第二回 呂奉先軒門射戟 高孝父暗中備戦
流浪の末に袁術を頼った呂布は董卓の首を手に、袁術の陣営に辿り着いた。
「袁術公!董卓の首だ!感謝の言葉を賜りたい!」
呂布は声を張り上げたが、袁術は冷ややかな目で呂布を見据え、冷たく返した。
「…ほう、見事な首だな。だが、我が軍には既に十分な兵がいる。感謝は不要だ」
そっけなく返した。呂布の期待は、打ち砕かれた。「……!」
呂布は拳を握り締めた。その失望は、言葉にならないほどのものだった。
次に訪れたのは袁紹の陣営。「袁紹公!黒山賊討伐に力を貸したい!」呂布は、袁紹に協力を申し出た。袁紹は、張燕の強さを知っていた。「…呂布殿の武勇は、耳にしたことがある。我と共に、張燕を討つのだ!」袁紹は、呂布の力を借りることを決めた。
戦場では、呂布は赤兎馬に跨がり、まさに鬼神のごとき働きを見せた。
「行くぞ!成廉!魏越!」
「「はっ!」」
呂布の雄叫びが、戦場を揺るがす。成廉と魏越は、呂布の号令に従い、敵陣に突撃していく。
「ハァッ!」「うおおおお!」
勇猛な呂布軍の兵士たちの叫び声が、戦場を埋め尽くしていく。
連日の激戦。 張燕軍は、呂布の猛攻の前に次々と崩れていく。
「くそっ!この呂布め!」
張燕は、歯ぎしりした。 数十日後、張燕は敗北を認め、黒山賊は四散した。
「ふっ…これで、ようやく……」
呂布は、疲労困憊の体で息をついた。しかし、その安堵は長くは続かなかった。
袁紹からの兵糧の支給がないことに、呂布の部下たちは不満を募らせていった。
「将軍!このままでは餓死するぞ!」
「これ以上は我慢できん!」
兵士たちの怒号が飛び交う。 ついに、呂布の兵たちは略奪を始めた。
「止まれ!そんなことをすれば……」
呂布は制止しようとしたが、時すでに遅しだった。
袁紹のもとには、その報告が届いた。
「呂布め…!」
袁紹は激怒した。そして、呂布暗殺の計画を立てた。 しかし、呂布はそれを察知し、巧みな計略で刺客を打ち負かした。
「……ほほう、ここまでくるとはな」
袁紹は、呂布の策略に驚愕した。そして、城門を閉ざし、城塞を固めた。
後に臧洪は陳琳への返書で記しているが、その弁解も虚しく、呂布は袁紹領を去ることを余儀なくされた。
「呂布は軍兵の貸与を申し出ただけであり、死刑に値する人物であっただろうか」
「……次は、どこへ行くべきか……」
呂布は、赤兎馬に跨がり、静かに呟いた。彼の行く手には、新たな試練が待ち受けていた。
敗走した呂布は、張楊の元に身を寄せた。
「張楊公!かつての誼を思い出してください!」
呂布は、故郷の者であることを強調し、庇護を懇願した。張楊は、呂布の出自を思い起こし、彼を受け入れることにした。
「…よし、呂布よ。我が元に留まるがよい」
張楊の言葉は、呂布にとって大きな救いとなった。袁紹は、呂布の強さを知っていた。張楊が呂布を庇護している以上、攻め込むことはできない。
「くそっ…張楊め!」
袁紹は、歯ぎしりした。呂布という強大な敵を、簡単に倒すことはできないと悟ったのだ。
しかし、そこに新たな影が忍び寄る。李傕は、呂布の暗殺を張楊に要求した。呂布の武勇は、彼らにとっても脅威だったのだ。
「張楊よ。呂布を殺せ。さすれば、我らは汝を助ける」
李傕と郭汜の言葉は、張楊に大きな圧力を与えた。
張楊は、内心では呂布を殺害しようと考えていたかもしれない。しかし、呂布は堂々とした態度で、その企みを阻止した。
「何を企んでおる?」
呂布の鋭い眼光は、張楊の魂を震わせた。呂布の圧倒的な存在感に、張楊は決行をためらった。呂布は、張楊の企みを察知していたのかもしれない。あるいは、単なる偶然だったのかもしれない。いずれにせよ、呂布は、張楊の庇護の下で、再び生き延びたのだ。しかし、その平穏も長くは続かなかった。呂布の不安定な立場は、常に危機を孕んでいた。彼の運命は、依然として、風前の灯火だった。
呂布は再び流浪に出て張邈を頼った。少なくとも自分を売る事は無いだろうと…張邈と袁紹の確執は深く、かつて激しい口論に発展したことがあった。袁紹は怒りに燃え、張邈の暗殺を曹操に依頼した。
「曹操よ、張邈を殺せ!」
袁紹の命令は、冷酷で容赦なかった。しかし、曹操は袁紹の命令に反論した。
「袁紹殿!張邈は、殺すべき男ではありません!」
曹操は、張邈の才能と人徳を評価していたのだ。この出来事により、張邈は曹操に深い恩義を感じ、二人は親友となった。
しかし、呂布の件で、張邈は袁紹から恨みを買っていた。呂布を匿うなど、袁紹にとって許しがたい行為だった。袁紹は、張邈への報復を企んでいた。
「張邈め…あの男を、必ずや滅ぼしてやる!」
袁紹の怒りは、収まることを知らなかった。張邈は、袁紹の報復を恐れるようになった。いつ、袁紹の命で曹操に攻撃されるか、分からなかったのだ。
曹操が徐州の陶謙を討つため、兗州を留守にした隙を突いた。曹操に反感を抱いていた張超と陳宮は、この好機を逃すまいと考えた。
「今こそ、反旗を翻す時だ!」
二人は、呂布との連携を提案した。
「呂布公!兗州を共に支配しましょう!」
張超と陳宮は、張邈に呂布との共存を強く勧めた。張邈は、袁紹からの報復を回避するため、そして新たな勢力圏を築くため、この提案を受け入れることにした。
呂布は、兗州に迎え入れられ、兗州牧となった。
「いよいよ、私の時代だ!」
呂布は、野心を燃やした。 張邈、張超、陳宮、そして呂布。 彼らは、曹操への反旗を翻した。曹操への反乱は、大きな波紋を呼び起こすことになった。
陳宮、陳公台、元は曹操に従い、兗州にて従事していた。演義では曹操が呂伯奢一家を勘違いで殺した事により仲違いした事になっているが、史実では曹操が辺譲を殺した事により、離反したと言うのが正解である。(諸説有り)
辺譲は当時有名な儒学者であり、盧植、鄭玄、蔡邕らと方を並べる程の人物であったが後に曹操が兗州一帯を支配する事になるが、辺譲は自分の才気を恃んで曹操に屈せず、軽侮する言葉が多かった。建安年間、同郷人が辺譲のそのような態度を曹操に告発したため、曹操は郡に告げてこれを殺させた。
高順は八万万の兵を更に膨れさせて、洛陽を通過し、呂布に黙ってそのまま曹操軍の後衛を襲いかかった。
孟徳め…!このまま徐州を攻めて軍民引っ括めての五十万人を虐殺する気か?んな事はさせねぇよ!後で兗州返してやるから今回は俺に譲れ!
高順はそんな思いで、曹操軍に当たり、曹操軍を困窮させた。
「主公…!大変だ!後ろから得体の知れない兵が此方を襲っているそうだぞッ!」
「何ィ!?誰の差し金だ!この天下で俺を相手に戦えるのは河北の袁紹だけだぞ!」
「報告いたします!」
「何じゃ!」
「兗州が…!兗州が呂布の手に渡りました!」
「なぁにぃ!?…!フハハハハ!その呂布は偽物だ。安心しろ!」
後衛は既に典韋、許褚に行かせたが衆寡敵せず。討ち返され、曹操はいよいよ撤退を決めた。
「皆!退くぞ!」
曹操が撤退したのを見て、流石だと思った高順は不敵に笑いながら兗州に入り、呂布に挨拶した。
「将軍、遅ればせながら兗州攻略の儀、おめでとうございます!」
「うむ、貴様も八万の兵を掻き集めたと言うでは無いか」
「はっ、将軍、兵無くば我らは何処からも軽視されます…」
「良かろう!これより濮陽に攻め入るぞ!」
「おおぅ!」
曹操は既に濮陽城に入っており、束の間の急速に入ったが、呂布軍の迅速な行動により、濮陽城周辺は潰された。
曹操が城門の上で茶を嗜み、城下の田植えを観察していると、遠くから軍勢が現れた。近づくにつれ『呂』の字が見えた。呂布が現れたのだった。
何ィ!?今…だと?ふん、あの男にこの様な智略なぞは無い…むしろ…ふふふ、公台か…。
「孟徳…、どうする?」
「元譲…、聞くなそのまま放っておけ、暫くすれば何処ぞへと行くであろう」
「何!?」
「致し方あるまい…これは『空城の計』と言ってな、今のように敵を欺くのが目的だ」
「しかし、攻められたら一溜りもないぞ?」
「ふん、攻められれば、な。よもや忘れた訳ではあるまい?この曹操、生来より疑い深い性格じゃとな。竹馬の友のお主より、敵の陳公台の方が遥かに知っておるよ!はははは!」
「ハァ…!わかった。文若先生と相談して攻められた時の退路を確保しておくぞ?」
「うむ、頼んだぞ!」
曹操はその場から動かなかった。常に呂布軍の行動を注視していたからである。
呂布は現れたが、撤収しようとした。其れを高順が止めた。
「将軍…!今が攻め時ですぞ?」
「孝父、そうは言うがな…」
「将軍、あれは慌てただけですぞ!計略であればむしろあの様に民を外には出しますまい?」
「何?そうなのか?公台先生?」
「高将軍のお話にも一理有るのですが…」
テメェコノヤロウ…!王佐の才有れども、其の性は優柔不断也ってのはあながち間違いじゃねぇな!二度目の人生であの野郎と親友だった俺が言ってんだ!間違いない!
「将軍、では、こうしましょう、私が麾下八万を率いて城内に斬り込みます。不利であれば救援を、城を取れればそのまま入城して頂く…どうでしょう?」
呂布は陳宮を見て、陳宮が頷くと呂布も号令を出した。
「良かろう!孝父、城を取ってみよ!」
「はっ!」
「張五!皆を呼べ!」
「へい!」
呉資、章誑、汎嶷、張弘、高雅、趙庶らを呼び出した。
「うむ、呉資、章誑、汎嶷は先陣を切れ、後は俺に続け!」
「はっ!」
「行くぞッ!」
「ぉぉおお〜!」
三人は四万を率いて城の中に突撃した。
高順は、突撃したのを見て、城門の封鎖に急いだ。
二万の兵を五千に分けて自身と張弘、趙庶、高雅にも五千を率いさせて、四つの門を封鎖した。
呂布軍の猛攻は、濮陽城を包囲した。 城内は混乱に陥り、曹操は窮地に立たされた。しかし、曹操は諦めなかった。彼は、かねてから用意していた脱出路を使い、城外へと脱出した。それは、多くの兵士が気づかない、隠された抜け道だった。暗闇を縫うように、曹操は范城へと逃亡した。
范城は、堅固な城壁に守られた要塞だった。曹操は、そこで息を吹き返し、反撃の機会を伺った。濮陽での敗北は、曹操にとって大きな打撃だったが、同時に、彼の内に秘めたる闘志を燃え上がらせた。彼は、この敗北を糧に、更なる力を蓄えようとしていた。呂布の勝利は、あくまでも一時的なものだった。真の戦いは、これから始まるのだ。曹操の目は、既に次の戦場を見据えていた。
夜も更け、曹操は案じ、自らの陣営に集まった幕僚たちを見渡した。
「呂布…あ奴は、戦闘力以外、凡庸な男だ。しかし、なぜ…なぜあそこまで、我が軍と渡り合えるのか?」
曹操の言葉には、苛立ちと、不可解な疑問が混ざっていた。その言葉に、荀彧、荀攸、郭嘉、程昱は静かに頷いた。
荀彧は言った。
「主公、呂布の軍は確かに強兵を擁しますが、その戦術、兵站、統率…それらは、呂布自身の手腕によるものではないように思われます」
荀攸はそれを受けて
「その通りです。呂布の周囲には、常に優れた策士や武将がおりますが、彼ら自身は、呂布に忠誠を誓っているとは限りません。しかし、今のところ、その能力を最大限に発揮できる環境にあります」
郭嘉は、鋭い視線で曹操を見据えた。
「呂布自身は、いわば、器です。優れた武将、そして、高順という…極めて優秀な軍師のような存在が、その器を満たし、動かしているのです」
程昱は、静かに言葉を続けた。
「奉孝の言われる通り、高順こそが、呂布軍の真の支柱ではないかと存じます。呂布は、高順の能力を最大限に活かすことで、我々を苦しめているのです。呂布を破るには、高順を攻略することが不可欠でしょう」
曹操は、静かに彼らの言葉を聞き終え、深く頷いた。
「…高順か。なるほど…確かに、あ奴の軍の規律、陣形、そして作戦の精緻さは、尋常ではない。呂布を倒すには、高順を攻略せねばならぬ。皆、その準備をせよ」
曹操の目には、新たな戦略が浮かび上がっていた。 呂布という器ではなく、その器を操る高順こそが、真の敵なのだ。
鉅野の戦場、血染めの風が吹き荒れる中、呂布は一人、馬上で絶望を感じていた。
「くそッ…!まさか、あの曹操に敗れるとは…」
彼の周囲には、僅かに残った兵士たちの無残な姿があった。一万余の兵、今は散り散りとなり、わずかに生き残った者たちは、恐怖に慄いている。袁紹からの援軍、そして兗州連合軍の連携。その予想外の力の前に、呂布の軍は脆くも崩れ去ったのだ。
夜陰に乗じて、呂布は逃亡する。
「張遼!高順!…皆、生き延びろ…」
絞り出すように呟いたその言葉は、もはや命令ではなく、悲痛な叫びだった。雍丘では、一族と共に防戦を続ける張超と、袁術への援軍を求めて寿春へ向かう張邈と、言葉を交わす間もなく、別れるしかなかった。
「……頼む、生き延びてくれ…」
呂布は、ただそれだけを祈るように言った。
濮陽で留守にしていた高順は早速呂布の家族らを連れ出し、撤退していた。高順は流れとして呂布が劉備を頼ると確信していた。負けを見越して、徐州に入った。
流れっちゃ流れだよな?それにしても…この一年で大分減ったなおい…八万居たのが五万になったよ…クソッ!
徐州、劉備の元にたどり着いた呂布は、かつての覇者の面影は影を潜めていた。劉備は、複雑な表情で呂布を迎えた。
「…呂布よ。ここまで落ちぶれるとはな…」
呂布は、劉備の言葉に反論することもなく、ただ深く頭を下げた。曹操最大の危機は過ぎ去った。しかし、それは新たな戦いの始まりを告げる、静かな序章だったのだ。
「…この屈辱、必ず晴らす…」
呂布は心に誓った。だが、その道は、険しく、長く、そして、不確かなものだった。
呂布め…!この腐れ脳みそがァ!断言してやる!テメェの三大欲求は裏切る、戦う、女ぐらいだろう!千年ぐらいしたらてめぇより賢くて強くてお前よりも深刻で更に過激な事をやる草原の覇者が出てくるからな!
ハァ…!あの振る舞いは無い、しかし劉備もよく我慢できるな?アレか?ヤクザ者としての能力か?
徐州、劉備の館。呂布は、妻の寝台に劉備を座らせ、まるで兄弟のような振る舞いをしてみせた。
「兄上…いや、賢弟よ!酒を酌み交わそうぞ!」
しかし、その言葉の裏に潜む打算を見抜いた劉備は、内心、強い不快感を抱いていた。呂布の言葉には、一貫性がない。信頼できる人物とは思えなかったのだ。
その機会を逃さず、劉備が袁術との戦いに赴くと、呂布は瞬く間に下邳を奪取した。行き場を失った劉備は、呂布に降伏せざるを得なかった。呂布は、劉備を豫州刺史に据え、自身は徐州刺史を名乗った。歴史書には、異なる記述もあるが、呂布の野心は、既に露呈していた。
劉備と袁術の敵対に関してはこのような経緯が有った。徐州の陶謙は、かつて袁術と手を組んでいた。しかし、袁術が曹操に大敗を喫すると、陶謙は徐々に自立の道を歩み始めた。豫州刺史に劉備を送り込むなど、袁術との距離を置く姿勢を見せたのだ。しかし、袁術は陶謙の盟友である陳珪の家族を人質にとり、無理やり味方にしようと画策した。しかし、陳珪はこれを拒絶した。
陶謙の死後、陳登と孔融は、後任の刺史として劉備を推挙した。劉備は、復活しつつある袁術の勢力を警戒し、徐州刺史の座は袁術に譲るべきかと悩んだ。しかし、結局は徐州刺史の地位を受け入れ、袁紹と手を結び、袁術と敵対する道を選んだ。複雑な情勢の中、劉備は自身の生き残りと、徐州の安定という困難な舵取りを迫られていた。
徐州強奪の経緯としては、激戦が続く徐州。劉備は袁術と睨み合う中、本拠地・下邳には張飛が留守を任されていた。しかし、そこに暗雲が立ち込めていた。下邳相・曹豹との確執である。お互いの不信感は、日に日に増していった。一月にも及ぶ膠着状態、その隙をついて呂布が動き出した。それは、まさに嵐のような攻撃だった。
曹豹は、裏切りを企て、呂布に呼応した。張飛は、予想だにしない裏切りに苦戦を強いられ、遂に敗北を喫した。下邳は陥落し、劉備の妻子は呂布の捕虜となった。劉備の苦境は、深まった。袁術との戦いはもちろんのこと、背後からの裏切りという新たな敵の出現は、劉備にとって大きな痛手だった。その影には、常に呂布の狡猾な策略が潜んでいたのだ。
郝萌の反乱の噂が流れ、陳宮らによる呂布転覆の企ては、間一髪で失敗に終わった。袁術は、呂布を警戒し、娘との婚約を申し込んだ。それは、呂布を繋ぎ止めるための、策略だった。
夜襲! 暗闇を切り裂く叫び声。それは、叛乱の狼煙だった。 郝萌、呂布への反旗を翻したのだ! 不意を突かれた呂布は、襲撃者の正体も分からぬまま、高順の兵営へと逃げ込んだ。
「河内訛り…だったか」
呂布の言葉に、高順は鋭い視線を走らせた。それは、一つの答えだった。郝萌、あの河内出身の猛将以外には考えられない。
高順は、即座に兵を動員した。
「弓!放て!」
一斉射撃! 矢の雨が、郝萌の兵を襲う。乱れ飛ぶ矢、悲鳴、そして混乱。郝萌の軍勢は、たちまち潰走した。
逃げる郝萌。 その腕は、部下の曹性によって切り落とされた。
「なぜ…裏切った…」
郝萌の絶望的な叫びは、夜空に消えた。追撃してきた高順は、容赦なく郝萌の首を刎ねた。
「…これで、一件落着」
高順の冷酷な言葉が、静寂を切った。
悪いな…!前世じゃこうなるってわかってて助けたんだがなぁ頼りにしてたけどよ…成仏してくれや…、そうじゃなきゃ俺が死ぬからな!
呂布はそんな事を歯牙にもかけないのは知っていた。
「ふん!馬鹿め…!」
ハァ…!しょうがねぇ、これで良将が減ったな…、魏続、侯成、宋憲の三人に減ったが…戦える駒が少な過ぎる。
「臧覇…よくも蕭建を!」
呂布の怒号が、広間を震わせる。 拳を握りしめ、円卓を叩きつける音は、彼の怒りの大きさを物語っていた。既に蕭建を味方につけた呂布にとって、臧覇の行動は許しがたい裏切りだったのだ。
高順は冷静に、しかし力強く呂布に訴えた。
「将軍!今こそ董卓討伐の威光を見せつける時です。武力で服従させるよりも、人心掌握こそが勝利への道です。軽率な攻撃は、名声を失い、かえって敵を増やすでしょう!」
呂布は、高順の言葉に一瞬、迷いを浮かべた。しかし、怒りは理性よりも早く彼を支配した。
「そんな甘い言葉で、許せると思うな!臧覇の傲慢を許すわけにはいかない!」
呂布は、高順の進言を無視し、臧覇討伐の命令を下した。
結果は、惨敗。
だぁからァ言わんこっちゃない!俺だって知ってるけれども、此処で呂布がヘイトを稼がないと
「くそっ…!」
呂布は、敗走する兵士たちの姿を見送りながら、悔しさを噛み締めた。高順の言葉が、今更ながら脳裏をよぎる。その後、時を経て…
「和睦…か」
呂布は、臧覇との和睦文書に、ためらいながらも署名した。高順の冷静な判断が、もしあれば…と、少し後悔したのかもしれない。しかし、歴史は、呂布の単純さと、高順の賢明さを、同時に刻み込んだ。
ケッ!野郎…、此方を睨みつけやがって!元はと言えばテメェが仕掛けといて負けたんだろうがよっ!ゴミカス脳筋好色腐れゴキブリがァ!まぁ、いいや。俺には妻が妊娠したという嬉しい報せが届いたのさ!
史実の高順に妻子が居たかは知らんけれどこれで生き延びる口実が出来た。ふん!見てろ!生き延びてやるわい!
袁術の軍勢が再び劉備を攻め立てた。劉備は、呂布に救援を求めた。包囲網を警戒した呂布は、諸将の反対を押し切り、僅か千余りの兵で両軍の間に割って入った。
「俺は争いを好まぬ!…あの戟に矢を射てみせる。命中すれば、双方兵を引くのだ!」
呂布は、見事な射技で戟を射抜き、両軍の衝突を回避した。 それは、呂布の武勇を示す、華麗なパフォーマンスであった。しかし、その裏には、常に計算と打算が隠されていたのだ。
高順は直ぐさま、配下の諸将に戦の準備をさせた。
野郎、劉備…曹操と連戦だからなぁ…!備えあって憂い無しだろ!