第四十三回 合兵一処囲祁山 一龍二虎闘一蛟
将兵三万は一連の戦で一万にまで減っていた。だが、それでも、何とか西涼の武都城まで攻め込んだ。
「侯成!男なら出て来い!」
城内は荒れた。市井の民はこれに耐えかねて城門を開いた。
「高王、どうぞお入りください!」
羅胤はこれに疑問を呈した。
「王よ、此処は罠…」
「んな訳あるか、民が門を開いたのだぞ?」
高順は確信した。民は腹空かせて耐え兼ねていたから開いた…。
「ふふふ、良く言うでは無いか!『民は食を以て天とする』とな!多方…侯成の野郎が民を唆したか、民が自ら開いたかだな…!」
「…」
「大将!どうするんですかい?」
「あっ!そうだ、張五、お前…天水王の処へ行ってこい!いいか?隠密に動けよ?」
高順率いる一万は姿を消した…。高順はある人物に会うためである。
「久しぶりだな…、許昌の行宮以来か?」
「ほう…、来客とは珍しいな…、しかも今追放された公王とはな…!」
「まぁな、んで?上手くやってんのかい?」
「あぁ、今のところはな…」
「そうかい、処で聞いたか?」
「何をだ?」
「朝廷が北の三州に討伐軍を向けたのだが…」
「何ィ!?」
「殿下!」「直ぐに…!」
「慌てんじゃねぇ…!勿体ぶってねぇで『だが』の後を話せよ」
「…、朝廷の軍は負けたのさ」
「ほう?」
「確か…若き勇将であったと聞く…」
いや、誰だよ(笑)
高順は内心苦笑いしながらも、真面目に聞いた。
「その『若き勇将』と言うのは?」
「うむ、国賊の孫とか何とか…」
あいつか〜!領内には高順の陥陣営、飛熊軍、護国軍の三つで構成されている。最も現在の総軍勢は七十五万。それは、高順が遼州に入った時より更に増員されていた。護国は朝廷のための兵、飛熊軍と陥陣営の二つは高順の私軍である。飛熊軍が出たとあっては一大事だが、それは帰ってからの話である。
「そうかい、なら安心だわな…!」
「何がだ?」
「なんでもない、こっちの話だ。」
高順の安心とは曹軍が出てきた訳では無い、あの日、朝廷より追放される時、曹操はその場にいなかったが、恐らく息子の曹昂より聞いているだろう…。
ま、漢の事は俺に何の関係も無くなったって事でいいか!これからは奴らの敵討ちに専念するか!
三万の軍が一万に減ったその理由とは、侯成と侯階の二人が神出鬼没に遊撃戦を繰り広げた為である。更に、高順の軍は人が減り輜重と反比例している為、鈍足な行軍も重なり行軍の路線を侯成らに読まれていたからである。
「ま、野郎も俺の下で戦ってたんだ。こんくらいはやられなきゃな!」
「殿下…、冗談言ってる場合ではないぞ」
「左様、我らも同じ…」
「わァったよ…、そこまで言わなくてもいいだろ?」
張五は天水に入り、馬騰と面会していた。
「張将軍、遠路はるばるご苦労、此度は何用で?」
「はっ、我が王より書簡を…」
「うむ、受け取ろう」
「はっ!」
馬騰は見た。その内容は侯成を討ち、武都を領収しないか?の提案である。
「うむ、一人では決め兼ねる故…、暫し寛がれよ」
「いえ、直ぐに我が将のもとに戻ります」
「そうか、では遼王に宜しく伝えてくれ」
「必ず…、では!」
張五は出て行った。張五は高順の言いつけ通り書簡を届け長居せずに直ぐに高順の処へ戻って行った。
「大将ぉ!戻って参りやした!」
はいはい、お前って変わんねぇなぁ〜!ま、そこがいいところなんだけどね!
「おう、ご苦労さん!さて、どうなるかな?」
様子見ようか?ま、羌族の処はそんなに長くいられやしねぇしな!
適当に山でも見つけて暫くは其処に隠れるか?悪かぁねぇな!
馬騰はこの頃、都へ向かって行った。朝廷の中枢は遼、吉、黒三州という広大な土地を失い、生産力は元に戻り国民の生活水準も大幅に下がった。理由としては、生産力は下がったが租税が変わらないからである。其処にへ各軍閥への対処として江東の孫策、西涼の馬騰、中原の曹操、西川の劉備らに兵権を解くように詔勅を送ったが、聞き入れられる筈も無く難儀していた。更に二百万の禁軍を養わなければならなかった。
更に、馬騰は悲劇に見舞われた。息子の馬超が叛乱を起こし、劉備、侯成と手を結び高順を殲滅せんと意気込んだ。
奇しくも、高順は祁山に駐留していた。
張五が斥候として報せを持って帰って来た途端、高順の目の前は暗くなった。ここで五人の将軍達は協議し、祁山に砦を築き敵の攻勢を凌ぐつもりである。
此の報せに驚いたのは皇帝、喜んだのは伏氏一族、曹丕であるが、これに憤慨したのは曹操である。
「何たる悪手かっ!このような事…!」
「父上!?どうなされたのです?」
「子脩…、お前はその時に何をしておったのだ!」
「…、止められるような状況でもございませんでした…。申し訳ございません」
「…、そうであろうなっ!孝父の奴も…!」
「父上…、お話が…」
「何じゃ!」
「はっ、その…、天水王馬騰が陛下への拝謁の為に洛陽に入りました」
「そうか…、子脩よ、儂は未だに謹慎の身じゃ…、何かあれば頼むぞ!」
「はっ!」
馬騰が洛陽に入った途端、拘束された。
「何をするっ!?儂は天水王ぞ!」
「申し訳ございません…、令郎の馬孟起が西涼にて謀叛を…」
「何ぃ!?そんなバカな事があるかッ!これは…、貴様らの罠か!?」
こうして、馬騰と二人の息子が拘束された。これを見た兄の馬翼は急ぎ、子の馬岱に西涼に行き叛乱を未然に防ぐように言いつけた。
「徳山、我が家の一大事ぞ!」
「父上…、どうなされたのです?」
「お前の叔父が捕まった。それ故、我らも連座するやもしれぬ…、お前はこの事の真偽を確かめ、二度と戻って来るな…」
「しかし…!」
「間も無く朝廷の者が来るであろう、早く行けっ!」
「…、はい…」
馬岱は少しばかり自身の従兄弟である馬超を恨んだ。
兄上…、何故…!謀叛をされるおつもりかっ!
この時、馬騰は知らないだろう…息子が最初に情報を操り、自身の親と兄弟連れて行った親兵達が皆殺しにされた。
所々に葬式の様式を散りばめた天水城内にて、馬超が声高に叛乱を唆した。
「皆っ!我が父と弟達は皆朝廷に殺された…!」
「…!?、何と…!」
「我が父らに何の罪があっての事か!」
「…!なっ!」
ふふふ、皆、この俺に付いて来い!たかだか天水の王等…、どうせならば西涼の王になってやろうではないか!
「だが…、父上は誣告されたのだ!俺は一人の父親と二人の弟を殺されたっ…!」
「世子!その様な誣告をした者は誰ですかっ!殿下と王子達の仇を討たねばっ!」
「ふん!遼州の王…!高順であるッ!」
「…!何と…」
閻行はそれを訝しんだが…、やはり従わざるを得ない。だが、遼州の王がわざわざこのような事をするとは到底思えず…、口を開いた。
「世子…、いえ、殿下よ…」
「彦明将軍…、どうした?」
「何者からの情報でしょうか?仮に高順が誣告をしたとしても…流石に…」
「ふふふ、竇輔という者を知っておるか…?」
そうか…、この者は流石我が西涼の者だ!だが、あの遼王がこれを許すか?馬超は続けた。
「その竇輔からの情報だ。高順は武都の侯成と戦い、三万の兵を一万にまで減ったそうだ。この機会にあの者を討つ!」
「「おぉう!」」
「では、戦の準備を…」
「玲明、彦明、二人は左右の軍を頼んだぞ!」
「はっ…!」「はっ…」
馬騰は殺されずに済んだ。馬騰と馬休、馬鉄らは牢獄に繋がれた。其処に伏徳が現れ、馬騰を唆した。
「朝廷は何故この様に不公平なのかっ!」
「王よ、ここは一旦落ち着いてください、私の方からご提案が…」
「何をだ?」
「はい…」
伏徳は馬騰に高順が馬騰を誣告し、更には漢に謀反を起こそうとしている事、更にその手始めに西涼を自分のものにしようとしている事等有る事無い事を吹き込んだ。
「何ィ!?あの高順が!?信じられん…!」
「皇后に無礼を働き、殿上にて我が弟を…!」
この時の伏徳は半分嘘泣きで半分は弟を偲んでいた。
「わかった!儂も西涼の馬寿成…、逆賊高順を討つ!」
「…!では、成功のあかつきには…西涼の王として軍政の大権をお任せ出来るように陛下にとりなしますぞ!」
「うむ!頼んだ!」
元来、西涼という土地は漢朝の中でも最も治めにくい土地である。辺章、董卓、韓遂、馬騰、郭援等叛乱を興す者もいれば勢力を養い権勢を振るう者もいた。羌族らと常に絶え間無く戦い、和を結んだりしていたからである。それだけに複雑で治めにくい土地だ。
祁山に砦を築き、兵を養う高順は未だ敵が強大なのを知らないのだ。
張五に漢中、祁山一体の地図を用意させ、何時でも脱出出来るように気を配っていた。
「さて、山はある程度落ち着いたろ…、そろそろ侯成の野郎が攻めてくるか?」
「どうでしょうな?斥候の報せに依りますと、どうやら武都に籠りっきりのようですぞ」
「ふん!その程度かい!」
「…、侮りがたし…」
「「…」」
「ま、今のうちに引き返すかい?」
「殿下…!」
「なぁに、俺一人で興した戦だ…、それに遼州の方も心配だしな」
「「…」」
「…、では…」
ま、そうするか!
「呉資、章誑、羅胤、お前ら三人は皆を連れて引き返せ、此処はむしろ俺一人の方が動きやすい」
「「…!」」
「殿下っ!」「成りませんぞ!」「…、お断り致す…」
「なぁに、ここら一体じゃ誰も俺の顔知らんよ、安心しろィ、誰も死に行くなんて言ってねぇだろ?」
互いが譲らない時に麹義が現れた。
「殿下っ!」
「おう、どうした?」
「臣、羌兵六万を連れてきましたぞっ!」
なんて奴だ…!やるじゃねぇか!
「おう!でかした!」
それと同時に凶報が届いた。
「大将!西蜀の劉備、西涼の馬騰、武都の侯成が攻めてきやしたァ!」
「あー!?ったく…随分と連れてきたな…お前らどうするよ?」
「「戦いましょう!」」
あー、そうかい!バカどもめ!嬉しいねぇ…、でもよ…。
その頃侯城では王の不在よりも王の所在が判り、王宮を揺るがした。
「お姉様…!」
「…」
「母上、落ち着いてくだされ、父上に限ってそのような事は…」
「無いとも言いきれない様ね…」
「…、叔母上、俺に任せろ!ちょうどじっちゃん見たいに一度は戦場で大暴れしたかったところだ!叔父上を連れて帰ってきてやるからよ!なっ、尚武!」
「兄上が行くなら安心ですが…、朝廷が攻めてきたらどうなさるおつもりで?」
「はっ!んなもん叔父上が帰ってくるまでもつようにするしかねぇじゃん!」
「…」
「おいおい、尚武、お前ば遼王世子なんだからよ、しっかりしろ!」
「…、では兄上、お願いします」
「おぅし!任せろ!」
「幾人ほど連れていかれますか?」
「まっ、飛熊軍二万と陥陣営の全軍だな」
「わかりました。では」
「おう!」
祁山の麓では劉備、馬騰、侯成の三人が一同に会し、高順を討たんとしていた。
「ハッハッハッ!お二方、この度は賊の討伐にご助力頂きありがとうございます」
「なぁに、国家の為ならばこの身は惜しまん!」
「…、皇叔、この度は…」
「うむ、侯将軍には是非とも先陣を務めて頂きますとも!ハハハハ!」
「寿成兄、此度は災難でしたなっ!」
「…、痛み入る…」
「「…」」
劉備を盟主とした連合軍の会議が始まった。細かく話を聞くと関羽の忠誠とその武勇は皆が知るところとなった。関羽は劉備の隣に立って静かに喋りだした。
「兄者、高順は武勇に優れているのを認めざるを得ません、ですが我が得物は敵の血を未だに飲み足りてないようでござる。この戦いでは、私は喜んで先兵となり、我らの大義のために道を切り開きたいと思います。」
張飛の激情と驍勇は諸将を十分に励ました。張飛は焦り、机を叩きながら大声で叫びました。
「なにぃ!?俺らが高順を倒せないと誰が言いやがった? この張益徳の腕を野郎どもに見せて野郎じゃねぇか!」
馬超は誇りに重きを置き配下の精兵達と戦術を披露しようとした。 西涼騎兵の猛将として、馬超は戦前の戦術会議で次のように提案した。
「高順は確かに強いですが、我らの西涼鉄騎も負けずと勇敢です。この遠征で、私たちは西涼子弟の武勇を示したい!しかし、突撃は盲目であってはならず、孔明先生の機知と組み合わせなければなりません。唯、勝つ有るのみ!」
諸葛亮は落ち着きつつも戦略を練った。 諸葛亮は羽扇をそっと撫でながら、冷静にこう分析した。
「この戦いは国家の一大事になるでしょう…、高順は不利な立場にありますが、決して楽な戦いではありません。我々は攻めと守りの安定を重視しつつ兵力をまとめて運用し、無難に勝たなくてはなりません」
侯成はその決意と警戒心を一層強めて軍議において、侯成は改めて次のように強調した。
「高順のような強敵を前にして、我々は油断はできません。全員が警戒し、慎重に戦わなければなりません。機会を逃がしてはなりません」
馬騰はその期待を息子馬超に伝えた。
馬騰は息子の馬超の隣に立ち、遠くを見つめて心から言った。
「孟起、この戦争は個人の栄光だけではなく、馬家の将来もかかっておる。儂とそなた、父と子で力を合わせて戦って、西涼鉄騎の強さを世に知らしめようではないか!」
「はっ!」
このより緊迫した状況において、劉備、馬騰、侯成によって祁山で包囲された高順は、危険に直面ししが、この重要な瞬間に、一連の強烈で力強いセリフを通して、高順がどのように兵たちを鼓舞した。
高順は気宇軒昴に決意し、諸将に呼びかけた。高順は風雨に耐えながら山の頂上に立ち、差し迫った戦いに向かって武器を高く掲げ、周囲に集まった兵士たちに向かって大声で叫びました。
「皆!生と死だけでなく、我らは正義を背負っているのだ! 今日、この山が我らの死に場所ぞ!劉備は野心的だが、見栄を張りたがる。馬騰は勇敢で、韜略に欠ける。侯成は狡猾にして、胆力が無い『奴らは我らを打ち破ることは出来んそれは何故か?それは我らが強いからだ!我、高順は、皆と共に生き、共に死ぬために、栄光と恥辱を分かち合う事を此処に誓う!』皆、勝つぞ!」
「「必勝!」」「「必勝!」」「「必勝!」」
劉備は高順の位置を遠くから観察し、そばにいた孔明に囁いた。
「高順は確かに単純ではない。危険に応じて防御することは士気を高める事にもなり得る。この戦いは簡単では無いぞ?先生、我らはより慎重になる必要がある。雲長、益徳の武勇に頼るのではなく、先生の知恵で勝たなければなりません。」
「殿下、心得ております…、ご安心を…」
馬騰はさらに焦ったようで、帷幕の中で手を叩き、声を出して鐘のように叫んだ。
「儂は高所の寒さが人生で一番嫌いじゃ! 高順は強いかもしれんが、我が西涼鉄騎の相手では無い。明日の戦いでは、私が一番最初に頂上に駆けつけましょう!必ず、高順の首を落としてやる!」
侯成はいつもの冷静さと几帳面さを保ち、夜に陣営を視察する際、隣にいる侯階に呟いた。
「敵を甘く見てはならん。高順は不利な立場にあるが、その状況だからこそあの者はさらに危険だ。我々は注意深く観察し、不意を突いて致命的な打撃を与える最良の機を窺うぞ」
「はっ」
やがて夜が明け、開戦の時刻が近づいて来た。