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第三十四回 西涼遍地流血河 各家子弟顕其才

高順が傷を癒し、軍を整えて出発した頃に後宮では皇帝が激怒していた。


「宦官を使って情報を流すとは如何なる事かっ!」


「そんな…!陛下、父が陛下の事を尋ねられたので答えただけでございます!其れに、我が父が居なければ陛下はただの傀儡では御座いませんか!」


「その口を慎めっ!朕は九五之尊に在りて、其方は皇后として身を修めて性を養い母儀天下たるべきおころを朕に不敬を働くとは何事かっ!伏完に朕を戴く事が出来れば高順や曹操は朕の為に海内を一統出来るわッ!」


「申し訳ございません、失言致しました。それでは、臣妾もお伺いさせて頂きます!前朝の事は詳しくは分かりませぬが、父はとても苦しそうにされておりました…、どういう事でしょうか?」


「ふんっ!どうせ高順の事であろうが!」


「わかっておられるならば、何故…?」


「何故助けぬ、と言いたいのか?」


「はい!」


「ふんっ!其方の父に聞いてみよ!表向きは【朕の為に実権を取り戻す】とか言うておるのであろう?ならば教えてやる!【その実はあ奴ら皇帝の外戚姻親が朝廷を壟断し権力をその手に納める為】だからだ!」


「そんな…!臣妾は信じませぬっ!」


「ならば、確かめよ!」


これが、漢の皇后に相応しい女か?いや、こんな事有ってはならん!朕にどうしろと言うのだ?天よ!これが朕に給えたもうた試練と言うのか?


「…、陛下…」


「もう良い、退き下がりなさい。しばらく頭を冷やすように」


皇后伏氏はそのまま自分の宮に戻り、この件を兄弟である伏徳、伏典に伝え、父に気をつけるように促した。


皇帝である劉協も太子こそ立てて居ないが、父親として子供らに危険が及ばないように気を付けいる。


早逝した南陽王劉武、他には劉剛、劉毅等もおり政争に巻き込まれる悲劇だけは避けたいと思う一心である。だが、あの母親にしてあの外祖父…巻き込ま無い方が無理である。子らよ、父のようにはさせぬからな!


思い返せば、生まれた時から兄の母である宦官側の何太后と生母董太皇太后側の王美人…、劉協は生まれながらにして政争に生きてきた存在でもある。そして現在皇室宗親らを纏めて漢の復興を目指したい劉協からすれば何がなんでも子供ら未来の皇太子にはこの早すぎる経験をさせたく無いからである。


嫡子劉文、次子劉雍が数年もすれば加冠し成人を迎える年になって来たという事で立太子で大いに揉めて今はそれが朝廷の議題に上がる程である。


史実だと劉協は孝献皇帝または孝愍皇帝と諡号を送られ漢朝最後の皇帝となるのだが、高順と言う存在によって民衆からは孝文、光武帝に次ぐ【中興の名君】として映るようになった。


劉協も次第に其れを意識し始め、国政に参与して様々な事を自信が納得するまで突き詰めた。


内閣府、三公、九卿も徐々に漢の再興が見えて来たと言い始めた段階で董承、伏完は異を唱えた。


「ふん!逆賊にして成り上がりの高順、宦官の末裔の曹操ら如きに何が出来ようか!我ら儒学の者こそが正道也!」


「其れに、外臣が何時まで軍権を手にしているつもりか?返さぬは叛乱も同じよ!」


この二人は名目上は内閣府に席を置いて居るが、実は飾られた行き場の無い二人でもある。内閣府に籍を置きながら何も為せていない、これに憤りを感じて高順、曹操らを排除する為に様々な手段を用いて二人を貶めようとしていたのだ。


竇輔の朝鮮叛乱、鮮卑の侵攻、各地の叛乱は全てこの二人の手に依る高順、曹操らを排除する為に起こされた騒乱だと言うのである。


錦衣衛よりこの様な情報を貰い高順は驚愕した。


「なんてこったい!ま、こんなにも評価してくれるのは有難いけど、人気者は辛いねぇ…さぁて!仇を討った後は帰って決着をつけに行くか!」


「遼王殿下!どういう訳か説明してください!」


あーぁ、うるせぇのが来たよ!


「何の事かね?」


「何故進軍を取りやめたのですか?」


「そらぁ…、眠くなったから?」


「とぼけないで頂きたい!」


「うるせぇなぁ!てめぇの軍だけでも進んでりゃいいじゃねぇか!」


「はぁ?」


「《はぁ?》じゃねぇだろ?おい!クソガキ、コラ…」


「しかし…!」


「はぁ…、お前って何処まで馬鹿なの?いいか?このまま進めば敵の思うツボよ!このままアホみたいに進んでみろ、敵は間違い無くこっちの輜重を狙って来るぞ?」


「あっ!」


「わァったか?」


「はっ!」


「んで?」


「大変御無礼致しました!では長安に先行させていただきますッ!」


「いってらっしゃーい」


「さて、舞台は整ったかな?」


文遠も呉資も章誑も麹義も張五も虎児もいねぇ、扱いづらいな!この戦が終わったら最終的な軍階級を用意しよう!じゃないと俺が混乱するっ!


「よぅし、全軍っ!輜重を守りつつ前進!」


「「はっ!」」


恐らくだが、狙ってくると思う…。馬超は俺が嫌いな蜀政権の中でも最も嫌いな将軍のひとりだからね…、それが余計に嫌悪感を増幅させてるのかも知れない。漢朝最大のテロリスト…、俺は彼を三国版ビン〇ディンと密かに呼んでいる。


後に陝西省呼ばれる長安付近は山脈が有り、道も四川の桟道には及ばないがそれなりに危ない道程でもある。


「皆の者!あれこそ我らの安寧を脅かした元凶の高順だっ!アレを討てば間違い無く朝廷も我らを赦してくれる!行けぇ!殺せぇ!」


ほーれ来た、どう料理するか…?決まってんだろ!


「おう!手は図通りだっ!陣を組め!」


「「はっ!」」


糧秣を盾にして西涼の精騎を防ぐ、其処に弩兵、弓兵が撃ちかける。騎兵の勢いを削いだ後、歩兵が出撃し、更に追い討ちをかけた上で騎兵を以て退路を塞ぐ。


馬超は誤算していた。敵の兵は三万しかない、しかも敵軍の先遣部隊の主力も壊散させた、たったの三万で此方に向かって来るのはふざけてるのか此方を馬鹿にしているのか?怒りで判断を鈍らせ、更にその視野を狭ませた。


この三万は高順が二百五十万の兵の中で選りすぐった五十万の中で更に選んだ三万でもある。その実力は自らの親衛隊《陥陣営》に勝るとも劣らない実力を誇っていた。


馬超も、その実力は馬鹿に出来ない。だが、そこまで強い訳では無い。でも、張飛と互角に戦ってたぜ?と聞かれると三十そこそこの若造が五十超えたおっさんと互角だぜ?しかも張飛はこの時純粋な戦闘よりも指揮官として覚醒し始めた時だしなっ!純粋に戦闘以外やる事が無い許褚に半裸でけちょんけちょんにされかかってるし、イキがって閻行に危うく絞め殺されると言う失態も犯す。かと言って馬超の強さもただの飾りでも無い。曹操に呂布の如く勇猛でアレが生きてる限り自分の埋葬地すら無いだろうと恐れる程でもある。


「さて、糧秣は捨てよ!狼狽えつつこのまま全速で長安に向かうぞ!」


一旦は退いた馬超達は高順軍の動きを見て、馬超は高順軍の最後尾が見えなくなるまで待ち、そのまま一斉に高順軍の置いて行った糧秣に飛び掛かり、中身を確かめると…


「若将軍、謀られましたな…」


「ぬぅ…!おのれぇ!高順、許さん!」


長安について、どうにか軍容を整え、潼関に向かった。


先に一万を合流させ、一万八千と共に長安を固めた。


馬超は自力では長安を落とせないと確信したのか、其の儘自陣に戻った。


当然の事、馬超の背後にビッタリついて進軍するなんて荒業は出来んよ!しょうがないから斥候を送って確認しつつ前身したが、馬超はとんでもないキチガイだった。後ろから潼関を奪う動きを見せた。さすが、曹操を一時的に追い詰めただけ有るな!


「おいおい〜!こりゃあ不味いぞ?野郎…!そういう事か!」


「将軍…」


「全軍全速力で潼関に向かえっ!」


恐らく…、俺の嫌な予感が当たればだが…、潼関の向こうはもう既に始まっていて、こっちは時間稼ぎと陽動だって事かもな!


マジでふざけんなっ!敗北するしないは二の次だが、野郎はだいぶ残虐性を極めた性格してっから下手したら十何世紀後の遥か西の第三帝国がやった事をやりかねんぞ?


どう言う事かって?アウシュヴィッツって言ったらさすがに分かるだろ?


潼関には瀕死の郝萌と頭の悪い張五、そして血気盛んな虎児しかいねぇんだぞ?チクショウ…!


一騎の斥候が此方に近づいて来た。


「報告!」


「うむ!並走しながらで良い、述べよ!」


「はっ!平寇将軍より、賊軍が全軍で押し寄せてきた為、これより討って出るとの事です!」


「全軍?どう言う事だ?」


「はっ!恐らく西涼に在る大小の勢力が敵となりました!」


なぁんてこったい!やってられるかっ!ヤメだ止めっ!帰るぞ!とも言えない現状…!あーっ!腹立つ!待てよ?バカ息子が先に着いちゃってんじゃん!なら平気だ!五万もありゃ暫くは持つ!


「おい!潼関までは?」


「はっ、およそ六十里かと…!」


「よぅし!騎兵は先行せよ!」


「おい、そこの!」


「は、はっ!」


「うちの歩兵の先導を休みながら頼む!」


「はっ!殿下は?」


「先に行く!」


俺も騎兵と並んで潼関に着いた。六十里…、二度とこんなに駆けるもんか!俺は今心に決めたねっ!ふん!


騎兵を先行させたおかげで馬超は奇襲もクソも無くなったがなっ!ただ釘付けになり、その場を動けずにいるから。


「ぬぅぅ…、敵もやるじゃねぇか!こんちきしょう!」


「若、今は落ち着くべきかと…」


「玲明!うるさい、それよりもここから父上の所までどうやって戻るかを考えろ!」


「…、はっ!」


山間の中で動くのも一苦労なのにすげぇなって睨み合ってる最中にちょっと感心したけど、やっぱり敵も敵で強えわっ!


「さて、と。こっちも、こっちで動くか!」


こっちに応戦する意思が無いのを確認すると足早に撤退し、行方を晦ませた。


戦闘も落ち着き、こっちもこっちでどうにか落ち着き、総員計十万弱しか残ってない有り様だ。高景の五万、俺の四万万、郝萌の一万だ。他は四散した者や或いは捕虜になった者は計算してない。


俺は怪我人の安置と郝萌の見舞いに向かった。


「ハッハッハッ!酷い有り様だなっ!子雲よ!」


「殿下!此度は…!」


「良い、起き上がるな。先ずは養生だ」


「ありがとうございます…、ヒック、ヒック、クゥー…!」


「泣くなよ!子供か!」


「でん、殿下ぁ〜!」


「わかったよ!泣け!一先ず好きなだけ泣け!報告はその後だ!」


話…、聞けるわけないじゃん!その後、会議と言う名前の顔合わせが始まる。


「皆、揃ったな?」


「はっ!」「へい!」「はい」


三種三様な返事を貰い、とりあえず状況を確認しようか!


「さて、状況の確認からだ。張五!」


「へい!敵は奥に下がり、軍を整えてまた出向くつもりですぜ!」


んな事ぁ、わかってんだけどよ…、まぁ、しょうがないか!張五だもん!


「虎児」


「はっ!我が遼州軍は損害が微弱で敵も、我らの実力を目の当たりにして幾らか面食らっていた様に見えました。次からは慎重に相手をしなければならないかと…」


「うむ!わかった。では、『平寇将軍』」


「はい、我が軍も然程損害しておりません。ですが、ここは『遼王殿下』と共に軍を進めるのが得策でしょう」


ここまでの会話を聞いて張五は違和感を覚えた。


「ねぇ、張家の若旦那…、世子と殿下に何かあったんですかい?」


「話すと長いですよ?」


長安での経緯を全て話、納得がいったようだった。


「大将…」


「今は何も言うな…」


「張五、バカ息子を頼んだぞ」


「へい」


勿論、面子を保つ為にこんな話は間違い無く皆が去った後に話した高順である。


たが、馬騰達は彼らを休ませる筈も無く襲いかかって来る。


「皆の者!遠慮することは無い!世子の仇を討つ!」


「「おぉー!」」


「義兄、ちと弱すぎねぇか?」


「何がだ?」


「あんなんじゃ…、やる気出ねぇぞ?」


「何が言いたいんだ?言葉によっちゃァ…」


馬騰も西涼の荒くれに揉まれて今日まで生き抜いた男である。そんな男が言葉を粗げれば皆もわかってくる大事だと。


高順は不安で精一杯だ。侯成…、この男は遼州軍の内部事情を詳しく知る軍事中枢に限りなく近い将軍だ。


「クソっ!俺が出るしかねぇか…!」


「おい!将軍達を集めて来い!戦っちゃるわい!」


郝萌以外の将軍が揃った。


「よぅ!揃ったか!」


「「はっ!」」


「なら、今から話す事は他言無用だ。口を滑らせれば軍規によって首を斬る!」


「「…」」


「俺は平寇将軍と共に敵と正面から当たり、張五、虎児は別働隊を連れて機を伺って敵陣に一撃離脱せよ!留まるな」


「「はっ!」」


「何か、言う事は?」


「殿下、宜しいでしょうか?」


「どうした?」


「禁軍五万と将軍の私兵七百でどう戦うつもりかね?」


「あ?んなもん成る様に成るよ…、お前は敵に崩されない程度に踏ん張ればどうにでもなる」


「では、殿下は?」


「俺か?好きな様にやらせてもらう。それだけだ」


丈人視要處

窄狹容單車

艱難奮長戟

萬古用一夫


この潼関は後に天下第一関として名を馳せた。漢詩…は杜甫から拝借して俺が書いた。事実、春秋戦国時代は秦が西の函谷関に拠って諸国と正面からやりあったが、時代が移ると徐々に潼関が重要になってくる。後数世紀もしたらの話だ。


西涼諸軍閥対朝廷軍。両軍合わせて十八万が戦い、血の流れが河に成り、骸は積もり山となり、後漢朝最悪最長の内戦が幕を開けた。



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