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第五十一回 馬孟起走頭無路 夏侯淵座鎮西涼

襄平城で高順は閻行、龐徳の二将と対峙していたが、婿の曹彰が合流してきた。


「義父上!ここで何を?」


「おぉ〜!婿じゃないか!なに、旅をしていてな!」


「旅ならば、また今度に…」


「ふふふ、お前の言いたい事はわかるよ、だが、俺とてそう簡単にやられはせんよ!」


「しかし…!」


「お前は何故、俺だとわかった?」


「城楼に高々と高の旗を…」


「そうか、ならば敵もそう来るであろうな!」


曹彰は驚いた。高順は敵ががこれから攻撃しようとしているのを理解している。


「うむ、お前らは涼州の奥を攻めよ、敦煌までな!それ迄には敵を引き付けてやるよ!兄達によろしくなっ!」


「はっ!義父上もご武運をっ!」


曹彰は戻った。曹昂を中心に一族の将が集まり、西涼の各地を攻めて行った。


龐徳と閻行の二将は馬騰親子に前から付いていけなくなり、そろそろ潮時と心を寒からしめていた時に自立を訴えたので、仕方なく戦争従軍したが、偵察部隊の報告により、長安が落ちたと聞いていた。


「玲明兄、これより何かアテは?」


「ん…、俺にも判らん!たが、拠る城が無ければ我らも馬寿成の二の舞よ…」


「うむ…」


曹彰より以前長安で両軍は膠着していると聞いた高順は、あわよくば龐徳、閻行を配下に収めようと邪心を働かせていた。錦衣衛を呼び寄せて報告を聞いたところ長安で内紛が起り、馬超は自軍を纏めて脱出したと、それだけに高順は興奮して龐徳達の居るところまで単身で姿を現した。


「さて、両将軍、祁山以来かな?」


「貴様ァ!」「彦明兄、待たれよ」


「高王、西涼には何しに?」


「ふむ、戦で死んだ者を弔おうと思ってな」


「では、何故我らの城を?」


「ん?だって、寿成兄が死んだからな」


「「…!?何ぃ?」」


「なんだ知らねぇのか…」


「返答によっては…」


「うむ、事件はこうだ。」


高順は馬騰の最後を事細かく伝えた。


「高王…、何故、王がそのような事を?」


「各地に斥候を放って情報を集めているからな!」


「…」


「ま、俺んとこに来るなら優遇するぜ?」


「「…」」


「あんだよ、返事くらいよこせや」


「高王のお誘い、有難く思いますが、我が主は…」


「そうかい、なら止めねぇよ、玲明、きっち坊ちゃんり支えてやんな」


「…、ご高配ありがとうございます」


「んで?彦明は?」


「高王にお仕えしたく…」


「んなら決まりだな!こっち来い。玲明、人にそれぞれの志有りって奴だ、余り恨んでやるなよ?」


「はっ…」


「ま、西涼の兵は俺じゃ扱えんからお前が全部連れてけ」


「高王…!」


「んー?兵に困っておらんからな!はっはっはっはっ!」


「では!」


「気ぃつけろよ!遼はいつでも歓迎してるからなー!」


龐徳は兵を連れて夜陰の中に消えて行った。


閻行は高順と共に家族と龐徳の家族を連れて、高順と共に祁山に戻った。現状はどうであれ、結局閻行は韓遂の娘を娶っていた、これも歴史通りかと高順は内心呟いた。


「彦明、俺に仕えるのならば一旦遼に引き上げよう!此処はあの他人妻専門色ボケジジイに任せときゃどうにでもなるだろ!」


「あの…、他人妻専門色ボケジジイとは?」


「他に誰がいる?曹操に決まっておろうが!」


閻行は少し笑いだし、その後真面目に行軍に勤しんだ。


曹操は曹彰から便りをもらい、高順が西涼に居る事を知った。


「あのバカ!何しに!?」


だが、曹操にも失策はあった。


曹昂達が敦煌を目指しているところに、馬超が龐徳と合流し、冀城周辺の領土を奪い返していた。これによって分断され、どうしようも無く動けずにいた。


「クソッ!失策であったわ!」


「公よ、落ち着かれよ…!」


「あの小童は今何処に?」


「はっ!冀城周辺を奪い返しましたが、襄平城は未だに手付かず…」


「ふふふ、孝父め!感謝するぞ!」


曹操は自ら軍を率いて長安より出た。安定、北地、漢陽の三郡を抑え、曹昂らも敦煌から武威まで制圧し、武威を全軍で囲む形となった。


何故ここまで早いか、それは馬超の統治能力への疑問符が付いていたからである。激情家な馬超は気に食わない事が有れば直ぐに人を殺す癖があったからで、馬騰は曲がりなりにも官吏出身なだけあってそれなりに統治が行き届いていた。


主城を任されていた西涼の諸将も前線の向こう側に居るはずの曹操軍が現れたと知って敗れたと誤認して開城降伏したからである。


高順は平襄城を曹操軍に引渡し、そのまま祁山から遼へ帰ろうとした時曹操に捕まった。


「高王!我が主より…」


高順もあらかた予想は出来ていた。


「うむ、わかった。行こう!」


「大将…」


「気にすんな、友達にあってくるだけだからよ!」


「へい!」


「そうだ、お前らはそのまま漠南を通って大人しく帰れ、それとあいつらを呼び寄せて来い」


「へい!」


あいつらと言うのは張亮、羅胤、呉資、章誑、麹義、上官敵、尉遅統、拓跋形、慕容聡、令狐満達と兵十二万を連れて来るように命じたのである。


「ふふふ、大耳野郎、待ってろ、殺し尽くしてやるからよ!」


関羽、張飛、趙雲、魏延らが居る事を忘れ、既に勝ったつもりでいた高順であった。



曹操も久々に友と会い、束の間の休息を得た。


「孝父、久しいな!」


「おう、そろそろ休みやがれ」


高順の口が悪いのは知っていた、口が悪い分、優しさを隠す事に必死であるからだ。


「ふっ、儂もそうしようと思っておるが、な」


「チッ、大耳野郎か?」


「うむ、そうだ。孝父何か手立ては有るか?」


俺からすりゃほっとけって言うのが本音である。巴蜀に閉じ込めてりゃ勝手に自滅するものを…。


「うむ、先ずは孫呉を大人しくさせねばならんぞ?」


「孫呉を…」


ケケケ…、待てよ?文台は…?嘘だろ?結局戦うのかよ!


「も、孟徳…」


「お前の腹の中は読めておるわぃ!大方、死んだ友に…」


「あぁ、そうだ。そもそも、俺が荊州を朝廷の直轄地にする為に…」


「わかっておる。それ故に并、幽、青、冀四州を儂に譲ったのであろう?」


「あぁ、尤も遼東、遼西二郡は俺が貰ったがな…」


「ふふふ、強欲よなぁ!」


「ふん、ほっとけ!」


曹操も久々に友と再開し、安息を得た。


「寝るんだろ?出てくぞ?」


「すまんな!」


「俺も死にたかァねぇからな!」


曹操は夢遊病者の様に人を殺す事を好む。曹操は昔、近侍達を斬り殺したが、自身が殺した自覚は無い。


「儂はこれより寝る、お前達は近づかないように」


「「はっ!」」


だが、曹操は突然起床して剣を抜きその場にいた近侍を全て斬り殺し、また寝始めた。起きた時に気づいたのが、近侍達は皆殺され、部屋中に血痕が残った。


「誰ぞっ!」


「此処に」


「賊が入ったというのに、何故気づかなかったのかっ!」


「…、恐れながら、誰も丞相の部屋に入っておりませぬ。故に…」


「なん…だと?」


これでは儂が殺したも同然ではないか!何故…?


「うむ…、まさに非業の死よな…。この者らを、手厚く葬ってやれ…!」


もとより、曹操の部屋を武器携帯した上で自由に出入り出来る者は夏侯惇、典韋、許褚の三人に限られる。


それ以来、そうそうが寝ると聞くと皆恐れて逃げた。


「孝父…」


「言うな、お前の頭がおかしいのは昔からだ」


もちろん、現代人の高順は曹操の死因は脳腫瘍であると言うのが通説である。それだけに高順はここぞとばかりに曹操を盛大にディスったのだ。


馬超は、冀城周辺を戦い漸く兵を纏めたが、それでもかつての求心力は失われた。龐徳は西涼の各地を転戦したが、無理が祟り病に犯された。


馬超は弟の馬休と従兄弟の馬岱を引き連れて関内に攻め込んだ。


攻め込んだ理由と言うのが、張魯に頼まれての事だ。いつの世も宗教は面倒臭い騒動しか起こさない。イスラム教の聖戦ジハード、十字軍の遠征、黄巾の乱、紅巾の乱、太平天国の乱、大乗の乱、三十年戦争等、性質は違うがどれも宗教に起因されている。


五斗米道という宗教を起こした、張魯の祖父張陵(西遊記に出てくる張天師其の人)が起こした宗教である。張魯の代に至ると戦乱の時代に突入し、張魯は益州牧に就任した劉焉と争い、漢中で半ば独立していた。


正史ならば、劉備が劉璋の要請で西川に入り、戦いそして劉備が益州全体をシレッと手に入れた。今ものらりくらりと益州を掠め取り、漢中に居座り王位を賜り正式に…!


クソがッ!歴史通りになっちまいやがった!考えただけでも腹が立つ!


「虎侯、俺ァしばらく帰る。中で寝てる奴に伝えてくれ、『戦が起これば助太刀する』ってな」


「…はっ!」


「面倒かけるけど、あの野郎頼むぞ!」


許褚はそれ以降喋らず、いつも通り護衛を勤めた。


西羌の諸部落の中でも、馬超を受け入れる者はいない、居るはずが無い、受け入れると言う事は火の粉を被ると言う事だ。それでも、受け入れたのは異母兄の馬胡偉だ。西域都護の権力で、上手く曹操の抗議を躱した。


「兄上…」


「孟起、気にするな…、父上の事は…」


「兄上、父は誰にも負けておらぬ、正しく西涼の雄であった…!」


「…わかった。先ずは身体を休め、再起を計れば良い」


馬胡偉は西域都護として、表向きは漢に忠誠を示しつつ、裏では高順と連携を取り、今で言う新疆ウイグル自治区、西蔵チベット自治区を手中に収め、更に西に軍を進めようとしていていたところである。


高順は祁山の砦を山城に改築し、山全体を要塞とした。


冀城に龐徳がいると知り、高順は行動に移していた。


「玲明兄!無事か!?」


「高王…!皆、戦じゃ!ゴホッゴホッ!」


「慌てるな、戦にもなりゃせんだろ。そもそも西涼は寿成兄の統率力と人望、彦明兄と玲明兄お二人の武勇あってこその西涼鉄騎なのだから」


「で、では…?」


「うん?先ずは駆邪散を飲んで病を治してからだ」


高順が未だ遼王になる前に既に董奉、張景、華佗、皇甫謐の四人を招聘し、この時代にはまだ珍しい病院を作り、そこで遼国内の各村に至るまでに診療所、病院、更には軍医数万人を組織した。


医療機関は三省六部に含まれず、【戦病処】として運用されている。名前の由来は医者一人一人が患者を病から救うという戦いをしているからである。


三日後、龐徳は回復し高順と相対した。


「高王、此度は感謝いたします。然れども…この龐徳の主は西涼の馬孟起のみ…」


高順は高らかに笑いだした。


「ハハハハハハハアハハハハハハッッハ!」


「王…、何故笑い出すのです?」


「うむ。すまぬ、怒りと羨望が少々入り交じってな…」


龐徳はそれが分からなかった。


「うむ、玲明兄、説明が欲しそうだな?」


「ご教授を…」


「怒りはあの小童がお主と彦明兄を見捨て一族を連れ立って逃げた事よ」


「なんですと!?」


「知らぬのか?お主が各地を転戦してる間にあやつは逃げた。西域にな!」


若干、嘘ついちったけどこれも手段ってやつだ。手段を選ばないってよく言うだろ?ありゃ逆だと思うんだよな?切羽詰まった時の手段ほど手段らしい手段はねぇからな!


「では、羨望とは?」


「お主の程の者があの小童に無上の忠誠を誓っているからだ!」


「高王?」


「率直に言おう、俺はお主と彦明が欲しい!」


「しかし…!」


「未だに信じられぬか?ふっ、まぁ良いわ、時間をやろう、俺に仕えたいと思った時には祁山に来い!良禽は木を択んで棲み、良臣は主を択んで仕える。そのまま愚直にあの小童に仕えるもいいが、俺や孟徳、強いては西川の劉皇叔、江東の小覇王も悪くないがな」


「…」


「俺の用は済んだ。あとはお前次第だ、待ってるぞ!」


曹操は何時までも都を留守にする訳には行かず、夏侯淵に数万の軍を預けて西涼の平定を任せた。


「おっしゃァ!てめぇら!気合い入れてけよ!」


祁山は要塞と化し、高順は山中で自給自足の生活を送っていた。


「王…、我らは…」


「おう、気にすんな。あと二、三年もすりゃ戦が起こるからよ、そんときゃ帰れや」


「はっ!」


そんな中、夏侯淵が訪ねてきた。


「遼王!居るかい?」


「おー!妙才!何しに来た?」


「はぁ…、西涼の平定終わらしたばっかりなんだけどよ…」


「わァった!中に入ろう、酒くらい用意してやるよ!」


夏侯淵は指揮官としての苦悩を高順にぶち撒けた。


「なぁ…、孝父…俺ァ偶に思うんだけどよ…」


「どうした?急先鋒のお主らしくも無い…」


「俺ァ、戦は前に出てバッタバッタ敵を斬り倒して味方を助けりゃいいって思ったんだけどよ…」


「おう、間違ってねぇだろ?」


「でもよ、大兄貴や、兄貴、子孝、子廉らがうるせぇんだよ」


「なんて言ってたんだよ?」


「お前は怖いと言うのを覚えろ!ってさ」


「ふふふ、そうだな。其れも正しいな!」


「おいおい…、戦場で怖気付いたら終わりだろう!お前までなんちゅう事言い出すんだ!」


あーぁ、このバカだきゃあよォ!


「いいか、妙才、孟徳の言ってる事をもう少し細かく言うぞ?」


「おぅ!言ってみろ!」


「お前は確かに強い将だ。だが、お前は強き大将でなくてはならん、故に何時までも刀槍無敵の白地将軍では無く、文韜武略を身につけ、兵を生かせる将軍となれ!って事だろ?」


「はぁ?」


「皆が皆、お前のように強い訳では無い、其れに敵の考えを読み、如何に自軍の兵を多く生かせるか、が重要だろって事だ。お前は確かに前線に出されたら俺でも怖い、人の上に立つには【怖さ】を知らねばならん!そういう事だろ?」


「グォー!グォー…フシュ〜…」


マジでか…このバカ…酔い潰れやがった!はぁ…無駄に喋っちまった…。


姜甫、曼基、劉宫の副将三人は涙ながらに高順に感謝を示した。


「…遼王陛下!ありがとうございます!我ら三人が将軍の代わりに…!」


「わァったわかったから…!そこの酔いどれ大将を連れてけ!」


「はっ!」


翌日夏侯淵は三人から話を聞き、独断で氐族から奪った十万石相当の食料を高順に届けた。手紙を添えて、だ。

敬遼王陛下

昨日多謝遼王抬举淵甚感激

如有用淵之処唯有竭盡所能

但願他日沙場見不与君為敵

夏侯淵頓首


流石、名門世家の出だな。こういう所はちゃんとしてる。


洛陽で聞いた曹操は一瞬怒りに襲われたが、その後一笑いした後、夏侯淵を褒めた。


「何ぃ!?勝手に送っただとぉ?」


「公よ、此処は妙才将軍を呼び出して…」


「四千里の道はアレからすれば難なく能うであろうが、西涼の地は治まったばかりでは無いか…」


「フッフッフッ、はっはっはっはっ!やるでは無いか妙才!」


荀彧は笑って曹操を諌めた。


「公よ、其のように喜怒無常のようにされては他の者が…」


「うむ、そうだな。文若、お前はどう思う?」


「軍紀に違反されたのは罰するべきでしょう…、ですが、かの遼王陛下と仲を深めたと言う事はむしろ良き事かと…」


「ふむ…。して、結論は?」


「其の功、過より大きく…不賞不罰が妥当かと…」


「決まりだな。諸軍事を任せよう…鎮西将軍に任じよ!」


「はっ!」


曹操は朝廷の諸派閥への対処に奔走する事となった。

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