第六十一回 転生之謎終掲暁 七星君考量凡人
縛られた于吉は怯えながら、高順と対面していた。
「おいそこの縮こまってる馬鹿よ、何ぞ言ったらどうだ?」
「…!」
「言えよ!」
「あ、あなたはもう死んでいるのでは?」
「貴様ァ!」「不敬なるぞ!」「我らが遼王陛下に…!」
「チッ…!」
高順は舌打ちして手を左右に振り、皆を下がらせた。二人になったその部屋で高順は于吉の顎を掴みながら尋問を初めた。
「…おい、慎重に答えろよ?」
「ウゥ…ッ!」
高順は顎から手を離し、ゆっくりと話し始めた。
「さて、お前は転生者か?」
「はい…」
「そうか…、ならばお前は何をした?」
「わ、私は…転生して気付いたら孫策に捕らえられてました…」
「そうか、許しを乞い史書に書いてある事を喋り、周瑜と立場を入れ替えたのだな?」
「ふむ…」
「そうです…」
「そうか、歴史がこうも変わる事を予見していたか?」
「いえ…、まさか死んだはずの人間が躍進を遂げるとは思えませんでしたから」
「そうだな…俺もこうなる気は無かった。二度目の人生だ、出来れば平穏に暮らしたかったさ!」
「それが、出来なかった?」
「そうだ。それで、お前は何を知っている?」
「わ、私は…北斗七星の貪狼星君、巨門星君,祿存星君、文曲星君、廉貞星君、祿存星君、破軍星君に選ばれたとしか…」
高順は驚いた。自身が転生した時にはそんな事は無かった。ましてや、選ばれたという事を知った高順は益々神への憎悪を深く心の内に刻んだ。
「羨ましい事だな!俺はそんなこと無かったぞ!」
于吉は咄嗟の行動で神通力を用いて縄を解いた。高順はまたしても驚かされた。
マジでかッ!まぁ、神仙や転生すら有りなんだからなァ…!いいなぁ〜!羨ましいなぁ!俺もそんな能力が欲しかったぜ!
「あ、あのぉ…」
「近寄るなッ!」
高順の配下が入ってきた。
「陛下!」
「なんでも無い!外に出ておれ!」
「「はっ!」」
そして、高順は意味のわからない悟りを開いた。
現世は修行だわな!もう一遍死んだら、神様と喧嘩したるわい!クソが!変な目に合わせやがって!…、今は俗世の争乱を終わらせるないとな!
孫策は帰り道に父親から説教をされ、江東の呉侯の大権は孫文台に帰った。
「…」
「伯符、どうした?子供でもあるまいに…」
「…」
「伯父、少し宜しいか?」
「何じゃ、公瑾?」
「伯符は拗ねて居られるのですよ…」
「かァ〜!情けない!その程度で…!」
「その程度だァ!クソジジイこらぁ!親父の為にお袋がどんだけ泣いたよ?仲謀らも幼いながら頑張ってんだ!俺がどんな思いでこの家を盛り立てて来たのかも知らねぇでよォ!」
「そうか…、成長したな…」
そう言うと孫堅は孫策の頭を軽く撫で、孫策は漸く溜飲を下げて建業へ向かった。着いた途端に、孫堅は思いっきりビンタされた。程普以下、古参の将軍らはこの風景を何処かしら楽しみつつも孫夫人を畏れていた。
「夫君?」
「うむ…、今帰って来た!」
「そうですか…」
バチン!と針が落ちても聞こえる雰囲気の中で孫堅はビンタをくらいそれでも微笑んで妻に許しを乞うた。
「済まなかった。許してくれ」
「いいえ、許しません」
「そうか、ならこの続きは酒宴の後でも良いか?」
「そうですねぇ…、酒宴、よろしい。ですが、夫君の酒は禁じます」
「お、おぅ」
「「はっはっはっはっ!」」
こうして、一家団欒して江東を更に発展させる孫家であった。
高順は于吉から話を聞いて、自ら送り返しに城門まで来た。
「よォ!良いか?」
「止まれ!近寄るな!」
「うむ、失礼した。呉侯に伝言を頼みたいのだが…」
「何者だ」
「遼王高順と申す。呉侯でなければ祖将軍に…」
「では、待たれよ」
暫くすると祖茂でも無く、孫堅でも無い若者が城門の逆側から出て来た。
「この野郎〜!死にさらせェ!」
「おい、于吉、アレはなんだ?」
「あの人は…大旦那様の三男の孫翊です…」
「何で俺を!?」
高順はその刹那に高順は槍を振りどうにかやり過ごしたが、于吉を携えながら戦うのは些か苦しいが、若い孫翊はそんな事をお構い無しに仕方なく相手したが、勝敗は明らかであった。
「んで?」
「先生を離せ!」
「いや…、お前が襲わなければ離してたよ?」
「え?」
「うん」
「て事は…俺が間違ってた、のか?」
「そういう事になるなァ?」
「だーッ!なら先生を離せ!堂々と相手しやがれ!」
高順も観念し、于吉を離し、しっかり構えた。
「小僧、相手してやるよ!」
「うおおおおぉぉぉぉらああああああ!」
結果は孫翊の力よりも高順の技巧が勝った。
「小僧、名を何と?」
「孫翊だ!」
「そうか、お前が虎の三男坊か…」
「…!オヤジを知ってんのか!」
「友だからな!」
「え?ホント…?」
「ん?何ぞ不味かったのか?」
「い、いやぁ…はは…」
「そんじゃ、叔弻よ、案内してくれるか?」
「おぅ!」
孫翊ねぇ…!孫家四兄弟で長兄に次いでの武闘派で、父や兄と同様に短命ってのが印象に残ってる人物だな…。尤も今は一軍を任せられる様に成長はしたようだ。
酒宴の真っ最中である。
「…!親父ぃ!」
「おっ!叔弻!大きくなったでは無いか!」
「あたぼうよ!何時までもガキじゃ居られねぇんだよ!大きい兄貴は忙しいし、兄貴は文学しか出来ねぇし…」
「ふふふ、良かろう!後で腕を試してやる!」
「ホントか!?絶対だぞ!」
「わかった、わかった!」
「兄貴!聞いたか?」
「わかっておるよ。早く席に着け」
「あっ…!そうだ!遼王を連れて来たんだった!」
これを聞いて賑わう酒宴も瞬く間に白けた。
「…、何故早く言わぬ?」
「しょうがねぇだろ?今思い出したんだから!」
「ふむ。伯符、皆!呼んでもよろしいか?」
「ん?親父が良いってんなら俺は文句無いぜ?」
「そうか、なら呼び入れてくれ」
高順が入ってきた。
「文台兄!再び同じ日を見るとは何とも…!」
「ケッ…!わざとらしい演技はやめろや!」
「おいおい…、義姉上が困るでは無いか!」
これを聞いた孫夫人は怒りもせずニコニコしていた。
「あなた?何時まで遼王陛下を立たせているの?」
「むっ!これは礼を欠いたのぅ!」
高順も座り、友と友の部下に囲まれた酒宴となった。
「すまぬ…酒は飲めぬから」
「そうか、そうであったな!」
これに諸将が納得しなかった。
「其れは…如何なものかな?」
「済まぬな。生来、酒が飲めぬ身体でな…。酒を飲むと赤い発疹が出来上がり数日はのたうち回る事になるが宜しいかね?」
「…、失礼しました」
「なぁに、知らぬ者に罪は無いと言うでは無いか!」
ささやかな酒宴は終わり、高順は客室へと案内されて眠りについた。だが、孫堅は妻に絞られて一睡も出来なかったと言う。
その頃、天上に数多の輝きを照らす星々の中で人の生死命運を司る北斗七星が以上に輝いていた。北斗陽明貪狼星君、北斗陰精巨門星君、北斗真人祿存星君、北斗玄冥文曲星君、北斗丹元廉貞星君、北斗北極武曲星君、北斗天關破軍星君が一同に会いし、高順の処遇に着いて決めていた。北斗の神々は高順についての重要な会議を開いていた。彼らは高順を新たな神とするか、あるいは彼の力を抑え込むべきかで激しい議論を交わしていた。
北斗陽明貪狼星君が最初に口を開いた。彼の声には期待と興奮が混じっていた。
「彼の知識と能力は、我々の理解を超えている。彼を新たな神として迎え入れることができれば、我々の未来は明るいものになるだろう」
北斗陰精巨門星君は眉をひそめて言った。
「彼の異常なまでの意志の強さと、神々に対する憎悪が、彼を我々の仲間にすることを難しくしている。彼が新たな神となれば、我々の意図に反する行動をする危険がある」
北斗玄冥文曲星君が冷静な口調で続けた。
「彼を神として迎えることができれば、我々は彼の知識を利用できる。しかし、彼が歴史を自由に操る者とならば、我々の存在そのものが脅かされるかもしれない」と
会議の中で、北斗真人祿存星君が口を開いた。
「我々は高順を単なる駒とするのではなく、彼自身の意志を尊重する必要がある。彼には彼の目指す未来があり、その姿勢を受け入れなければ、彼を仲間にすることはできないだろう」
その言葉に、議論は一層白熱した。彼らは高順が抱く憎悪や自由への欲望にこだわり、どのように接するべきかを真剣に考え始めていた。
北斗丹元廉貞星君は慎重に答えた。
「高順の力を手に入れたい気持ちはわかるが、そのために彼を支配しようとしても無理だ。彼は反抗的であり、我々の期待に応えることを拒むかもしれない」
北斗天關破軍星君は難しい表情を浮かべながら言った。
「では、我々が彼と対話して、彼がどのような存在になりたいのか話し合うべきではないか。彼が我々の仲間となることができれば、新たな神位が増えるでは無いか」
その提案に、他の神々も賛同し始めた。
北斗陽明貪狼星君が提案した。
「彼らが何を思い、どう生きたいのかを聞いてみるべきだ」
議論の結論として、北斗の神々は高順に会い、彼の意思を直接確認することを決定した。この新たな神が、彼らの仲間として迎え入れるにふさわしいかどうかを見極めるためだ。会議の中で、高順が抱く神々への憎悪や自由への欲望が、神々に新たな選択をさせる要因となるとは、まだ誰も想像していなかった。高順と竇輔の対立が続く中で、神々は彼を取り込み、共に新たな未来を切り開こうとしていたが、高順にはそれを受け入れる準備ができていた。
数日後、高順は北斗の神々と対面するために指定された場所へ向かった。彼の心には期待と緊張が入り混じっていた。果たして神々は彼をどのように見るのか?新たな神としての運命を見出す機会か、それとも恐れられる存在として排除される運命か。
高順は、自らの選択がこの瞬間にかっていると感じながら、その場に足を踏み入れる。神々との出会いが、彼の運命を決定づける重要な出来事になることを直感しながら、彼は神々との対話に臨んだ。彼の思想と信念が、神々の意志とどのように交わるのか、それは運命の扉を開く鍵となるだろう。
高順は神々との会談の場に足を踏み入れた。そこは静寂に包まれた神域で、神々の存在感が圧倒的であった。周囲には神々の象徴である北斗七星が輝き、彼ら自身が天から降り立ったかのように感じられた。
「よく来た」
北斗陽明貪狼星君が高順を出迎えた。その姿は威厳に満ち、存在感があったと高順は感じた。
「我々はお前を待っていた。お前の力、そして知識が我々の運命に深く関わっているからだ」
言ったのは北斗玄冥文曲星君だった。彼の声音は冷静だが、その奥には高順に対する真摯な目線があった。
高順は一瞬、ためらった。神々に直面する瞬間、彼の心に広がるのは恐れでもなく、畏敬でもなく、一筋の憎悪とも言える感情だった。しかし、彼はそれを堪え、毅然とした態度で答えることにした。
「話が有るのならば手短にしてもらおうか。アンタらにゃ振り回されっぱなしなんだからよ」
「我々はお前に、今後の道を選んでほしいと思っている。お前には歴史を変える力がある。その力を我々と共に如何に活かすのか、あるいはお前自身の運命をどう生きるのか、選ぶことができるのだ」
高順は神々の言葉を受け止め、それを慎重に吟味した。自らが転生者として与えられた力を神々に奉仕するために使うことが、果たして彼の目指す未来に繋がるのか。彼は頭の中で計算を重ねながら、自らの意志をはっきりさせる必要があった。
「アンタらの力には恐れ入ったけどよ、さすが神様だわな!けど、てめぇら神様ってのぁ…人を玩具見てぇに弄ぶって事かい?用がありゃ、出向いて親切を振りまくけど…適当に人を扱い過ぎ何じゃないのかい!?」
「では、我々はお前を敵とみなすべきか?それとも、お前と共に歩む道を模索すべきか?」
「そう受け取るってんなら、そうしてやっても良いぜ?どうすんだよ?こっちはまだ何も決めちゃ居ねぇよ」
「我々はお前の強い意志を認識した。だが、忘れてはならないのは、お前が我々の助けを借りることで、さらに強くなることができるということだ」
「恩恵を受ければ、それは必ず代償を伴う。我々との関係は、友好だけでなく、時に助け合いの連帯として存在することを理解してほしい。」
高順は一瞬の沈黙を経て、ゆっくりと頷いた。彼の心は躊躇っていたが、神々と対話することで、彼自身が何を選べるのかを考え始めた。
「まぁ…やられちまったもんはどうしようもねぇけどよ…まだ、何も考えついちゃいねぇんだわ。ちっとばかし考えさせてくれねぇか?」
「我々と共に新たな神の道を創り、お前自身の運命を拓くのだ。そのため、試練も伴うだろうが、共に立ち向かえば、より強固な未来が築けるだろうと我々は信じている」
高順は静かにその言葉を受け止めた。彼が選ぶ道の先に何が待っているのか、希望と恐れが入り交じった感情が彼の胸を満たしていく。これからの運命がどのように形成され、彼が本当に自由を手に入れることができるのか。
「考えさせてもらう代わりっちゃ何だがよ…、これからの戦いだのなんだのは…まだ人の手に委ねてくんねぇか?アンタらが入ってくると色々とややこしいからよ」
「わかった。そうしよう」
神々が互いに一瞥を交わし、高順の返答を受け入れた。やがて彼らは高順に、神々の力を試す機会も与えてくれることに合意した。
その瞬間、高順は画未来への新たな扉が目の前に開かれたことを感じ、自らの運命を切り開くための試練が待っていることを理解した。彼の物語は、神々との関りを経て、新たな運命への道を進み始めるのだった。
だが、此処で思わぬ副作用が高順を待っていた。竇輔と同じ空間に居るが互いの存在を認識してもふれたり高順と竇輔は、共に転生者でありながら、根本的に異なる考え方を持っていた。高順は自身の道を切り拓くために、土地を開拓し、独立した一国の王としての地位を築いていた。しかし、竇輔は信念や理想を持ちつも、実行には移さず、ジョン・タイターの予言を信じて朝鮮帝国を築こうと画策する狡猾な人物だった。彼の動機は表向きの理想と裏でうごめく陰謀が交錯しており、高順にとっては受け入れ難い存在だった。
竇輔は無邪気な笑みを浮かべながら、余裕のある態度で高順を待っていた。
「高順、アンタが独立した王になったことは聞いているよ。だが、そんな小さな王国にこだわる意味があるのかい?」
竇輔は高順を挑発するように言ったが、高順はその言葉を一掃する。
「小さい国だァ?俺ァこれで満足してるよ!俺は俺の安穏を保てれば他は何も要らん!お前みたいにせせこましい考えで、狭い視野で物事を見る馬鹿では無いのでな」
竇輔は首を振り、仮面のような微笑みを崩さなかった。
「それが君の限界か?共に選ばれた者なのに、なぜ地に足をつける?私はこの歴史を変えるために、帝国を築こうとしている。ジョン・タイターの予言をもとに、偉大な未来を築くのだ!」
高順は毅然とした口調を崩さなかった。竇輔の野望には、どこか不気味さを感じ取っていた。
「誰もお前みたいに変な使命感持っちゃいねぇよ。」
竇輔の目には鋭く禍々しい凶光が宿っていた。
「ほう、真面目だな。アンタのように、自分一人で王になった者には分からないだろうが、力を示さなければ、世界は動かない。私のような者が、歴史を操作することで、人々を導く。理想の帝国を築くには、それが必要だ」
その言葉に、高順は冷笑を浮かべた。
「見え透いた事を…、どうせ使うだけ使って最後は切り捨てだろ?お前がそんな事を考えてんなら好きにしな!タダ、俺に迷惑を掛けたら容赦しないからな?」
竇輔は一瞬、目を細めた。
「相変わらず面白い言葉を使うな。しかし、時が経てば分かる。幕が上がったとき、どちらが真に強いかがな!」
高順は竇輔の言葉を受け流した。
「俺は俺の安穏以外興味が無い。そういう事を求めてんなら曹操や劉備を相手にしろよ。俺も状況を応用しただけであり、お互い転生者で、お前は朝鮮帝国、俺は自身の安寧。互いに相容れない道を進むとするなら、お互いに干渉しないほうが良いと思うんだけど?」
二人の間に緊張が走った。竇輔は口元に笑みを浮かべたが、その目には狡猾な光が宿っていた。高順は深く息を吸い、元の場所に戻された。
高順は自らの王国をさらに発展させるため、業務に取り組んでいた。新たな土地の開発や人々の生活向上に目を向け、彼自身が作り出した王国を永続させる手段を探っていた。だが、竇輔の存在がうっすらと影を落としていた。高順は胸の中で不安を抱えた。
「彼は私を暗闇の中に引きずり込もうとしているのだろうか」
一方、竇輔は、高順を取り巻く不安を逆手に取る計画を静かに進めていた。彼が抱く朝鮮帝国の理想を実現するためには、陰に陽に彼らを操る必要があると感じていた。それこそがこの世界で歴史を変えるカギであると確信していたのだ。
高順と竇輔の対立は、やがて周囲の人々や神々を巻き込み、不可避な運命の波を引き寄せることとなる。運命を切り拓くため、神々と背負った運命に抗う者として、高順は静かに準備を進めていくのだった。