第四回 中枢争闘司徒勝 将軍無耐投皇叔
一路徐州に向かう途中、高順は思い返した。曹操は兗州刺史になって家族を兗州に呼び寄せようとしていた。
「おぅ!豫州に道変えんぞ!」
急ぎ、豫州に道を変えると曹操軍の曹洪と出くわした。曹洪は警戒し、誰だか全く分からなかった。
「おい!誰だ!」
「兗州の曹洪、曹子廉将軍とお見受けした!吾は上将軍高順である!」
「何!?我らに何用か!」
「用は無い!通りすがりに挨拶しただけだ!」
「うむ!此方も無駄に戦う必要は無い!行きたき道を行かれよ!」
「わかった!」
そうは言っても心配だからねぇ…
弘農王が死んでから諸侯は誰を担ぎ上げるかで日夜揉めて最終的には洛陽、荊州を東に日夜争っていた。
王匡が殺され、劉岱が曹操に降伏した為、朝廷は曹操を兗州刺史に任じた。だが、曹操はこの時いくつかの誤算をしていた。
河北より公孫瓚、張楊、韓馥等に叩き出された袁紹は仕方なく異母弟の袁術を頼りに豫州へと向かっていたが、陳宮が袁紹を唆し濮陽を強襲して自分のモノとした。呂布と袁紹の立ち位置が入れ替わった。その分面倒臭いなぁ〜!今の曹操は袁紹と太刀打ちできる実力が無い分面倒臭い《これで政治情勢が読めなくなった》。
本来の時空軸の史書によれば陳宮、張邈、王楷、許汜が曹操を背き兗州の地にある百城は皆降った(超訳)
書簡で遼東に出兵し高句麗に対する備えも公孫瓚に頼み、張楊には匈奴、鮮卑、烏桓を防ぐ様に言いつけた。
この時点で唯一歴史通りに行きそうなのが、孫堅が劉表と戦って戦死して袁術が孫策の後見人になったくらいである。
「伯符よ、父上の事は残念だったな!今後は儂が後見してやるぞ〜」
袁術の抑えきれない笑みに孫策及び孫堅の配下の諸将も内心の殺意を押し殺して頼んだ。
「これより公を父と仰ぎ奉りまする」
「おぉ…!そうか!そうか!良いぞォ息子よ!ハッハッハッ!」
後になって曹操は家族を迎えに行くのかと思えば兗州、豫州の一部の地盤を固めようとしたらしい。
そこで、俺は上将軍の地位を利用して曹操の家族を無事に東阿の地に送ると、今度は曹操と手を組んで袁紹を滅ぼす事にした。
「高将軍、今後は?」
「まだ決めておらん」
「そうか、もし…」
「ふぅむ、曹殿が辺譲殿を殺して無ければ無論、此度の叛乱は無かったろうな」
「耳の痛い事を…」
「ん?そうか、なら口を滑らせたついでに言えば袁紹がこちらに来たのも俺の責任だからな…」
「では…!」
「あぁ、協力してやるよ!」
前前世の親友、前世の主君だったしな!
漢の情勢は毎度毎度高順の所為で歴史と大きな乖離が生じる為、説明しておこう。
朝廷は董卓の死後牛輔や李傕らを討ち取り、王允や皇甫嵩を文武の頂きに置き司隸を直轄している。(本来は李傕らが朝廷を欲しいままにして有って無いような無政府状態)
河北は公孫瓚と韓馥、張楊が共存。兗州は曹操と袁紹が支配権を賭けて戦っている。豫州は袁術が確実に支配し、劉表と争っている。(本来は袁紹が韓馥から脅し取り冀州に居座り公孫瓚と河北の覇権を争う)
益州は劉焉、張魯が小競り合い。(歴史通りだが、跡継ぎが劉璋じゃ無くなった)
荊州は劉表が確実に地盤を固めて最早【文化の都】と成りつつある。(劉磐が頭角を現してる分地盤が余計に強固になり、劉琮の出番が無くなりつつ有る)
徐州は陶謙の放置統治により州内で山賊が乱立し、各自自警団を形成し互いに争う事態になっていた。(曹操が攻めてこない代わりに山賊が横行し始めた)
青州は孔融が中央に進出した為、公孫瓚が配下の田楷を送り込み取り込んでいる最中である。(概ね歴史通り)
以上を持って高順が攪き乱した情勢である。
兗州を取り戻す為に高順は袁紹と兗州各地で戦った。鉅野県、山陽、東阿、濮陽と戦った。
「将兵らよ!これより兗州の泰平を取り戻す為に袁紹と戦うぞ!」
「おおぅ!」
郝萌、宋憲が戦死その代わりに淳于瓊、高幹、袁譚、袁煕、麹義を討ち取り、河北の二枚看板の顔良は成廉と魏越が討ち取った。文醜は張遼、徐晃が手を合わせも適わず美味しい所を高順持っていく形で突き殺した。
唯一の戦果は陳宮、張邈を手に入れた事くらいである。
兗州で戦っている頃、妻の蔡琰、董媛が将軍府の官吏と兵達を連れて此方と合流した。
「夫君!」「アンタ!」
「お前ら…!」
司徒王允が皇権強化の為に高順を追い出そうと官位を剥奪し権臣の扱いをし始めたが劉虞、盧植らが止めたので討伐はされ無かった。
これで高順は根無し草と言うより渡り鳥の様な生活を送らざるを得ず、先を悩み始めた。
兗州をほぼ取り返し、袁紹の残党も悉く滅ぼした。
山賊が乱立する徐州は陶謙が田楷に援軍を頼み、劉備が討伐の任に当たり何とか平穏を取り戻した。
特に瑯琊国はその劉備に追い出された山賊の残党が押し寄せて壊滅した。瑯琊郡の諸葛家は離散した。
高順は仕方無く、劉備の元に身を寄せる手土産として瑯琊郡の山賊を討伐し合流した。討ち取った山賊の中には官軍から落ちぶれた者もいた張闓、笮融を代表としていた。
「使君!」
「高将軍!」
「都での事は聞き申した」
「左様か、徐州ではもう手伝った故帰らせてもらうぞ」
「…、将軍はまだ知らないのですか?」
「ん、何をだ?」
「将軍は一切の官職、爵位の剥奪及び討伐対象となっておりますぞ!」
「…!?」
「知らぬとは言え…」
「玄徳公、待たれよ!」
「遺言でも?」
「玄徳公は曲がりなりにも皇族に連なる身の上…」
「取りなせと?」
「そうしていただけると…」
これによって高順は劉備に取り込まれる形としてその配下に収まった。高順は兵を弘農郡に返えそうとしたが、誰も帰らなかった為残った軍で【高家軍】と命名した。
劉備の配下は武官には関羽、張飛、高順、田豫、陳到、文官には陳羣、孫乾、簡雍、糜竺、糜芳が名を連ねた。
徐州の支配を確実にして行った劉備は高順を東海太守に置いた。
あぁ、野郎俺を警戒してやがるな?
治中、別駕、功曹、儀曹、勧学、典学、部郡、主簿、兵曹などの諸従事には涿郡以来の配下を固めたりと、俺の知ってる物語の中の仁君らしさが全く無い!
俺も俺で自軍だけは触らせなかった。
送ってくる文官は全て劉備の信用に足りる者たちだった。
朝廷ではやはり儒教に偏りすぎた王允を免職して、司徒を劉虞が兼ねた。
そこで俺は爵位を戻されて家族を弘農に送り返した。
「子供らを頼む!」
高家軍の将軍達は張燕、魏越、成廉、曹性、魏種、劉何、秦宜禄、高雅だけになった。
軍師を陳宮としたが、劉備に取られたよ…トホホ…
袁紹が滅び袁術と公孫瓚に挟まれた曹操は劉備に助力を求め、公孫瓚を無理やり納得させて袁術と単独勝負に持ち込んだが、元々国力が高い上に孫堅以来の将兵を取り込んだ袁術はむしろ朝廷と張り合える。今や朝廷、河北(公孫瓚)、淮南(袁術)の三大勢力である。
劉備は何とか争わない様に努めていたが、袁術がそれを台無しにしたのである。
これに劉備も公孫瓚に袁術とは手を切るように言いつけた。
風の便りでは曹昂、典韋、曹安民が死んだと聞いた。弔辞を送り悔やみを送る弔問の使者を立てた。
袁術はブチ切れて孫策を揚州に送りその支配を固めさせ、自身は劉備を攻めた。
これに劉備も焦り、高順を呼び寄せた。
「孝父、どうする?」
「存じ上げませぬ」
「んだと?てめぇ〜!」
「益徳将軍、落ち着いて下され」
「おゥ、落ち着いてるヨ!んなもん蹴散らしゃ良いじゃねぇか!」
俺はバッと劉備を見て、劉備は目を瞑り関羽に合図を送った。
「高将軍、済まぬな。弟の道理は全て矛に在る故に…」
「はは…、二将軍みなまで言わずとも宜しいですぞ!三将軍の武勇…かの呂奉先にも劣りませんからな!ははは」
劉備は安堵した。更にどう戦うかを相談する事になった。軍の編成は八万で俺から二万を出す様に要請された。
留守を任せた守将の曹豹、許耽は劉備を背き袁術に付いた。理由は問うまでも無い張飛の酒癖の悪さ《アルハラ》である。今目の前で泣きじゃくる子供の様な毛むくじゃらの大男がその人何だがな!
少し遡ると…
出征前夜に劉備は関羽と張飛を呼び寄せて相談した。
「雲長、益徳此度は袁術と戦うが…高順がいまいち信用ならんそれ故に今回は連れてくぞ…」
「兄者…、あの高順は忠義者ですぞ?」
「ほーぅ?知ってんのかい?」
「うむ、丁建陽が呂布に殺されて仕方無く董卓に従っていたがその後間もなく董卓が死に皇帝陛下をお守りしてその残党を討ち取ったのでござる」
「そっか、なら俺に忠義を尽くしてくれるか試そうじゃねぇか」
張飛も会話に参加しだした。
「へぇ…、んじゃ、今回の留守役は俺だな!」
「「其れは無い!」」
「ちぇ…、二人して言うこと無いだろぅ?それに、作戦立案は大体兄貴達が決めて俺はそれに従って突っ込むだけだろ?なら、今回はあの野郎に突っ込ませたらいいじゃねぇか」
「ふむ、雲長…」
「致し方御座いませんな…益徳も偶には良い事を思いつくものだな」
「おいおい…、偶にゃねぇだろ偶には…」
「ふむ、わかった。ならば益徳、これよりは絶対に酒を飲むなよ?」
「え!ダメなの!?」
「ったり前だ!」
「嘘だろ?俺やっぱり…行こうかな…」
「では、我らの大本営この徐州はどうすると言うのだ?」
「そ、そりゃぁ…雲長の兄貴に…」
「では作戦立案は?」
「…!やってやらァ!」
「ダメだこりゃ…」
結果、劉備は高順と関羽を連れて行き袁術と淮陰、石亭一体で激戦を繰り広げた。張飛は明日から禁酒すると宣言しその日にたらふく酒を飲み酔い始めて曹豹等に酒を強要して恨まれた。
俺が思うに袁術配下でマトモに戦えるのは紀霊のみで、それ以外は基本どうにでも太刀打ちできる輩である。
袁術も底無しのアホでは無かった。楽就、張勲、橋蕤を此方にぶつけて自身は紀霊、梁剛らを連れて劉備と当たった。
孫策は?この頃には自立を図る為江東を平定しに行っている為居ない上に孫賁は留守を預かっているので当然孫堅配下達は此方に突撃してこない。劉繇と連携を取ろうとも思ったが、孫策に睨まれて動けないらしい。
「さて、これよりは我慢比べだ。河岸の向こうにはアホしかおらん故、この戦も楽に勝てるぞ!」
「大将、油断は禁物ですぜ?」
「張五のクセにまともな事を言うな!」
「あ〜!ひでぇ俺だって…!」
「はいはい」
そこへ張燕と曹性の騎兵組が此方に向かってきた。
「どうした?」
「旦那ァ、見回って来たんだけど…どうもおかしいんだよなぁ…」
「そうか…、野生の勘は当たると言うからな」
「んで?どうすんだい?」
「うーん、なら、張燕、曹性は遊撃隊を組織して警邏に当たれ!郝萌、宋憲、劉何は本陣周辺を見てくれ!」
「「はっ!」」
報告の為、親衛隊百人を連れて本営に行ったらこれだよ…
「あ、兄貴ぃ〜!」
「益徳!どうした?」
関羽が鋭い目付きで張飛を睨み詰問した。
「三弟よ、よもや徐州を失ったとは言うまいな?」
「…」
関羽は目を瞑り溜息を吐き、劉備は内心の怒りをどうにか抑えてから張飛を叱った。
「酒を飲むなとあれだけ言ったでは無いか!」
「俺もそうしようと思って…兄貴達が出かけてから飲んだんだよ!そしたら酔っ払って悪い癖を…」
「貴様ァ!どう責任を取るんだ!本営たる徐州を無くしたのだぞ!」
「…、うるせぇよ!俺だってわかってらァ…!こうなりゃ死んで詫びるしかねぇ」
張飛は腰の剣を抜き首元に置いた。その剣を劉備がどうにか引き剥がして怒りを顕にした。
「やめろォ!バカがよ…、てめぇがやらかして死ぬだァ?んなもん俺が許さねぇよ!」
「うぅ…」
「良いか?『兄弟は手足の如く、女は衣服の如く』だ!『服が破れれば尚縫えるが、手足を断てば安く続けられるか?』俺たちゃ、兄弟だ!益徳、お前が死ねば兄の俺も死ぬ、俺たちゃ一蓮托生だ!」
「そうだぞ、益徳!クヨクヨするで無い!」
劉備は高順の事をチラチラ見ながら話していたので、高順も内心は察していた。
あ、半分は俺に見せてんのね…この偽善野郎が!まぁ、此処は乗ってやるよ!
「劉公…」
「孝父か…済まぬ、見苦しいところを」
「いえ、義に篤き仁徳を見せられました」
結果、秦宜禄が馬を飛ばして此方へ来た。
「報告!許耽を捉え、今は牢に入れて有ります!」
「おゥ、そうか。糜竺、孫乾らの尽力が有って後方ば徐々に落ち着いて来た見てぇだな」
「ご存知で?」
「うむ、書簡を貰ってな」
「わかりました!では東海に戻ります!」
秦宜禄が出て行き、劉備は高順を見た。高順も其れを察して劉備をなだめた。
「劉公、此処は某が殿軍を務めましょう。急ぎ、徐州を抑えてください…」
「そうか…、済まぬな。頼むぞ」
この野郎…ホントに人格者かよ…まぁ、主と仰いでしまった以上担がねぇとな!神輿と一緒だよ…担いだら途中じゃ下ろせねぇってな!
石亭での戦いは此方の完勝に終った。
郝萌、宋憲、劉何は歩兵を率いて本陣の外側で伏兵として待機、張燕曹性らは攻めてきた敵を殲滅する事になり、此方の完勝で終わり劉備に使者を出した。
実際、歴史通りに行けば劉備は徐州を失い呂布に従う処を叛乱が其れを補っただけの事。ホントにね…あの三兄弟、邪魔くさいわ〜!って思うよ?ホントに!
秦宜禄には苦労かけたな… まぁ、とりあえず三兄弟には徐州を取り戻してもらおうか!
袁術は高順の戦いぶりを見てラブコールを送るが全て無視された。
これに怒った袁術が本気で此方を攻めようとするが、此方も此方で其れを躱して袁術軍に少なからずの損害を与え袁術は寿春に帰った。
俺はこれ以上袁術と争っても致し方ないと思い上手く孫策を前に引っ張り出して袁術と曹操の抗争を誘導して行った。