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第八回 両岸対峙撤其軍 三方鏖戦奪荊州

静まり返る曹操の幕僚室。曹操は地図を指さし、険しい表情でいる。高順は、静かにその様子を見つめている。


「孝父…この戦いは、もはや膠着状態だ。このままでは、兵站の負担が増大し、我々の戦力は徐々に消耗していく。このままでは、孫劉連合軍に時間と機会を与え、我々は疲弊しきってしまう」


えっ!?馬鹿じゃないの!?俺に振る?ここでッ!?頭悪っ!クソが…ま、歴史通りに進む訳にゃ行かねぇからな…ちゃちゃっと終わらせますか


「丞相のおっしゃる通りです。現状維持は、我々にとって不利です。しかし、ここで全面衝突を避ける策も、無いわけではありません」


「ほう? 具体的に、どのような策を?」


「主公、あえて赤壁で『負け』を演出してはいかがでしょうか。見せかけの敗走によって、孫劉連合軍の警戒心を解き、その隙に、西方に進軍します」


どうせ、馬超とかとぶつかるし、いいんじゃねぇの?


「何を言っている!敗北を演出するだと?それは、我が曹操の威信を著しく傷つける行為ではないか!他の勢力が、我々の弱体化を突いて攻めてくる可能性もあるぞ!」


なら、このまま戦って負けるか?そっちの方が余っ程痛手だけどな…!


「その懸念は、私も承知しております。しかし、丞相。今回の『敗北』は、戦略的な撤退であり、真の敗北ではないのです。むしろ、我々にとって、大きな利があると考えております」


「実利だと?敗北に、利等有る訳が無い!」


「第一に、これは我々軍の膿を出し切る絶好の機会です。 長らく続いた戦によって、能力不足な者、腐敗した者が軍の中に巣食っているかもしれません。見せかけの敗北によって、彼らの実体が露呈し、粛清できるのです。これにより、軍の効率性と士気が向上します」


「それは…確かに、そうかもしれない。しかし、それだけでは、危険を上回る利とは言えない。」


「第二に、これは、若い将官たちの育成の絶好の機会です。 西への進軍は、彼らにとって、新たな挑戦と経験の場となります。厳しい状況下で、彼らは成長し、将来的に主公を支える強力な柱となるでしょう。赤壁での『敗北』は、彼らにとって貴重な学びとなるはずです」


「 …、なるほど。若い将官たちの育成か…それは、確かに大きな利だ。しかし、その逆は? 我々の威信、そして孫劉連合軍の反撃…これらの危険を、どのように軽減するつもりだ?」


「そのための計画は、既に立案しております。我々は、孫劉連合軍に、我々が本当に敗北したと信じ込ませる必要があります。そのためには、綿密な偽装と、巧妙な情報操作が必要になります。そして、西への進軍は、あくまで一時的な撤退です。力を蓄え、再び東に向かうための、戦略的な布石なのです。これは、長期的な視点での、天下統一のための戦略です」


曹操地図をじっと見つめ、しばらく沈黙する… 高順… 確かに、貴様の話には、一理ある。危険は大きい…しかし、この策を実行することで得られる実利も、無視できない。諸将の育成、そして腐敗の排除…これは、長らく私が悩んできた問題だ。… よし、やってみようではないか!この『敗北』を、新たな出発点としよう!西への進軍…その準備を始めるのだ!


赤壁の戦場。曹操軍の『撤退』の情報が、周瑜と劉備のもとに届く。周瑜の陣営では、周瑜、魯粛、諸葛亮らが集まっている。



「曹操軍が、撤退を開始したという報告だ。信じられますか?あれほどの大軍が、これほどあっさり退却するとは…」


「確かに不可解です。曹操の性格からすれば、容易に撤退を決断するとは考えにくい。何か、策略が隠されているのではないでしょうか?」


「私も同感です。この撤退劇は、あまりにもあっさりしすぎている。裏には、我々を油断させるための罠が仕掛けられている可能性が高いでしょう。軽率な判断は、危険を招くことになります」


「では、どのように対応すべきか?このまま追撃を続けるべきか、それとも、警戒を強めて様子を見るべきか…」


「まずは、慎重に様子を見るべきです。曹操軍の撤退は、単なる退却とは限りません。彼らが新たな策略を練っている可能性を、考慮しなければなりません。 充分な情報収集を行い、彼らの動向を綿密に監視する必要があります。安易な追撃は、危険を伴うでしょう」


「諸葛先生のおっしゃる通りだ。急がば回れ。我々は、曹操の策略を見抜くまで、慎重に行動しなければならない。魯粛、偵察隊を強化し、曹操軍の動向を逐一報告させるように」


一方、劉備の陣営では、劉備、関羽、張飛らが集まっている。曹操軍の撤退の報を受け、揃って驚きを隠せない。


「曹操が撤退した…信じられぬことだ。まさか、あれほどの大軍が、これほど容易に退却するとは…。何か、裏があるのではないか?」


「兄者、曹操の策略を疑うべきです。彼の狡猾さは、周知の事実です。この撤退劇の裏には、必ず何かが隠されているはずです。安易に喜んではいけません」


「兄上の言う通りだ!あの奸賊曹操が、これほど簡単に撤退するはずがない!きっと、何か企んでいるに違いない!追撃して、徹底的に叩き潰すべきだ!」


「益徳、落ち着け。雲長の言う通り、曹操の策略を疑うべきだ。安易な追撃は、危険を招く可能性がある。周瑜と連絡を取り、今後の作戦を協議する必要がある。まずは、情報収集を徹底し、曹操の意図を探り当てるのだ」


両陣営は、警戒を強めつつも、情報収集に全力を注ぐ。 曹操軍の『撤退』は、新たな局面へと戦況を転換させたのだ。 周瑜と劉備は、曹操の真の目的を解明するため、知略を巡らせることになる。


高順の七万は荊州の奥深くまで侵入し、遊撃戦を展開していた。 老練な騎将、文稷の加勢を得た高順軍は、孫劉連合軍の補給路を断ち、小規模な戦闘を繰り返すことで、彼らの戦意を削いでいく。


「文稷将軍、現状の兵糧消費率を鑑みると、孫劉連合軍はあと一月もすれば、本格的な兵糧不足に陥るでしょう。我々の遊撃戦は、着実に成果を上げております」


「高将軍、将軍の戦略は的確であり。私も感服しております。しかし、油断は禁物です。孫劉連合軍も、我々の動きを察知しているはずです。新たな策を講じる必要もあるかもしれません」


「報告です、南東から、孫軍の小規模部隊が接近しております!」


「ならば、待ち構えろ。彼らを誘い込み、徹底的に叩き潰すのだ。この戦闘で、我々の存在感を示し、孫劉連合軍の警戒心を高めさせる。それが、我々の目的だ」


周瑜は、曹操軍の荊州遊撃隊の動きを警戒していた。 曹操軍の撤退劇に疑問を抱きつつも、その背後には何らかの策略が潜んでいると確信していた。


「曹操軍の遊撃隊の動きが活発化している。彼らが荊州奥深くまで侵入していることは、決して偶然ではない。 何かを企んでいるに違いない」


「確かに不自然です。撤退劇と、この遊撃戦… 繋がっている可能性は高いでしょう。我々は、彼等の意図を解明し、適切な対応策を講じなければなりません」


「現状の情報だけでは、彼らの真意を測りかねます。より詳細な情報収集が必要です。斥候を強化し、曹操軍の動向を綿密に監視しなければなりません。そして、彼らの最終的な目的を予測し、それに備えるべきです」


「諸葛先生のおっしゃる通りだ。情報戦が、この戦いの鍵となるだろう。魯粛、情報の収集に万全を期せ。 そして、全ての可能性を想定し、備えよ」


劉備は、曹操軍の遊撃戦に警戒しつつも、荊州攻略の機会を伺っていた。曹操軍が荊州に兵力を割いている隙に、荊州の一部を奪取しようと画策していた。


「曹操軍の遊撃隊は、荊州を荒らし回っている。これは、我々にとって絶好の機会だ。荊州の一部を奪取し、勢力を拡大しようではないか」


「兄上、確かに好機ではありますが、曹操軍の策略を見抜く必要があります。安易な攻撃は、危険を招く可能性があります。充分な偵察を行い、敵の兵力を正確に把握しなければなりません」


「偵察だのなんだの、いつまでも腰が引けている場合か!曹操の奸計に惑わされるな!一気に攻め込み、荊州を制圧すべきだ!」


「張飛、落ち着け。 関羽の言う通り、慎重な行動が必要だ。 まずは、周瑜と連携し、曹操軍の動向を綿密に把握する。 そして、最適な攻撃タイミングを見極め、一挙に勝利を収めようではないか」


三勢力は、それぞれ異なる思惑と戦略を持って、荊州の戦場で激突しようとしていた。高順の遊撃戦は、孫劉連合軍の戦力を消耗させるだけでなく、彼らの連携を阻害し、それぞれの思惑を衝突させる、巧妙な戦略となっていたのだ。


炎天下、江陵城は鉄壁のごとく聳え立っていた。


「甘寧、夜陰に乗じて夷陵より曹仁の背後を突け!奇襲をもって、その堅固なる防備を打ち砕け!」


周瑜の鋭い声が響く。甘寧は燃えるが、高順率いる曹操の精鋭に阻まれる。


「くそっ!この魔物の様な男は一体…!?予想外の抵抗だ!」甘寧は叫び、高順は冷酷にと告げる。


「興覇、貴様の命は、今此処で貰うぞ…」


甘寧は一瞬だけ笑い、戦闘に興じた。


「上等だ!掛かって来いや!」


高順は甘寧を食い止め、周瑜の背後へ回り込む。


「なんだ…あの不気味な影は…高順か!まさか、あそこまで来ているとは…!」


周瑜は不気味な威圧に背筋を凍らせる。呂蒙は救援に向かうが、状況は危機的だ。


「大都督!甘寧殿の救援に急ぎましょう!このままでは、全軍が危ういです!」


周瑜は精鋭の軽装歩兵隊を投入。


「甘寧を支援しつつ、高順の動きにも警戒せよ!軽装歩兵隊は、高順の背後を突く用意を!」


丁奉が兵を率いて出た。


「了解しました!山影のごとく、敵の隙を突きましょう!」


甘寧は辛くも勝利を収めるが、周瑜は軽装歩兵隊と連携し高順を撃退。呂蒙の救援部隊も到着し、反撃を開始。軽装歩兵隊は曹仁軍の後退路を遮断し、曹仁は敗走する。


「くそ…高順の活躍も虚しく…周瑜の策の前に…敗北か…」


曹仁は呟く。江陵への包囲網は見事に破られた。


周瑜は江陵攻略を続行。巧みな戦略で曹仁を消耗させ、決戦を迎える。勝利目前、流れ矢が周瑜の右脇腹に突き刺さる。激痛に襲われながらも、彼は戦い続ける。将兵たちは、瀕死の主将の姿に奮起し、曹仁軍は敗走、江陵は呉の手に落ちる。


「江陵…ついに…我が手に…」


周瑜は力なく呟き、その生涯を閉じた。彼の最期の言葉は、勝利の喜びと、深い安堵、そして、静かな死の受容を織り交ぜたものだった。勝利の旗が翻る中、英雄周瑜は、静かに、そして誇り高く、その魂を故郷の大地に還した。


曹性、文稷らは高順の指示通りに曹仁らが撤退した江陵城に入場した。高順は曹仁を呼び戻した。


曹性と文稷は、高順の厳命に従い、静まり返った江陵城へと足を踏み入れた。城内は、激しい戦闘の爪痕を残し、焦土と化した場所もあった。曹仁の敗走は、予想外の出来事だった。高順は、ただちに曹仁を呼び戻すため、急ぎ使者を差し向けた。


「子孝将軍!江陵城に戻られよ!」


高順の声は、冷たさと威厳に満ちていた。


まもなく、疲労困憊の曹仁が現れた。


「高順!貴様ァ!」


曹仁の怒号は、城壁にこだました。


「申し訳ござらん…、夜戦により将軍の…計略を台無しに…」


高順は頭を垂れた。その言葉には、責任を負う覚悟と、悔恨が滲んでいた。


「…、いや、こちらこそ済まぬ…、だが、江陵は敵に取られたのだぞ?」


曹仁は、激しい怒りを押し殺そうとしていた。


「はい、取り戻したのです…戻られよ。丞相にも報告したき儀が有るので…」


高順は、毅然とした態度で答えた。彼の言葉には、自信と、確固たる信念が感じられた。


「そうか…、ならば頼む…!」


曹仁は、ため息をつきながら、高順の言葉に同意した。


曹操の許へ急ぎ戻った曹仁は、高順と共に曹操に事の顛末を報告した。「丞相…」曹仁は、疲労の色を隠せない顔で報告を始めた。


「うむ、報告は聞いておる。我らが苦手としている水戦より、陸戦に変えたが結局は敗れた…相違有るか?」


曹操の言葉には、怒りよりも、冷徹な分析が感じられた。


「いえ、御座いませぬ…」


高順は、静かに答えた。


「ほぅ?申し開きはせぬ、か。ならば、孝父、この後のお主の頭の中の展開を聞かせてもらおうか?」曹操の視線は、鋭く曹仁を貫いた。その視線は、まるで曹仁の魂を抉ろうとするかのようだった。


「はっ、荊南の四郡を諦め、上庸、南鄭を取り、益州を手に入れ、丞許の威を持って西涼を鎮める…」


高順は、必死になって言葉を絞り出した。それは、彼自身の戦略、そして、曹操への忠誠の証だった。


「ふん、其の答えが無かったら貴様の首は飛んでおったぞ?」


曹操は、鼻を鳴らし、言葉を吐き捨てた。その声は、怒りと、失望が入り混じったものだった。しかし、その声の奥底には、高順への期待と、彼への信頼も感じられた。


あぁ、マジギレしてるわ…、しゃあない!高順は、内心で呟いた。其の命は、まさに紙一重だった。


高順は、自らの軍を率いて上庸へと進軍した。険しい山道を越え、張魯の支配する地へと足を踏み入れる。 張魯は、曹操の侵攻を予想し、頑強に抵抗してきた。激しい攻防戦が繰り広げられ、両軍の兵士たちは、血みどろの戦いを続けた。


「この地を制圧しなければ、丞相の怒りは収まらない…」


高順は、自らの胸に誓った。


一方、曹操は、西涼の諸勢力の鎮圧に苦戦していた。反乱は各地で頻発し、曹操の威信は揺らいでいた。


「あの高順の計略がなければ…江陵は…」


曹操は、しばしば呟いていた。高順の功績と、その冷静な判断は、曹操の心に深く刻まれていた。


「もし、上庸を制圧できなければ、この西涼の鎮圧は不可能だ…」


曹操は、自らの幕僚達に言った。


そして、十日の激戦の後、高順はついに上庸を制圧した。その知らせは、曹操に届けられた。


「上庸を制圧した…か…!」


曹操は、初めて安堵の表情を見せた。


高順は、張魯との睨み合いを続ける一方、曹操は西涼の鎮圧に全力を注いだ。その結果、西涼の反乱は鎮圧され、曹操の威信は回復した。高順の首は、無事に保たれた。

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