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第四回 高順単身闘衆仙 一戦成名累全身

東嶽大帝の言葉を受け、高順は冥界の深淵へ足を踏み入れた。そこは死者の魂が行き着く場所、因果の鎖に縛られるか、安息を得るか……運命が決まる地だ。高順は、己の法力と哪吒から叩き込まれた仙武の技を使いこなし、冥界に巣食う怨念や魂の試練を次々とぶっ潰していった。大黒もまた、主の決意に応えるように、そのデカい体を震わせて道を切り拓いてくれた。

そして、ついに高順は、かつての部下たちの魂と巡り合うことができた。奴らは高順の呼びかけに、生きてた頃の姿そのままで高順の前に現れた。


「主よ……!」


古参の部下、呉資と章誑が、目に涙を浮かべて高順の前にひざまずく。続いて、汎嶷、張五、羅胤、郝萌、曹性、侯成、魏続、宋憲、魏越、成廉ら十二人の幹部が、次々と忠誠を誓った。奴らの魂は、高順が創り出す新たな仙界への希望に満ちてた。


だが、それだけじゃねぇ。高順が四度の人生を戦場を駆け抜ける中で、共に血を流し、汗を流した二万四千の兵たちもまた、高順の呼びかけに応え、冥界の深淵から蘇ったのだ。奴らの魂は、高順への揺るぎねぇ忠誠と、再び主と共に戦える喜びに全身で震えてやがった。高順の「陥陣営」は、冥界の奥底で、かつての栄光を取り戻したってわけだ。


高順は、再会を果たした兵たちを前に、静かに、しかし力強く言い放った。


「我が兵たちよ、また集ってくれて、感謝しかねぇ。俺たちは今、新たな世界を創るための、壮大な戦いに挑む。仙界の腐りきった秩序をぶっ壊し、本当の平和を築く。そのためなら、どんな邪魔もぶっ飛ばしてやる!」


兵たちの間から、地鳴りのような歓声が上がった。奴らの魂は、高順の言葉に熱く震え、新たな使命に燃え上がっていた。


冥界から陥陣営を引き連れて戻ってきた高順を待っていたのは、仙界からの更なる試練だった。それは、高順の「俺自身の仙界を創る」っていう願いに対する、仙界の神々からの最終的なケジメだった。


「高順よ。そなたの願い、そして冥界より連れ戻した兵の魂。こいつらは、天地の理を揺るがす行為だ。だから、そなたの真意と、その器を試す必要がある」


太乙真人の声が、高順の耳に届いた。


「仙界の秩序を守るため、そしてそなたの願いが本当に清いもんかどうか見極めるため、仙界の神々がそなたに試練を課す。その試練ってのは……」


それは、あまりにも理不尽な内容だった。


「天界の各神々と、たった一人で戦い、そいつらを退けることである」


高順は、その言葉に微塵も動揺を見せなかった。


(単身で、神々と…か。望むところだぜ)


高順が求めてるのは、力で支配することじゃない。仲間と創り上げる、本当の平和な仙界だ。そのためなら、どんな試練だろうが乗り越える覚悟はできてた。


最初の相手として現れたのは、かつて修羅界で何度も刃を交わした、どうしようもねぇ宿敵、関羽だった。奴は、自分の鍛え上げた天兵を引き連れることなく、ただ一人、青龍偃月刀を構え、高順の前に立ちはだかった。


「高順……貴様が、まさかここまで来るとはな」


関羽の声には、驚きと、そして微かな戸惑いが混じっていた。


高順は静かに答えた。


「長髭野郎。これは、俺個人の復讐じゃねぇ。俺は、俺が信じる平和のために、この試練を受けてやる」


仙界の空に、激しい法力の嵐が巻き起こる予兆が満ち始めた。


仙界の空は、高順が冥界から連れ戻した二万四千の陥陣営の魂の輝きと、関羽が率いる天兵の威圧的な殺気が拮抗し、張り詰めていた。しかし、最初の試練は、高順と関羽、たった二人の戦いから始まった。


関羽は青龍偃月刀を構え、高順の前に立つ。その表情には、友であり、宿敵でもある男への複雑な感情が入り混じっていた。


「高順。貴様の願いが何だろうと、この仙界の秩序を乱すことは許さねぇ。これは、天の定めに抗う行為だ!」


関羽の背後から、天界の威光を宿した気が膨れ上がる。


高順は、揺るぎない眼差しで関羽を見据えた。哪吒との修行で得た仙武の境地、そして妖界での孤独な戦いで再認識した仲間への想いが、彼の全身に漲っていた。


「秩序だと? ふざけるな、関羽! お前らが守ってる秩序は、腐りきってやがる! 俺は、俺が信じる平和のために、この戦いを乗り越える。てめぇだろうと、神だろうと、邪魔する奴は全てぶっ飛ばす!」


高順の体から、天地の理を宿した法力の光が迸る。彼の足元の大地が震え、周囲の仙気が渦を巻いた。

先に動いたのは関羽だった。


「ならば、その浅はかな幻想、この青龍偃月刀で打ち砕いてやる!」


関羽が雄叫びを上げると、青龍偃月刀が雷鳴と共に閃き、巨大な雷撃の斬撃が高順を襲った。それは、仙界の神々すらをも震え上がらせる一撃だった。

しかし、高順は臆さない。


「甘いぜ、関羽! その程度の力で、俺が築く未来を止められると思うな!」


高順は片腕を突き出すと、法力で作り出した堅牢な障壁で雷撃を受け止めた。障壁は激しく震え、周囲の空間が歪むほどの衝撃が走るが、高順は微動だにしない。彼は障壁に吸い込んだ雷撃の力を、自身の法力として変換し、青い光の槍を練り上げた。


「これが、てめぇには理解できねぇ、新たな力の使い方だ!」


高順は叫ぶと、練り上げた光の槍を関羽に向けて投擲した。光の槍は、空間を切り裂くような轟音を立て、関羽へと突き進む。


関羽は目を見開き、驚きを隠せない。


「なんだと…!? 法力を吸収し、即座に転用するだと? まったく、いつの間にそんな芸当を身につけやがった!」


関羽は青龍偃月刀を盾にするように構え、光の槍を受け止めた。凄まじい衝撃が関羽の腕を襲い、彼の体が後退する。


「ほう、受け止めるか。だが、ここからが本番だ!」


高順は一気に間合いを詰めた。哪吒から学んだ槍術が、法力と融合し、信じられないほどの速度と威力を生み出す。彼の槍は、法力の光を帯びて稲妻のように走り、関羽へと連撃を浴びせた。


キンッ! キンッ! キンッ!


青龍偃月刀と高順の槍がぶつかり合うたびに、仙界の空に火花が散り、衝撃波が広がる。二人の動きは肉眼では追いきれない速さで、見る者全てを圧倒した。


「ハァッ!」


関羽は渾身の力で青龍偃月刀を振り上げ、地面に叩きつけた。大地が大きく裂け、無数の岩石が高順めがけて飛び散る。同時に、関羽の全身から緑色の法力が迸り、周囲の仙気を巻き込んで巨大な竜巻を形成した。


「喰らえ! 」


高順は冷静だった。


「小細工が! そんなモン、俺には通用しねぇ!」


彼は槍を地面に突き刺し、自身を中心に法力の結界を展開した。竜巻が結界にぶつかると、激しい摩擦音と共に仙気が逆巻く。高順は結界の中で、冷静に相手の次の動きを読んでいた。そして、竜巻が最大に達した瞬間、彼は結界を内側から爆発させた。膨大な法力の衝撃が竜巻を打ち破り、その余波で関羽の体が一瞬怯む。


その隙を、高順は見逃さなかった。


「もらったぜ、関羽!」


高順は地面を蹴り、一瞬で関羽の懐に飛び込んだ。彼の右拳には、万物の理を凝縮した法力の光が収束している。


「これが、お前らが守れなかった、俺たちの怨念だ!」


渾身の一撃が、関羽の腹部へと叩き込まれた。

ドォンッ!


鈍い音と共に、関羽の体が大きく吹き飛んだ。仙界の地面に叩きつけられた関羽は、苦痛に顔を歪ませながらも、すぐに立ち上がろうとする。


「く……まさか、ここまでとはな……」


彼は口の端から血を流しながら、よろめいた。

高順は息を整え、槍を構えたまま関羽に語りかける。


「まだ終わりじゃねぇ…だが、これが俺の力だ。俺は、もう誰にも止められねぇんだよ」


関羽は、高順の言葉の奥にある、確固たる決意と、彼自身の成長を確かに感じ取っていた。この一撃は、高順の法力と武、そして何よりも彼の強い意志が一体となった、まさに「仙武」の極致だった。


関羽との戦いが女媧の介入によって引き分けに終わった後も、高順の試練は続いていた。次に彼と対峙したのは、皮肉にも、彼に仙武の極意を授けた師兄、哪吒だった。


仙界の広い演武場に、高順と哪吒は向かい合った。哪吒の表情は、いつもの挑戦的な笑みを湛えていたが、その瞳の奥には、高順の成長を試す真剣な光が宿っていた。


「へえ、関羽相手に引き分けかよ。師匠がべた褒めするだけはあんな。だが、俺は関羽とは違うぜ。俺の技は、てめぇに叩き込んだもんだ。つまり、お前の手札は全部見えてるってことだ!」


哪吒は、手にした火尖槍を軽く回しながら、不敵に笑った。その周囲に、燃え盛るような法力が渦を巻く。

高順は、静かに槍を構えた。


「あんたの技を教わったからこそ、俺はここまで来れた。だが、俺はあんたの真似事じゃねぇ。俺自身の道を見つけるために、あんたを超えていく」


高順の言葉には、弟子として師への敬意を払いつつも、決して屈しないという強い意志が込められていた。彼の体から放たれる法力は、どこか澄んだ青白い光を帯びていた。


「言ったな! なら、その覚悟、骨の髄まで叩き込んでやるぜ!」


哪吒が叫ぶと、足元の風火二輪が炎を噴き上げ、彼は一瞬で高順の懐に飛び込んだ。火尖槍が稲妻のように高順の顔面へと突き出される。その速度は、関羽のそれをも凌駕するかのようだった。


「速ぇな、おい!」


高順は間一髪で槍を捌き、体を捻って攻撃をかわす。哪吒の槍術は、まさに変幻自在。予測不可能な軌道で次々と繰り出される連撃は、高順の防御の隙を容赦なく狙った。哪吒の法力は、直接的な破壊力に優れ、一撃一撃が重く、空間を震わせる。


「法力で身体を強化するのも、槍先に気を集中させるのも、全部俺が教えた技だ! てめぇの技は、俺には丸見えなんだよ!」


哪吒は嘲るように言い放ち、槍に炎の法力を纏わせ、巨大な火炎の渦を放った。火炎は生き物のように高順に迫り、周囲の仙気を焦がす。


高順は冷静に状況を判断した。


「確かにあんたの技だ。だが、俺はそれを超える!」

高順は自らの法力で結界を張り、炎の渦を防ぎながら、結界の内側で複雑な手の動きを見せる。哪吒から学んだ「破法」の応用だった。高順の結界が光を放ち、炎の渦の法則を読み解き、そのエネルギーを逆流させるようにねじ曲げた。


「へっ、その程度の力で、俺の技を操れるとでも思ったか!」


炎の渦は勢いを失い、やがて霧散した。


哪吒は感心したように口の端を吊り上げた。


「なるほどな。ただ受け流すんじゃなく、捻じ曲げるか。面白い」


しかし、彼の攻撃の手は緩まない。哪吒は乾坤圏を投擲し、同時に金磚を呼び出し、両方から高順を挟み撃ちにする。仙界の宝具から放たれる圧倒的な法力が、高順を追い詰める。


高順は、哪吒の容赦ない攻撃の嵐の中で、集中力を研ぎ澄ませた。哪吒の技は、確かに彼に叩き込まれたものだ。しかし、高順はそれをただ模倣するだけでなく、自分自身の「万物の理」の理解と、天地の力を取り込む法力によって、「高順の技」へと昇華させていた。


「あんたの技は、確かに強ぇ! だが、俺には俺の道がある!」


高順は、自らの槍を地面に突き立て、全身の法力を解放した。青白い光が彼の周囲に渦を巻き、やがてそれは大地から仙気を吸い上げ、巨大な光の竜へと姿を変えた。それは、天地の力を具現化した、高順の新たな技だった。


「くらえ!」


光は哪吒へと突進する。


哪吒は目を見開いた。


「まさか…俺の教えた技を超え、独自の境地に至るとは…!」


彼は火尖槍を構え、全身の法力を集中させ、光と激突した。仙界の空に、天地がひっくり返るかのような大爆発が起こり、演武場全体が激しく震え上がった。


煙が晴れると、高順は膝をつき、肩で息をしていた。彼の槍は折れ、全身から湯気が立ち上っている。対する哪吒も、額から血を流し、火尖槍を杖のようにして立っていた。


「ハハッ……こりゃ、一本取られたな……!」


哪吒は、高順の成長に心底からの喜びを感じているようだった。


「高順よ。見事だ」


哪吒は、ゆっくりと高順に歩み寄ると、手を差し伸べた。


「てめぇは確かに、俺の技を超えやがった。この試練は、お前の勝ちだ」


高順は差し出された手を取り、立ち上がった。体中の痛みが、心地よい疲労感に変わっていく。師兄哪吒との戦いは、彼の力をさらに一段階引き上げると共に、彼が歩むべき道への確信を深めさせたのだった。仙界の試練は、まだ終わらない。だが、高順の心には、いかなる困難をも乗り越える覚悟が満ちていた。


哪吒との激戦を終え、高順は更なる仙界の試練に挑むことになった。疲弊した体に鞭打ち、彼は次々と現れる神々との戦いに身を投じていった。彼の前に立ちはだかったのは、仙界の秩序を守るため、あるいは高順の真意を測るため、様々な思惑を胸に秘めた強敵たちだった。


最初に現れたのは、天空を縦横無尽に駆け巡る赤髭龍だった。その巨体は仙界の空を覆い尽くし、全身から放たれる灼熱の息吹は、触れるもの全てを灰燼に変える。


「人間ごときが、この天の龍に挑むなど、傲慢も甚だしい! 消し炭にしてくれるわ!」


赤髭龍は咆哮と共に、燃え盛る炎の弾丸を雨霰と降らせてきた。その一撃一撃は山をも砕く威力で、高順は天地を駆けるような速度でそれを回避していく。


「チッ! でかいだけの化け物が!」


高順は悪態をつきながら、哪吒から学んだ仙武の技を駆使した。彼は槍先に法力を凝縮させ、赤髭龍の鱗の隙間、わずかな傷を狙って突きを放つ。赤髭龍は激痛に身悶え、巨大な尾を振り回して高順を叩き潰そうとするが、高順は紙一重でかわし、その身に法力の光を纏わせ、体当たりで反撃を試みた。


高順の拳から放たれる法力の衝撃が、赤髭龍の肉体を震わせる。しかし、龍の硬い鱗と圧倒的な生命力の前では、決定打にはならない。高順は、己の法力を極限まで引き上げ、龍の体内に流れる気を読み取ろうとした。そして、その核心、龍脈の急所を見抜き、渾身の一撃を放った。


ドォンッ!


赤髭龍の巨体が大きく震え、苦悶の咆哮を上げた。高順は、まさに命がけでこの強大な敵を退けたのだった。全身が軋むほどの疲労が彼を襲う。


赤髭龍との激戦の余韻が残る中、次なる相手として現れたのは、見る者を圧倒する巨躯を誇る巨霊将だった。その筋肉隆々の体は、仙界の岩をも砕くほどの剛力を秘めていた。


「ほう、あの赤髭龍を退けたか。しかし、私の前では、その力も霞むだろう。さあ、その細腕で、この巨霊将を打ち破ってみるがいい!」


巨霊将は嘲るように言い放ち、巨大な斧を振り下ろしてきた。その一撃は、大地を深く抉り、高順を押し潰さんとばかりの重圧を伴う。


「力任せの馬鹿野郎が! そんなもん、真っ向から受けてたまるか!」


高順は、巨霊将の攻撃を正面から受けることをせず、巧みな体術と法力による加速でその巨体を翻弄した。彼は巨霊将の懐に飛び込み、連撃を浴びせるが、その皮膚は岩のように硬く、並大抵の攻撃では通用しない。


高順は、哪吒から学んだ「破法」の技を応用した。巨霊将の力は、その肉体に宿る膨大な法力に裏打ちされている。高順は、巨霊将の法力の流れを読み取り、関節や筋肉の結合部といった急所に、法力を凝縮させた寸勁を叩き込んだ。


ゴガァンッ!


内側から破壊されるような衝撃に、巨霊将は呻き声を上げた。高順の攻撃は、表面的なダメージではなく、巨霊将の法力の流れを寸断し、その動きを鈍らせていく。何度か致命的な一撃を喰らわせた後、巨霊将は膝をつき、高順を睨みつけた。


「まさか、この巨霊将が、このような小僧に…」


巨霊将は悔しそうに唸ったが、高順の攻撃は、確かに彼を退けるに足るものだった。


そして、高順の前に立ちはだかったのは、仙界屈指の武神であり、その知略もまた卓越した楊戩だった。彼の額には第三の眼、天眼が光り、高順の全てを見透かすかのようだった。


「修羅王よ、そなたの力、確かに並々ならぬ。しかし、この仙界の理は、力のみで覆せるものではない」


楊戩は、二郎真君の威厳を纏い、高順に告げた。彼の傍らには、忠実な哮天犬が控えている。


「知ったことか! 理屈じゃねぇ、この身で示してやるぜ!」


高順は、迷うことなく楊戩に挑みかかった。楊戩は三尖両刃刀を軽々と操り、高順の攻撃を受け流しながら、その天眼で高順の法力の流れ、次の動きを正確に読み取っていく。


楊戩は、法力で作り出した幻影で高順を惑わせ、哮天犬を使って高順の動きを封じようとする。高順は、どこから来るかわからない攻撃に翻弄され、徐々に追い詰められていった。


「ちくしょう、厄介な奴だぜ!」


高順は、自身の直感と、妖界で培った「気」を感じ取る能力を極限まで研ぎ澄ませた。楊戩の幻術は精巧だったが、そこに流れるわずかな気の乱れを、高順は感じ取ることができた。


高順は、わざと隙を見せ、楊戩が最も自信を持つ攻撃を誘い込んだ。そして、その一瞬の気の集中を読み取り、逆手に取った。


「見えたぜ、てめぇの隙は!」


高順は、天眼の死角を突くように、一瞬で距離を詰めた。楊戩は驚きに目を見開くが、時すでに遅し。高順の槍が、楊戩の脇腹を浅く掠めた。


楊戩は、大きく息を吐いた。彼の顔に、微かな笑みが浮かぶ。


「見事だ、高順。私の天眼を欺き、その隙を突くとは……。そなたは、確かに力だけでなく、知略も兼ね備えている」


楊戩は、これ以上の追撃はせず、静かに武器を収めた。


高順は、倒れこむようにその場に膝をついた。全身は傷だらけで、法力もほとんど残っていない。だが、彼の瞳には、これまでの苦難を乗り越えてきた者だけが宿す、強い光が輝いていた。赤髭龍、巨霊将、そして楊戩。強大な神々との連続する激戦を、高順は単身で、文字通り限界を超えて退けたのだった。


仙界の神々は、高順の力を目の当たりにし、その真意に対する疑念を少しずつ払拭し始めていた。彼の願いが、単なる野心ではないことを、その身をもって証明しつつあったのだ。


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