第四回 董相国捜金刮銀 高将軍用賊変兵
高順は百万の民と十五万の兵を背負い、苛烈な改革で賊軍を精鋭へと鍛え上げた。
兵農分離で民に土地を与え、「五人組」「累進階級」で兵に誇りを取り戻させ、自らの槍で鉄の規律を示す。
張燕の軽騎兵と陷陣営の重歩兵が衝突した時、高順は両者を戦場に立たせて痛感させる。
「互いを貶める者は愚者だ。重歩兵は城壁、軽騎は機動力、戦場とは盤面だ!」
やがて匈奴、鮮卑の連合軍が朔方を包囲。高順は決断する。
「晋陽は動かぬ。張遼は守備、張燕は攪乱。本隊は…我一人で十分だ」
長安の都は、董卓の影に覆われていた。相国府は遷都の混乱を尻目に、文字通り「捗金刮銀」金銀をかき集め、地の皮を剥ぐが如き略奪に明け暮れていた。
「儂のためなら、帝王の陵墓すら掘り返せ!金銀財宝、残すな!」
董卓の肥満した巨体が玉座にもたれかかり高笑いをあげる。李儒ら腹心たちが血眼で指令を飛ばす。洛陽から運び込んだ財宝も、董卓の奢侈と大軍維持に瞬く間になくなる。足りない。もっと必要だった。
「相国様、富商や名士の屋敷も『反逆の疑い』で没収すべきでは?」
李儒が狡猾に進言する。
「ふん!名士ごときが金を抱えてどうする!疑わしきは召し上げろ!抵抗する者は斬れ!」
「はっ!」
李儒の口元に冷酷な笑みが浮かぶ。合法的な強盗の許可証を得たに等しい。
長安の街は再び地獄と化した。相国府の兵士が屋敷に乱入し金銀を強奪、抵抗する主人を斬り捨て、女房や娘を手籠めにする。陵墓から副葬品が掘り起こされ董卓の私財となった。市中には董卓鋳造の粗悪な「小銭」が溢れ物価は暴騰、民衆は苦しんだ。董卓は文字通り長安の地の皮を剥ぎ金銀を搾り取っていた。
「嗚呼…漢の天下もこれまでか…」
王允ら忠臣は密かに涙を呑むしかなかった。
一方、並州の地では、全く異なる「変革」が進行していた。その中心に立つは、武衛将軍・高順である。
晋陽城。高順の本拠は依然として「生存」の危機に瀕していた。集められた十五万の兵と、二百万を超える非戦闘員。この膨大な数は、定着すれば途方もない重石となる。食糧不足は極限に達し、掘っ立て小屋が乱立する居住区からは、疫病の気配さえ漂い始めていた。
「文遠、新たな開墾地の様子は?」
城壁上で、高順は眼下に広がる、飢えと不安に怯える民衆の海を見つめながら、横に立つ張遼に問うた。
張遼の表情は暗澹としていた。
「将軍…厳しいです。土地は痩せ、井戸も水不足。このままでは春の種蒔きに間に合わぬ場所も多い…秋の収穫まで持つか…」
高順は黙って北の空を見据えた。彼の脳裏には現代の知識と乱世の現実が交錯する。二百万の胃袋を満たすには既存の耕地だけでは足りない。必要なのは「奪取」ではなく、「開拓」と「効率化」だ。そのためには、この十五万の烏合の衆を、真の「軍隊」へと変革しなければならない。
「まずは『兵』だな」
高順が低く呟く。
「烏合の衆では何も守れぬ」
高順の改革は苛烈でありながらも、理に適っていた。
まず断行したのは、「兵農分離」の徹底と「階級制」の導入だ。かつての賊兵、流民、元丁原兵士といったすべてを「兵籍」に登録した上で、家族持ちや農業適性者、一定年齢以上の者を「農戸」として選別し、屯田地に移住させた。二百万の非戦闘員の多くはここに分類される。彼らは耕作と納税の義務と引き換えに、土地と保護が約束され、荒廃した並州開墾の主力となった。
そして、「兵籍」に残った十五万が、真の「軍隊」となる。高順は彼らを能力と経験に基づき、厳格に三軍へと分けた。
「陷陣営」高順直属の精鋭部隊。重装の騎兵と歩兵からなり、呂布の時代の戦術と規律を基に再編された。最強の装備と倍の俸禄が約束される代わりに、兵士には絶対的な忠誠と苛烈な訓練が要求された。定数は一万。血と汗にまみれた実戦選抜試験は「鬼選び」と恐れられた。
「疾風騎」元黒山賊の俊足を中核に、張燕が率いる軽騎兵部隊。その武器は、卓越した機動力と斥候能力だ。定数二万。訓練は長距離騎行と馬上からの弓術、槍術に重点が置かれた。張燕の「速さ」こそが、この部隊の魂だった。
「并州牙」張遼が総括する主力歩兵軍団。定数十二万。元賊兵の大半がここに所属した。高順は、彼らを統制するために「五人組制度」と「累進階級制」という二つの鉄の規律を導入した。
五人組。兵士五人一組に連帯責任を負わせる冷酷な制度だ。一人が逃亡すれば全員が罰せられ、一人が功績を立てれば全員が褒賞にあずかる。この制度は、強固な結束を強制した。
累進階級。「伍長、什長、屯長、軍侯、軍司馬」と続く、明確な昇進ルートが設定された。階級が上がるごとに俸禄も待遇も向上していく。
「敵兵五人で伍長、百人で屯長」。この能力主義の抜擢は、元賊兵たちの内に眠っていた闘志に火をつけた。ただし、虚偽の報告は即座に死を意味した。査定は張遼直属の監察隊が、冷酷なまでに厳格に執行する。
「法は、絶対である!」
高順の声が、校閲場に響き渡る。
新しく階級章を付けた兵士たちが誇らしげに胸を張る傍らで、訓練を怠った十数名が公開で笞打ち刑に処されていた。甘い汗と血の匂いが混じり合い、むせ返るような空気が漂う。
「褒賞と罰は、明確にせねばならぬ。これこそが、賊を兵に変える第一歩だ!」
制度を整えても烏合の衆が一夜で強兵となるわけではない。必要なのは血と汗の「訓練」だった。訓練場で将軍高順の武勇は神話として兵士の心に刻まれていく。
晋陽城外の演習場。新たな「并州牙」兵が基礎槍術訓練に悪戦苦闘。中には賊時代の癖で形を無視する者も。
「おい、こんなことより昔みたいにぶん殴った方が強えんだぜ!」
元白波賊幹部・熊虎が木槍を地面に突き刺し喚く。周囲の兵士が好奇の目を向ける。
「熊虎!訓練中だ!静かにしろ!」
教官が怒鳴るが熊虎は嗤う。
「教官ごときが俺に従うと思うかよ?」
「ならば、俺に従えるか?」
冷たく静かな声が場を切る。いつの間わり高順が端に立っていた。黒甲冑に名槍。目は氷の刃で熊虎を見据える。
場が水を打ったように静まり返る。熊虎は一瞬たじろぎ周囲の注目で調子に乗る。
「おお、大将自らか!でも大将だって所詮人の子!俺とやり合って…」
言葉が終わらぬうちに高順が動いた。地面を滑るように熊虎の眼前に詰め寄る!熊虎は目を見開く。
「ッ!」
鈍い音。高順の槍が熊虎の木槍の柄を根元から両断。切断面は鏡のようだ。
「な…っ!?」
熊虎が呆然。
「お前の言う『好き勝手』とはこれか?」
高順の声に揺るぎなし。名槍を掲げる。
「これが技を極めた『槍』だ。お前の玩具とは違う」
「くっ…!」
熊虎が屈辱に顔を歪め巨体を武器に乱暴な突進を仕掛ける!風圧が兵士の頬を撫でた。
高順は微動だにしない。迫る巨体、振り下ろされる棍棒…間一髪!
「無駄だ」
高順の足が最小限に踏み込む。体全体が流れるように回転し熊虎の懐へ飛び込む!槍の柄がみぞおちの下を寸分狂いなく強打!
「ぐはぁっ!?」
熊虎の目玉が突出し口から泡と胃の内容物が噴出。巨体は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
高順は倒れた熊虎を一瞥し数千の新兵を冷徹な眼差しで見渡した。
「見たか」
声は低く場に響く。
「これが『技』と『鍛錬』の差だ。力任せは訓練された一撃の前では無力だ」血の通わぬ熊虎を指さす。
「此の者を医務所へ運べ。諸兵、見よ!ここにいる者はかつて賊であったかもしれぬ。しかし今は『兵』となる道を選んだ。兵たる者規律なくして力は発揮できぬ。技を磨かずして勝利は掴めぬ」
高順は名槍の穂先を開墾地が広がる北の大地へ向けた。
「此処での鍛錬は己のためではない。家族のためだ。仲間のためだ。この并州を実り豊かにするためだ!弱さを捨て己を鍛えよ!それが生き延びる唯一の道だ!」
「「おおおおーーーっ!!」」
兵士たちの雄叫びが荒れ地にこだます。その目に恐怖と同時に熱い光が宿り始めた。高順の圧倒的武勇と「守るべきもの」が混沌に秩序と誇りを与えた瞬間だった。
しかし改革は順風満帆ではない。新精鋭部隊「陷陣営」と「疾風騎」の間に確執の火種がくすぶる。
訓練場。張燕率いる「疾風騎」が馬場障害の猛訓練。軽騎兵が柵を飛び越え急旋回し的を射抜く俊敏さは目を見張る。
「よっしゃ!今の旋回完璧だぜ!」
張燕が馬上で叫ぶ。
「次は速度を上げるぞ!武器はスピードだ!」
隣接する訓練場では高順直卒の「陷陣営」が重装歩兵密集陣形「鉄壁の陣」を訓練。重甲冑に巨大な盾を密着させ壁を作り隙間から長槍を林立。動きは遅いが威圧感と堅固さは圧巻。
「盾!もっと密着させろ!一歩も引くな!槍は敵を穿つ前に己の意志を示せ!」
高順自身が陣中を歩き指導。
休憩所で双方の兵士が入り混じり些細な行き違いが起こる。疾風騎の若騎兵が列に割り込もうとし待っていた陷陣営兵が重甲冑に汗だくで言った。
「順番を守れ小僧。お前たち疾風は軽々しく飛び回って重歩兵の苦労を分かっておらん!」
「何だよ!お前ら遅っせえんだよ!戦場じゃスピードが命だ!」
騎兵が反発。
「小生意気が!重装備で矢弾を受ける覚悟が分かるか!」
「ふん重くて動けねえから的になるんだろ!役立たずが!」
「貴様っ!」
陷陣営兵が騎兵の胸倉を掴む。小競り合いが始まる。
「やめろ!」
張遼が割って入るが不満は収まらない。
「張遼将軍!軽騎どもが我らを『鈍重な亀』と嘲笑!」
「張燕将軍!重歩兵が我らを『薄っぺらな蜻蛉』呼ばわり!」
高順と張燕が現場に駆けつける。張燕は配下が鼻血を出しているのを見て烈火のごとく怒った。
「大将!こいつらが先に手を出した!どうしてくれるんだよ!」
「飛燕、落ち着け」
高順は冷静。
「お前の部下も言葉に気をつけるべきだった。互いの役割を理解せぬ無意味な争いだ」
「何ですって!?」
張燕が高順を睨む。
「大将まで軽騎を舐めてるのか?重い鎧の連中より俺たちの方が役立ってるって証明してやる!」
「…証明?」
高順の目が細くなる。
「ならば証明させてやろう」
高順は訓練場中央へ歩み出た。張燕と陷陣営兵数名を指さす。
「飛燕。貴様と配下数名騎乗で我に向かって来い。全力でいい」
「…え?」
「陷陣営はここに『鉄壁の陣』を組め」
命令は唐突だが高順の眼光に逆らえない。張燕は闘志を込めて馬に跨り精鋭騎兵五騎が従う。陷陣営兵十名が巨大な盾を密着させ簡易「鉄壁」を形成。高順は陣の真ん前に一人槍を持って立つ。
「大将…?」
張遼が不安そうに声をかけるが高順は無言で制止。
「いくぜ!大将に軽騎の本領を見せてやる!」張燕が口笛を鳴らす。
「「おおーっ!」」
六騎が本気の突進。蹄の音が地を揺らす。五十歩…三十歩…十歩…!
「今だ!突け!」
張燕が叫ぶ。騎兵がスピードを上げ槍を構える!目標は高順の左右と重歩兵の盾の隙間!
その刹那高順が動いた。真正面から一歩も引かず逆に大きく踏み込み両手の名槍を地面に突き刺すように振り下ろす。
「なにっ!?」
張燕が驚く。槍の柄が地面を強く叩く!「ドン!」という衝撃音で砂塵が舞い上がり衝撃が馬の足元へ伝わる!
「ヒヒーン!」馬が驚き躓き突進のリズムが乱れた!ほんの一瞬の遅れ!
「陣!動くな!」
高順の怒号。
「「おおっ!!」」
陷陣営兵が恐怖に震えながら盾に全身を預け踏み堪えた!
「ぬあっ!?」
騎兵の槍が盾の表面をかすめ高くそれる。突進の勢いが乱れ密集した重装歩兵の壁は崩れなかった。張燕の槍も高順の頭上をかすめただけ。
「ぐっ…!」
張燕が歯噛みして馬を引き立てる。
「…見たか」
高順が砂塵の中から声を上げる。足元には石突きの凹み。
「軽騎の突進は鋭い。しかし…」
陷陣営兵を指さす。
「…訓練された重歩兵の堅陣は正面から容易には崩せぬ。ましてや『乱れ』があればなおさらだ」
張燕らを睨む。
「飛燕。貴様の軽騎の真価は正面突破ではない。俊足で敵の隙を衝き情報を取り重歩兵が敵を釘付けにしている隙に横合いから急所を突くことにある!」
張燕は悔しそうに俯く。
「…ででも大将!重歩兵の連中は…」
「重歩兵の者たち」
高順が陷陣営兵に向き直る。
「お前たちは堅牢だ。しかし動きが遅い。孤立すれば敵軽騎や弓兵に翻弄され崩される。守るべきは盾の前だけではない。周囲を見よ。味方の軽騎が側面の敵を蹴散らす姿を想像せよ!」
高順は両部隊の兵士を交互に見据えた。
「戦場とは様々な駒が役割を果たして初めて勝利する盤面だ!重歩兵は城壁、軽騎は機動力。互いを貶める者は自らの首を絞める愚者に過ぎん!理解したか!」
「「はっ!!!」」
返事は不満を吹き飛ばすほど力強い。張燕も深く息を吸い高順に向き直った。
「…大将、すんません。軽率でした」陷陣営兵に頭を下げる。
「…よろしく頼むぜ、重いの兄貴たち」
「…いえ…疾風騎の各位よろしく」
陷陣営兵も照れくさそうに返した。
高順はほのかに笑みを浮かべた。**衝突を逆に利用し相互依存の重要性を体で理解させる。これこそ異質な集団を一つの「軍」へ鍛え上げる将の器であった。
こうして并州軍は苛烈な訓練と高順の強力なリーダーシップで「賊」から「兵」へ変貌しつつあった。陷陣営の規律、疾風騎の俊敏さ、并州牙の膨大な数が一つに噛み合う予感を漂わせる。
しかし成長を許さぬように北の空に暗雲が垂れ込めた。虎嘯谷の敗北に狂った匈奴単于が鮮卑の一部族と手を組み三万超の大騎兵軍団で河套地方の要衝・朔方城を包囲したとの急報。朔方は高順が次に奪取を目論む食糧庫への足がかりだ。
「朔方陥落は河套平原奪取の機を逸する」
軍議で張遼が力説。
「しかし救援に向かえば晋陽の守りが手薄に。二百万の民が危険に晒される…」
「だが見殺しにはできぬ」
張燕も険しい表情。
「朔方の兵糧も長くは持つまい…」
重臣の議論が紛糾する中高順は地図上の朔方城をじっと見つめる。脳裏に十五万の兵と二百万の民の顔が浮かぶ。全てを守りたい。しかし力は分散すれば弱い。
「…晋陽は動かぬ」
高順が静かに重々しく口を開く。
「え?」
一同が驚いて見る。
「文遠、晋陽の守備と農民の護りを任せる。陷陣営の半分と并州牙八万を預ける」
「はっ!しかし将軍…」
「飛燕」
高順は張燕を向いた。
「疾風騎全軍で朔方包囲軍の周囲を攪乱せよ。補給路を断ち斥候を潰せ。だが正面戦は避けろ」
「了解だぜ大将!匈奴ども散々遊んでやるよ!」
「そして…」
高順の目が名槍へ落ちる。
「…本隊は我が率いる」
「本隊?」
張遼が尋ねる。
「残りの陷陣営五千と并州牙四万…それだけですか?」
「いや」
高順の口元に冷たい確かな決意の笑み。
「…本隊は我一人で十分だ」
「なっ!?」
軍議場が騒然。張燕も張遼も目を見開く。
「将軍!何を言われる!自殺行為です!」
張遼が声を荒げる。
「大将!流石にそれは…冗談だよな?」
張燕も真剣に問う。
高順はゆっくり立ち上がった。背中はかつてなく大きく重く見える。
「我が行いは無謀ではない」
声は静かだが鋼の意志を宿す。
「朔方城の兵士に希望を見せるのだ。援軍は来たと。それだけで守兵の士気は倍増する。そして…」
腰の名槍に手をかける。
「…匈奴と鮮卑の連合軍など所詮は利で結ばれた脆い盟約だ。その盟約に『恐怖』という楔を打ち込んでやる」
張遼と張燕を交互に見据える。
「文遠、飛燕。お前たちの役割は重い。晋陽を守り抜け。朔方の周囲を攪乱し続けろ。それが我が『一槍』を最大の戦果に変える」
張遼は高順の眼に揺るぎない覚悟を感じ深く息を吸い膝を叩いて立ち上がった。
「…承知!将軍の武運を祈る!」
「…大将生きて戻れよ!約束だぜ!」
張燕も苛立ちをこらえる。
高順は微かに頷いた。狙いは明確。単騎は「無謀」ではない。彼自身が最大の囮であり攻撃力となる。朔方へ向かう道程で張燕の攪乱が最高潮に達した時高順は敵本陣へ「蒼牙」の如く突撃する。一撃で敵将を倒し連合軍に疑心暗鬼を生み崩壊に導く。
武勇の極致、将器の真骨頂。二百万の民と十五万の兵を背負う将軍は自らを槍の穂先と化し乱世の闇を切り裂こうとする。
「疾風騎出発!」
張燕の鋭い声が晋陽城門を開かせた。
「全軍防備を固めよ!一歩も引かぬ!」
張遼の重々しい号令が城壁に響いた。
漆黒の甲冑に身を包んだ高順は愛槍を手に一人静かに北へ向かう街道を歩み出した。背中は孤独ではあったが決して小さくなかった。并州の大地が蒼牙の将の行く道を見守っているようだった。