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【書籍化】王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います  作者: 狭山ひびき
第四話

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貴族裁判 4

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新連載開始しました!

「籠の鳥王女は好きにすることにした」

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 満場一致でエバンス公爵の有罪が確定し、ラドルフは捕縛され連行されて行った。

 公爵が有罪になったと事実は、傍聴席にいた貴族たちを困惑させ、そして興奮させ、この場を飲み込むほどの巨大な喧噪を生んだ。

 大臣たちが、傍聴席の彼らへ部屋から出て行くようにと叫んでいる。

 傍聴席にいた貴族たちが全員いなくなると、オリヴィアはふう、と細い息を吐きだした。

 その肩を、席から降りてきたサイラスがポンと叩く。


「お疲れオリヴィア」

「サイラス様……」

「頑張ったね。……手が冷たくなってる」


 サイラスがそう言いながらオリヴィアの両手を握る。緊張で手先が氷のようになっていた。サイラスの体温が心地いい。


「部屋に戻ろう。少し休みたいだろう?」

「そうしたいところですが……」


 たぶん、そうはならない。

 そう思いながらオリヴィアが顔を上げると、目が合ったジュールが立ち上がりながら口を開いた。


「オリヴィア、サイラス、このあと執務室へ。アランもだ。……イザック、後は頼む」


 ジュールがそう言い残して足早に立ち去ると、そのあとを追うようにグロリアが立ち上がった。去り際、オリヴィアをちらりと見て、僅かに口端を持ち上げる。

 サイラスが肩を落として「明日にすればいいのに」と文句を言ったが、明日まで待っていたら状況も変わってしまうだろう。


(多分あの方は、明日には王都を去ってしまうでしょうから……)


 オリヴィアは協力してくれたアベラルドに礼を言って、アランとサイラスの三人でジュールの執務室へ向かった。

 ジュールの執務室には、ジュールのほかにグロリアの姿もあった。


「よくやったオリヴィア」


 オリヴィアが部屋に入ると、ジュールが満足そうな顔でそう言った。

 オリヴィアは微笑んで、けれども首を横に振る。


「陛下……もうお芝居はやめましょう。エバンス公爵家の動きは、はじめからご存じだったのでしょう? ――王太后様から聞いて」


 オリヴィアがついと視線を動かすと、グロリアがまっすぐに見返してくる。

 サイラスとアランが目を見開いて「は?」と声を裏返した。


 じっと見つめ合っていると、グロリアがふっと笑う。


「どこで気づいたの?」

「強いて言えば、レネーンが捕まったと聞いた時でしょうか。これまでのレネーンや王太后様の行動を整理するきっかけになりました」


 それまでオリヴィアは、グロリアはエバンス公爵の企みに多少なりとも加担していると思っていた。

 しかしエバンス公爵の企みの全貌が見えてくるにつれて、そこに少しずつ矛盾が生じて行った。グロリアの行動は、必ずしもエバンス公爵のためになっているわけではなく――むしろ、結果的に邪魔をしているような部分がいくつも見られたからだ。

 それに気づいたオリヴィアは、最初から一つずつ矛盾点を洗っていくことにした。


 まず矛盾の一つ目。それはグロリアが、レネーンとサイラスを縁付かせようとしたことだった。

 エバンス公爵の狙いは、玉座の簒奪だ。娘をサイラスに嫁がせ、外戚として実施の権力者として君臨するのではなく、玉座そのものを狙っていたとオリヴィアは見ている。外戚として権力をほしいままにするのが目的なら、カルツォル国に協力を取り付けて戦争を起そうとする必要はどこにもないからだ。

 方法ならいくつもあるが、一番手っ取り早いのはレネーンがしようとしたように、オリヴィアを排除し、レネーンをサイラス、もしくはアランにあてがうこと。レネーンが嫁いだほうの王子を玉座につけ、かつてグロリアが王妃だった時代のように、国の中枢をエバンス公爵家の一族で固めてしまえばいい。


 だが、エバンス公爵はその方法を選ばず、戦争を起こして国をひっくり返すことを選んだ。ならば、エバンス公爵の狙いは、娘を次期王に嫁がせることではなく、自身もしくは子を王位につけることだろうと推測できる。


 だから、レネーンをサイラスと縁付かせても意味がないのだ。戦争を起そうとしたくらいだから、アランやサイラスを生かしておくつもりはなかったはずだからである。

 けれども、グロリアはサイラスが王になることを前提に動いていた。

 その裏付けは、バーバラが言ったこの言葉だ。


 ――ねえオリヴィア。あのババアが何を企んでいるか知ってる? サイラスとレネーンを縁付かせて、サイラスを王位につけ、あなたをアランの婚約者に戻してサイラス達の補佐をさせるつもりなのよ。


 つまりは、グロリアはサイラスを王にするつもりでいたのだ。そう考えると、レネーンをサイラスにあてがおうとしたのはグロリアの独断と言うことになる。エバンス公爵は自身が王になりたい。この考えに矛盾する行動をとったグロリアは、エバンス公爵と共謀関係にはないはずだ。

 けれど、グロリアは本当にレネーンをサイラスに嫁がせたかったのだろうか。


 次の矛盾はこれだった。

 グロリアがレネーンをサイラスに嫁がせるつもりで動いていたのならば、グロリアの行動はあまりにおかしかったのだ。

 グロリアはレネーンのために城に一室用意させ、妃教育をはじめさせた。ここまではいい。問題はこのあと。アベラルドの歓迎パーティーでの、レネーンの服装だ。


 グロリアはオリヴィアの世間の評価が問題だと言った。そのグロリアが、レネーンのあの格好を許すだろうか。

 カルツォル国が友好国ではないとはいえ、かの国の情報がまったくないわけではない。

 赤がカルツォル国で重要視されている色であることは、ある程度は周知されている事実だ。

 現にあの日のパーティーで、アクセサリーなどで赤を使っていた人間は何人か見たが、赤いドレスをまとっていたのはレネーンだけだった。しかもドレスだけではなく小物に至るまで全部赤だった。

あの格好に、眉をひそめた人も多い。

 グロリアがカルツォル国の赤の意味を知らないはずがないから、知っていてレネーンを放置していたことになる。


 サイラスに嫁ぐ上で世間の評価が重要だと言うのならば、グロリアがレネーンのあの行動を止めなかったのは明らかにおかしい。だからオリヴィアは一つ仮説を立ててみた。


 グロリアの目的は、レネーンをサイラスに縁付かせることではなく、もっと別の何かがあるのではないか、と。


 そうして仮説を立てたとき、もう一つ別の違和感を見つけた。

 バーバラの実家レプシーラ侯爵家にかけられた謀反の嫌疑だ。

 バーバラはグロリアにはめられたと言った。

 もしグロリアの目的がオリヴィアとサイラスを別れさせて、サイラスをレネーンを縁付かせることを目的としていたのならば、オリヴィアの味方をしているバーバラを城から遠ざけるという意味では悪くない手だったかもしれない。


 しかしそれが目的でないとするならば、バーバラを城から追い出した理由は何だろう。

 そして、証拠として用意されたクローレ商会からの武器の購入明細書。それはロナウドが見破った通り偽装されたものだったが、グロリアならばあれほどお粗末な偽装をするはずがない。

 もっと言えば、偽装に使用した商会が、クローレ商会だったのもおかしい。エバンス公爵領内に拠点を置くクローレ商会の名前を使って明らかに偽装とわかる明細書を作成すれば、オリヴィアがそのあとクローレ商会を探りはじめることは想像に難くないはずだ。


 そうなると、グロリアのこの行動はわざとではないかと仮説が立つ。

 わざとバーバラを城から遠ざけて、わざとオリヴィアにクローレ商会を探らせるように仕向けた。


 何のために? ――そう考えると、根底が最初から覆った。


「はじめから、わたくしにエバンス公爵の王位簒奪計画を暴かせるつもりだったんですね。だから、わたくしを焚きつけるために、サイラス様との婚約に反対するふりをした。そして陛下もそれを知っていてわたくしに悪評を覆せとおっしゃった。違いますか?」


 オリヴィアが言うと、グロリアが肩をすくめた。


「バーバラに気づかれるとは思っていたけれど、あなたにまで気づかれるとは思わなかったわね」

「どういうことですか、父上、おばあ様」


 サイラスがじろりとジュールとグロリアを睨む。

 グロリアはサイラスに微笑んで、首を横に振った。


「陛下を責めないで。わたくしが頼んだことよ」

「何故そんな回りくどいことを? エバンス公爵を捕えたいなら自分ですればよかったでしょう」


 アランの問いに、グロリアは何も答えなかった。

 アランの言う通り、グロリアならば、もっと簡単にエバンス公爵を貴族会議に引きずり出すことが可能だっただろう。

 すべてではないにしろ、確信が持てる程度には証拠はつかんでいたはずだ。


(でも……王太后様の本当の目的は、もう一つあったから)


 オリヴィアは疲れたようなグロリアの笑みを見て、静かに口を開いた。


「……一緒に罪に問われたかったから。ですよね」


 これは勘だった。エバンス公爵の動きに気づいていながら、グロリアが自分で糾弾しなかった理由。


(甥やその娘――実家の公爵家が問題を起せば、王太后様だってただではすまない。直接の罪に問われなくとも、一生離宮かどこかでの軟禁生活になる。でも……自分で身内を断罪すれば、それが酌量の余地を生むから、差し引いて考えるとほぼ罪には問われないはず。少なくとも、一生監視下に置かれることも、自由を奪われることもないわ)


 我が身が可愛いなら、自分で甥を糾弾すればよかった。それをしなかったのは、自分も巻き添えを食うことを望んでいたから。

 そして、ジュールはそれを知っていて、グロリアの提案を飲んだ。


「バーバラがあなたを気に入っている理由がわかるわね。本当……この短い間に、よく気付いたこと」


 グロリアは息をついて、そっと目を伏せる。


「わたくしはね、間違えたのよ」

「母上」

「いいのよ、ジュール」


 陛下、ではなく名前で呼ばれたジュールが、ぎゅっと眉を寄せる。


「わたくしは、家のために先王陛下に嫁いで王妃になったわ。そして王妃になってからずっと、家の――エバンス公爵家のために行動してきた。時にはちょっと強引な手も使って、エバンス公爵家を盛り立てることだけを考えて。それが間違いだと気づいたのは、陛下に――息子に、バーバラが嫁いできてからだったわ。あの子が優先するのは国。同じように政略結婚で嫁いできたのに、わたくしとは全然考え方が違うのよ。それがまぶしくて、同時にとても苛立たしくてね。意地悪もたくさんしたわ」


 グロリアは昔を思い出すような顔をして、小さく笑う。オリヴィアにはそれは自嘲に見えた。


「……でも、バーバラを見ていると、もうやめようと思えた。わたくしの時代はもう終わった。だからもう、くだらないことはやめて、バーバラに任せて去ろうと思った。でもね、わたくしが去っても、わたくしが助長させた身内は止まらなかった。わたくしがいなくなって融通が利かなくなれば、今度は国ごと手に入れようと馬鹿なことを考えはじめたの。わたくしが止めようとしたところで、自分たちが一番正しく偉いのだと勘違いしている甥は……身内は、止まらない。だからね、刈り取ることにしたの。わたくしの過去の過ちごと、全部ね」


 グロリアはそっとジュールの肩に手を置いた。


「でも、陛下やバーバラが動けば目立つでしょう? そして誰が適任かを考えたら、あなたの顔を思い出した。バーバラが認めるあなたなら、たぶんたどりつく。わたくしがあなたの敵に回ったのも、わたくしとあなたで争っていたら、甥が油断すると思ったの。甥から見れば、単純にサイラスの妃候補を巡る争いでしょ? 自分のところまで回って来るとは思わないはずだわ。それに気づけるくらいの冷静さがあれば、王位の簒奪なんて馬鹿なことは考えなかったでしょう」

「そしてバーバラ様も自由にした。……バーバラ様の実家に謀反の疑いをかけたのは、バーバラ様に自由に動ける環境を用意するためですよね」

「本当によく気付くわね。どうしてわかったの?」

「陛下がバーバラ様をかばわなかったからですよ」


 オリヴィアは苦笑してジュールを見た。

 ジュールはこれで、バーバラをとても愛している。そんなバーバラが、あきらかに偽装とわかる証拠で実家に追いやられようとしているのに、何もせずに指をくわえて見ているような人ではない。

 それなのにジュールは何もしなかった。ならばバーバラをレプシーラ侯爵領へ行かせることが目的だと思った。護送と称して、大勢の騎士や兵士たちとともに行かせたこともそれを裏付ける結果になった。いくら護送でも、城の守りが手薄になるほどの兵を動かすのはおかしい。


(陛下は多分、バーバラ様がその後どう動くかも計算に入れていたはず)


 長年夫婦でいるのだ。妻の行動くらい、予測がつくだろう。

 アランが何かに気づいて、嫌そうに眉を寄せた。


「なあオリヴィア……まさかとは思うが、エバンス公爵家に軍を率いて向かったと言うのは……」

「王妃様ですよ。昨日お手紙が届きました。手紙の到着日数から逆算して、すでに公爵領は押さえていると思います。婚約式に間に合うように戻ると書いてありました」

「何を考えているんだ母上は……」


 オリヴィアもまさかバーバラ自ら軍を率いて動くとは思わなかったので、アランが驚く気持ちもよくわかる。

 エバンス公爵を捕えたあとで動けば、公爵領に到着するまで時間がかかる。

 その間、証拠隠滅に動かれると非常に厄介だ。

 だからバーバラは、先手を打ってエバンス公爵領に乗り込むことにしたのだ。連絡を受けたときはオリヴィアも驚いたが、バーバラに任せておけば間違いは起こらない。

 カルツォル国側の問題は、アベラルドが何とかするだろう。


「利用してごめんなさいね、オリヴィア」

「いえ……」


 グロリアは「利用した」と言ったが、たぶん違う。今回のグロリアの目的にはもう一つ裏があるからだ。


(わたしを巻き込んだのは、たぶん……わたしのためでもあったんだわ)


 オリヴィアにまとわりつく「悪評」。時間が経てばたつほどに、評価を覆すのは難しくなる。だからこのタイミングで――サイラスとの婚約式の前に、評価をひっくり返す機会をグロリアは用意してくれたのだ。

 チェス盤のすべての駒を奪って勝つ完全勝利。


(知らないところで道筋は用意されていた。……これが、ブリオール国の『王妃』。まだ全然敵いそうにないわ)


 バーバラはもちろんだが、グロリアにも。


「母上、本当に行くつもりですか」


 それまで黙って聞いていたジュールが、少しだけ寂しそうな顔でグロリアを見た。


「ええ。今のこの国に、わたくしは必要ないもの。だからもう、王都へは戻ってこないわ」


 そう答えたグロリアは、とても晴れがましい笑顔を浮かべていた。






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わたしもちらっと(こそっと)お邪魔しようと考えています(*^^*)

もしもわたしを発見できたら、よかったらお声がけくださいませ~!


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