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第二十四回 退敵有功晋王位 私自出戦解兵権

【竇輔の野郎!いつか殺してやる!】


こうなったのも、野郎旗色が悪いと鮮卑に援軍を頼みやがった!こうなると此方も当たらなきゃ行けねぇじゃねぇか!って事で俺は今、対鮮卑前線に居る。


高句麗戦線はほっといていいのかって?そら、あの曹操大先生が居るんだからよ!平気だろ?うちの兵達も引き継ぎはしてあるからちゃんと戦ってくれるさ!


「忠権!敵は!?」


「へい!敵は鮮卑の先遣隊、敵将はバンドゥルとか言う奴です!」


「そうかい、兵力は?」


「へい、敵も流石に先遣隊だけあって数はそう多く無いです。見積もって五万程かと」


「良くやった!休め。呉資!どうする?」


「はっ、此処は一旦様子を見るべきかと…」


「そうかい?なら、忠権、前言撤回だ。もういっぺん敵の本隊、輜重を探って来い!」


「ブフー!へ、へい!」


「さて、麹義!」


「此処に!」


「我らの兵は?」


「俺の歩兵四万、騎兵二万で先陣を敷き何時でも構えられるぜ?」


「いや、未だだ。バンドゥル如き何時でも討てる。問題は敵の総大将よ!」


バンドゥルは城門に着くと三日三晩城門から一丈離れたところで此方を罵るが、全軍に無視する様に伝えた。


「良いか?絶〜っ対に相手にするなよ?敵の総大将が後ちょっとで来るんだ。それ迄我慢しろ!後で好きなだけ殺して来い!良いな!」


「「はっ!」」


だが、その場に麹義の姿は無かった。


(ケッ!殺すなだって?やってられるか!)


「麹将軍!」


「おう!何でぇ忠権か!どうしたい?」


「将軍はどちらに?」


「恐らく、未だ配置の相談でもしてんじゃねぇのか?」


「そうですかい、わっかりやした!あと少し待てばあの野郎どもを殺しに行けやすからね!」


麹義は後に語った、張五のこの一言が無ければ叛乱を起こすと決めて居た。


(何でぇ…、段取りがあるなら教えてくれたって良いじゃねぇか!)


その頃、張五は高順に敵将が誰か等の報告を済ませて奇襲しに行こうとしていたが、章誑に止められた。


「忠権!何処へ?」


「えっ?チョイと燃やしてこようかと…」


「将軍の命令か?」


「いえ…」


「ならば、止めておけ」


「へい、しかし…!」


「将軍はまだ何も言っておらんぞ?」


「へぇ…」


こうして、次の日の朝も敵は罵戦を仕掛けて来た。痺れを切らしたのは高順配下の諸将じゃ無くて、高順自身だった。


「章誑、麹義!将兵を集めろ!」


「「はっ!」」


「将軍!」


「呉資、後は頼んだ!」


「はっ…、しかし…!」


「ごちゃごちゃ言うな、やらなきゃ死を待つだけになる。此処は俺が行くのが一番いい」


呉資は高順の強情に折れ、止む無く長城の守備に付いた。


「張五、章誑、麹義!行くぞ!」


「はっ!」


此処は臨機応変に対応出来る張五、手堅い中堅の章誑、武勇を誇る麹義、攻守技が揃った部隊だ。三万の騎兵のみで出撃した。


バンドゥルはこれを見逃す訳も無く当然食らいつく、其処に呉資が拒馬柵等を配置し、守城戦の準備を進めた。


上からは矢が降り注ぎ、地上からは敵の横撃を喰らうバンドゥルに撤退の選択は無かった。戻っても騫曼に殺されるからである。


「チィ!野郎、退かねぇなぁ…」


「おい、張五!裏に回れ!章将軍、此処は俺が横に回る故、正面をお願い致す!」


「判った!」


敵将バンドゥル迄は大分距離が有る。麹義にも判る届くはずが無いと此処で敵に大打撃を与えればどうにでもなると判っていたから敵将を狙わずに周りの将兵を徐々に殺して行った。


バンドゥルは麹義を片付けようにも張五に攻められ、張五を攻めようなら麹義が図に乗る。兵を分けて両方の相手をしようなら、真ん中の章誑が兵を出す。


「ふふふ、そろそろ頃合いですぞ?将軍!」


章誑の言葉通り、高順は敵軍の後方から敵を襲った。


「よぅし!野郎ども!他には目をくれるなよ?敵将だけを討てば良い!」


「「おおぅ!」」


時間を置かずにバンドゥルが殺された。高順も脇腹に擦り傷を負った。理由は、慣れ無い矛を扱うからである。普段扱い慣れている槍を扱えばこの様な事は無かったが、袁紹との一戦以降、矛に切り替えたがやはり慣れない…。槍の改良が必要だな!二度と使わん!此の戦が終わったら見てろよ?使うかクソボケぇ!


ついでに大規模な遊牧痕を見つけて、遂に敵の本営を見つけた。


「章誑よ、我らの兵は後どのくらいある?三万二千程…」


「そうか…、ならばお前らは正面より敵を引き付けよ我等は奇襲をかます」


「将軍!」


「よい」


「しかし…!」


「こう言うのは俺がやるに越したことはないよ」


「良いか?五千を敵の正面に、二万を敵の両側面に、俺が七千を連れて乱れてから突っ込む!」


「「ははっ!」」


未明には配置が終わり、両翼には麹義、張五が、前後には俺と章誑が同時に侵攻し、鮮卑は奮戦したが数が及ばず、逆に殲滅されるかと思ったが、張遼と徐栄が十万を連れて敵を包囲して挟み撃ちの形を取り戦いは終わった。


「鉄玄、文遠!助かったぞ!」


「将軍!将軍は三軍の主将ですぞ!この様に軽率な動きは…!」


「すまん!以後改める!」


「ぐ…!」


「まぁまぁ、徐将軍、将軍もこう申されて居られますし…」


「判ったわい!」


引き上げた。長城に戻り、その後并州に戻る予定であった。竇輔が引き起こした一連の騒動は【建安胡侵】と後の史書に記される事となるのであった。


結果は高句麗の撃退、鮮卑の壊滅、羌の服従、氐が益州を掌握すると言う結果的には漢の負けである。戦争には勝ったが、勝負に負けたって奴だ。これに流石の皇帝も激怒した。


「劉焉とその子らは何をしておったのだ!ぬぅ…!誰ぞ失った地を取り戻せる人間は!?」


「「…」」


「己らは木偶か!兵を千日養うは、一時の用に在る!朝廷は何の為に貴様らに禄を出ておるのか!」


「陛下、落ち着いて下さい!」


「臣、董承、不肖ながら兵を領し、益州を取り戻したく存じます!」


「国丈、兵はどのくらい必要か?」


「十万程あれば…」


「陛下!北より高将軍より、国境の備えに関して…」


「ぬぅ…、国庫は底をついておるのだぞ?あの者は未だ足りぬと申すか!」


「はい、さらに高句麗の国土の六割に当たる土地を収めたとの事!」


不幸中の幸い、か。


「流石、曹操であるな!」


「「陛下、おめでとうございます!」」


「陛下…」


「高将軍の奏表には鮮卑の壊滅的打撃を与えたとの事」


「うむ!流石は朕の鎮北将軍である!戦は出来るが、もう少し政を学ぶように!」


「後日主だった将を参内させ、論功行賞を行う!良いな!」


「「ははぁ!」」


だが、文官は達は焦った。文官の頂点である丞相が廃され内閣府が成立してから曹操、袁紹、董承、伏完、劉備、劉虞らが名を連ねて久しい。袁紹は勝手に兵を興し、高順に敗れて汝南に禁固され、劉備は曹操と政争を繰り広げその後戦争に至るが危うく滅ぼされるところまで追い詰められた。武官に至っては、高順が頭一つ抜きん出て北の四州の軍事を差配する権限を持ち、兵二百万余りを誇る天下の一大諸侯であり、陛下の忠臣と言う名声も得ている故、無闇に罪を定め排除する事が出来ないのであった。文官達の危機感は高順、曹操の何れが国政を壟断し、天子を蔑ろにしないかである。高順は寧ろ文官と言う身分以前に儒教そのものに否定的な意見をその口から並べている。


それ故に,文官達は自身の立身の根本を否定された上に役立たずと言う烙印を一介の匹夫に押された形である。


武官達は文官達よりも更に高順と言う存在を忌み嫌う存在であった。


結論、高順は朝廷内では孤立無援な存在である。内閣府首輔大臣の座は劉虞が座った。次席には曹操が居る。彼らはあくまで政治顧問であり、政治を回す人間では無い。


三権分立の改革以降、立法、司法、行政の三つの政府が成立し、軍部では陸軍、海軍を成立させ長江水師、黄河水師、東海水軍、南海水軍がそれぞれ海上任務に着いた。


黄河には名目上の水師が配置されて居るが、実質ただの輸送船団である。東海水師も似た様なもんだが、海賊を招安し、戦力の確保は可能になったが、長江と南海に関しては蔡瑁が張允と共に長江を治め、南海は<江東の猛虎>こと孫堅が掌握し、差配しているからこの国で最も精強な水軍である。


夷州島(台湾)珠涯壁(海南島)を貿易の主要として、国庫の支えにもなっている。


と言うのが、今の漢の実情と情勢である。其れが今脅かされようとしている。


氐族は益州を欲しいままにして、西涼の諸軍閥もなびき始めた今、副都の長安が危ういのであった。


高順は高みの見物を決め、曹操らは其れに奔走していた。


「陛下!こうなれば鎮北将軍に軍を出させましょう!」


「ふん!あの者の奏上になんて書いてあったと思う?」


「臣は存じ上げませぬ」


「ならば、見るが良い!」


建安五年九月初五臣順叩拝聖安 叛臣竇輔勾結高句麗犯辺境罪在不赦今已平叛北疆無慮其国土十之有六帰我大漢臣望陛下聖裁


「こ、これはっ!」


「ふん!あやつは戦が終わったにも関わらず更に攻めたのだ!この様な無名の師を挙げ隣国に攻め入る道理などないぞ!」


「はっ、陛下の言ごもっともで御座いますが…」


皇帝は高順がますます読めなかった。何故なら高順は兵三十万を旧高句麗一帯にばら撒き重税を課し敵軍を鴨緑江より南に押し込んだ。


これは、勝手に兵を動かした。この名目で謀叛と言われても高順は何も言えないのである。


高順は遼東半島より北、西の全てを手に入れこれを遼州と命名し皇帝の判断を仰いだ。そして、諸将を集め会議が開かれた。


「諸将、先ずは軍務の報告を。文遠から申せ」


「はっ、并州、及び放牧地には特に問題は御座いません。ただ、鮮卑が未だに蠢いているとの事」


「そうか。うむ、遼州にも気を配らねばならんな」


「儁乂!」


「はっ!青州は特に何もございませぬただ沿海一帯に海賊が出没する程度に御座います」


「うむ。恐らくはあの逆臣だろうよ!皇叔には気を付けろ」


「玄鉄!」


「はっ!戦が終わり民も未だに疲弊しており,未だに警戒は解けぬかと…」


「うむ、玄鉄苦労をかけるな」


「他は特に無いようだな?」


「はっ!」


「判った。では、俺から一つ言っておく!今後、俺がこの四州諸軍事から外れるような事が有ってもヤケを起こす事は許さん!」


「「…!なっ!?」」


「ふふふ、朝中のアホ共がそろそろ動くぞ?ならこっちから動いてやろう!って話だよ。気にするな。俺だって疲れてんだ。休みたくもなるってもんよ!良いか?いつも通りに動けよ?」


「「はっ!」」


俺は更に自身の軍を選定し、その規模二十万に留めた。これを飛燕ら俺の直属の配下を遼州に移し、洛陽には千人程度の護衛を残すつもりだ。


此処は劉虞に手紙を出し、『論功行賞』の名簿を渡した。張遼、徐栄、張郃、張繍、樊稠等及びその配下達である。文官に関しては賈詡、沮授、諸葛瑾以外は全部残す事にした。


手紙の内容は俺を貶め、諸将を格上し俺を遼州に追いやるようにする為である。功高く主を震わすと言う言葉が有る。意味は功績が高く主君の地位を脅かす事である。


秦武安君白起、趙武安君李牧、漢梁王彭越、漢淮陰侯韓信、秦武成侯王翦、漢九江王英布、漢条侯周亜夫、南宋鄂王岳飛、清一等公爵年羹堯、劉宋永修県公檀道済、北魏太原王爾朱栄、北斉蘭陵王高長恭、北斉咸陽王斛律光等、数を上げればキリが無いから有名な人を挙げてったけど、この人達みたいには成りたくないからね!


そう言う事で、一旦洛陽に帰る!更に欲を出せば王に成りたい!と周囲に漏らし、これで俺を貶める輩が出てくれりゃそれでいいんだけどなぁ…。


さて、洛陽に着くなりいきなり参内せよと呼ばれて行った。


其処には皇帝を始めとした袁紹、竇輔以外の内閣府の閣老が居た。


「臣、陛下に拝謁致します!」


「うむ、挨拶はよい。高卿、勝手に戦を興した事の弁明を」


「はっ!高句麗は鴨緑江より南は半島になっております。北側は山間に囲まれて農耕には厳しい環境ですが、南はそれなりに肥えた土地が有り暮らすには十分かと」


「そなた…!何故…?!」


「我が漢を犯した対価に御座います」


「高将軍!」


「犯我大漢、遂遠必誅!」


「「…!」」


俺の大義名分は、戦争を仕掛けられたからやり返したまで。皇帝を含めて他は言いたい事が有っても黙る以外選択肢が無い状況になった。言い換えるとシラケたって奴だ。


当たりを見渡すと曹操は笑いを堪えて、劉虞は皇帝の顔色を伺っていて、董承は怒りたいが何も言えず、劉備は泰然自若にしている但内心何を考えてるか気色悪い。


「さて、何も無いようなので臣は退き下がらせて頂きます」


「高卿!」


「何でしょう?」


「北は引き続き任せる」


え?嘘?聞いてないの?てか、まだ何も言ってないの?


「陛下」「陛下」


劉虞と曹操が同時に声を発し、曹操が劉虞に譲った。


「伯寧様、何か言いたき事が有れば言うが良い」


「はっ、ありがとうございます。臣は高順の功績と罪過を酌情し、処理した方が宜しいかと…」


「臣も同じくその様にした方が良いかと」


三日後、詔勅で兵権を返納し、遼州を治める事を認められ、晋陽公爵から遼王に格上げされた。内訳は兵権を解かれたのは俺の権力を削ぐ為、王に封ぜられたのは外敵を撃退した功績による。と言うものだ。将軍府も王府代わり、俺も荷物をまとめて遼東半島に出向く事になった。全てが新しくなる為、一から政治、軍務の重圧が一気にのしかかって来た事に俺はこの時未だ気づいて無かった。


遼東への旅路は、思っていた以上に骨が折れた。かつて戦場で疾駆した馬も、今は荷車を引く役目である。配下の将兵たちは複雑な表情を浮かべながらも、黙って従ってくる。


「殿下、今夜の宿営地は前方十里にございます」


「ああ、そうか」


もう「将軍」ではなく「殿下」と呼ばれる。王位を得たというのに、何故か空虚な気分だ。洛陽を発つ際、賈詡がこっそりと耳打ちした言葉が頭から離れない。


「殿下、虎は野に放たれてこそその本性を現すものですぞ」


はあ、どういう意味だよ。俺はただ、朝廷の面倒な争いから逃れたかっただけなのに。


宿営地に着くと、早速書類の山が待っていた。遼州の地図、人口統計、税収の見込み…目を通すだけで頭が痛い。


「章誑、これ全部俺がやるのか?」


「はい、殿下。遼王としての職務でございます」


「くそっ、戦ってる方がましだったぜ」


夜も更け、一人テントの中で酒をあおっていた時、外物音がした。


「誰だ?」


「失礼いたします。張五でございます」


「おう、入って来い」


張五は緊張した面持ちでテントに入ってきた。


「何用だ?」


「はっ、実は…兵士たちの間で、殿下が我々を見捨てられるのではないかと不安が広がっております」


「は?」


「殿下が王となり、我々とは別の道を…」


「バカたれ!」


思わず怒鳴ってしまう。


「お前らは俺の手足同然だ!それをどこに置いていけと言うんだ!」


「で、ですが…」


「良いか、張五。俺はな、朝廷の目を誤魔化すためにわざと王位に就いたんだ。お前らがいなきゃ、この遼州なんて守れるわけがないだろ?」


張五の顔に安堵の色が広がった。


「はっ!申し訳ございません!」


「いいや、お前らが心配してくれるのは嬉しいよ。明日、全軍に言っておけ。俺はお前らを決して見捨てない、と」


「はい!」


張五が去った後、俺は深くため息をついた。なるほど、これが賈詡の言った意味か。野に放たれた虎か…。ならば、この地で俺のやり方でやっていくまでだ。


数日後、遼東半島に到着した。眼前に広がるのは荒涼とした土地と、ぼろぼろの城壁。これが俺の新しい領地か。


「さて、これからが本当の戦いだな」


俺は拳を握りしめ、新しい領地を見つめた。朝廷の思惑などどうでもいい。ここで俺は俺のやり方で、この地を守り、発展させていく。それだけだ。


「全軍、これより遼州統治開始だ!覚悟しろ!」


「「おおーっ!」」


将兵たちの雄叫びが、新たな天地に響き渡った。


(承前文)


【洛陽朝廷の動向】


高順が遼東へ赴任した後の洛陽朝廷では、複雑な権力再編が進んでいた。


宮中の広徳殿では、内閣府の重臣たちが集まっていた。玉座には皇帝が座り、その両脇に劉虞と曹操が控える。かつて袁紹や竇輔が並んだ席は、今やがらんと空いていた。


「―かくして、遼東の情勢は安定いたしました。高順...いえ、遼王の治政は順調に進んでおるようでございます」


曹操が平静な声で報告を終えると、皇帝が細めていた目を開いた。


「うむ...ならば良きかな。だが、朕は未だ腑に落ちぬ。あの高順が、あのように素直に兵権を返上するとはな」


席の末端で劉備が微かに顔を上げた。その目は冷静で、何かを看透するようであった。


「陛下、高順といえども聖旨には逆えませぬ。今回の処置は、まさに陛下の威光の表れと存じます」


董承が声を張り上げる。しかし、その言葉にはどこか空虚な響きがあった。


「さて、次の議題に移るとしよう」


劉虞が静かに口を開いた。


「益州の情勢である。氐族の侵攻により、劉璋より再三にわたって援軍要請が届いておる」


場の空気が一瞬で緊張する。武将たちの間で微かな動きが見えた。


「臣、願い出でございます!」


そう名乗り出たのは、夏侯惇であった。


「臣に五万の兵を賜いますれば、益州の賊徒を掃討してみせます!」


「待て、夏侯惇」


曹操が制した。


「今、大軍を動かせば、北の防備が手薄になろう。高順は去ったとはいえ、鮮卑や匈奴の動向は予断を許さぬ」


「では、どうすればよいとおっしゃるのですか?」


董承が問い返す。その口調には、曹操への対抗意識が滲んでいた。


「交渉である」


意外な声が響いた。劉備であった。


「氐族もまた、本来は平和を望む民。劉璋の政治に不満があればこそ、反乱を起こしたのでございましょう。まずは使者を送り、話し合うべきと存じます」


「なるほど、皇叔の言も一理ある」


皇帝が深く頷いた。


「では、誰を使者として遣わすべきか?」


場が沈黙する。危険な役目である。成功すれば誉れであるが、失敗すれば命すら危ない。


「臣、行きましょう」


立ち上がったのは、荀彧であった。


「文若よ、お前が?」


曹操が驚いたように尋ねる。


「はい。交渉なら、文官の私が適任かと存じます」


荀彧の目は静かな決意に輝いていた。しかしその心底には、高順の残した影響力から距離を置きたいという計算もあった。


「ふむ...ならば、荀彧を正使、程昱を副使として益州に遣わすとしよう」


皇帝の裁断が下り、一件落着かと思われた。


その時である。殿外から慌ただしい足音が響き、衛兵が駆け込んできた。


「急報でございます!并州より、張遼将軍よりの使者が参りました!」


「張遼?それを早く参れ!」


張遼の使者は汗と塵にまみれ、息も絶え絶えに報告した。


「鮮卑の大軍、十万余りが雲中に迫っております!張遼将軍、ただちに援軍を請います!」


広徳殿は騒然となった。


「静まれ!」


曹操の一声で場が静まる。


「陛下、急ぎ対応を議すべきでございます」


「そうだな...誰か、鮮卑を討つ将はおらぬか?」


皇帝が群臣を見渡す。かつてなら真っ先に名乗り出たであろう高順の姿はない。


「臣、行きます」


進み出たのは、かつて高順の麾下にいた張郃であった。


「儁乂よ、お前で大丈夫か?」


「はい。并州の地形も敵情もよく存じております。三万の兵を賜りますれば、必ずや鮮卑を撃退してみせます」


「だが、お前の担当は青州のはずでは?」


董承が疑いの目を向ける。


「青州の防衛は、子脩(曹昂)に任せれば十分でございます」


曹操が即座に答えた。高順の旧臣を起用することには風險があるが、今は人手が足りない。


「よかろう。張郃、朕は汝を并州刺史に任ずる。急ぎ雲中に向かい、鮮卑を撃退せよ」


「はっ!必ずや聖恩に応えませす!」


張郃が深々と頭を下げる。その目には、高順に認められし将としての矜持が輝いていた。


会議が終わり、臣下たちが退出していく。広徳殿には皇帝と側近だけが残された。


「...ふう」


皇帝が深いため息をついた。


「高順がいなければ、このような小事にも朕自らが頭を悩ませねばならぬのか」


「陛下、それもまた帝王の務めでございます」


側仕えする宦官がへつらうように言った。


「そうか...だが、朕は思うのだ。高順は本当に朕に逆らう心などなかったのではないかと」


皇帝の呟きに、側近たちは顔を見合わせた。誰もが同じことを感じながら、口に出せずにいたのである。


「陛下、高順の真意はどうあれ、今は朝廷の安定が第一でございます」


劉虞が静かに諫めた。


「そうだな...あの者には遼東で静かにしていてほしいものだ」


皇帝の言葉には、複雑な思いが込められていた。最大の忠臣であると同時に、最大の脅威でもあった男への、ねじれた敬意と恐れが入り混じっている。


こうして朝廷は、高順なき後の新たな秩序構築に向け、緩やかに動き出していったのである。しかし、その基盤は決して盤石ではなく、高順の影は依然として朝廷全体に大きく覆いかぶさっていた。


(以下、各勢力の描写)


【曹操陣営】 曹操は自宅の書斎で、荀彧や郭嘉ら腹心を集めていた。


「さて、高順がいなくなった今、我々の動きも制限がなくなったな」 曹操はほっとしたように呟いた。


「ですが、高順の影響力は依然として残っております。特に軍部では、張遼や張郃ら高順旧臣の発言力は無視できません」 荀彧が現実を突き付ける。


「ふむ...確かにそうだ。ならば、我々はどう動くべきか?」


「まずは人事でございましょう」 郭嘉がすすりながら酒を飲みつつ答えた。 「高順派と見られる将軍たちを巧みに配置換えし、少しずつ我々の影響力を強める。急げば反発を買いますゆえ、時間をかけて行うべきです」


「なるほど...それでこそ奉孝だ」 曹操は満足そうに頷いた。 「しかし、面白いのは劉備の動きだ。あの男、最近妙に大人しいと思わぬか?」


「皇叔劉備は、自身の基盤を強化しているのでございましょう」 荀彧が指摘した。 「高順という最大の脅威が去った今、彼もまた動き出す時をうかがっているに違いありません」


「うむ...我々も油断はできぬな」


【劉備陣営】 劉備は簡素な屋敷で、関羽や張飛らと今後の方針を話し合っていた。


「兄者、今こそチャンスだ!曹操めの虚を突いて、一気に...」 張飛が興奮して言ったが、劉備に制された。


「待て、翼徳。軽挙妄動は禁物だ」 劉備は静かに首を振った。 「高順は去ったが、その影響はまだ朝廷内に残っているかと申し上げます」


劉備は静かに杯を置き、関羽と張飛を見据えた。


「高順は去ったが、その影響はまだ朝廷に色濃く残っている。特に軍部では、張遼、徐栄、張郃ら高順旧臣の発言力は侮れない。軽挙妄動は危険だ」


関羽が深く頷く。


「兄貴の言う通りだ。曹操もまた、高順の影響力を警戒しておる。無理に動けば、かえって曹操と高順旧臣が手を結ぶことにもなりかねん」


「くそっ!ならいつまで待てばいいんだ!」


張飛が拳を机に叩きつける。


「時期を見よ、翼徳」


劉備は静かに言った。


「今は静観し、力を蓄える時だ。荀彧が益州に向かった。この交渉の成否によって、情勢は変わるだろう」


【皇帝周辺】 皇帝は後宮で、伏皇后と語らっていた。


「高順が去り、朝廷はようやく朕の思うままになるかと思ったが...逆に収拾がつかなくなっておる」


「陛下、どうかお気を確かに」


伏皇后が優しく諫める。


「高順は確かに危険な人物でしたが、その存在がかえって諸勢力の均衡を保っておりました。今は曹操でさえ、全面に出ることを躊躇っているようでございます」


「そうだな...朕は思うのだ。高順を遠ざけたことが、果たして正しかったのかどうかと」


皇帝の目には迷いが浮かんでいた。


「あの男は確かに無作法で、朕を悩ませることも多かった。だが、その忠義は本物だったかもしれぬ...」


「陛下」


伏皇后が皇帝の手を握った。


「今さら後悔しても仕方ございません。どうか前をお向きください」


【董承の動向】 董承は自宅に、種輯や呉子蘭らを集め、密議を開いていた。


「チャンスだ!高順が去り、曹操も手を出しにくくなっている今こそ、我々の力を示す時だ!」


「ですが、董承様。軍権の多くは依然として高順旧臣が握っております。無闇に動くと、逆に危ないのでは?」


種輯が慎重な意見を述べる。


「心配無用だ!私は皇帝の義父である!これほどの大義名分はない!」


董承の目は野心に輝いていた。


「まずは宮中の守備を我々の手に収め、その後、曹操や劉備らを排除していくのだ」


「しかし、それではかえって混乱を招くのでは...?」


「黙れ!お前たちは朕...いや、私の言うことに従えばいいのだ!」


董承はすでに理性を失いかけていた。野望のあまり、自身の立場を過大評価しているのだ。


【遼東からの視点】 遠く遼東では、高順が洛陽からの報告を受け取っていた。


「ふん...朝廷の連中、俺がいないとろくに回らんらしいな」


高順は報告書を傍らに放り投げ、苦笑した。


「殿下、どうされますか?張遼将軍が鮮卑と対峙しているようですし...」


側仕えする将兵が心配そうに尋ねる。


「構わん。あの程度の敵、文遠なら一人で十分だ」


高順は窓の外を見つめた。


「朝廷の連中には、苦労してもらうとしよう。俺がどれだけ重要な存在だったか、身をもって知るがいい」


しかし、その目には一抹の寂しさのようなものも浮かんでいた。長年守り続けた国と朝廷への未練が、完全に消え去ったわけではなかった。


「さて、我々は我々で、この遼東をしっかり治めていくぞ!」


「はいっ!」


将兵たちの力強い返事が、広い王府に響き渡った。


こうして、高順なき後の朝廷では、新たな権力闘争が静かに始まろうとしていた。各勢力はそれぞれの思惑を持ち、ゆっくりとながらも確実に動き始めているのである。

本文で挙げた将軍達について


実際どれも自業自得なのである。

両方の武安君に関しては爵位の称号が悪いんじゃないかと(笑)この称号を貰うと必ず死ぬ運命に有ると言うくらいにね!実際に歴史上ではあの時代には四人の武安君が居た。項羽の祖父にして話題の漫画(和訳:王国)に未だ登場してないラスボス大将軍項燕、物語前期の最強のボスキャラ李牧、(恐らく既に故人)連合縦横の蘇秦、作品内では無敵の代名詞白起の四人である。何れも賜死、暗殺、処刑、戦死で面白い具合に四通りの死因で死んでいる。白起に関しては春秋戦国時代で約400万人が将兵として死んだ記録が有るが、その中でも白起1人の指揮で200万を殺している。大体の記録が白起、韓、魏を攻め斬首二十四万、白起、楚を攻め軍民数十万死に至らしめ、白起、長平の一戦にて二十万の捕虜を騙した後に坑殺するとかね!(3年間の累計死亡人数は四十万で司馬遷も前後って付け加えてるよ!)最期は秦の軍神こと四字熟語大辞典の昭襄王(四字熟語の約半分くらいはこの人に関係する気がするから勝手にそう呼んでいる)と丞相范睢に邪魔者扱いされて剣を賜り自決(白起は)。李牧は完全に自国の文官からも、敵国から完全に邪魔者扱いされて処刑という無惨な最期を迎えると言うね。


彭越、英布に関してはやりかねないから先に片付けちまおうか!と言う度量の狭い劉邦らしいやり方である。


韓信はもう自身がアホすぎてダメなのよ!なんで?言葉選ばずに悲惨な末路を迎えたのよね…。

劉邦「なぁなぁ、俺が将軍として兵を率いるならどんくらい?」

韓信「頑張って十万じゃね?」

劉邦「ほーう?ならお前は?」

韓信「有るだけ」

劉邦「はぁ?」

韓信「いや、あれっすよ?ほら、王は将を率いる者、将は兵を率いる者なんで王は十万だろうが何万でも率いれるじゃないですか…、は、ははっ!」

劉邦「…」

↑こう言う感じで人の気分を害する様な言葉を発する上にきっちり結果を出すから余計嫌われた


周亜夫に関しては父親が建国の元勲にして元老である。劉邦に従って秦を倒し、楚を滅ぼし、更には外戚の叛乱を未然に防ぐと言う家臣の鑑の様な人間である。其の息子である周亜夫も儒家の晁錯が景帝に藩王領の削減を提案し叛乱を起こされ其れを平定した手柄を立てたが後に文帝のバカ息子の景帝と対立して失脚、投獄され後に餓死。



岳飛は愛国狂の戦争狂いで、皇帝の気持ちを慮れないダメ臣下の代表例である。南宋皇室にも口を出そうとしたり、仕切りに徽宗、欽宗を迎えようしたり、命令違反を度々犯し高宗の面目をこれ以上無いくらいに潰したりと不敬罪で処刑しようとしたら幾らでも出来た。だが、当時の情勢等照らし合わせた結果処刑しずらい故に秦檜に対してなんか適当に罪を創って処刑しろと命令を降す。(此処で処刑したら皇帝自身の名声に関わるからね!兄欽宗も囚われだけで退位して無い、国を建て直すため一時的に即位したと言うのが帝位に付いた理由である。臣下としては優秀だっだろうが、皇帝としては役不足な人)


年羹堯は雍正帝を帝位に付け、チベットの平定等功労者ではあったが、相手はあの仕事狂にして性格酷薄な雍正帝である。清国最大の政治犯でもある。『九十二款大罪』で投獄された後死を賜る(九十二条の大罪の中で三十件弱は全て不敬罪である。不敬罪は理由の如何を問わずに処刑である。)


檀道済は戦術センス抜群の将軍で特に撤退戦を得意とした人でも有る『三十六計走るを上と為す』『自ら長城を毀す』の語源の人。性格に問題が有り度々傲る事が有り、皇帝の廃立を企てた事も有り皇帝に処刑された。檀道済の死が敵国に知られると敵国が喜び宋に攻め入り程なく宋は滅んだ。





爾朱栄は戦争では無敵を誇り、国内でも四人の皇帝を抑えつける程の権勢を持つが歴史上では趙高、董卓に並ぶ権臣、悪臣として有名である。戦争に関しては南朝最強の知将陳慶之を狼狽させる程に打ち破り、自身を『天柱大将軍』と名乗ったり、簒奪以外やれる事は全てやったが、結局は政争の最中に殺されていった。


蘭陵王と斛律光に関してはセットで解説する。同じ理不尽な君主に仕えた事で自身の命を終わらせた二人である。

蘭陵王は皇族にして勇将でもあったが、何せ自身の父親を含め身内には常軌を逸したサイコパスじみた人間ばかりである

祖父の神武皇帝高歓からずーっと普段は変態、戦争の天才として知られる一族でもある。(高家では皇帝と真面な人間は長生きしないジンクスでも有るのだろうか?)そんな蘭陵王は従兄弟の皇帝にとの問答の際に

高緯「敵陣深く侵入したが、敗北を恐れなかったか?」

高長恭「家の一大事だったので恐れませんでした」

(宗室なのでね、国と家は切り離せないのよ…)

これに皇帝は俺を差し置いて国を家に言い換えると言うのはどう言う了見だ?と言う事で後に死を賜わる事になった。

斛律光はそんな変態じみた一族が建てた北斉の将軍として仕えたが真面目さが仇となり冤罪で一族の殆どが処刑された。


と言うね、挙げたどの武将も敵、見方問わずに恐れられる名将たちで彼らにifが有ればまた違った歴史に成ったに違いないと思っております。文臣は武将の叛乱を恐れ、武将は文臣の無能を憎む歴史が中国には多々有るので興味ある人は是非調べましょう!



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