第五回 王司徒除暴安国 高将軍夜襲敵営
董卓を殺した直後の事である。
その時、高順は董卓の娘、董媛を見つけた。彼女の瞳には、恐怖と悲しみが入り混じっていた。高順は、彼女に近づき、その恐怖に歪む顔を見つめた。
そして、彼は衝動のままに、彼女を奥の部屋へと連れ込んだ。
「将軍、お願いです…!父は討たれました、一族を殺さないででください…!」
董媛は、震える声で懇願した。しかし、高順は冷たい視線を彼女に向け、言葉を吐き捨てた。
「態度次第では考えてやろう」
高順は、そう言い残し、董媛の衣服を乱暴に剥ぎ取り、抵抗する彼女を押し倒した。
「やめて…!将軍、お願いです…!」
董媛は、必死に抵抗した。しかし、高順は聞く耳を持たず、欲望のままに彼女を犯した。
「あ…ああ…!」
董媛は、恐怖と屈辱に震えながら、高順のなすがままになった。高順は、獣のような目で彼女を見下ろし、その行為が終わると、冷たい視線を彼女に向けた。
「お前は黙って俺の女になれ…」
高順は、そう言い残し、部屋を出て行った。それから連日連夜に渡り高順は董媛を犯した。
董卓の死は、長安のみならず、遠征中の将兵たちにも衝撃を与えた。しかし、馬騰・韓遂連合軍との戦いは続いており、彼らは動揺を抑えつつも、圧倒的な武力で連合軍を粉砕し、長安へと帰還した。
長安に戻った徐栄、李粛は、高順の武勇と人望に感服し、恭順の意を示した。さらに、張遼、張楊、楊定、そして徐晃も、高順の指揮下に入ることを決意した。彼らは、董卓の残党勢力である董旻らと、長安の命運をかけて戦う覚悟を決めた。
しかし、長安の情勢は複雑だった。司徒王允は、高順が董卓軍の残党をまとめ上げ、新たな勢力となることを警戒していた。彼は、禁軍を動かし、高順らを排除しようと画策した。
「高順は、董卓の残党を率いて、長安を混乱させようとしている。禁軍を動かし、彼らを討伐するべきだ」
王允は、朝廷の重臣たちに訴えた。しかし、高順の武勇と人望を知る者たちは、王允の意見に反対した。
「高順殿は、董卓を討ち、長安の危機を救った英雄です。彼を討つなど、恩を仇で返すようなものです。」
「それに、董旻らの残党勢力も侮れません。高順殿の力を借りなければ、長安は再び戦火に包まれてしまうでしょう」
朝廷内は、高順を支持する者と、王允を支持する者に分かれ、激しい議論が交わされた。
一方、高順は、長安の混乱を収拾するため、奔走していた。彼は、董卓軍の残党勢力をまとめ上げ、董旻らとの戦いに備えるとともに、王允との対話も試みた。
「司徒、私は長安を混乱させるつもりはありません。董旻らを討ち、長安の平和を取り戻したいのです」
高順は、王允に誠意を示したが、王允は高順を信用しようとはしなかった。
「高順、お前の言葉を信用しろと?お前は董卓の残党を率い、長安を乗っ取ろうとしているのだ」
王允は、高順の言葉に耳を貸さず、禁軍を動かす準備を進めた。
長安の情勢は、ますます緊迫していた。高順と王允の対立は、長安を二分する勢力争いへと発展しようとしていた。そして、董旻らの残党勢力も、密かにその機会をうかがっていた。
董旻らの軍勢が長安に迫る中、高順は重い沈黙を保っていた。周囲の将たちが対策を求めても、彼はただ静かに首を振るばかりだった。
「高順殿、何か策はないのか!敵はすぐそこまで来ているのだぞ!」
焦燥の色を隠せない将たちが、高順に詰め寄る。しかし、高順は冷たい眼差しで彼らを見据え、口を開いた。
「策はある。だが、それは禁軍を動かせる場合に限る」
高順の言葉に、将たちは戸惑いを隠せない。
「禁軍だと?王允殿がそれを許すはずがないだろう!」
「ならば、策はない。米も食材もない状態で、どうやって料理を作れというのだ」
高順は、そう言い放ち、それ以上何も語ろうとはしなかった。彼の言葉は、長安の現状を的確に表していた。
長安は、董卓の死後、混乱の極みにあった。董旻らの残党勢力は、復讐を誓い、長安を包囲していた。一方、長安内部では、高順と王允の対立が激化し、禁軍の動員は不可能となっていた。
さらに、長年の戦乱と董卓の暴政により、長安の食糧事情は深刻な状況にあった。米や食材は底を尽きかけ、兵士たちの士気は低下していた。
高順は、この状況を冷静に見極めていた。彼は、禁軍の力を借りなければ、長安を守り抜くことは不可能だと悟っていた。しかし、王允が禁軍を動かすことを拒否する限り、彼にできることは限られていた。
「我々に残された道は、少ない。だが、それでも戦わねばならぬ」
高順は、静かに呟いた。彼の言葉には、覚悟と諦念が入り混じっていた。
高順は、手持ちの兵をかき集め、長安の防備を固めた。彼は、限られた兵力と物資を最大限に活用し、董旻らの攻撃に備えた。
しかし、彼の心中には、拭い去れない不安が渦巻いていた。このままでは、長安は陥落する。そして、その時、彼は…。
高順は、董媛のことを思い出していた。あの夜、衝動に駆られて犯した罪。それは、高順にとって、決して消えることのない汚点だった。
「せめて、彼女だけは…」
高順は、心の中で呟いた。彼は、董媛を守ることを、せめてもの償いと考えていた。
長安の命運、そして高順自身の運命は、風前の灯火のように揺れていた。
劉協は、長安の危機的状況を打破するため、ついに王允に禁軍を高順に委ねるよう命じた。皇帝としての威厳を示し、高順に長安防衛の全権を委任するという決断を下したのだ。
「司徒、そなたは禁軍を高順に預けよ。長安を守るためにはもはや彼の力しかない」
劉協の言葉に、王允は戸惑いを隠せない。
「しかし陛下、高順は董卓の残党を率いる者。彼に禁軍を預けるなど、危険すぎます」
王允は、なおも高順への不信感を露わにした。しかし、劉協の決意は固かった。
「もはや、そのようなことを言っている場合ではない。高順がこの戦に敗れれば、長安は終わりだ。我々の命も、もはや風前の灯火。王允、そなたは朕の命令に従え」
劉協の言葉に、王允はついに折れた。彼は、渋々ながらも禁軍を高順に引き渡すことを約束した。
高順は、禁軍を手に入れたことで、ようやく長安防衛の準備に取り掛かることができた。彼は、限られた時間の中で、兵士たちを鼓舞し、長安の防備を固めていった。
「諸君、我々は長安を守り抜かねばならぬ。この戦に敗れれば、我々の命はない。家族も、故郷も、全てを失うことになる。だが、決して諦めるな。我々には、まだ勝機がある。共に戦い、この長安を守り抜くのだ!」
高順の言葉に、兵士たちは奮い立った。彼らは、高順の指揮の下、一丸となって董旻らの軍勢に立ち向かう覚悟を決めた。
一方、董旻らは、長安が混乱状態にあることを知り、攻撃を仕掛ける機会をうかがっていた。彼らは、高順が禁軍を手に入れたことを知ると、警戒を強めた。
「高順め、禁軍を手に入れたか。だが、もはや遅い。我々の軍勢は、長安を包囲している。奴らに逃げ場はない。」
董旻は、そう言い放ち、全軍に総攻撃の準備を命じた。
高順は、夜襲を成功させるために、敵軍の配置を詳細に把握する必要があった。特に、董旻、李傕、郭汜、牛輔、樊稠といった主要な将の所在は、作戦の成否を左右する重要な情報だった。
そこで高順は、張五率いる斥候隊に、彼らの所在を探るよう命じた。
「張五、お前には敵軍の陣地を探るだけでなく、董旻、李傕、郭汜、牛輔、樊稠らの所在を突き止めてもらいたい。彼らがどこにいるかによって、夜襲の成否は大きく変わる。」
張五は、高順の言葉を真剣な表情で受け止めた。
「へい!見てきやす」
張五は、斥候隊を率いて夜の闇に消えていった。彼らは、敵軍の警戒網を掻い潜り、慎重に情報を収集した。
やがて、張五から報告が届いた。
「大将、董旻は本陣におり、李傕、郭汜、牛輔、樊
稠らはそれぞれ別働隊を率いて、本陣の周囲に陣を構えているようですぜ?」
この報告を受け、高順は夜襲の計画を練り直した。主要な将の配置を踏まえ、より効果的な侵攻方向と目標を設定する必要があった。
高順は、地図を広げ、敵軍の配置と長安の地形を照らし合わせながら、夜襲の戦略を練り上げた。
高順は、迫り来る董旻らの軍勢を撃退するため、大胆な作戦に出た。彼は、皇帝劉協から預かった禁軍を、徐栄、徐晃、張楊、張遼、段煨、李粛といった将たちに託し、四方から同時に敵軍を攻めさせることにした。
「徐栄、徐晃、張楊、張遼、段煨、李粛!禁軍を率い、四方から敵軍を攻め立てよ!奴らを長安に近づけるな!」
高順の号令一下、将たちは禁軍を率いて、それぞれの持ち場へと向かった。彼らは、高順の期待に応えるべく、士気高く敵軍に突撃していった。
一方、高順は、自軍の精鋭部隊を率いて、第二波の攻撃を仕掛ける準備を進めていた。彼の傍らには、張燕、曹性、王当、楊鳳、楊醜、陶昇といった、屈強な将たちが控えていた。
「張燕、曹性、王当、楊鳳、楊醜、陶昇!我々も後に続く!奴らを蹴散らし、長安を守り抜くぞ!」
高順の言葉に、将たちは雄叫びを上げ、突撃の時を待った。
やがて、四方からの攻撃が始まった。禁軍の兵士たちは、高順の期待に応え、勇敢に敵軍に立ち向かった。徐栄、徐晃、張楊、張遼、段煨、李粛らは、それぞれの持ち場で奮戦し、敵軍を圧倒した。
高順は、その様子を見ながら、第二波の攻撃の時を見計らっていた。そして、敵軍が混乱し始めたのを見計らい、突撃の号令を下した。
「突撃!奴らを一気に押し潰せ!」
高順の号令一下、張燕、曹性、王当、楊鳳、楊醜、陶昇らは、自軍の兵を率いて、怒涛の勢いで敵軍に突撃した。彼らの突撃は、敵軍の陣形を切り裂き、混乱に拍車をかけた。
高順の采配により、長安の守りは堅固なものとなった。彼は、禁軍と自軍の連携により、敵軍を圧倒し、長安の危機を救おうとしていた。
高順の采配は見事に的中した。四方からの同時攻撃は、董旻らの軍勢を混乱に陥れた。禁軍の兵士たちは、高順の期待に応え、勇敢に敵軍を圧倒した。徐栄、徐晃、張楊、張遼、段煨、李粛らは、それぞれの持ち場で奮戦し、敵軍を蹴散らしていった。
高順率いる第二波の攻撃も、敵軍に壊滅的な打撃を与えた。張燕、曹性、王当、楊鳳、楊醜、陶昇らは、高順の号令一下、怒涛の勢いで敵軍に突撃し、敵兵を次々と薙ぎ倒していった。
高順の巧みな指揮と、兵士たちの奮戦により、董旻らの軍勢は完全に崩壊した。董旻、牛輔らは、混乱の中で逃亡し、李傕、郭汜もまた、高順らの追撃をかわし、辛くも逃げ延びた。しかし、樊稠は逃げ遅れ、高順軍に包囲され、降伏を余儀なくされた。
「もはやこれまで…降伏する。どうか、命だけは助けてくれ」
樊稠は、高順に懇願した。高順は、樊稠の降伏を受け入れ、彼を捕虜とした。
こうして、高順は長安の危機を救った。彼は、巧みな采配と兵士たちの奮戦により、董旻らの軍勢を撃退し、長安を守り抜いた。しかし、李傕、郭汜といった強敵を取り逃がしたことは、今後の戦いに影を落とすこととなった。
戦いが終わり、論功行賞に入った。
高順は長安防衛の最高指揮官として、董旻らの軍勢を撃退した功績を称え梁公、車騎将軍に任命。
徐栄は禁軍を率いて敵軍を撃退した功績を称え漆公、衛将軍に任命。禁軍の指揮権を持つようになった。
張遼は禁軍を率いて敵軍を撃退した功績を称え、雁門公、驃騎将軍に任命。長安周辺の防衛を任される。
張楊は禁軍を率いて敵軍を撃退した功績を称え、雲中公鎮軍将軍に任命。長安周辺の防衛を任される。
段煨は禁軍を率いて敵軍を撃退した功績を称え南陽公、司隷校尉兼大司馬に任命。長安周辺の防衛を任される。
李粛は禁軍を率いて敵軍を撃退した功績を称え池陽だ公、揚武将軍に任命。長安周辺の防衛を任される。
徐晃は禁軍を率いて敵軍を撃退した功績を称え、建威将軍に任命。長安周辺の防衛を任される。
内、高順配下にも将軍位が授けられた。
張燕は高順の副官として、敵軍の撃退に貢献した功績を称え、驍騎将軍に任命。高順の補佐を任される。
曹性は高順の副官として、敵軍の撃退に貢献した功績を称え、討逆将軍に任命。高順の補佐を任される。
王当は高順の副官として、敵軍の撃退に貢献した功績を称え、昭武将軍に任命。高順の補佐を任される。
楊鳳は高順の副官として、敵軍の撃退に貢献した功績を称え、奮威将軍に任命。高順の補佐を任される。
楊醜は高順の副官として、敵軍の撃退に貢献した功績を称え、建忠将軍に任命。高順の補佐を任される。
陶昇は高順の副官として、敵軍の撃退に貢献した功績を称え、忠義将軍に任命。高順の補佐を任される。
樊稠は降伏したことを評価し、罪を許し、高順軍麾下騎兵伯長に任命。
張五斥候として敵軍の情報を収集し、夜襲の成功に貢献した功績を称え、軽騎将軍に任命。
高順が董旻らの軍勢を撃退し、長安に平和が戻って数日後、司徒王允は荒廃した長安の内政を立て直すため、かつて董卓によって冷遇されていた重臣たちを朝廷に招聘した。
「諸公、長安は今、大きな危機を乗り越えた。しかし、この都はまだ疲弊しきっている。民は飢え、町は荒れ果て、政治は混乱している。我々は力を合わせ、この長安を立て直さねばならぬ」
王允は、朝廷に集まった張温、盧植、皇甫嵩、朱儁らに力強く語りかけた。
「王允殿の仰る通りです。我々もこの長安の復興に尽力いたします」
張温は王允の言葉に賛同した。
「まずは民の飢えをどうにかせねば。食糧の確保と配給を急ぎましょう」
盧植は具体的な対策を提案した。
「荒廃した町の復興も急務です。民が安心して暮らせるよう、住居や施設の修復を進めましょう」
皇甫嵩は町の復興を訴えた。「政治の混乱も収拾せねばなりません。失われた朝廷の権威を取り戻し、民が安心して暮らせるような政治を行いましょう」
朱儁は政治の安定を求めた。王允は彼らの意見に耳を傾け、内政の立て直しに向けて具体的な計画を立て始めた。周辺地域からの食糧調達を急ぎ、民への配給を始める。荒廃した住居や施設の修復を行い、民の生活基盤を再建する。失われた朝廷の権威を取り戻し、公正な政治を行う。王允は、彼らと共に長安の復興に向けて動き出した。しかし、長年の戦乱と董卓の暴政によって疲弊した長安の復興は容易なことではなかった。




