敗将伝 飛将縦横漢天地 勝似覇王在陽間
今回は呂布の視点です。時系列も本篇と重なり合うので、混乱しない様に宜しくお願い致します。
徐州の下邳にて劉備、曹操の連合軍に敗れた呂布は白門楼にて捕えられた。
「奉先兄、何か言い残す事は?」
「縄がキツ過ぎる、少し緩めてくれ」
「いや、それは無理な願いだ。呂布よ、貴様は一頭の猛虎だ、俺も馬鹿では無いのでな、虎を縛るにはキツくせねば此方が食われる」
「ふふふ、ははは!ハァーッハッハッハッハッ!孟徳…いや、曹公!俺を配下にしてくれ!なんなら父として敬っても良い!さすれば公が歩卒を率い、この俺が騎兵を持って河北を席巻すれば天下など容易く手に入れられる!さぁ!」
これを聞いた人材コレクターでもある曹操は少しばかりの躊躇いを見せた。
「うーむ…、悪くない、な。…玄徳、お主はどう思う?」
「はっ、この者の言う通りにはなりましょうが…、曹公はよもや、丁刺史、董卓の事をお忘れか?」
ハッ!と我に返った曹操は少しばかりの自嘲の笑いを含めて劉備に返事を出した。
「ははは…、玄徳、よくぞ気づかせてくれた!儂も危うく董卓の二の舞になるところであったわ!呂布よ、お主に騙されるようであっては儂もつくづく至らぬのぉ!ハァーッハッハッハッハッ!」
「ふん!あの大耳野郎の方がよっぽど信用出来ぬぞ!」
戦後処理等も含めて、処刑は数日待つ事になった。この時、曹操は兗州より急報が齎された。
「報告致します!并州の高順、兵を率いて陳留に進軍しております!」
「何ィ!?あの者とは恨み辛みなど無いはず…!何故我らを攻めるか!」
これには配下の荀彧、荀攸、郭嘉らも頭を悩ませたが、それも束の間、郭嘉が口を開いた。
「ふふふ、公、恨み辛みが無いと言うのは流石に無理があるのでは?」
「奉孝、どういう事だ?」
「一時とは言え、呂布は彼の者の主だったのですぞ?『旧主を救い出す大義名分』を与えたのは我らに御座います…、戦か和かどう出るかは存じ上げませぬが、あの高順と言う者は聞く所によると智勇双兼の者だとか…」
「しかし…!兗州を奪われたらどうする!?呂布を相手にするのとは訳が違うぞ!」
「ならば呂布をしばし活かし、高順と一戦交えた後、斬るか活かすかを考えましょう…」
「しかし、向こうの思惑が掴めぬ以上…じっとしてはおれんだろう」
「ふん、一介の凡夫に何の考えがあると言うのだ?」
「然れどもあの高順、只者では御座いますまい?」
「ほぅ?」
「あの、丁建陽の配下より呂布、董卓と渡り歩き、暗に勢力を蓄え、ひいては朝廷より武衛、鎮北将軍に任じられ開府儀同三司にまで任じられた者よ」
「人手不足であった…!」
「然に非ず!あの者の才覚よ!黒山、白波両賊を結合し百万の兵を収めたというでは無いか!」
三人の会話を聞いた曹操は結論を焦らせた。
「ふむ…、如何致す?」
三人は、顔を合わせて一つの答えを出し、荀攸が代表して曹操に伝えた。
「ここは、戦った後に和睦と言うのは…?」
「悪くないな…、ならば、全軍に伝えよ!陳留に戻るぞ!」
「「はっ!」」
陳留の一戦を経て、呂布は自由を手に入れた。もちろん、匈奴の紛争を終わらせると言う条件付きで。
そして、時は経ち、呂布の過去の栄光と挫折は未だに消え去る事は無かった。曹操の勝利は呂布の権力を奪っただけでなく、其の自尊心を深く傷つけた。今、呂布はすべてを自分のものに取り戻すことを誓い、姿を隠した。
「ふん、孝父よ、感謝するぞ!だが、この俺を捨てた事に後悔する時が来るだろう!」
「将軍、何をその様に呟いておられるのです?」
「公台…!?」
「ハハハハ!将軍、この陳公台、いく処が御座いませぬ!これも曹操に背き、将軍に従った故、どうにかして頂きたい」
「ふん!好きにせよ!」
呂布が独りでこれからを彷徨うとここを決めた時に自身の謀士である陳宮と会った。
「あのぉ…我らもおります…」
「お、お前たち!?」
「父上!」
妻の樊氏と愛娘の呂雯がいた。
その悲劇的な敗北以来、呂布は陳宮と共に草原に隠棲し、兵法の研鑽に集中して力を蓄えた。 呂布は心中の燃えるような怒りを抑えようとしたが、少しでも動揺するとこの怒りに火がつきかねない、そしてその衝動を抑えられず、一晩にして鹿を十数頭を仕留めては眠り着くような生活をしていた。妻や、陳宮達は肉を細切れにした後、天日干しにして匈奴の部落と物々交換をして生活を何とか成り立たせていた。
「この様な絶境に際しても、俺は生まれ変わることができる…いや!変わらねばならんのだ…!この呂布、二度も負けはせぬぞ!」
呂布は心の中で静かに思った。 自身の凄惨な敗北を決して忘れなかったが、それは彼を落胆させるのではなく、むしろ復讐するという決意をより強くさせた。
彼の忍耐力と忍耐力は、同じ考えを持つ人々を惹きつけた。彼らは世界に捨てられた無法者であり、秘密の軍隊を結成し、呂布に忠実に従い、過去の屈辱を復讐する機会を待っていました。
「皆、強くなれ…!強くなり、それから中原に兵を進めるぞ!」
「「おおぅ!」」
兵を養い、北の草原で縦横無尽に暴れ回った。南北の匈奴を統一したその時に全匈奴が敵に回り、北の奥地に追いやられ、何時しか【狼王】と呼ばれるようになった。
「おのれェ…!覚えておけ!」
「王よ、焦ってはなりませぬぞ!もう一度兵を養い、鮮卑、匈奴を滅ぼし、漢に攻め入り、曹操の首を!」
「ふん!わかっておるわ!皆、行くぞ!」
呂布の周りには百も満たない兵と数百の部族民が付いて北を目指した。
だが、匈奴は高順の手引きにより漢に取り込まれ、鮮卑の大半を取られた。呂布はいよいよ高順と言う男が理解出来なくなって行った。
その間呂布は漢に斥候を送り、中原の情報を集める事も怠らなかった。呂布の目と耳は中原のあちこちにあり、遼王の高順が軍を率いて洛陽に向かったという知らせをよく知っていた。 これは間違いなく絶好の機会であり、彼にとって権力の中枢に戻る唯一の道である。
「遼王の高順…」
呂布は冷笑した。
「ふっ、貴様も遂に漢を見放したか…、良かろう!邪魔立てはするなよ?吾の邪魔を、な」
時が経ち数百の部族民を数万にまで増やし、 呂布は遂に其の野心を剥き出しにする事にした。
「公台!時はまだか!」
「公よ、我らの兵は二十万にも満たぬのですぞ!?其れを漢の地に攻め入ると言うのは無謀です!」
呂布は高順が洛陽へ急ぐのをよく知っており、間違いなく最も近い道を選ぶだろう。 この道は深い谷を通るため、待ち伏せに最適な場所である。
「皆、準備せよ」
呂布の声は低く、力強かった。
孝父よ、先ずは挨拶だ。
高順は伏兵に襲われ、急ぎ谷を抜けた。
その日夜がふけると、呂布は軍を率いて両側の山中に潜み、眼下を通過する軍隊を鷲の目のように見つめた。 遼王の先兵が谷に入ったとき、呂布は命令を出し、射手たちは矢の雨を降らせた。
「ぬぉ!?何だこの矢は!」
「陛下…!」
「俺のこたァ気にすんじゃねぇ!全軍一気に駆け抜けろ!後続は谷に立ち入るんじゃねぇ!」
「「はっ!」」
遼王の高順はただ者ではなく、かつての配下であり、同僚であり、一国の王でもある。即座に反応し、軍に陣を組み防御を指示した。 しかし、谷の地形は狭く、地形に精通していた呂布軍の移動は限られていた。
「高順、今日でお前は終わりだ!」
呂布は先頭に立って、方天画戟を手に取り、敵の陣形に直接突撃した。高順は弱る気配を見せずに突進し、空中で武器が衝突し、火花が散った。 二人の猛将の対決は雷鳴の衝突のようで、見ていたすべての兵士に衝撃を与えた。
「…!何故!?」
「ふん!先ずは遼を貰うぞ!」
高順は悟った。
この野郎!史実通りじゃねぇか!こいつ、本当にやりたい放題だな!
「へっ!取れるもんなら取ってみろ!」
だが、此処で一つの疑念が浮かび上がった。呂布の胸中にはそんな大層な謀略は無い、漢を攻めると言ったらそのまま攻めるだろう、だが、呂布は遼を取り、漢を滅ぼすと明言している。明らかに誰かの入れ知恵と高順は明確に疑っている。
高順の軍も激しく抵抗したが、呂布側の周到な計画により徐々に押されていった。 谷の出口は呂布によって封鎖され、遼王の軍隊を中に閉じ込めました。 呂布の顔に冷笑が浮かんだのは、彼が長い借りを返えすその瞬間だった。
呂布は配下に指示を出した。
「退却せよ、敵を疲弊させてから一気に殲滅せよ」
呂布は戦争が長期化すると不利になることを知っていたので、谷から軍を一時的に撤退させて最良の機会を待つことを選択した。
同じ頃、別の呂布軍が静かに洛陽に迫っていた。 彼は高順が陥落さえすれば洛陽がさらに大きな混乱に陥ることを知っており、それを利用する機会を得た。
だが、高順が事前に漢の各地に放っている錦衣衛によってそれは未遂に終わった。曹操らの迅速な対応によって、呂布軍の別働隊は退却を余儀なくされた。
高順は残存兵を率いて谷から脱出し、洛陽へ急行した。 同時に、呂布とその軍隊も洛陽城の外に潜んで、混乱の中で権力を取り戻す瞬間を待っていた。
「可汗、我らは…」
「よい、あの者に相応しい死に場所が有るからな、放っておけ」
洛陽郊外にて呂布と高順と両軍が対峙し、再び戦闘の音が聞こえ始めた。 今度は、呂布はもはや敗者では無く。呂布は敵の血で恥を洗い流し、その鋭い刃で栄光を取り戻そうとしている。
「洛陽城の者らに告ぐ!我、呂奉先…いや、このウォゼンバハルシが貰う!皇帝と名乗る小童よ、今すぐ明け渡せ」
呂布はそう叫ぶと洛陽郊外に陣を張り出した。その名を古列延と言う、高順もただ、負けを認めた訳では無い、それを一番知ってるのはおそらくこの世で二人しか居ないだろう。そう、曹操と呂布のみである。
高順の強みは何か?それはこの時代より千八百年も後に生まれ、あらゆる知識が簡単にこの時代で応用出来るように彼の脳内で設計しているからである。
高順は、戦場で強大な敵に直面するだけでなく、街にも脅威が潜んでいることに気がついた。呂布との直接対決が始まろうとしている。これは単なる権力争いではなく、二人のかつての主従の頂上決戦でもある。
洛陽郊外では火災が猛威を振るい、戦火は拡大していた。 高順と呂布は再会した。彼らの目は火のように熱く、槍と戟がぶつかり合い、周りは緊張に包まれ、両雄相打つ、の様相を呈している。
「公…いや、呂布!お前の野心はやがて自らを蝕むだろう!」
高順が突然長槍を繰り出した。
呂布は大笑いし、方天画戟を掲げ、叫んだ。
「ふふふ、孝父!今からでも遅くないぞ!俺と共に来い、天下を治められるのは我が武勇だけだ!」
「はん!おめぇにゃ無理だ!どうせ他人に任せて、てめぇは淫楽に耽るだけだろうが!」
「そうか…、なら、死ね!」
激戦の中、洛陽城外での戦闘は徐々に沈静化し、すでに勝敗は大きく分かれた。 どちらが勝っても、この戦いで漢の運命は変わる。
呂布が勝てば朝廷が改わり、新たな国、新たな皇帝が天下を変えるだろう。高順が勝てば遼王としての威厳を高め遼は漢と対等な国として誰もが認める事になる。それは、漢の文武百官が最も望まない事でもある。
一部の呂布軍は城内に侵入したが、禁軍がこれを追い払い、錦衣衛も戦闘に参加し、混乱を鎮めた。
呂布は戦局が不利と見るなり直ぐさま河内の沁水に退き、身を休めた。
洛陽の空は徐々に静けさを取り戻したが、地面と遺跡の血痕がこの無慈悲な戦いを物語っていた。
「ふ、あの者一人でここまで天下が乱れる、か!皆、集まれ!」
高順は兵を集め、長男に十万預け、長城の守備に就く様に命じた。自身は残る五万を率いて、荊州に南下した。呂布を相手にするには流石に独力でどうにかなるものでも無い。
沁水の呂布は城壁に立って遠くを眺め、今日再び燃え上がった怒りで過去の憂鬱と悔しさが焼き尽くされたかのようだった。 彼の目には無限の野心と決意が表わしていた。その後徐々に長城の外側まで退いて本拠地に戻った。
「今回の戦はここまでだ。皆、それに合わせて調練を積むぞ!」
「「おぅ!」」
勝敗を見極めるのはまだ難しいが、困難な時代には永遠の勝者はいないことを呂布は心の中で知っていた。 彼は、自分が取るすべての段階に細心の注意を払わなければならない。なぜなら、もし軽視されれば、より悲劇的な失敗が彼を待っていることを知っていたからだ。 しかし、今回の戦いは呂布が誇りに思うのに十分だ。
高順は南下する前に皇帝の元へ、挨拶を交わしに行った。
「陛下、ご無事か?」
「ふむ、此度の件遼王には迷惑をかけたな…」
「陛下、ご安心を…」
「うむ…」
「此度は臣下としてでは無く遼王としてお願いに参上致しました」
「ほぅ?」
国家間同士の取り決めに来たと高順は言いたいのだ。
「はっ、【唇亡びて歯寒し】呂布がいる限り、漢と遼には泰平などと言う言葉は一切存在致しませぬ…、それ故、何卒!同盟を…」
「…、よかろう。その前に曹操、劉備、江東の孫策らを…」
「はっ、もとより其のつもりでございますれば…」
その頃、呂布は方天画戟をしっかりと握り、空中に深く微笑んだ。 世界は変化しており、未来は誰にも予測できないが、呂布は準備ができており、成功または失敗に関係なく全力を尽くす。
呂布の娘について
本作では呂雯とさせてもらいました。他にも呂玲綺等沢山有りますが、本作では此方を使います。
呂布の容姿について
よく、ドラマや映画だと良く若いハンサムな方やイケおじが演じる作品が多いのですが…史実の呂布の容姿は爽やかな好青年では無いと言うのが定説かと…。
正史で呂布の容姿についての記述は無いですが、小説の三国演義なら、書いてありました。ただ、イケメンとは書いてないので、ご注意を
但見那人、一身錦緞連環甲、披著紅錦繡戰袍、頭戴束發紫金冠、手持方天畫戟、坐下嘶風赭紅馬、烈焰飛騰赤兔駒。 身高九尺、面如冠玉、雕身龍眼、器宇軒昂。
(三国演義原文より抜粋)
その人を見たところ、錦の鎖帷子を身に着け、赤い錦の刺繍が入った軍服を着て、紫金の冠を戴き髪を頭上に結び、方天画戟手に持ち、跨る馬は風に向かって嘶く烈焰飛騰赤兔駒(赤兎馬)。身長は九尺で、冠の上にある玉のような顔つき(この場合、見た目はそうなのかもしれないと言うニュアンス(言葉通りだとだいたいイケメンという事になりますが、見た目だけと言うのは史記、陳丞相世家より出典。陳平が陰険だからなのもしれませんね))、龍を彷彿させるかのような目、大鷲の様な体つき、器宇軒昂(ニュアンスとしては堂々としている)
(超訳)
なので、彼はイケメンでは無い、でも北京オペラ等では貂蝉との悲恋が注目されがちなので、どうしても二枚目に設定されてしまう。
実際の張飛の方がイケメンであったり、趙雲も三国志に記述があったり(書く事が無さすぎてなのかもしれないですが…)大筋の事を書いても皆さんありきたりで飽きる頃だと思っておりますので、くだらない小ネタが有れば載せていきます。