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第二十五回 樹欲静而風不止 不臣之心亦波瀾

さて、遼王に封ぜられた俺は論功行賞の場には居なかった。何故なら封地に向かう途中である。俺が王位に封ぜられた事自体文官達の逆鱗に触れた様なもんだからな!群臣口を揃えて反対したが、二百万の兵権を返上、更に未開の土地を開拓してくれる。軍閥が朝廷の中枢から遠ざかった。そういう事で溜飲を下げようとするが公でも良かったのでは?との声が多数届いたが、将兵らに報いる為、仕方無く王に封じたと言うのが皇帝の本音である。


俺の封地である旧高句麗国は元々朝鮮諸国の中でも最大国力を誇る国であった。だが、竇輔が無謀にも戦を仕掛けてきたので扶余、沃沮、伽耶、于山国、耽羅国等の国があり隣接してない部分は基本的に攻めないようにしていた。沃沮に関しては東と北に別れており、その上には挹婁なる部族国が有った。東沃沮は高句麗と組んだ為俺は派兵して滅んでもらった。更に戦略上、十五万の兵を鴨緑江に配置し、楽浪郡と帯方郡の奪回を試みるパフォーマンスをして竇輔らの油断を誘った。残念ながら朝鮮の政界に錦衣衛を潜り込ませるのに大変苦労したので今は攻め時じゃないと言う事だけは明白である。


晋陽に到着した。


「さて、飛燕!諸先生方に出発のお知らせだ!」


「あいよ!」


まぁ、王になって暫く浮かれてんだ。ちったァ勘弁してくれ!俺は屋敷に着くなり妻、子供、下人達に通達した。


「陛下の勅旨である!鎮北将軍高順、敵を撃退した功により、新たに遼州を設置し、遼王に任ずる!」


俺は言い終わると妻達は顔を合わせた。


「あの人遂におかしくなったのですか?姉様、お医者を!」


「呼ばなくても良いよ!死にたがってんだよ!陛下の勅旨を偽造するなんて!」 「あのぉ…」


「なんだい?呂氏」


「陛下の勅旨は本当です…」


「何であんたが知ってんだよ!」


「私は、洛陽に置かれておりましたので…」


「あー、そっか!」


「まぁ、良いですわ!王になられたのだから封地に行かねば其れこそ首を刎られます」


「おう!早く片付けてくれ!」


屋敷の者を待ってる間、俺は洛陽出る前日、御前に呼ばれた事を思い出していた。


「高卿、いや、遼王…」


「はい、陛下」


「朝廷の文武百官は皆反対しておったぞ?」


「言わせておけば良いのです。陛下は臣を王位に就ける将兵らの目には希望に映りましょう。王位に就いた事で兵権を返上致しました、文臣や内閣府は文句も言えぬ事となります」


「うむ、一理有るな。兵五十万と言うのは?」


「はっ!扶余、東沃沮、北沃沮、挹婁、伽耶、于山国、耽羅国等高句麗の同族諸部に下手な動きが出来ぬように監視の目を増やすのです。更には何時如何なる時も討伐が用意となる上に五十万の将兵が居るとなれば無闇に動きますまい?」


「うむ、ならば仕方あるまい…、誰ぞ、墨を研げ旨をしたためる!」


「はっ!」


「陛下、恐れながら…一つ…」


「何じゃ?」


「はっ、二百万の禁軍の指揮系統は予め決めておりますが、その最高指揮は陛下に有ります、くれぐれも濫りに…」


「うむ、わかっておる。この漢の中で信用に足る者は卿と皇伯くらいよ!」


「はて?皇叔や内閣府の面々は?」


「ふん、己の抱負を優先し皇権を無視する者らをどう信用せよと?」


「伯安様は…宗室として…、臣は?」


「ふっ、義真らから聞いておる。暴虐の中に微かな光を見せてくれたのだからな。朕は其方を信じておるが…」


「はっ、心得ておりまするが…、状況によっては…」


「うむ、朕も心得た」


「では、立ちます」


「息災でな!」


「有り難きお言葉に感謝いたします」


その日の晩、伏完の屋敷に反対派が集まり、声高に高順の批判をしていた。


「あの者、叛臣を討つ名目で謀反を企てておるでは無いか!」


「「そうだ!そうだ!」」


「しかし、国丈…」


「どうかしたかね?董大人?」


「いや…、高順は王位を要求する代わりに二百万の精兵に数十名の良将を献上したのだぞ?其れにあの者自身我ら政治的中枢から離れるのだからこれ以上何を臨みましょうか?」


周囲がザワザワしだした。


「それが我らの役に立つとでも?」


「仮にあの者が謀反を企てたらあの二百万の兵があの者に靡かぬとでも?」


其れはそうである。二百万が呼応すればひとたまりもないのである。其れを危惧するのは当然な彼らだが、一つ間違えているとすれば高順と言う男を深く良すぎているのである。 だが、董承は悟った。この者らは既に高順を謀反人と定め排除しようとしているのか…。 私は、そうは思わない…。何故なら内閣と御前の前で高順は言い放ったのだ。


「我が将兵は陛下に忠誠を誓い、陛下の旨無くば誰一人と勝手に動かす事を許さん!」


こうして、北方二百万の将兵は陛下の手に渡ったか…劉備、曹操、ましてやこの私も欲しいくらいだ!だが、高順は内閣府の中に居る誰よりも理解っていた。内閣府の中で誰かが、この中の人間が其れを手に入れれば国政を壟断し第二の董卓が出てくるであろうとな!


「二百万の将兵を我らに渡せばよかったものを!」


「私は…高順が正しかったと思っております…」


「何ぃ?!」


「この二百万の将兵を陛下以外の手に渡れば此の漢は其れこそ終わりでございますぞ!諸大人は其れを良くお考えを!我ら内閣府は其れを理解した上で承認しております故!」


董承は其れを言い残し、その場を去った。


この時代の英雄、名将、謀士らは誰も高順に及ばなかった。高順は二百万の将兵を統率出来るかどうか何て簡単な事だ。天子の威厳に数十名の将軍の忠誠、更に皇甫嵩、朱儁、盧植らが鍛えた劉協である。最早、権臣の傀儡になる事の方が難しい位に成長していた。 上は朝廷、下は市井、皇帝の評判は章帝の以来の名君と評される程の名君にもなった。 だが、二百万の軍となると皇帝もクソも無いのである曹操からの不満が噴出し、内閣府からは批判の声が集まった。


(孝父め!何を考えて居るか!この俺を差し置いて陛下に差し出すとは!暴殄天物とはこの事よ!)


曹操は納得がいかなかった。北の四州は喉から手が出るほど欲しいが、高順と朝廷が其れを阻んでいた。現に兗州、豫州、徐州の三州のみを制し、史実とは大幅に版図を削られていたのである。


(ケッ!あの得体の知れない馬鹿野郎!俺に渡した方が良いに決まってんだろ!俺だって漢室の末裔だぞ?この景帝が九子中山靖王の末裔ぞ?皇帝と言えども戦をした事も無いあの小童に…!)


劉備はそう思っているのだが、本当に子孫であればこの劉勝もあくまで景帝の制度上の子であって、実子では無い、よって劉備の本来の姓は賈姓となる。つまり、劉備は漢の皇室とは全くの無関係だ。こじつけも甚だしい。


(ふふふ…、高順め!やり手だな!太師が目をかけるだけ有るわ!)


董承はこれを認めざるを得ない、何しろ自身は高順と違って実力で今の地位を手に入れた訳でもなければ、劉備とも違い死人に口なしの状態で先々帝の母の親戚という身分を偽り娘を嫁がせて今の地位がある。


(何を考えて居るかは知らぬが悪手では無いな!)


光武帝以来の血筋ではあるが、劉虞自身は一地方の長官に過ぎず、高順に助けられてから東海王に返り咲いた。何よりも皇帝、皇室の威厳が回復しつつある事に喜んだ。 と曹操、劉備、董承、劉虞らがそれぞれの考えを口には出さなかったが、それぞれの思惑があったのは確かである。だが、高順は内閣府だろうと胸の内を明かさなかった。


その頃、高順は荷物をまとめて洛陽を何時でも出れる準備をしていた。


「孝父!居るか!」


チッ!来やがったか!


「おう!居るぞ!」


孟徳は片手に剣を携えて居た。という事は俺の決定に不満があるという事だ。


「高将軍…」


「悪来、言うな。判ってるよ」


「ありがとうございます…」


「だが、万が一の時はお前と許将軍で俺らを止めろよ?」


「はい…」


さて、保険は掛けた。孟徳と俺は互いに剣を抜き、撃ち合う。


「貴様ァ!自分で何をしたのかわかっておるのか!?」


「あぁ、判ってるよ!」


「ならば、何故この俺を差し置いて陛下に!」


「ケッ!お前も所詮は馬鹿の類だろ?」 「がぁぁあああ!」


「ふんっ!」


「もう良いだろう?三十合も撃ち合ってんだ。帰って奉孝や文若に聞いてみろ!てめぇに渡すのと陛下に献上するのとどっちが賢明かをな!」


「…!」


「悪来!その馬鹿を連れて戻れ!」


「はい…」


ふぅ〜、馬鹿め…。有る頭で考えろよ…。 諸将を集めて訓示を出した。


「皆!何事も無い!早く準備せよ!遼州はここより遠いぞ!」


俺はこの時嫌な予感がした。曹操は光明磊落に将軍府を訪ねて自分と撃ち合ったが、もう一人、乱世の梟雄劉備は?恐らく何処かで俺を襲い、兵を奪い曹操を討ち天下を我が物にせんと欲するだろう…。


洛陽を発ち、河内郡に入った途端に嫌な予感が当たった。


「ケッ!奴さんのお出ましだ!戦に備えろ!呉資!お前は近くから兵を連れて来い!」


この二万弱の兵であの三人の虎将から家族を守れる保証など無いに決まってる!さて、ここは俺と麹義でどうにかするしか有るまい?


「二弟、三弟、アレは王位を強要した逆賊の高順だ。討ち取れるか?」


「ふん!兄貴、聞くんじゃねぇよ!命令してくれりゃァ直ぐにでも!」


「なら、行ってこい!叔至は俺の元にのこれ!」


「はっ!」


趙雲は悩んだ。昔日に高順に助けて貰った恩義が有るからだ。


(両軍対塁、私は毅然と戦えるが…!この様なやり方は英雄に非らず!どうにかして…)


「子龍!戦いたくて疼いておる様だな?行ってこいよ!公孫兄者の仇を討って来い!」


「はっ!」


(これは良機を得た!)


高順は落ち着いていた。予感していたからこそ冷静で居られたのである。 麹義、章誑は関羽、張飛に及ばないが…、敵兵を討つ程度ならどうにでもなろう。 此処は司隸、つまり都の外であり皇帝の目下でも有る。劉備は忠臣の自負を持って朝庭に居る。だが、こうして兵を動かしたという事は皇帝の言葉に反し不臣の心を持っていると言う事の表れでもある。 高順は槍を振るい、敵兵を数十名刺し殺したが、一人雑兵を捉えて劉備に伝言を託した。


「おい!テメェんとこ大将に伝えなァ…!俺の兵が欲しけりゃくれてやる!だが、テメェが俺より弱かったら意味ねぇからテメェで取りに来い!」


「ヒィィィ!」


張飛に不意打ちをかまし、関羽を止めた。『強将之下無弱卒』の言葉通りである。高順は元々呂布の配下なのは誰もが知っている事実である。 関羽を目掛けて、事を済ませようと馬を駆けた。


「雲長兄…此処は一つ弟を連れて退き下がりな!」


実質二番手の関羽に話すのが一番早いと思ってる。


「高将軍、最早遅いですぞ?」


遅い?どういう事だ?


「なんだと?」


嫌な予感しかしねぇ!


「兄者は既に将軍のご家族を…」


あんのゲスがァ!関羽…、アンタはやっぱり軍人じゃねぇ、侠客だよ!


「チッ!姑息な野郎だな!これだから大軍を託すに値せんのじゃ!」


「…」


「此処は退きな!俺の配下は戦わせりゃアンタら全員倒れるまで終わらねぇぞ?」


「うむ、忝ない!益徳、帰るぞ!」


「…、おう!」


こうして、劉備軍の主力が戦場から離れたが劉備自身は高順の家族をつけ狙っていたのである。


「ご婦人方!」


この中に小さな兵が居た。そして大人達は皆驚いた。


「やい!大耳野郎!姑息な真似してんじゃねぇよ!」


董媛と蔡琰は驚きを隠せずに叫んだ。


「尚武!」


「お前にはまだ無理だ!退がりなァ!」


「アァン!?何処のどいつだよ!俺の事を大耳つったのは!」


「この俺だ!姓は高、名は景、字は尚武!前将軍が長子だ!」


「ほー?そうするとあの高順の倅か!こりゃあ良いもんと出くわしたな!覚悟しやがれ!」


劉備は双剣を抜き、高景に斬りかかった。 高景も飛鉄槍を構え、手を出さなかった。高景は父の教えを思い返していた。


「おい、バカ息子!良いか?相手の得物が二つある時は先に手を出すなよ?」


「何故ですか?先に手を出した方が有利では有りませぬか?」


「ん〜?ならやってみるか?」


高順は双錘を構えて、高景が槍を突き出す。高順は右手の錘で槍を叩き、左手の錘を高景の顔面辺りで寸止めした。


「どうだ?バカ息子?これでも先に手を出した方が有利だと思うか?」


「父上の言う通りです…」


「ハハハハ!これから大いに間違えて良いぞ!でなければお前は成長しないからな!」


「…」


そんな事があり、高景は劉備と対峙しても平静として居られた。


「しゃあねぇ…死ね!」


「ふん!」


高景は劉備が先に剣で突いて来たのを見ると槍を突き出し、そのしなりで剣を叩いた、劉備も空かさずもう片方の剣で斬ろうとしたが高景も直ぐに槍を返しまた叩きその弾みで槍を上にした後穂先で劉備の肩を叩いた。


「へん!どうでぇ?クソ雑魚め!」


「うるせぇ若造が…!」


「ばーか!だからおめぇは雑魚なんだよ!父上ならこんなアホな事しねぇんだよ!」


「なっ…!がはぁ…!」


肉を切らせて骨を断つとは良く言ったものである。劉備は高景にやられはしたが、その流れで高景を斬ろうとしていた。高順が間一髪で駆け付けた。


「皇叔!」


俺が駆けつけた時には劉備の肩には既に傷が出来ていた。


「皇叔!如何なされた?!」


「ほぅ?やっと大将のお出ましかい!殺るならとっとと殺りやがれ!」


「皇叔、犬子が無礼を働いた様ですな。ここはどうか我らを無事に行かせて貰いたい」


「てんめぇ!」


「礼を尽くすのはここまでだ。大耳野郎、一つだけ忠告しといてやる!俺が鍛えた二百万の将兵は陛下以外の者が指揮すれば天下は治まるどころか益々乱れる!もし動かそうものなら俺が動かした者を斬る!判ったら消えろ!」


「…!」


「もう一つ忠告だ。テメェの野心は知らん訳でも無いが、もしお前らのせいで俺を遼州より内側に引っ張る時は三兄弟纏めて殺す」


俺たちは急ぎ晋陽に向かい、家族と合流し、冀州から幽州に入り、遼州に着いた。


遼州に着いた途端に俺は先ず家を安置する事にして、王妃蔡昭姫、世子高景のみを決め、其れから諸将を安置して内政に励んだ。錦衣衛を未だに手中にしている俺には誰も手出しが出来ない状況を作り、皇帝の本軍は張遼、徐栄、張郃、張繍が忠誠を誓った事で天下の諸侯は継承する事を諦めた。


皇帝は更に劉虞を燕王(封地を幽州)、劉備を漢中王(封地は漢寧郡)、劉表を楚王(封地は荊州)、劉範を蜀王(漢寧郡を除した益州全域)に封じて宗室を固めた。曹操を魏公(食邑は兗州)、孫策を呉侯(封地は揚州)に格上し、孫堅を入閣させた。内閣府は劉虞を首輔として運用していき、百官を統率した。国外には依然として鮮卑、羌、氐、羯、百越、南蛮それぞれの諸部族らを外敵として抱えたままである。劉備と劉範は益州奪回に心を腐らせ、劉表は益州から来る敵を防ぎ、曹操らも兵を派遣したりと風雲急を告げた。 高順は遼州を広げる為に先ずは鴨緑江以北の朝鮮諸部族の討伐の準備を進めていた。


「よぅし!先ずは富国強兵だ!皆頼んだぞ!」


「「はっ!」」


遼州は中枢の百官から見れば州では無く国だ。ネガティブキャンペーンとして遼州に王有り、小朝廷として独立している。と言う謡言を流行らせ行く予定らしい…。錦衣衛まで渡さ無くて良かったなと今でも思っている。遼州の政治機構は軍部、民政省、六扇門、錦衣衛、執法省を設置し、治安維持等に細心の注意を払いつつ軍部を増強させ、諸外敵の監視をしつつ自身を肥えさせて行った。 言っとくが、己の保身なら全ての官職を辞めて屋敷に籠るなんてのは愚の骨頂だぞ?殺してくださいって言ってる様なもんよ?今の俺に配下の将軍がいて、兵がいて、権力を持ってるからこそ向こうも手を出さないんだよ?其れを放棄したら殺してくださいじゃねぇか!そんな馬鹿なことはしませんよ…ははは…。


董承、伏完らは高順を危険視し、更には排除せねばならない漢の害悪であると認識していた。


「あの者を除かねば…!見ておれ!二百万を陛下に献上したとは言え、未だに五十万の兵を抱えておるのだぞ!?これを見過ごせるか!」


「伏大人、落ち着きなされ…」


「落ち着け…?」


「高順に野心有れば、二百万も献上致しませぬ…」


「何故わかる!?」


「では、軍属の者としての意見を述べさせてもらいます。本来、百万も献上すれば良いところを全軍に近い数字ですぞ?更には五十万を残し、領土の開拓、国境の防衛を担う…非の打ち所が御座いませぬ」


「ふん!そんなもの、彼奴が自らの野心を隠そうとしておるのと何が違うのか!」


董承はもう何を言っても無駄だと悟り、内閣府の中で彼を庇いつつ、高順の権益を損なわないように務めた。やりたくてやってる訳では無い、今の内戦、更には益州を失った今、高順と敵対するのは百害あって一利無しである。


高順は北に辿り着き、先ずは侯城に自らの本拠地を定め、そこから領土を徐々に拡大させ、軍を配置した。 徐栄、張遼、張郃、張繍が各十万を率いて四方に配置し、徐栄は東方軍、張繍は北方面軍、張郃には西方面軍、張遼には南方面軍としての配置させ、残りの十万を割き、張燕に四万の兵を遊軍として与え、各方面軍を補佐させて、残りの五万を諸将に任せ、麾下一万に留めた。


「殿下、このような配置では…」


「良い、気にするな。虎穴に入らずんば虎子を得ず…この位してやらねば寧ろ、向かって来れぬであろう…」


「はっ」


文臣達と会談した。


「皆、孤は一度だけ非道を行おうと思う」


先ずは田豊が口を開いた。


「…殿下、どのような事に?」


「うむ、高句麗の者らを奴隷階級とし、全てを兵とする、功を立てればその身分を返し、力無くば沙場の骸となろう…」


皆、沈黙に入ったが、高順の考えを理解するのに苦労したが最終的には同意した。五十万の兵しか居ない今、其れしか出来ること無い、成る可く自軍の犠牲を減らしたいのも本音である。 そして、鮮卑、匈奴、烏桓の三部族が大挙して攻め入って来た。これに、漢廷は震撼し、北の防衛の重要性を重視する者と、これを更に危険視する者が現れた。 これに、三方の軍に動揺が走ったが、張郃が食い止め、張燕が駆け付け、高順自ら其れの討伐に赴き、叛乱を食い止めた。


「尚武、共に来い!お前は遼王世子である。その世子が軍功を立てずに俺の後を継げると思うなよ?」


「はっ!行きます!」


「媛!家を頼んだぞ!」


「あいよ!任せな!」


戦いは終わったが、高順は内心幾許かの寂しさを覚えた。王位を得たとは言え、朝廷内では孤立を極め、引いては今回の戦いに関して中枢は支援の必要無しと判断され孤立無援の中で戦った。 クソが…!今回の戦いに支援しなくたって褒賞くらい有ったって良いじゃねぇか!其れが何も無い?誰だ、誰がこんな理不尽極まりない決定を下したのは!クソが!いっその事、独立しちゃろうかい!こっちは未来を知ってるんだぞ! ハッ!と我に返り、今考えた事を誰かに知られれば、それこそ死が待っている。其れこそ、寿命を迎えて死ぬ事に反するからだ。不臣の心を持ち始めた事も又事実である。


時は流れ、洛陽の朝廷では蔡邕が病に臥せっていた。彼は高順の義父であり、当代随一の学者として名を馳せていたが、齢七十を超え、その体は衰えるばかりであった。皇帝劉協は自ら見舞いに訪れ、その功績を称えた。


「蔡卿、朕は卿の尽力に心から感謝する。卿の学識なくして、今日の文化の興隆はなかった」


蔡邕は床の中でゆっくりと首を振った。


「陛下、過分なるお言葉…。臣はただ、漢室の為、微力を尽くしたまで…」


その言葉には深い憂いが込められていた。蔡邕は朝廷内で高順を擁護する数少ない人物の一人であった。彼は高順の真意を理解し、その苦悩をも察していた。


「朕は知っておる…卿の心中を…。遼王の事は朕も…」


「陛下…、孝父(高順)は…決して…不臣の心など…持ってはおりませぬ…。ただ…あまりに…純粋すぎるばかりに…誤解を招いておるのです…」


蔡邕の声はかすれ、息も絶え絶えであった。


「どうか…陛下には…孝父を…信じていただきたい…。彼こそが…真に漢を護れる…最後の…武将でございます…」


蔡邕は最後の力を振り絞り、皇帝に訴えた。


「臣の…最期の願いと…お聞き入れください…。孝父に…漢を護るように…お伝えください…。彼ならば…必ずや…」


言葉を終えると、蔡邕は静かに息を引き取った。その死は天下に衝撃を与え、多くの文人、学者がその死を悼んだ。皇帝は深く悲しみ、蔡邕に太師を追贈し、その功績を称える詔を発した。


その訃報は速やかに遼州にも届けられた。高順はその知らせを聞くと、しばらく言葉を失った。彼は屋外に出ると、南の方角に向かって深々と頭を下げた。


「義父上…、ついに…お別れでございますか…」


高順の目には涙が浮かんでいた。彼は蔡邕から多くのことを学び、時に叱咤され、また励まされてきた。その義父の最期の願いが、自分に漢を護れというものであった事に、胸が熱くなった。


「お約束します…義父上。私は必ずや漢を護り抜きます。たとえこの身がどうなろうとも…」

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