第二回 軍営中怒気衝天 沙場上血肉横飛
今回は主人公の頭の整理と高順の記憶との整理ですね。次回よりは創作ネタなど盛り込んでいきたいと思います。
時は少し遡り、治療中の陣営にて、張五が薬の煎じたての湯気が立つ椀を差し出す。その匂いは強烈で、思わず顔を背けたくなる。
「大将、さあ、これを一気に。先生がそうおっしゃってました」
「…ぐっ」
覚悟を決めて飲み干す。喉を灼くような苦味と土臭さが広がった。医者は満足そうに頷き、脈を取る指に力を込める。
「脈はまだ乱れておりますが…熱は引いております。後は静養と栄養が肝要ですな」
彼は墨を含んだ筆を手に取り、木簡に細かく注意事項を書き記していく。その間、俺は頭の中で必死に情報を整理していた。
医者の断片的な説明と、かすかに蘇る「高順」の記憶を頼りに、どうやら状況を把握した。俺は呂布配下の別部司馬という部隊長だ。元は丁原という人物に、呂布と共に仕えていた。丁原――記憶を辿れば、確かに武勇はあったが、政治的手腕は壊滅的に低く、人心掌握も下手くそな無能な上司だった。だからこそ、董卓の甘言に乗った呂布に簡単に斬られてしまったのだ。そして、その呂布も…戦場では鬼神の如き強さを見せるが、戦略眼は皆無で、猜疑心が強く、最終的には孤立して敗死する運命にある。その時、俺こと高順も道連れにされることになる…。
現在は初平元年の正月。どうやら行軍中に高熱で倒れ、その隙に「俺」がこの体に入れ替わったらしい。出身は并州上党郡。丁原配下で戦功を重ね、別部司馬にまでなったという経歴だ。
今、俺たちがいるのは陽人という地。ここで「逆賊」討伐に当たるという。逆賊とは…内心で嗤いた。皇帝を傀儡にし、暴政を敷く董卓こそが逆賊だろう! だが、洛陽を掌握し帝を擁する董卓に対して、その言葉は通じない。だからこそ、喬瑁らが三公の文書を偽造してまで反董卓連合を立ち上げたのだ。
連合軍の顔ぶれが頭に浮かぶ。袁術、韓馥、孔伷、劉岱、王匡、張邈、喬瑁、袁遺、鮑信、孔融、張超、陶謙、馬騰、公孫瓚、張楊、孫堅、袁紹、曹操の総勢十八路の諸侯だ。名簿に載っているとはいえ、存在感の薄い者もいるが、侮れない連中が揃っている。
董卓とその配下も、決して烏合の衆ではない(一部の例外を除けば)。前線で血みどろの戦いを経験してきた古強者が多く、戦略的に優れた者も少なくない。ただ、政権の要所を占めるのは、董卓の威光にすがるだけの無能者も多い。董卓は西涼の馬騰や韓遂らテロリスト集団を懐柔することで西方を抑え込み、東の頭の固い諸侯たちと対峙するという定石を打ち出した。
敵軍は南陽方面の袁術、酸棗の袁紹、曹操ら、鄴の韓馥の三方面に分かれる。酸棗には知略に長けた曹操、烏桓すら恐れる公孫瓚、そしてその公孫瓚には…あのやさぐれ者、劉備がいる。そして、俺たちが今いる陽人には、袁術を中心に、その武勇を華夏全土に轟かせる「江東の虎」孫堅が迫っている…。
「…待てよ…陽人…?」
椀から立ち上る湯気を見つめながら、ある事実に気づき、背筋が凍る。
「…反董卓連合の…最初の大きな衝突…まさかここか…!?」
「将軍、将軍…?」
医者の声が遠く感じる。
「…もう、よろしいでしょうか? しばらく静養を…」
「…うん? あ、ああ…」
俺はぼんやりと頷く。
「…下がってくれ…」
医者と老婆が退出し、帳内に独り残る。思考が高速で回転する。まずは、この呂布陣営の内情を知らねば。記憶を頼りに、配下の武将を洗い出してみる。
呂布の直属には、後に「八健将」と呼ばれる張遼、臧霸、郝萌、曹性、成廉、魏続、宋憲、侯成らがいる。
そして軍師格の陳宮…幼い頃、三国志に夢中になり、ほぼ全ての武将を調べ上げた知識が、かすかな灯りのように頭の中で揺らめく。
帳の入口に立つ、若そうな兵士に声をかけてみよう。
「…あのー」
声が出にくい。
「…名を…教えてもらっても…よろしいかな? 今後…色々聞きたいことも…あるので…」
兵士は驚いたようにこちらを見ると、慌てて平伏した。
「は、はっ! わ、わっちは張五と申します! 将軍、いえ、高順将軍様! 何なりとお申し付けください!」
…しまった。上司が部下に「よろしいかな?」なんて聞くものではないな。高順の立場を忘れていた。記憶がまだ完全に同期していない。
「…そうか…畏まるな」
少し強く言おうとするが、咳き込んでしまう。
「ゴホッ…病み上がりでな…お前に…聞きたいことが…ある…」
張五は恐る恐る顔を上げた。どうやら彼は一般兵だが、普段から高順の身の回りの世話をしているらしい。口調は粗いが、機転は利きそうだ。まずは軍内の人間関係から。
「…我と…同格の将軍は…?」
「はい! 郝萌様、曹性様、張遼様、成廉様、魏越様、魏続様、宋憲様、侯成様らがいらっしゃいます!」
「…我が…直属の部下は…?」
「はい! 呉資、章誑、汎嶷、張弘、高雅、趙庶の六人の百人隊長がおります! 将軍様直々の精鋭、『陥陣営』七百騎を率いておられます!」
七百騎…。これは「旗本」のような存在か。責任重大だ。
「…彼らを…呼べ…」
程なくして、六人の男が帳内に入ってきた。皆、武骨な面持ちで甲冑の上に戦闘服を纏い、精悍な目をしている。見舞いの言葉を口々に述べる。
「将軍、お加減いかがで?」
筋骨隆々の呉資が深く頭を下げる。
「無理はなさらぬよう…」
眼光鋭い章誑が続く。
「早くご一緒に戦場へ!」
若々しい趙庶が拳を握る。
落ち着いた口調の章誑が口を開いた。
「将軍、そろそろ騎都尉にご挨拶に伺わねばなりませんが、いかがいたしましょう? それに、我が部隊は常に騎都尉様の先鋒として戦って参りました故、今後の配置もお尋ねしたいと存じます…」
他の者も同意見のようだ。プレッシャーがのしかかる。まずは呂布に挨拶か…避けては通れぬ道だ。「…分かった…」 俺は立ち上がる。老婆が差し出した甲冑を身に着ける。重い。しかし、不思議と体は動きを覚えている。「…これより…騎都尉様の所に…向かう…」 声を張り上げる。「…それまで…各々は…持ち場に戻れ…!」
「「はっ!!」」 六人が一斉に拱手(きょうしゅ:両手を組み合わせる礼)し、整然と退出していく。その規律正しさに、少しばかり…いや、かなりの安心感と誇らしさが胸に湧いた。これが「陥陣営」か。
張五を伴い、呂布の天幕がある本陣方面へ向かう。冷たい朝の風が頬を撫でる。陣営内は活気に満ち、兵士たちが武器を手入れしたり、馬の世話をしたりしている。皆が一様に、俺――高順を見て軽く会釈する。その視線に、背筋が自然と伸びるのを感じた。
途中、三人の武将が向こうから歩いてくるのが見えた。一人は細面で、どこか嫌みっぽい笑みを浮かべている。一人は若く、少し気弱そう。そして一人は、端正な顔立ちだが、眉間に一本の皺を刻み、生真面目な雰囲気を漂わせている。
「おおお、これはこれは、高将軍! お加減いかがですかな?」
細面の男が大きく手を振り、嫌味たらしい笑顔で近づいてくる。その目には、嘲笑とも取れる光がちらついている。
「風邪と聞いて、肝を冷やしましたぞ? まさか、あの剛の者高孝父が、風邪で寝込むとはねぇ?」
(こいつ…郝萌だな。確かに演義でも裏切り者予備軍の一人だ。悪意しか感じねえ…)
「まあまあ、郝萌殿」
若い武将が慌てて割って入る。曹性だ。彼は苦笑いを浮かべた。
「高将軍も落ち着かれたばかりですし、とりあえず皆で騎都尉様の所へ急ぎましょう! 胡将軍もお見えになるとの報せです」
「此度の軍議、よろしくお願い申し上げます」
生真面目な男張遼が、短く、しかし重みを込めて言った。その眼差しは真剣そのものだ。
(張遼! 後の魏の名将! こ、こいつのサイン欲しい…! いやいや、今はそんな場合じゃない!)
興奮を必死に抑え、それぞれに軽く頷きながら対応した。
「…ああ…皆…久しいな…」
四人で歩き出すと、すぐにまた二人の武将が慌ただしく駆けてきた。顔色が青ざめている。成廉と魏越だ。
「お、お揃いで何より!」
成廉が息を切らせて言う。
「総大将の胡文才様が、本陣からお越しになられました! 軍議は即刻開始です! お急ぎください!」
「…どうした…?」
張遼が鋭く問う。
「顔色が悪いぞ」
魏続が周囲を見回し、声を潜めた。
「…総大将たる大督護の胡文才様と…督軍の奉先様が…またしても…激しく争っておられるのです…」
答えを聞くまでもない。天幕の外からも、重く張り詰めた、いや、火花が散りそうな不穏な空気が伝わってくる。胡軫と呂布――この二人の確執は、この軍の暗黙の了解事項だった。成廉と魏続の同情せざるを得ない気持ちが痛いほど分かる。この二人は、呂布が丁原の下にいた頃からの側近格だ。板挟みもいいところだ。
「…ふん、いつものことか」
郝萌が鼻で笑った。
「さあ、行くぞ? 高将軍? お先にどうぞ?」
(おいおい、卑猥顔おっさん! 俺を盾にする気か!? 特に許さんからな!)
内心で怒号を上げつつも、ここで怯んではいられない。俺は大きく息を吸い込み、天幕の入口に向かった。
「…チッ…分かった…行く…行けばいいんだろ…!」
胡軫という男について、頭の中で整理する。演義では程普と戦い、十数合で喉を刺されて死ぬというあっけない最期を遂げるが…。現実の彼は、涼州時代から董卓に仕える古参の猛将だ。武勇は確かで、同じく董卓の股肱の臣である牛輔、郭汜、李傕らとは不仲ながらも、戦場での力量は認め合っていたらしい。しかし、新参で、しかも主君丁原を殺して董卓に鞍替えした呂布に対しては、露骨な軽蔑と敵意をむき出しにしていた。古参としての自負と、才覚だけで成り上がってきた呂布への嫉妬が、その根底にあるのだろう。
天幕の中は、外の空気をさらに濃縮したような緊張感に満ちていた。中央の主座に座るのは、筋骨隆々の巨漢胡軫。その眼光は荒々しく、口元は不機嫌に歪んでいる。その斜め前方、一段低い位置に腰掛けている呂布は、背筋を伸ばし、胡軫を真正面から見据えている。その表情は無表情だが、細い双眸からは冷たい怒気が迸っている。華雄が胡軫のすぐ後ろに立ち、困惑した顔で二人の間を行き来する視線を追っている。
「高順、ただいま参上仕りました」
俺は帳内に入ると、中央に進み出て、胡軫と呂布に向かって深く拱手した。席を指さされ、末席に腰を下ろす。張り詰めた空気が肌を刺す。
(頑張れ、俺! 呑まれるな…!) と気合を入れるが、その無意味さを瞬時に思い知った。この二人のオーラの前では、虫けら同然だ。
「高将軍」
胡軫が、わざとらしく気遣うような口調で言う。目は全く笑っていない。
「風寒の加減はいかがかね? 呂督軍も、貴様の病を大層気にかけておられたぞ」
「はっ」
俺は呂布の方を一瞥し、すぐに胡軫へ視線を戻す。
「胡将軍、お気遣い感謝いたします。某の体はすっかり治りました。呂督軍にはご心配をおかけしました」
社交辞令が帳内に虚しく響く。胡軫は鼻を鳴らし、本題に入った。
「さて、そろそろ本題だ」
彼は地図を指さす。
「例の、猛虎などと嘯く長沙の野盗もどき、孫堅が、我が陽人へ迫っておる。斥候の報では、その数一万。いかにいたす?」
胡軫が「野盗もどき」と言った瞬間、呂布の眉が微かにピクリと動いた。孫堅は正式には烏程侯に叙されているが、挙兵当初は傭兵同然の存在だった。長沙太守となったのも、政府が手を焼いた長沙の賊を平定した見返りとしての官位だった。胡軫の口調には、地方出身の成り上がり者への侮蔑がにじんでいる。
「どうするも何も」
呂布が冷ややかに口を開いた。その声は低く、刃物のように鋭い。
「打ち破ればよかろう? のぉ? 飛将軍たる貴様に、それすら怖気づくとはな?」
胡軫の額に、太い血管が浮き上がる。
「ふん! 貴様、何か策でもあるのか? 無鉄砲に突っ込むだけが能じゃあるまい?」
(ギスギスしすぎだろ…! こんなんで勝てる戦も勝てなくなる!)
場を和ませようかと思ったその瞬間
「報、報告いたします!」
斥候が息も絶え絶えに駆け込み、平伏した。
「孫堅軍、先鋒程普隊、騎兵数百を伴い、すでに我が斥候部隊を蹴散らし、明日の正午には陽人の目前に迫る模様です!」
「なにっ!?」
胡軫が怒鳴る。
「明日の正午だと!? 早すぎるわ!」
(マジかよ!? そんなに早く来るなんて…間に合わねぇじゃねぇか!)
焦燥感が走る。
(しゃあねぇ…ここは一つ、高順としての“意見”を述べてみるか…!)
「恐れながら!」
声が先に出た。胡軫と呂布、そして帳内の全ての視線が一気に俺に集中する。特に呂布のこめかみに、今にも破裂しそうな青筋が浮かんでいるのを見て、足が震えそうになる。
「申し上げてもよろしいでしょうか?」
胡軫が苛立たしげに手を振る。
「うむ、苦しゅうない。申せ」
(まずい…まずいぞ…でも引っ込みがつかない!)
「はっ…此度の戦、我ら董卓軍の旗色は…」
一呼吸置く。
「…若干悪いかと存じます」
「なにィィィーーーーーっ!?!?」
胡軫の怒号が天幕を揺るがした。彼は轟音と共に立ち上がり、机を拳で叩きつける。
「貴様ぁああっ! 我が軍の軍心を乱すつもりかぁあっ! この不届き者! 兵ども! 連れ出して斬れええっ!!」
「待て!」
呂布の声が、雷のように割って入った。彼もまた立ち上がり、その身長と威圧感で胡軫を睥睨する。帳内の空気が一瞬で氷点下に達した。
「胡文才! 貴様への我慢もここまでだ…!」
(うわっ!?)
「高順は某の配下である!」
呂布の声は剣のように鋭く、冷たい。
「貴様が我が配下を斬りたいと言うのなら…」
彼の右手が、腰の剣の柄に滑る。
「…まずは貴様の首を、ここで斬り落としてくれるわっ!」
(こ、この人…部下思い!? 意外と…いや、かなり見直したぜ!)
「お、お二方とも! お二方とも! 落ち着いてくだされい!」
華雄が慌てて二人の間に割って入り、必死に手を振る。
「今は外敵が目前ですぞ! 内輪もめは後回し! 後回しでござりまする!」
激しい睨み合いが続く。火花が散っているように見えた。やがて胡軫が
「ぐっ…!」と呻き、無理やり席に戻った。呂布もゆっくりと座るが、その視線は胡軫を鋭く射貫いている。
「…ふん」
胡軫が唾を吐き捨てるように言った。
「…では、華雄よ。貴様が先鋒だ。孫堅の先鋒隊を叩きのめして参れ! つべこべ言わずに!」
華雄の顔に一瞬、苦渋の色が走ったが、すぐに引き締まる。「…はっ! 承知いたしました!」 彼は立ち上がり、力強く拱手した。
「胡将軍」
呂布が、氷のような口調で言う。
「我々は袁術の本隊がどこに潜むか、探って参る。この場は貴様に任せる。…しっかりと、守ってもらおう」
その言葉には、明らかな侮蔑と挑発が込められていた。胡軫は顔を真っ赤にしたが、グッと堪えた。
「…うむ、よかろう。行って来い!」
呂布は立ち上がると、胡軫を一瞥もせずに天幕を出ていった。その背中には、嗤うような冷たい怒りが漲っていた。
(…お前は死ぬのだから、何を言っても俺は貴様を許せる…とでも思っているのか?)
呂布の心中が透けて見えるようだった。
呂布の天幕は、胡軫のものより質素だが、殺伐とした緊張感に満ちていた。呂布は主座に座り、眉をひそめて剣の手入れをしている。その手つきは危険なほど静かで正確だ。
「高順! いるか!」
呼び声が飛んだ。鼓膜が破れそうな大声だ。
「はっ! おります!」
進み出る。呂布の顔を盗み見る――機嫌は最悪だ。まさに噴火寸前の火山。
「此度の戦、どう見る?」
呂布は刃を覗き込みながら、淡々と問う。
(どうって…? と聞き返したいのはこっちだよ、この脳筋物欲全振り好色ゴキブ…いや、何でもない)
内心でツッコミながら、覚悟を決めて口を開く。
「…此度の戦は…負けるでしょうな」
呂布の手が止まった。ゆっくりと顔を上げる。その目が、真っ直ぐに俺を貫く。
「…なぜだ」
「胡将軍は…武勇に恃み、傲岸不遜にして…気が短い」
言葉を選びつつ、しかし核心を突く。
「…彼の下では、将兵の信頼は…皆無にございますれば…」
「…ふむ」
呂布は剣を鞘に収め、腕を組んだ。
「…それで、我が軍は如何する?」
ここが肝心だ。俺は一呼吸置き、呂布の目をしっかり見据える。
「…我が軍の大将は…奉先様でございますれば…」
ほんの一瞬、間を置く。
「…お好きなようにご采配を…。負けるにしても…無様な負け方は…なきことと存じます」
呂布の口元が、ほんのわずか、しかし確かに緩んだ。それは嘲笑にも、満足にも見えた。
「…うむ」
彼は立ち上がった。
「…皆を呼べ」
「はっ!」
程なくして、郝萌、曹性、宋憲、魏続、侯成、成廉、魏越、張遼らが集まった。呂布は簡潔に状況を説明し、指示を飛ばす。
「郝萌、曹性! お前たちは洛陽への退路、特に澠池周辺の安全を確認せよ!」
「宋憲、魏続! お前たちは予備兵を率い、本隊との連絡を絶やすな! 敗走する味方がいれば、速やかに収容せよ!」
「侯成! お前は右翼を守れ! 張遼! 左翼を任せる!」
「成廉、魏越! お前たちは儂の両側に付け! 護衛を頼む!」
「…高順」
「はっ!」
「お前の『陥陣営』は…遊撃とせよ」
呂布の目が鋭く光る。
「戦場を縦横に駆け、敵を撹乱し、味方の退路を確保せよ。特に…華雄が窮地に陥ったら、助け出せ」
(…華雄の救出! 史実通りなら、華雄はここで孫堅に討たれる! 虎牢関まで敵を引きつけ、長安撤退を優位に進めるためにも、華雄は生きておかねばならん! 華雄が生きていれば、呂布の立場も多少は強くなる…そうすれば、俺の生存確率も上がる…少なくとも曹操に処刑される日までは…! まずは虎牢関で時間を稼ぎ、長安へ撤退させる。その流れを作るのだ…!)
「承知いたしました!」
俺は力強く応えた。
「必ず華将軍を救い出してみせます!」
呂布は微かに頷いた。
「…よかろう。それぞれ、持ち場につけ!」
俺はすぐに陣営に戻り、配下の六人の百人長を集めた。作戦の概要を伝える。
「…聞け! 我ら『陥陣営』の役目は、遊撃だ!」
彼らの目が一気に輝く。
「戦場を自由に駆け巡り、敵の裏をかき、味方の退路を守る! 特に…」
ここで声を潜める。
「…先鋒の華雄将軍が窮地に陥ったら、全力で救出に向かう! 彼を失えば、我が軍の士気は地に落ちる! 命じる! 華雄将軍の救出を最優先せよ!」
「「はっ!!」」
六人の声に熱がこもる。
「呉資! 章誑!
お前たちは東側の丘陵地帯から撹乱せよ!」
「汎嶷! 張弘! 西側の河川沿いを押さえ、敵の迂回を防げ!」
「高雅! 趙庶! お前たちは中央部を流動的に動き、敵の集中を散らせ!」
「我は本隊と共に動き、機を見て華将軍救出に向かう!」
「張五!」
「へい!」
「お前は、華将軍の所在を常に探れ! 見つけ次第、直ちに知らせよ! そして、華将軍に退却を促せ! 無理な戦いは避けるよう!」
「へい! 了解でやす!」
「皆! さっさと終わらせて帰るぞ! 生きて故郷の酒を呑むのだ!」
「「おおおおっ!!!」」
兵士たちの鬨の声が陣営に響き渡る。彼らはそれぞれの持ち場へと散っていった。俺は愛馬驍風の手綱を取り、その逞しい首筋を撫でる。
(さあて…)
心の中で呟く。
(この詰んだ盤面を…どうひっくり返すかな?)
目の前には、中華最強の傭兵集団を率いる「江東の虎」が迫る。史実では華雄は討ち死にし、胡軫は敗走し、呂布も退く。その流れを変え、華雄を救い、呂布軍の損害を最小限に抑え、撤退の道筋をつける――それは、あのドラマのCTUエージェントも真っ青の超弩級ミッションだ。
(難しく考えるのは止めだ…!)
驍風の背に跨がり、手綱を握りしめる。
(失敗したら…死ぬまでだ!)
驍風が嘶いた。まるで、俺の決意に応えるように。
(明日は明日の風が吹く…いや、花が咲くってな! 行くぞォォォ!!)
陽人の地平線の向こうに、戦いの気配が重く垂れ込めていた。夜明けは近い。