第十一回 揮師北伐滅袁紹 笑里蔵刀穏曹操
江東の地は、孫策の剛勇と巧みな政治により、日に日に活気づいていた。その傍らには、聡明で思慮深い弟、孫権の姿があった。兄の背中を追いかけながらも、独自の視点で江東の未来を見据えていた。
「兄上、交州平定、誠にお見事でした。しかし、中原の情勢も気になります。高順殿からの報告では、官渡の戦いは膠着状態。そろそろ、我らも動くべき時ではないでしょうか」
孫権は、冷静に戦況を分析し、兄に助言した。孫策は、弟の言葉に耳を傾けつつも、慎重な姿勢を崩さなかった。
「仲謀、お前の言う通り、中原は天下を定める要の地。しかし、今はまだ機が熟していない。南方の安定を確固たるものとし、万全の態勢で臨むべきだ」
孫権は、兄の言葉に納得しつつも、心の中では別の思いを巡らせていた。それは、高順から聞かされた外洋貿易の可能性だった。
「叔父上、以前からお話されていた外洋への貿易、私も興味があります。詳しくお聞かせ願えますか?」
孫権は、高順に貿易の魅力を尋ねた。高順は、目を輝かせながら、未知なる世界への扉を開いた。
「仲謀よ、そうしたければ先ずは建安郡南東の島(台湾)、南海郡の入江の群島(香港)、朱涯郡の島(海南島)は、いずれも交易拠点として重要な場所です。これらの島々を足掛かりに、南海の国々との交易を拡大すれば、江東は莫大な富を得ることができるでしょう」
高順の言葉に触発された孫権は、江東の新たな繁栄を求め、自ら船団を率いて外洋への貿易を開始することを決意した。
「兄上、私は、外洋への貿易がしたいと考えています。叔父上の助言に従い、まずはそれらの島から貿易を始め、そこからさらに南へと交易圏を広げたいと考えています」
孫権の熱意に、孫策は目を細めた。
「仲謀、お前の才覚ならば、必ずや成功するだろう。しかし、くれぐれも無理はするな。江東の未来は、お前にもかかっているのだから」
孫権は、最新の造船技術を駆使し、大型の交易船を建造した。そして、経験豊富な船乗りや通訳を集め、万全の準備を整えた。
「さあ、出発だ!未知なる世界へ、江東の富を広げる航海へ!」
孫権は、自ら船団の指揮を執り、大海原へと乗り出した。
孫権を見送る高順の目には歴史を新たに刻んだ優越感が映っていた。
明の永楽帝が鄭和を送り出した時もこうなんだろうな…!そもそもの話ではあるが、俺は未来人である。
俺が生きてた時代なんかは中国は諸外国から嫌われていたし、お山の大将の如く弱小国との付き合いが多かったから見てて居た堪れないんだよね…!
そこでだ!どうするかと言うと、先に意識改革と先例作りをすればいいのさ!
孫権の船団は、まず建安郡南東方向に有る島へと向かった。そこは、豊かな森林資源と鉱物資源に恵まれた島だった。
「この島では、良質な木材や鉱物が手に入る。これらは、江東の造船や武器製造に役立つだろう」
孫権は、島の人々との交易を通じて、これらの資源を手に入れた。
次に、船団は香港へと向かった。そこは、天然の良港を持つ交易拠点として発展していた。
「この群島は、南海貿易の要となる場所だ。ここを拠点に、さらに南へと交易圏を広げよう」
孫権は、群島に交易所を設け、南海の国々との交易を始めた。
そして、船団は海南島へと向かった。そこは、香辛料や熱帯果樹など、珍しい産物の宝庫だった。
「この島では、江東では手に入らない貴重な産物が手に入る。これらは、江東の食文化を豊かにするだろう。」
孫権は、島の人々との友好関係を築き、これらの産物を手に入れた。
孫権は、現代で言う台湾、香港、海南島を足掛かりに、さらに南へと交易圏を広げていった。
「孫権様、これらの品々は、江東で高値で取引されています。莫大な利益が得られました。」
部下の報告に、孫権は満足げに頷いた。
「素晴らしい。外洋貿易は、江東に新たな富をもたらす。さらに交易を拡大し、江東を世界有数の貿易都市にするのだ。」
孫権は、主要な港湾都市を整備し、外国船の寄港を促進した。また、外国人居留地を設け、異文化交流を奨励した。
孫権は、交易の円滑化を図るため、統一された貨幣制度を導入した。これにより、取引が簡素化され、商工業の発展が促進された。
孫権は、外国の文化や技術を積極的に導入し、江東の文化水準を高めた。また、外国の学者や技術者を招聘し、江東の学術・技術の発展に貢献した。
孫権の貢献により、江東は単なる軍事拠点ではなく、国際的な貿易都市として発展を遂げた。この繁栄は、孫策軍の国力を高め、中原制覇への道を大きく開くこととなった。
孫権の船団は、大海原を駆け巡り、江東に富と繁栄をもたらした。その活躍は、江東を世界の十字路へと変え、江東の財政を支えた。
南海の陽光は、孫権の船団を黄金色に染め上げていた。異国の珍しい香辛料や宝石を積んだ船は、江東へと向かう帰路についていた。若き日の孫権は、異国の文化と富に触れ、江東の未来に思いを馳せていた。
「この交易が、江東にもたらす富は計り知れない。高順殿の慧眼に感謝する。我らの手で、江東を世界有数の貿易都市にしてみせる」
しかし、その時、孫権の表情は一変した。水平線の彼方から、黒い影が現れたのだ。それは、山越の反乱軍の船団だった。
「敵襲!戦闘準備!」
孫権の号令が飛ぶが、時すでに遅し。反乱軍は、孫権の船団が少ない兵で油断しているのを見て、好機とばかりに襲い掛かってきた。
「若旦那、ここは危険です!お逃げください!」
部下の叫びも虚しく、孫権の船はたちまち反乱軍に囲まれた。孫権は、剣を抜き、覚悟を決めた。
「逃げるものか!江東の未来を担う私が、ここで倒れるわけにはいかない!」
その時、一人の男が、孫権の前に立ちはだかった。周泰だった。
「若旦那、私がお守りします!たとえこの身がどうなろうと、あなた様を無事に江東へとお帰しします!」
周泰は、人に倍する勇気を奮い起こし、反乱軍の中に飛び込んでいった。剣を振り回し、槍を突き出し、敵をなぎ倒していく。しかし、反乱軍の数はあまりにも多かった。
周泰は、全身に12カ所の傷を負いながらも、決して退かなかった。血まみれの体で、孫権を庇い、敵の攻撃を受け続けた。
「孫権様、どうかご無事で…!」
周泰の奮戦により、反乱軍は徐々に撤退を始めた。しかし、周泰は全身の傷が深く、ついに意識を失い、倒れてしまった。
周泰は、人事不省の状態が続いたが、懸命な治療により、ついに意識を取り戻した。孫策は、周泰を見舞い、その勇気を称えた。
「周泰、そなたの勇気と忠義、決して忘れぬ。そなたがいなければ、仲謀は命を落としていただろう。ゆっくりと傷を癒し、再び我が軍のために力を貸してほしい」
周泰は、孫策の言葉に深く感謝し、再び戦場に立つことを誓った。
「将軍、この命、孫家のために捧げます。」
孫策は、周泰の復帰を喜び、春穀県長に任命した。周泰は、その期待に応え、春穀の地を豊かに治め、孫家の発展に貢献した。
この戦いは、周泰の武勇と忠義を広く知らしめることとなった。そして、孫権と周泰の絆は、より一層強固なものとなった。
孫権は、周泰の命を懸けた忠義を胸に、江東の発展に尽力した。
江東の地は、孫権の才覚により、かつてないほどの繁栄を謳歌していた。南海貿易は軌道に乗り、異国の珍しい品々が江東にもたらされ、街は活気に満ち溢れていた。
その頃、高順は静かに江東を離れる決意を固めていた。
「伯符。仲謀の才覚により、江東は盤石の地となった。俺の役目は、ひとまず終わりを迎えたようだ」
高順は、孫策に別れを告げた。孫策は、高順の言葉に驚きを隠せなかった。
「叔父御、貴殿の尽力には、心から感謝しております。しかし、どこへ行かれるのですか?」
「汝南です。曹操と袁紹の争いは、いずれ天下を二分する戦となるだろう。その動向を注視し、伯符の天下統一に役立つ情報を集めたいと考えておるよ」
高順の言葉に、孫策は深く頷いた。
「叔父御、叔父御の文韜武略ならば、必ずや有益な情報を得られるでしょう。くれぐれも、お体にはお気を付けて」
高順は、孫策の言葉に感謝し、汝南へと旅立った。
汝南は、曹操と袁紹の勢力圏の境界に位置し、両者の動向を探るには最適な場所だった。高順は、錦衣衛を使い、両軍の情報を収集し、戦況を分析した。
「曹軍は、兵站に問題を抱え、長期戦には向かない。一方、袁紹軍は、兵力は豊富だが、内部対立が激化している。」
その間、曹操と袁紹の戦いは、膠着状態が続いていた。両軍とも、決定的な勝利を収めることができず、戦線は膠着状態に陥っていた。
長期化する戦いに、疲弊したのは両軍だけではなかった。朝廷もまた、戦乱の収束を願い、両者の仲介に乗り出した。
「司空、大将軍、これ以上の戦いは、両軍だけでなく、民をも疲弊させるだけです。ここは、一旦兵を退き、和睦を結ぶべきです」
朝廷の使者の言葉に、両軍の将兵たちは、安堵の表情を浮かべた。
「朝廷の仰せに従い、兵を退きましょう」
曹操は、疲弊した兵たちを見て、和睦を受け入れることにした。
「我々も、これ以上の戦いは望みません。和睦に応じましょう」
袁紹もまた、内部対立の激化を恐れ、和睦を受け入れた。
こうして、朝廷の仲介により、曹操と袁紹は和睦を結び、戦乱は一時的に収束した。
高順は、この和睦を冷静に分析した。
どうせ、また殺し合いが始まるだろうからよ!
しかし、高順もまた、自身の勢力を拡大する必要があった。二州と一郡、そして数十万の兵を抱えているとはいえ、曹操や袁紹に比べれば、その力はまだ小さい。
「まずは、領土を安定させ、兵を鍛えなければ。そして、孫策様が中原に進軍する時に、足掛かりとなる地を確保する」
高順は、慎重に戦略を練り始めた。
高順は、まず、琅邪国、彭城国、東海郡に兵を配置し、これらの地を安定させた。
「胤誼、琅邪国は、豊かな土地と港を有している。この地を安定させ、交易を盛んに行い財政を安定させよ」
「正礼、彭城国は、交通の要衝です。この地を守り、周辺の情報を収集を怠るなよ?」
「朱皓殿、東海郡は、水軍の拠点です。水軍を強化し、沿岸部の防衛を固めよ!」
高順は、それぞれの将に、その地の特性に応じた任務を与えた。
次に、高順は、魯国、梁国、陳国、頴川郡に兵を重点的に配置した。
「これらの地は、中原への進軍路となり得る重要な場所です。万全の備えをしてください」
高順は、これらの地に、精鋭部隊を配置し、防御を固めた。
高順は、領土の安定と兵の強化を進めながら、静かに時を待っていた。
「孫策様が中原に進軍する時、この地は、必ずや役に立つだろう。それまで、力を蓄え、機を待つ」
高順の野望は、静かに、しかし確実に、その形を成しつつあった。
高順は、曹操と袁紹の動向を注視しながら、孫策の天下統一を信じ、その時を待ち続けた。
そして、その時が来た時、高順は、その力を遺憾なく発揮し、孫策の天下統一に大きく貢献することになる。
許昌城の広間は、重苦しい沈黙に包まれていた。青州奪還の報せは、曹操の心中にも暗雲をもたらしていた。
「高順め、袁紹軍の疲弊に乗じて青州を奪還したか。その動き、只者ではない」
曹操は、玉座に深く腰掛け、眉間に深い皺を寄せながら呟いた。その声には、隠しきれない警戒と焦燥が滲んでいた。
「高順は、青州と徐州を手に入れたことで、中原への足掛かりを築きました。これは、我々にとって大きな脅威となります」
荀彧が、静かに進言した。その言葉は、まるで冷たい刃のように、広間の空気を引き締めた。
「高順軍は、精強な兵を持ち、その戦力は侮れません。我々は、早急に対策を講じる必要があります」
郭嘉が、扇子を閉じ、鋭い眼光を放ちながら言った。その視線は、まるで高順の策謀を見透かしているかのようだった。
曹操は、配下の者たちの意見を聞き、対策を練り始めた。
「高順の狙いは、袁紹軍を疲弊させ、その隙を突いて中原を制圧することだろう。我々は、高順の思惑を阻止しなければならない。」
曹操は、高順の行動を分析し、その狙いを推測した。
「高順軍は、青州と徐州の防衛を固め、袁紹軍との全面対決を避けようとするでしょう。我々は、高順軍を挑発し、袁紹軍との戦いに引きずり込む必要があります」
曹操は、高順軍を袁紹軍との戦いに引きずり込むことで、両軍を疲弊させ、漁夫の利を得ようとした。
「高順軍を挑発するには、どのような手段を用いるべきでしょうか?」
配下の者が、曹操に尋ねた。
「高順軍の領土を攻撃し、挑発するのだ。しかし、全面対決は避け、高順軍を袁紹軍との戦いに集中させる」
曹操は、高順軍を挑発しつつも、全面対決は避け、袁紹軍との戦いに集中させることを指示した。
その時、賈詡が静かに口を開いた。
「曹操様、高順は只者ではありません。挑発に乗らず、冷静に状況を見極めるでしょう。下手に挑発すれば、我々が思わぬ反撃を受ける可能性もあります」
賈詡の言葉は、物事の本質を的確に捉え、広間の空気を凍りつかせた。
「賈詡の言う通りだ。高順は、我々の挑発に乗らず、袁紹軍との戦いに集中するだろう。ならば、我々は高順軍の動きを注視し、機を見て動くべきだ」
曹操は、賈詡の助言を受け入れ、高順軍の動きを注視することを決めた。
程昱が、地図を指しながら言った。
「高順軍は、青州と徐州の防衛を固めています。我々は、これらの地を迂回し、高順軍の背後を突くことも可能です」
程昱の言葉は、軍事的な謀略に長けた彼の特性をよく表していた。その言葉に、広間の者たちは息を呑んだ。
「高順軍の背後を突くか。それは面白い。しかし、高順はそれを警戒しているだろう。慎重に検討する必要がある。」
曹操は、程昱の提案に興味を示しつつも、慎重な姿勢を崩さなかった。荀攸が、程昱の提案に付け加えた。
「高順軍の背後を突く場合、兵站の確保が重要になります。高順軍は、青州と徐州の豊かな資源を利用して、長期戦に持ち込む可能性があります」
荀攸の言葉は、軍事的な謀略と兵站の重要性を指摘し、広間の者たちに新たな視点を与えた。
「荀攸の言う通りだ。兵站の確保は、戦の要だ。我々は、長期戦に備え、万全の準備を整えなければならない」
曹操は、荀攸の意見も考慮に入れ、戦略を練り直した。
荀彧が、静かに進言した。
「曹操様、高順軍との戦いは、長期戦になる可能性が高いです。我々は、兵站を確保すると同時に、財政基盤を強化する必要があります」
荀彧の言葉は、常に財政と政治の安定を重視する彼の特性をよく表していた。その言葉は、広間の者たちに現実的な課題を突きつけた。
「荀彧の言う通りだ。財政基盤の強化は、国家の安定に不可欠だ。我々は、民を労い、税を軽減し、経済を活性化させる必要がある」
曹操は、荀彧の進言を受け入れ、兵站の確保と財政基盤の強化を指示した。
郭嘉が、扇子を閉じ、予言めいた言葉を口にした。
「高順軍との戦いは、中原の覇権を争う最終決戦となるでしょう。我々は、全力を尽くし、必ず勝利しなければなりません。」
郭嘉の言葉は、戦いの行く末を見通しているようだった。その言葉は、広間の者たちに覚悟を促し、静かなる闘志を燃え上がらせた。
曹操軍は、高順軍の動きを注視しながら、長期戦に備え始めた。
許昌城の広間は、静まり返っていた。曹操は、高順からの使者の言葉を反芻していた。
「我が主高順は、戦う意思はない、と申しております」
使者は、恭しく頭を垂れていた。その言葉には、穏やかな響きが込められていた。
「戦う意思はない、か。しかし、兗州と豫州の境には、兵を配備しているという報告を受けている」
曹操は、使者の言葉を疑いの目で見ていた。高順の行動は、明らかに矛盾していた。
高順は、何を企んでいるのだ?
曹操は、深い疑念を抱きながら、使者をじっと見つめた。
「高順様は、ただ、袁紹軍との戦いに集中したいと申しております」
使者は、動じることなく答えた。その態度には、確固たる自信が感じられた。
「袁紹軍との戦い、か。しかし、我々との国境に兵を配備しているのは、一体どういう意味だ?」
曹操は、使者の言葉を追及した。
「高順様は、万が一に備えて、兵を配備していると申しております」
使者は、落ち着いて答えた。
曹操は、使者の言葉を信じるべきか、疑うべきか、迷っていた。
「高順は、狡猾な男だ。その言葉を、鵜呑みにすることはできない」
曹操は、賈詡の言葉を思い出した。賈詡は、常に物事の本質を見抜く男だった。
「しかし、高順と全面対決するのは、得策ではない。今は、袁紹軍との戦いに集中すべきだ」
曹操は、荀彧の言葉も思い出した。荀彧は、常に冷静に状況を分析し、最善の策を提示する男だった。
曹操は、熟考の末、高順の申し出を受け入れることにした。
「分かった。高順との一時的な同盟を承諾する。しかし、警戒は怠るな。高順の動きを常に監視し、何かあれば、すぐに報告せよ」
曹操は、使者に伝えた。
「承知いたしました」
使者は、頭を下げ、許昌城を後にした。曹操は、高順の行動を警戒しながらも、袁紹軍との戦いに集中することにした。しかし、その心中には、高順に対する疑念が渦巻いていた。
「高順は、必ず何か企んでいる。その時が来た時、私は、高順の野望を打ち砕いてみせる」
曹操は、静かに誓った。その瞳には、燃え盛る闘志が宿っていた。
曹操と高順の間に、一時的な同盟が成立した。しかし、それは、嵐の前の静けさに過ぎなかった。中原の覇権を巡る戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。