貴族裁判 2
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(ふう……緊張してきた)
貴族裁判は、城にある専用の部屋で開かれる。
貴族裁判の時以外その扉が開かれることはないので、オリヴィアも今日はじめて足を踏み入れた部屋だ。
入口に近いところに広い傍聴席があり、その奥には七人の公爵、もしくはその代理人が座る円卓があって、円卓の中に設けられた席には被告であるエバンス公爵が座している。そのさらに奥の数段高い場所には部屋を横に横切るほど長い長方形の机が置かれていて、王や宰相、王子たちが座っている。
二百五十年ぶりの貴族裁判ということもあり、傍聴席には大勢の貴族が詰めかけていた。
オリヴィアは傍聴席の最前列の右端の席で、三十分ほど前からはじまった裁判の様子を注視していた。
オリヴィアが座っている席からエバンス公爵の顔は見えないが、どこにも焦りはないように思える。
レネーンの行動で自分が罪に問われることはないと確信しているようだ。
中央の席につかされているエバンス公爵を、左右から囲むように設けられた席についている残りの七公爵家の代表者が見つめている。その中にはロナウドの姿もあったが、どこか退屈そうな顔をしていた。
アトワール公爵であるイザックは本日、宰相として王の近くに席が設けられているので、代わりにアトワール家の代表者としてロナウドが出席しているのだ。
ロナウド以外は全員公爵本人が出席していて、ロナウドの右隣りの席にはルイス・コールリッジ公爵の姿がある。
長方形の席の中央に座るジュールの右隣りにアラン、その隣にサイラス。左隣にイザック、その隣にグロリアが座っていた。バーバラは欠席だ。
大臣たちはジュールたちの席より一段低い場所に席が設けられている。
レネーンは公爵家の人間だが当主ではないので、彼女への処罰はこの裁判で左右されない。問題はレネーンの行動の責任をエバンス公爵に取らせることができるかだが、おそらくこの裁判は否決されるだろう。ここで可決してしまえば、公爵たちは将来、自分の首を絞めることになるかもしれないからだ。自分の娘がもし何かしらの罪を犯したときに、同じように罪に問われる可能性が出るからである。
おそらくだが、過去の貴族裁判で公爵が罪に問われたことがないのは、そう言うことなのだと思う。一度前例を作ると、同じ例で自分が裁かれるかもしれない。だから、判決を下す公爵たちは、簡単に罪を罪と認めるわけにはいかないのだ。
オリヴィアはサイラスを見上げた。
いつもの微笑はどこにもなく、彼は厳しい顔で裁判の成り行きを見つめている。
オリヴィアと目が合うと、僅かに口端をあげてくれて、オリヴィアはちょっとホッとした。
(大丈夫。サイラス様は隣にはいないけど、ちゃんとこの部屋にはいるんだから)
オリヴィアはぎゅっと拳を握った。緊張からか、手のひらにじんわりと汗をかいている。
オリヴィアの目の前では、すべての話が終えて、公爵たちが最終議決を取りはじめた。
オリヴィアの読み通り、公爵たちは全員一致で、エバンス公爵を「無罪」とした。ロナウドもである。
(いよいよだわ)
エバンス公爵が勝ち誇ったような笑みを浮かべて、席を立とうとしたとき、ジュールから待ったの声が上がった。
貴族裁判に置いて、王が公爵たちの出した判決に否を唱えることはない。それゆえ、事前に知っていたロナウド以外の公爵たちが戸惑いの表情を浮かべてジュールを見上げた。
ジュールと目が合って、オリヴィアはゆっくりと立ち上がる。同時にジュールがよく響く声でこう告げた。
「本日は続けてもう一件の裁判を行う。被告はエバンス公爵、そなたのままだ。そのまま席に座っていろ」
「どういうことですか?」
エバンス公爵が怪訝そうな顔をしたが、ジュールが何かを言う前に、彼の隣に座っていたグロリアが返した。
「お黙りなさい。反論は許可されておりません」
グロリアの視線が、ゆっくりとオリヴィアに向く。
何を考えているのかわからないグロリアの双眸。ジュールとよく似ていると、改めて思う。
「ここからはオリヴィア・アトワール公爵令嬢も参加なさいます。オリヴィア・アトワール公爵令嬢、こちらへ」
判事である法務大臣の呼びかけに、オリヴィアはゆっくりと歩みを進めた。
それに伴い、ロナウドが立ち上がり、オリヴィアに席を譲る。ロナウドはオリヴィアの背後に立った。
「存分にやれ。家のことは気にするな」
ロナウドが小さくオリヴィアに耳打ちした。
(はい。もとよりそのつもりです)
勝つと決めた。そのために全力で行くと決めた。だから迷わない。
鋭い視線を向けて来るエバンス公爵を、オリヴィアはまっすぐに見返す。
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