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【書籍化】王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います  作者: 狭山ひびき
第四話

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カルツォル国の第五王子 5

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 昼も半ばすぎたころになってサイラスがアトワール公爵邸にやってきた。

 サイラスが来る数時間前にリッツバーグがエバンス公爵家に関する大量の調査報告書とバーバラからの手紙を持ってきて、サイラスからオリヴィアに渡すように言われたと告げた。

 百枚を超える報告書全てに目を通したオリヴィアは、今まで自分が立てていた仮説と、なかなかつながらなかった数々の問題がクリアになっていくのを感じた。


(バーバラ様からの手紙には驚かされたけど……おかげで疑問も解決したわ)


 けれどももう少しつながらない部分がある。だから完全ではないけれど、報告書のおかげで事態はかなり前進した。


「報告書、すごく助かりました。ありがとうございます」

「役に立ったのならよかった」

「はい。ただ……まだわからない部分があるです。だからアベラルド殿下とお会いしたいのですけど、王太后様たちに気づかれずに調整可能ですか?」

「アベラルド殿下?」


 オリヴィアは頷いて、今朝ワットールから聞いたカルツォル国の情報を伝える。

 サイラスは難しい顔をして考え込んで、それから、「わかった」と頷いた。


「レネーンやおばあ様のことは僕に任せて。……でも、オリヴィア一人で会わせるわけにはいかないから、そうだな……明後日、兄上がアベラルド殿下と王都のコールリッジ公爵家を訪問することになっている。アベラルド殿下が、コールリッジ公爵家の事業に興味があるらしくてね、あちらから申し出があったそうだ。コールリッジ公爵に話を通して、そこで時間を取ってもらおう。彼は信用できる」


 コールリッジ公爵家の事業と言うと、ガラス加工の技術だろうか。

 コールリッジ公爵領で作られたガラス製品は国内外問わず人気が高く、フィラルーシュ国やレバノール国にも輸出している。

 コールリッジ公爵家のガラスは、もともとは強度と透明度の高い一枚ガラスが有名だったが、最近ではガラス自体に色を付けたり、独自のカット技術でガラスに溝を掘って絵を描いたりして、グラスや皿、装飾品なども数多く販売していた。

 技術を門外不出としているので他ではなかなか真似できず、コールリッジの名前はそのガラス製品とともに知れ渡っている。アベラルドが知っていてもおかしくない。


 ちなみに兄ロナウドは、コールリッジ公爵家とガラス製品の共同開発を狙っているらしい。相手が乗ってきそうな案はないものかと、去年くらいからずっと頭を悩ませている。下手に口を出すと巻き込まれる可能性が高いので、オリヴィアは極力その話題には触れないようにしているが、ロナウドのことだ、またオリヴィアをだしに使って何かできないかと企んでいそうな気がする。


(まあ、コールリッジ公爵にはわたしもよくしてもらっているから、もし公爵が乗り気なら協力しないこともないけど……)


 五年前に公爵位を継いだコールリッジ公爵ルイスはまだ二十八歳とまだ若く、武術オタクでアランと気が合うので、アランとともにオリヴィアも会う機会が多かった。当時愚者を装っていたオリヴィアにも優しくしてくれた、好青年だと記憶している。

 また、ルイスはチェスの腕も国内ではトップクラスで、貴族男子の間で年に数度開かれるチェスの非公式大会では優勝候補筆頭なのだとか。体を動かすことが大好きなアランが唯一室内で遊ぶゲームで好きなものがチェスで、よく指南してもらっていると聞いている。


「よろしいのでしょうか?」

「大丈夫だと思う。アベラルド殿下の方は兄上に頼めばうまく伝えてくれるだろうし。兄上、人と仲良くなるのが得意だから……アベラルド殿下ともすっかり打ち解けているんだよね」


(そう言えば、アラン殿下って昔からそうよね)


 良くも悪くも裏表がなく、腹芸ができなくて感情が顔に出やすいからだろうか、アランは同性の友人が多い方だ。特に趣味の合う相手にはすぐに懐くから、相手も悪い気はしないのだろう。あっちこっちに友人を作るせいで、婚約関係にあったとき、オリヴィアはあちこちのパーティーに連れていかれて大変だったが。


「そう言うことでしたらお願いしたいです」

「わかった。無茶はしないでね。兄上は仲良くなったみたいだけど、アベラルド殿下の本質はまだよくわからないから。人の裏を読むのが苦手な兄上の人物評価なんてあてにならないからね。用心するに越したことはない」

「はい。ただ、交渉材料が手に入りましたから、悪いようにはならないと思います」

「リッツバーグって本当に、暗躍系は得意だよね」

「ええ、まさかこんなものまで入手できるとは思いませんでした」


 リッツバーグがくれた調査報告書の中から一枚抜き取って、オリヴィアは微苦笑を浮かべた。





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