うと、温厚な彼にしては珍しく、憤りを隠せない様子で立ち上がり、去っていった。

 そこへ、先ほどの若いメイドが、淹れたての紅茶が入ったティーポットを手にやってきた。

カップに新しく紅茶が注がれると、芳しい香りが辺りに漂ってくる。

「ありがとう」

美しい主人に、普段ならあり得ないほどの極上の笑顔でお礼を言われた若いメイドは、耳まで真っ赤になりながら、慌ててお辞儀をして下がっていった。

メイドが下がり、一人で紅茶を楽しむジェリーの姿は、まるで一枚の絵のようにさまになっている。

「これで、いいんだ……」

そう自分に言い聞かせるように呟いた彼の胸中を知る者は誰もいなかった。


 パーシヴァル家に到着したアンナが、真っ先に向かったのは父、ヘンリーの所だ。

「お父様はどこ?」

 アンナが、迎えに出てきた執事のギルバートに尋ねると「書斎にいらっしゃいます」と彼は、相変わらずの無表情でそう言った。

ギルバートに礼を言い、邪魔なドレスの裾をまくり上げて書斎へと急ぐアンナには、使用人達が驚愕の眼差しで見ている事に気が付く余裕も無かった。

アンナの後ろから、リリスが慌てて付いていくが、さすがにアンナのように屋敷の中で走るわけにもいかず、他の使用人達に同情の眼差しを向けられる事となった。

「あのお嬢様の専属は、気苦労が多そうだね……」

どこからか聞こえたそんな声に、今日ばかりは反論する事も無く、ただ俯いてアンナの後を追うリリスだった。

 書斎に着いたアンナは、ドアの前でドレスの裾から手を離しノックする。

「どうぞ」

部屋の中に招かれ、座るように促されるが、アンナは落ち着いて座って話す気分ではなかった。

「お父様、カークベリー伯爵から、婚約の話し聞きました。一体どういう事なんですか?」

回りくどい言い方が嫌いなアンナが一気にそう言うと、ヘンリーは、あまりに真っ直ぐな質問に少々驚いた様子だったが、改めて目の前のソファに座るように促した。

「すべて話すよ。アンナ、まずは落ち着きなさい」

アンナとは対照的に、ゆったりと微笑む父の姿に、幾分落ち着きを取り戻したアンナは、父に言われた通りにソファに身を沈めた。

「そうだな。もっと早くに、私の口から伝えるべきだった。アンナ、今回の婚約の話は、お前が生まれた時から決まっていた事なんだよ」

アンナは、ヘンリーが言った事の意味が分からずに、唖然としている。

そんな娘の様子に、ヘンリーはゆっくりと言葉を続ける。

「前カークベリー伯爵が、お前が生まれた時に一目で気に入ってね」

 ヘンリーは、当時の事を懐かしそうに目を細めて語りだした。


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