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第十回 張益德横矛立威 諸葛亮舌戦群儒

曹操は劉備と戦えても俺と戦う余力は無かった。


劉備は戦っては退き、遂にその兵が数百人規模にまで減らされ後が無くなっていた。


百姓と配下の家族は高順に預け、自身は曹操を食い止めるという見事なまでの大義名分を掲げて戦った。


追い詰められ、張飛が一番前に出た。


「三弟!」


「兄貴、安心しな!此処は俺が死んでも食い止める!」


挙兵以来の腹心である張飛に絶対的な信頼は寄せているが、智略に関しては安心どころか軍中一番の不安要素を通り越して危険要素でもある張飛にそんな芸当は無理だと理解し自刎の準備を始めた劉備だった。


張飛は信頼出来る配下の張達、范疆に命じた


「おぅ、今から木の枝を集めて馬の尾に縛り付けとけ!曹操軍が来たらお前らは林の中で右往左往すればいい…そうすりゃ野郎も迂闊に近づいてこねぇよ!」


「「はっ!」」


張飛に対しては絶対に拒否出来ないのである。もし拒否をしようものなら矛の錆になるだけであるというのは周知の事実である。


曹操軍が此方に軍を進めてきたが、張飛が一人橋の向こう側からゆっくりと橋の真ん中に馬を進めた。


「おぉれぇがぁあ!」


これを聞いた瞬間皆耳を塞いだが、それでもはっきりと耳が痛い。


「えぇんひと張飛だぁ!」


明らかな自己紹介に曹操も呆れて『んで?』と言いたかったと後に語っていた。


「軟弱な貴様らの中で俺とサシで殺し合える奴がいるかぁ!」


これを聞いて徐晃ら腕に覚えのある者はともかくそう出ない者らも張飛を本物のバカだと思った。


とくに曹操なんかやってられるか!と苛立ちを覚えたが、逆に命知らずを相手にしてはいけないと配下に通達した。


後にこの構図を聞いた高順はまるでどっかの宇宙で戦ってる装甲擲弾兵総監という名の石器時代の勇者である年老いた単細胞と後に全宇宙を統べる金髪の小僧を思い浮かんだと言う。


曹操軍の諸将及び兵士らは行くなと言われても行かないくらいに腰が退けていた。


曹操も後ろの土煙を見て張飛をバカだと思った自分に恥じた。


ふははは、雲長よ!読みが外れたのぅ?お前の義弟は武勇に優れた上で智略もそこそこあるでは無いか!危うく騙されるところであったわ!


こうして、張飛の一世一代の大博打は成功を収めて幕を閉じた。


皇帝も高順を助ける形で南郡太守に任じてその守備を任せるという勅旨を出して曹操を大いに困らせたが、曹操は高順を呼び出した。


「孝父!久しぶりでは無いか!」


「孟徳、相変わらずだな」


「ふふふ、我らは敵同士ぞ?」


「だが、友でもある」


「「ふふはははははは!」」


互いに攻撃しない約束を交わし、更に曹操は丞相に就任する代わりに皇帝に不敬を働かないという条件も引き出した。


勿論、丞相と言ってもその権限を大きく削っての事だ。群相制度を導入した高順を曹操は内心恨んだが仕方ない事でもある。


幕下の謀士らを丞相格に引き上げて国家の運営を進める事になった曹操は掣肘を受けつつも軍を進めた。


曹操は南下し、荊州を制圧した。圧倒的な兵力を持つ曹操軍に対し、劉備と孫権は連合軍を組むことを決意する。しかし、連合軍内部は意見が一致せず、危機的状況にあった。


此処で魯粛が亡き劉表の弔問の使者として訪れた。劉備は劉琦の後見人として会議に参加した。


高順にしてみれば裏向きの同盟の口実である。


これを関羽、張飛、趙雲らに話すと見事に三者三様の返事が返ってきた。


「弔問だァ!?ケッ!虫のいい事を…同盟なら同盟っていやあいいじゃねぇか!なぁんでこんなまどろっこしい事しなきゃなんねぇんだよ!」


そう簡単に行くならお前んとこの兄貴分は挙兵せずに未だ平民として貧しく蓆を売ってるさ!


「ふむ…悪手では無い、な。だが如何に此方の労少なくして利を得るか…」


アンタ…インテリヤクザじゃねぇんだからよぅ…死ぬぞ?ホントに殺されてるからね!


「皇叔の守護はお任せを!」


単細胞が!喋んな!


会議の結果諸葛亮が話をまとめに江東に赴いた。


諸将が見送る中、高順だけが小声でポツリと諸葛亮の耳元で呟いた


「精々上手いこと騙して来いよ?詐欺師…」


諸葛亮は怪訝に思ったものの相手にしなかった。


魯粛は諸葛亮を幕舎に案内した。張昭、顧雍ら二十人余りの文武官が、冠を正し、礼服を着て、きちんと座っていた。諸葛亮は一人一人に会い、名前を尋ね、挨拶を交わし、客席に座った。張昭らは諸葛亮の風格が優雅で、態度が堂々としているのを見て、この人物はきっと弁舌に来たのだろうと推測した。


これに江東の謀士達は此処ぞとばかりに諸葛亮に議論を呼びかけた。実質喧嘩を売ってるのと一緒である。


張昭はまず言葉をかけて挑発した


「私は江南の微力な者ですが、先生が隆中で隠居し、管仲や楽毅に自らを例えていると聞いています。この言葉は本当ですか?」


諸葛亮は答えた


「それは私が普段から自分を例えている小さなことです。」


「近頃、劉予州が草廬の中で先生を三顧の礼で迎え、幸運にも先生を得て、『魚が水を得たよう』に荊州と襄州を席巻しようとしていると聞きました。今、突然曹操に降伏しましたが、それはどのような考えからですか?」


諸葛亮は心の中で思った。張昭は孫権の筆頭謀士である。彼をまず論破しなければ、どうして孫権を説得できるだろうか。そこで答えた


「私が漢上の地を奪うのを見るに、それは手のひらを返すように容易いことです。我が君、劉予州は自ら仁義を行い、同族の基盤を奪うことを忍びなかったので、強く辞退しました。劉琮は愚かで、佞臣の言葉を信じ、密かに降伏したため、曹操が跋扈するようになったのです。今、我が君は江夏に兵を駐屯させ、他に良い計画があり、それは平凡な者が知ることができるものではありません。」


「もしそうなら、先生の言行は矛盾しています。先生は自らを管仲や楽毅に例えています。管仲は桓公を補佐し、諸侯だった桓公を覇者にし、天下を統一しました。楽毅は弱小な燕を助け、斉の七十余りの城を陥落させました。この二人は、真に世を救う才能のある人物です。先生は草廬の中で、ただ風月を笑い、膝を抱えて座っていました。今、劉予州に仕えているのに、民のために利益を興し害を除き、乱賊を討伐するべきです。それに、劉予州は先生を得る前は、天下を縦横に駆け巡り、城を占拠していました。今、先生を得て、人々は皆期待しています。たとえ三尺の子供でも、虎に翼が生えたように、漢室が復興し、曹氏が滅亡するだろうと言っています。朝廷の旧臣や山林の隠士は、皆目をこらして待っています。高い空の雲を取り払い、太陽と月の光を仰ぎ、民を水火の中から救い、天下を安泰にすることこそ、まさに今なのです。先生が劉予州に仕えてから、曹操の兵が出ると、甲冑を捨てて武器を投げ出し、風を見て逃げ出しました。上は劉表に報いて庶民を安んじることができず、下は孤児を補佐して領土を守ることができませんでした。そこで新野を捨て、樊城に走り、当陽で敗れ、夏口に逃げ、身を置く場所も無くなった。劉予州は先生を得てから、かえって以前よりも悪くなったのです。管仲や楽毅が果たしてそうでしょうか?私の率直な言葉ですが、どうかお気を悪くしないでください」


諸葛亮はこれを聞いて、静かに笑って言った


「鵬が万里を飛ぶ志は、どうして群鳥が知ることができるでしょうか?例えば、人が重い病にかかったとき、まず肉を食べさせて体力を作ってから粥で体を慣らしてから、薬を飲ませるべきです。その内臓が調和し、そうすれば病根は完全に除去され、人は完全に生きることができます。もし気脈が和らぐのを待たずに、すぐに強い薬や濃厚な味を与えて、安全を求めようとすれば、それは本当に難しいことです。我が君、劉予州は以前、汝南で軍が敗れ、劉表に身を寄せ、兵は千にも満たず、将は関羽、張飛、趙雲だけでした。これはまさに病状が極限まで衰弱した時です。新野は山奥の小さな県で、人民は少なく、食糧は乏しく、予州はただ一時的に身を寄せるために借りただけで、本当にそこに座って守るつもりだったのでしょうか?甲兵が不完全で、城郭が堅固でなく、軍が訓練されておらず、食糧が日を継ぐことができないのに、博望で屯を焼き、白河で水を用い、夏侯惇や曹仁らを恐れさせたのは、管仲や楽毅の用兵よりも劣らないと思います。劉琮が曹操に降伏したのは、予州が本当に知らなかったことです。また、混乱に乗じて同族の基盤を奪うことを忍びなかったのは、本当に大いなる仁義です。当陽の敗戦で、予州は数十万の義民が老いも若きも連れ立って従うのを見て、彼らを捨てることができず、一日十里しか進まず、江陵に進むことを考えず、共に敗れることを甘んじたのも、また大いなる仁義です。寡が衆に敵わないのは、勝敗は常のことです。昔、高祖は項羽に何度も敗れたが、垓下の戦いで成功したのは、韓信の優れた策略によるものではないでしょうか?韓信は高祖に長く仕えたが、常に勝利したわけではありませんでした。国家の大計、社稷の安危には、主となる策略が必要です。誇張して弁舌する者とは異なります。虚名で人を欺き、座って議論し、口先だけの者は、誰もが及ばないが、臨機応変の能力は、百に一つもありません。本当に天下の笑い者です」


この一連の言葉で、張昭は一言も答えることができなかった。


座上に突然、一人が声を上げて尋ねた


「今、曹公は百万の兵を駐屯させ、千人の将を並べ、龍のように雄々しく虎のように睨み、江夏を平らげようとしていますが、公はどう思いますか?」


諸葛亮が見ると、虞翻であった。諸葛亮は言った


「曹操は袁紹の蟻のような兵を集め、劉表の烏合の衆を脅し取ったので、数百万いても恐れるに足りません」


虞翻は冷笑して言った


「当陽で軍が敗れ、夏口で計略が尽き、わずかに人に教えを請う身でありながら、まだ『恐れない』と言うのは、本当に大言壮語ですな!」


諸葛亮は言った


「劉予州は数千の仁義の兵で、どうして百万の残虐な兵に敵うでしょうか?夏口に退いて守るのは、時を待つためです。今、江南は兵も精強で食糧も十分であり、長江の険しさがあるのに、なおその君主に膝を屈して賊に降伏させ、天下の嘲笑を顧みようとするのです。このことから考えると、劉予州は本当に曹賊を恐れない者です!」


虞翻は言い返すことができなかった。


座中のまた一人が尋ねた


「孔明は儀や秦の弁舌を真似て、江東を遊説しようとしているのですか?」


諸葛亮が見ると、歩騭であった。諸葛亮は言った


「歩子山は蘇秦や張儀を弁士と見なしていますが、蘇秦や張儀も豪傑であることを知りません。蘇秦は六国の宰相印を佩び、張儀は二度秦の宰相となり、いずれも国を助ける計画を持っていました。強きを恐れ弱きを凌ぎ、刀剣を恐れて避ける者とは異なります。あなた方は曹操の虚偽の言葉を聞いて、すぐに恐れて降伏を願い出るのに、どうして蘇秦や張儀を笑うことができるのでしょうか?」


歩騭は黙って何も言わなかった。


ある人が尋ねた。


「孔明は曹操をどのような人物だと思っていますか?」


孔明がその人を見ると、薛綜であった。孔明は答えた。


「曹操は漢の賊です。どうして尋ねる必要があるのですか?」


薛綜は言った


「公の言葉は間違っています。漢の世は今日まで続き、天命が尽きようとしています。今、曹公は天下の三分の二を掌握しており、人々は皆帰服しています。劉予州は天時を知らず、強いて争おうとするのは、まさに卵で石を打つようなもので、どうして敗れないでしょうか?」


孔明は声を荒げて言った


「薛敬文はどこからこのような父も君主もいない言葉を言うのですか!人は天地の間に生まれ、忠孝を立身の根本とするべきです。公は漢の臣であるからには、臣でない者を見れば、共に討ち滅ぼすことを誓うべきです。それが臣の道です。今、曹操の祖先は漢の禄を食みながら、報いようともせず、かえって簒逆の心を抱き、天下の人が共に憤っています。公はそれを天命に帰すとは、本当に父も君主もいない者です!語るに足りません!もう何も言わないでください!」


薛綜は顔を赤らめて恥じ入り、何も言い返すことができなかった。


座上にまた一人が声を上げて尋ねた。


「曹操は天子を挟んで諸侯に命令しているとはいえ、相国曹参の子孫である。一方、劉予州は中山靖王の子孫だと言われているが、考証することができず、見たところただのむしろを編み、わらじを作る者に過ぎない。どうして曹操と対抗できるだろうか!」


孔明がその人を見ると、陸績であった。孔明は笑って言った。


「あなたは袁術の座で橘を懐に入れていた陸郎ではありませんか?どうぞお座りください。一つお話しましょう。曹操は曹相国の子孫であるから、代々漢の臣下であるはずです。しかし、今や専横を極め、君主を欺き陵辱しています。これは君主をないがしろにするだけでなく、祖先をも蔑ろにしています。漢室の乱臣であるだけでなく、曹氏の賊子でもあります。劉予州は堂々たる帝室の末裔であり、今の皇帝によって家系図に基づいて爵位を授けられています。どうして『考証できない』などと言うのでしょうか?また、高祖は亭長から身を起こし、天下を統一しました。むしろを編み、わらじを作ることが、どうして恥となるでしょうか?あなたの考えは幼く、高潔な人物と語るに値しません!」


陸績は言葉に詰まった。


座上にいた一人が突然言った。


「孔明の言葉は、いずれも無理に理屈をこじつけ、正論とは言えません。これ以上言う必要はないでしょう。ところで、孔明は何の経典を学んだのですか?」


孔明がその人を見ると、厳畯であった。孔明は言った。


「字句を拾い集めるのは、世俗の腐った儒者のすることです。どうして国を興し、事を成し遂げることができるでしょうか?昔の耕莘の伊尹、渭で釣りをしていた太公望、張良や陳平のような人々、鄧禹や耿弇のような人々は、皆天下を正す才能を持っていましたが、彼らがどのような経典を学んだのかは聞いていません。まさかあなた方も、書生のように書斎に閉じこもり、文字を弄ぶだけなのでしょうか?」


厳畯は頭を下げて何も言えなかった。


また別の人が大声で言った


「あなたは大言壮語を好みますが、本当に学問があるとは限りません。儒者たちの笑いものになるかもしれませんよ」


孔明がその人を見ると、汝陽の程秉であった。孔明は答えた。


「儒には小人と君子の区別があります。君子の儒は、君主を敬い国を愛し、正義を守り邪悪を憎み、世のため人のために尽くし、後世に名を残します。一方、小人の儒は、文字を弄ぶことだけに専念し、若い時は詩賦を作り、年を取るまで経典を研究します。筆では多くの言葉を紡ぎますが、胸には何の策略もありません。例えば、揚雄は文章で名を馳せましたが、王莽に仕え、最後には身を投げて死にました。これこそが小人の儒です。たとえ日に万言を賦しても、何の価値があるでしょうか!」


程徳枢は何も言い返せなかった。人々は孔明の弁舌が淀みなく、皆言葉を失った。


孫権と謁見するなり、諸葛亮は孫権を怒らせた。


「孔明先生、どうかね?我らが手を合わせて曹操を倒すには何か良策でも?」


「えぇ、一つございます」


「伺おう」


「曹操に降られよ。さすれば富貴を保ち栄華を手に入れられます」


「ほぅ?」


孫権は内心、諸葛亮如き大した事無いなと思い不快なままその場を後にした。

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