最終回 人神相闘衆仙睹 三界除魔大元帥
高順は自身の二本の槍を1本にまとめようとしていた。
それは妖界での過酷な日々の中、高順は最も凶悪な存在の一つ、巨大な蛟と遭遇した。その体は鋼鉄の鱗に覆われ、口からは酸性の息を吐き、周囲の仙気を腐らせる。通常の法力では傷一つ与えられない、まさに妖界の悪夢のような存在だった。
高順は、自身の法力と知略の全てを尽くして蛟と戦った。法力を集中させた拳で鱗のわずかな隙間を狙い、大黒との連携でその動きを封じる。幾日にもわたる激戦の末、高順はついにその巨大な蛟を打ち倒した。
蛟の肉体は消滅したが、その核心には、妖界の混沌と、純粋な霊気が凝縮された一本の硬質な脊椎骨が残されていた。それは、妖界の深き力を宿し、不気味な光を放っていた。高順は、その骨を手に取った瞬間、自身の法力と骨が共鳴するのを感じた。
「……これか」
高順は、この骨が、己の新たな力を具現化するに相応しい「獲物」であると直感した。彼は、自らの法力を蛟の脊椎骨に流し込み、その形状を己の意思で変形させていく。妖界の霊気と高順の法力が混じり合い、やがてそれは、漆黒の輝きを放つ、禍々しくも神々しい一本の槍へと姿を変えた。槍の穂先は蛟の牙を模し、柄にはその鱗のような紋様が刻まれていた。
高順は、その槍を手に取った瞬間、全身に力が漲るのを感じた。それは、妖界での全ての苦難と、蛟を倒した経験、そして彼自身の法力が結晶化した、まさに「己が獲物」だった。
「てめぇの名前は……そうだな。これからは、伏魔黒蛟槍だ」
高順は、自らの魂を込めるように、漆黒の槍に名を刻んだ。黒く禍々しく輝くその一本の槍は、彼の新たな力の象徴となり、来たる関羽との戦いに備え、彼の手に確かな重みを与えた。
関羽が高順を修羅界に突き落とし、果てなき争いを強いるという暴挙に出たことに、東岳泰山斉天仁聖大帝は激怒した。冥界の主宰神である自分を無視しての行動は、神々の秩序を揺るがす行為に他ならない。大帝はすぐさまこの不正を、神々の最高統治機関である天庭へ上奏した。しかし、天庭からの返答は、大帝の憤りをさらに募らせるものだった。
「…無視だと?」
上奏文はまるで存在しなかったかのように扱われ、何の沙汰も下されなかった。天庭の神々は、自分たちの既得権益や既存の秩序を脅かす事柄にしか興味を示さず、個々の神々の間の諍いなど、些細なこととしか見ていなかったのだ。あるいは、関羽がすでに天庭に多大な貢献をしており、彼を罰することができない、あるいはしたくないという思惑があったのかもしれない。
天庭に見捨てられた東岳大帝は、他に頼るべき存在を求めた。彼の脳裏に浮かんだのは、道教の最高神の一柱であり、万物の根源を司る三清の一人、元始天尊であった。元始天尊は、道理と秩序を重んじ、混沌を嫌う神である。この不正を正すには、彼しかいないと大帝は考えた。
大帝は元始天尊の元へ赴き、ことの次第を一部始終報告した。関羽の傲慢な振る舞い、修羅界での高順の苦難、そして天庭の無関心。元始天尊は静かに大帝の話を聞き終えると、深い瞑想に入った。
そして、やがてその目を開き、厳かな声で告げた。
「高順の魂は、確かに理不尽な苦しみを味わっておる。関羽の行いは、道に反する」
その言葉に、東岳大帝は安堵の息を漏らした。元始天尊は、直接関羽を罰することはないだろうが、別の形で介入してくれるはずだ。
数日後、修羅界で敗北の痛みに耐えていた高順の前に、再び神々しい光が現れた。そこにいたのは、威厳に満ちた元始天尊であった。
「高順よ。汝の苦難、そしてその不屈の魂、我は全てを知る。関羽との力の差は、神と人の隔たりにあらず、真の武の差である」
高順は、その言葉の意味を測りかねた。神と人、その差ではないというのか?
「汝には、さらなる高みを目指すための修行が必要となる。我は汝に、道教の奥義、そして真の武の極意を授けよう」
元始天尊が手をかざすと、高順の意識は遥か彼方へと誘われた。そこは、修羅界の喧騒とはかけ離れた、静かで神聖な空間であった。高順は、ここで元始天尊から直接、武の真髄、そして気の操り方、魂の鍛錬法など、これまで彼が経験したことのない高次元の修行を受けることになった。この修行は、高順の肉体だけでなく、精神、そして魂をも根底から変革していくものだった。彼は、単なる武人ではなく、神の領域に足を踏み入れるための道を歩み始めたのだ。関羽の傲慢な行為が、皮肉にも高順をさらなる高みへと導く結果となった。
赤髭龍、巨霊将、そして楊戩、仙界の錚々たる神々との激闘を単身で退けた高順は、満身創痍ながらも、その瞳には決して消えることのない炎を宿していた。彼の力はもはや、修羅界の一武将などという範疇に収まるものではない。天地の理を操り、神々すらも凌駕する「仙武」の極致に至った高順は、その存在自体が仙界の秩序に対する問いかけとなっていた。
彼の「自身の仙界を創る」という願いは、もはや単なる個人的な野望ではない。それは、腐敗した天庭の現状に不満を抱く下級神や仙人たち、そして修羅界や人間界で苦しむ者たちの、密かな希望の光となりつつあった。高順の戦いは、彼自身の運命だけでなく、全宇宙の未来を賭けた、壮大な叙事詩の序章だった。
元始天尊と太上老君は、鴻鈞老祖の「流れるがままに、為せ」という言葉の真意を測りかねながらも、高順の圧倒的な力を前に、もはや彼を力ずくで止めることは不可能だと悟っていた。女媧の介入、哪吒の敗北、そして楊戩の認可。これらの出来事は、仙界の神々の間に、高順という異端の存在に対する賛否両論、そして深い戸惑いを巻き起こしていた。
しかし、高順は立ち止まらなかった。彼には、冥界から連れ戻した二万四千の陥陣営、そして呉資、章誑ら十二人の幹部がいた。彼らの魂は、高順の呼びかけに応え、新たな世界を築くという願いに燃えている。
「我が兵たちよ! 仙界の神々が、俺に試練を課した。だが、それは俺の力を試すだけじゃねぇ。俺たちが創る新しい世界を、仙界に認めさせるための戦いだ!」
高順の咆哮が、仙界の果てまで響き渡った。彼の背後には、蘇った陥陣営が整然と並び、その眼には主への揺るぎない忠誠と、来るべき戦への高揚が宿っていた。彼らはもはや亡者ではない。高順の法力によって、新たな生と使命を与えられた、真の「仙兵」となっていたのだ。
仙界の空には、高順の「自身の仙界」を創るという願いと、それを阻止しようとする既存の神々との間に、避けられない衝突の火花が散り始めていた。
関羽は、未だ高順への複雑な感情を抱きながらも、天庭の秩序を守るという使命のために、自身の天兵を率いて高順の前に立ちはだかるだろう。そして、太上老君は高順の装備を強化するのか、あるいはその動きを静観するのか。元始天尊は、この流れをどこまで容認するのか。
仙界を揺るがす大戦の火蓋が切られようとする最中、高順は思いがけない行動に出た。二万四千の陥陣営を率いる彼は、大軍同士の激突ではなく、たった一人でこの長きにわたる因縁に決着をつけるべく、関羽に一騎討ちを申し込んだのだ。
「関羽! てめぇとの決着は、俺たちの手でつける! 余計な邪魔はさせねぇ、表へ出てきやがれ!」
高順の咆哮が仙界の空に響き渡った。その声は、かつての修羅の王の荒々しさと、新たな世界の創造を願う決意が入り混じっていた。
この突飛な呼びかけに、仙界の神々は騒然とした。大軍を率いて正面からぶつかるのが常道であるこの状況で、あえて一騎討ちを挑む高順の真意を測りかねたのだ。しかし、関羽は高順の挑戦を静かに受け入れた。
「高順……望むところだ。その方が、貴様との因縁に、本当の決着をつけられる」
関羽の顔には、迷いはなかった。彼もまた、この個人的な戦いに、仙界の秩序を賭けていた。
公証者たちの登場
二人の一騎討ちの場に、意外な神々が姿を現した。
「おいおい、高順がそんな面白いこと言うなら、俺も見てなきゃ損だろ!」
軽やかな足取りで現れたのは、高順の師兄であり、先の試練で高順の成長を認めた哪吒だった。彼は高順との戦いを通じて、彼の中に宿る純粋な願いを感じ取っていた。
そして、その隣には、仙界の武神、二郎真君が静かに立つ。彼の天眼は、高順と関羽、二人の運命を見据えているかのようだった。
「この戦い、ただの私闘にあらず。仙界の未来を左右する一戦となるだろう。我らが見届け、その正当なる決着を見届けよう」
楊戩の言葉は、この一騎討ちが単なる個人的な因縁の清算ではなく、仙界全体の運命を賭けたものとなることを示唆していた。
哪吒と楊戩が公証人として現れたことで、仙界の神々も沈黙した。彼らの存在は、この一騎討ちの神聖さと、その結果が仙界に大きな影響を与えることを保証するものだった。
仙界の広大な平原が、二人の戦いの舞台となる。高順の背後には、彼を信じて冥界から蘇った二万四千の陥陣営が静かに控えていた。彼らの魂は、主の決意に応えるように輝きを放っている。対する関羽の背後には、天兵たちが厳かに整列し、主の勝利を祈っていた。
二人の間には、仙界の重い空気が満ちていた。風は止み、鳥のさえずりも聞こえない。ただ、高順と関羽、互いの闘気がぶつかり合い、空間を震わせる。
高順は、哪吒から学んだ槍術の構えを取り、大地に根を張るように立つ。その体からは、天地の力を取り込んだ青白い法力が溢れ出ていた。彼の手に握られた漆黒の降魔黒槍が、禍々しくも神々しい輝きを放つ。
「関羽。今日こそ、全てを終わらせる!」
関羽は青龍偃月刀を高く掲げ、その刃が天の光を反射させる。彼の全身からは、圧倒的な神気が噴き上がり、大地を圧する。
「来い、高順! その願いが、天の理を超えるものか、この俺が試してやる!」
哪吒と楊戩が見守る中、仙界を揺るがす最終決戦の幕が、今、静かに開かれた。二人の激突が、仙界の未来を決定するだろう。
仙界の平原に、嵐が吹き荒れた。高順と関羽が同時に大地を蹴り、互いの間合いに飛び込んだのだ。
「フンッ!」
関羽がまず仕掛けた。青龍偃月刀が天空を薙ぎ払い、その巨大な刃からは、天の雷光が迸り、幾条もの光の鎖となって高順を拘束しようとする。雷光の鎖は瞬時に高順の四肢に絡みつき、彼の動きを封じ込める。鎖から放たれる高周波の振動が、高順の法力の流れを乱そうと試みた。
「てめぇの小細工が通用すると思うな!」
高順は咆哮し、全身の法力を解放した。彼の体から青白い光が噴き出し、雷光の鎖を内側から弾け飛ばす。鎖が砕け散る一瞬の隙に、高順は降魔黒槍を繰り出した。哪吒から学んだ極限まで研ぎ澄まされた一点突破の突きが、関羽の眉間を狙う。その槍先からは、蛟の穢れた力と高順の清らかな法力が融合した、矛盾する波動が放たれていた。
関羽は咄嗟に青龍偃月刀の柄でその突きを弾いた。しかし、降魔黒槍の穂先には、天地の力を凝縮した波動が宿っており、その衝撃は関羽の腕を痺れさせる。
「ちっ…! この一撃に、これほどの重みを乗せるとは! まったく、その禍々しい槍、どこで手に入れやがった!」
関羽は間髪入れずに反撃に出た。青龍偃月刀を地平線に沿って水平に薙ぐ。その刃の軌跡から、巨大な緑色の法力の波が津波のように押し寄せ、高順を飲み込もうとした。波の中には、関羽が長年培ってきた神気が凝縮されており、触れるもの全てを押し潰すほどの質量を感じさせた。
高順は退かない。彼は両の足で大地を踏みしめ、降魔黒槍を正面に構えると、自らの法力を槍の穂先に集中させた。青白い光が螺旋状に渦を巻き、やがてそれは貫通力に特化した巨大な螺旋状のドリルへと変貌する。ドリルからは、蛟の咆哮を思わせる低い唸りが聞こえるようだった。
「貫け! 破天螺旋!」
高順は、法力のドリルを緑色の波へと真っ向からぶつけた。轟音と共に法力の波が砕け散り、螺旋のドリルはそのまま関羽へと迫る。
「馬鹿な!? 力と力で真正面から打ち破るだと!?」
関羽は驚愕に目を見開くが、体勢を立て直す間もない。彼はとっさに青龍偃月刀を自身の前に構え、全ての法力を注ぎ込んで防御態勢を取った。槍の螺旋が刃に激突し、凄まじい火花と衝撃音が仙界に響き渡る。関羽の体が大きく後退し、地面に深い溝を刻んだ。防御態勢を取った関羽の腕の筋肉が、限界まで張りつめているのが見て取れる。
「まだだ! まだ終わらねぇ!」
高順は休むことなく、関羽へと肉薄する。彼の降魔黒槍は、法力の光を帯びて稲妻のように走り、関羽の隙を縫って次々と襲いかかる。その一撃一撃は、大地を穿ち、空間を震わせるほどの重みを持っていた。関羽もまた、長年の経験と武の極致をもって、その全てを受け流し、時に反撃の刃を突き出す。青龍偃月刀の重い一撃が、高順の体をかすめ、彼の頬に血が滲んだ。
高順が地面に降魔黒槍を突き刺し、大地から仙気を吸い上げて、巨大な岩柱を次々と形成し、関羽を囲い込んだ。岩柱は法力によって強化され、鉄壁の牢獄と化す。
「これで逃げ場はねぇぜ、関羽!」
関羽は岩柱に囲まれた空間で、青龍偃月刀を天に向かって突き上げた。彼の全身から放たれる神気が岩柱を打ち砕き、彼は宙へと舞い上がる。その姿は、まるで天に昇る龍のようだった。
「高順! 貴様は強くなった。だが、その力に頼りすぎている! 真の武とは、心に宿る信念と、それを支える魂の輝きだ!」
関羽は、仙界の仙気を凝縮し、巨大な青い龍の姿を創り上げた。それは、関羽の武の精神と法力が具現化した、まさに神龍だった。神龍の瞳は高順を睨みつけ、その咆哮は仙界全体を震わせる。
「くらえ! 天龍降臨!」
神龍が咆哮を上げ、高順めがけて突進した。その一撃は、仙界の空を切り裂き、高順を飲み込まんとばかりに迫る。
高順は、その圧倒的な力に思わず息を呑んだ。しかし、彼の心は折れない。
「うるせぇ! 信念なら、こっちだって負けてねぇ! 俺は、俺が信じる平和のために、てめぇを倒す!」
高順は、妖界での孤独な戦いで再認識した、仲間たちの顔を思い出した。呉資、章誑、張遼、そして陥陣営の全ての兵たち。彼らの存在が、高順に新たな力を与えた。
高順は、自らの法力を極限まで圧縮し、降魔黒槍の一点に集める。それは、天地の全ての理、全ての力をその一点に凝縮した、究極の一撃だった。彼の降魔黒槍が青い光に包まれ、まるで星が爆発するかのごとく輝きを放つ。蛟の牙を模した穂先からは、混沌とした妖界の力が凝縮された波動が放たれた。
「これが、俺の全てだ! 受けてみやがれ!」
高順の降魔黒蛟槍と、関羽が召喚した神龍が、仙界の真ん中で激突した。
轟音は仙界全体を揺るがし、凄まじい光が爆発した。空間が引き裂かれ、仙気が乱れ飛ぶ。どこまでも広がる衝撃波は、遠く離れた仙界の端まで到達し、神々を震撼させた。その場にいた公証人の哪吒と楊戩もまた、その凄まじい力に思わず身を固めた。
光と煙が晴れると、そこには、地面に膝をつき、肩で息をする高順の姿があった。彼の降魔黒槍は、かろうじてその形を保っていたが、ヒビが入り、禍々しい輝きを失いかけていた。全身からは血が滲み、肉体は限界を迎えている。対する関羽もまた、青龍偃月刀を杖のようにして立っていたが、その体は震え、顔には深い疲労の色が浮かんでいた。彼の召喚した神龍の姿は消え失せ、残ったのは薄れゆく神気の残滓のみ。互いに、もはや立ち上がる力も残されていないかのようだった。
沈黙が支配する中、哪吒と楊戩がゆっくりと二人に近づいていく。
「……すげぇな、お前ら。まさかここまでやるとはな」
哪吒が、感嘆と呆れが混じった声で呟いた。
その時、高順の手にあった降魔黒槍が、脈動するように輝き始めた。ヒビ割れた槍の穂先から、漆黒の煙が立ち上り、高順の体へと吸い込まれていく。それは、槍に宿っていた黒蛟の魂魄だった。妖界で打ち倒されたはずの蛟の魂が、高順との激戦を通じて、その限界を超えた高順の魂に引き寄せられ、共鳴し始めたのだ。
高順の全身が、禍々しい漆黒の光に包まれた。彼の肌には黒い鱗のような模様が浮かび上がり、瞳は妖しく光る。その姿は、かつて修羅の王であった高順と、妖界の凶悪な蛟が融合した、異形の神仙そのものだった。しかし、その顔には苦痛はなく、むしろ新たな力が漲っているかのように見えた。
「これは……!」
哪吒と楊戩は、その予期せぬ光景に息を呑んだ。それは、彼らの想像を遥かに超える、天地の理を超越した現象だった。
その瞬間、仙界の天空に、絶対的な威厳を放つ光が降り注いだ。光の中央には、天界の最高権力者、天帝の姿が浮かび上がっていた。彼は、高順と関羽の激闘、そして高順と黒蛟の魂魄が融合する一部始終を、全て見届けていたのだ。
天帝は、その威厳に満ちた声で、仙界全体に響き渡るように告げた。
「高順よ。そなたの力、そなたの願い、そしてそなたの魂の輝き、全てを見届けた。そなたは、混沌を制し、それを己が力と為した。その存在は、仙界の秩序を乱すものではなく、むしろ新たな均衡をもたらす者と成り得よう」
天帝は、その言葉と共に、一枚の金色の巻物を高順の前に降ろした。
「よって、我はここに命じる。修羅の王高順を、仙界における『除魔大元帥』に任ずる! これにより、そなたは仙界の秩序を守護し、万物の魔を払い、新たな道を切り拓く責務を負うこととなる!」
「除魔大元帥」それは、仙界に蔓延る魔を払い、秩序を維持する、絶大な権限を持つ役職だった。高順の願いは、仙界との対立ではなく、仙界の最高位から新たな世界の創造を許されたのだ。黒蛟の魂魄との融合は、彼に絶大な力を与えると同時に、天帝に彼の真価を認めさせる決定打となった。
高順は、静かに膝をついた。彼の顔から異形の鱗は消え、瞳の光も穏やかになったが、その内には、黒蛟の力が確かに宿っていた。彼が手にした降魔黒槍は、再び漆黒の輝きを放ち、その力は以前にも増して強靭なものとなっていた。
関羽は、その光景を静かに見つめていた。彼の表情には、悔しさよりも、高順への深い理解と、新たな時代の幕開けに対する複雑な感情が入り混じっていた。
こうして、高順の仙界の試練は終わりを告げた。修羅の王は、仙界の秩序を覆す存在ではなく、仙界の未来を担う新たな守護者として、その名を刻んだのだ。彼が創り出す「自身の仙界」への道は、今、明確に開かれた。