28話
「お待たせしました。さば味噌定食の方」
「はい」
店員は美和先輩の前にさば味噌定食を置いた。
「唐揚げ定食の方」
「はい」
その後に俺の方に唐揚げ定食を置いた。
「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「はい」
「では、ごゆっくりお召し上がりください」
そう言って店員は去っていった。
「さぁ食べましょうか」
「そうですね」
美和先輩は、器用にサバの骨をとっている。本当に何でもできる人なんだと改めて思った。
俺も自分の唐揚げを口に入れた。
「・・・・美味しい」
口の中に入れた瞬間カリッ!としたこの感触、絶妙な揚げ具合、何て美味しいんだ。
「そんなに美味しいの?」
俺が余韻に浸っていると美和先輩が聞いてきた。
「はい。とても」
「ふぅん」
美和先輩がとても欲しそうにしている。これは嫌な予感がする。
「ねぇ。私に1つ頂戴」
「嫌ですよ」
「どうしても?」
そう言って美和先輩が上目遣いで此方を見てくる。くぅ!そんな顔されたってあげるもんか。
「お願い侑大くん」
そう言って俺の目をずっと見てきた。
「・・・・わかりました」
「ありがとう。嬉しいわ」
「ただし、自分で食べてください」
昼のようなヘマは絶対にしない。
「わかったわ」
そう言って美和先輩は、俺の皿から唐揚げを1つとって食べた。
「・・・・美味しいわね」
「それはよかったです」
どうやら美和先輩も満足したようだ。
その後は美和先輩と他愛のない話しをしながら食事を楽しんだ。俺にとっては、こんな風に他人と出かけて外食するなんていつぶりだろうか?もう1年ぐらい行ってないような気がする。智則は家には来ても一緒に出掛けた事がないのだ。
「そろそろ帰りますか」
「そうね」
そう言って俺と美和先輩は、お会計を済ませて店を出た。
「家まで送りましょうか?」
「フフ」
そう言うと美和先輩は何故か笑った。
「何か変なこと言いましたか?」
「いえ。侑大くんからそんな言葉がでるとは思わなかったから」
「!?」
確かに美和先輩に言われて気づいた。前までの俺だったら、絶対にそんな言葉言わなかったはずだ。なのに口が勝手に動いてしまった。
美和先輩と居るのがそれほど楽しかったと言うことなのだろうか?俺にはわからない。
「大丈夫よ。自分で帰れるから」
「・・・・そうですか」
それからしばらく歩き駅に着いた。
「今日は楽しかったわ。ありがとう」
「いえ。こちらこそありがとうございます」
それからしばらく無言が続いた。
「ねぇ。侑大くん」
美和先輩が口を開いた。
「なんですか?」
「今日楽しかった?」
美和先輩が聞いてきた。俺は一体どう答えれば正解なのかと思った。
いや、俺は今どんな気持ちなのかを考えた。
「・・・・楽しかったです」
そして今の自分の気持ちを正直に伝えた。
「そう。よかったわ」
そう言って美和先輩は言った。今までに見た事のないほどの、優しい笑顔で。
「じゃあまたね。月曜日も部活来るよの」
「・・・・はい」
そう言って美和先輩は駅へと歩いて行った。
美和先輩が歩いて行った方をしばらく眺めていた。俺は今日美和先輩と出掛けて楽しかったと思った。自分でも信じられないくらいに。今までは、誰とも出掛けたくなかった俺が、今日美和先輩と一緒に出掛けて楽しいと思ってしまった。それは、俺が変わってきている証拠なのだろうか?それについてはまだわからない。
でも1つだけハッキリしている事がある。
美和先輩と出会った事で、俺の運命が大きく動き初めたどう言うことだった。
俺は家に帰るためゆっくり歩き始めるのだった。
評価よろしくお願いします。
これで1部完結です。




