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【書籍化】王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います  作者: 狭山ひびき
第四話

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カルツォル国の第五王子 2

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「兄上、レネーンは?」

「ここに来るなりどこかへ行った。このまま戻ってこなくても私は一向にかまわないがな!」

「おばあ様のところかな? 姿が見えないから」

「ああ。父上とおばあ様はアベラルド殿下と一緒に会場入りするらしいから、レネーンもくっついて入る気なのかもな。ま、そんな無茶は父上が許さないとは思うが。それにしても、あいつは本当に図々しいな」

「図々しいって……ほかにも何か?」


 アランはふんと鼻を鳴らして、給仕係から白ワインのお代わりを受け取った。


「無作法なことに、全身真っ赤だぞ。狙ってやったとしか思えない」

「え? 本当に?」

「ああ。赤いドレスに赤いグローブ、靴に髪飾りまで全部赤だ。あいつはアベラルド殿下に喧嘩でも売りたいのだろうか。着替えて来いと言っても聞かないしな!」


 オリヴィアはサイラスと顔を見合わせて、どちらともなく嘆息した。


(まさか全身赤なんて……どうして王太后様はお止めにならないのかしら?)


 禁色とまではいかないが。カルツォル国では王や王族が出席するパーティーでは赤を纏うことはご法度だ。赤はその場に置いて最も高貴な人間が纏う色とされ、今日はアベラルドが主役なので彼が纏うべき色だ。この国の王であるジュールが赤を纏うのであればそれほど問題視されないだろうが、この場に置いてはアベラルドとジュール以外は赤を避けるべきなのである。

 周知されているわけではないので、この場に誤って赤を身に着けて来る人がいないとも限らないが、 グロリアなら、カルツォル国が赤を重要視することを知らないはずがない。それなのに、なぜレネーンの愚行を許すのだろう。まさか、本当に狙ってやっているのだろうか。レネーンが高貴な人間だと知らしめるために?


(まさかね)


 もしそうだとしたら、王や王太后、王子たちよりもレネーンが高貴なのだと主張することになる。さすがに不敬すぎるので、わざとであるはずがない。


「あの馬鹿はカルツォル国相手に戦争でも起こしたいのかもしれないな」


 アランが冗談にしては笑えないことを言った。 

 レネーンにはそんな狙いはないだろうし、むしろエバンス公爵家はクローレ商会を通してカルツォル国とつながっている側のはずだ。両者の関係性を考えると、レネーンがカルツォル国の王子に不興を買うのはよろしくない気がするのだが。

 オリヴィアは顎に手を当てて考え込んだ。


(エバンス公爵家がクローレ商会を通してカルツォル国とつながっていると思ったけど……違ったのかしら?)


 戦争という言葉が使われた限り、カルツォル国の中でも中枢にいる人間とつながりがあるはずだと思ったのだが、レネーンの行動のせいでよくわからなくなってくる。


(……一度、仮説は捨てた方がいいかもしれないわ)


 今夜のレネーンとグロリア、そしてアベラルドの動きをそれとなく観察してみよう。もしかしたらオリヴィアは、「戦争」という言葉に翻弄されて、何か重要なポイントを見落としているのかもしれない。


「レネーンが来たら、お前たち二人は極力近づくな。全身赤の女と親しくしているところでも見られたら、お前たちまで敵意ありと受け取られる。私はあいつのパートナーだから仕方がないが、お前たちだけでも離れていろ。うちの王家全員があれの仲間だと思われたくない」

「うん、そうさせてもらうよ」


 サイラスが神妙な顔で頷く。

 オリヴィアも隣で頷きかけて、ふと、今まで疑問にすら思わなかったことが脳裏をよぎってハッとした。


(そうよ……クローレ商会やエバンス公爵家がカルツォル国とつながっていたとして……カルツォル国が彼らに協力するメリットは何なのかしら)


 協力関係にあるならば、そこに利害が発生しているはずだ。

 エバンス公爵家やクローレ商会がカルツォル国の「誰」とつながっているのを探る上でも、それは重要なポイントとなる。


(それから、第五王子がエバンス公爵家やクローレ商会に関係しているのかどうかも探るべきよね)


 当初の予定は第二王子が来るはずだった。

 それが急遽第五王子に代わったことといい、招待状の日付が違ったことといい、これは見過ごせない問題だ。


(お父様が調べてくれたけど、ほかの国に送った招待状の日付は間違っていなかったと言っていたもの。招待状の余りが残っていたけど、残っていたもののどれも正しい日付だったし。カルツォル国の招待状だけ日付が間違っていたのはおかしいわ)


 しかしそれを探るには、カルツォル国の情報が少なすぎる。


「サイラス様、カルツォル国の情報に詳しい方に心当たりはありませんか?」

「カルツォル国? それならワットールが詳しいと思うよ。ワットールは結構前に外交官をしていて、その時にカルツォル国に数か月ほど滞在していたはずだからね」

「そうなんですか?」

「うん。ワットールがまだ若いころの話で、オリヴィアが生まれる前のことだったと思うから、情報としては古いかもしれないけど」


 それでも充分だ。

 オリヴィアはパッと顔を輝かせた。


「ワットールに、明日にでも時間を作るように言っておくね」


 ワットールもレネーンの相手ばかりしているのは疲れるはずだからね、とサイラスが苦笑する。

 サイラスと話し込んでいると、進行係がジュール国王とグロリア王太后、そしてアベラルドの入出を告げる声が響いた。


 顔を上げると、二階の階段から、一段高いところに設けられた席へと降りて来る二人の姿が見えた。

 本来であればジュールの隣には王妃であるバーバラが並ぶが、バーバラはレプシーラ侯爵領にいるので今日はグロリアが並んでいる。

 カルツォル国の王子の手前、ジュールも赤は避けたようで、身に着けていたのは濃い青と白を基調とした盛装だった。アベラルドは赤地に緻密な金糸の刺繍の入った、くるぶしのあたりまである丈の長いジャケットを羽織っていた。これがカルツォル国の王族の盛装なのだろう。

 アベラルドは癖のある赤毛に黒い瞳の体格のいい男性だ。ジュールも小柄な方ではないが、アベラルドと並ぶと小さく見える。


「挨拶に行こうか」

「そうですね」


 ジュールとアベラルドが用意されている椅子に座るのを確認して、オリヴィアはサイラスとともに二人のもとへ向かった。

 サイラスとオリヴィアが向かうと、アベラルドが席を立つ。

 口端だけで微笑むアベラルドに、オリヴィアは久しぶりにこれほどまでに近寄りがたい人を見たと思った。猛禽類のように鋭い眼光が、値踏みするようにオリヴィアを見下ろしている。対応を間違えれば、鋭い爪で一瞬にして喉元を引き裂かれそうな、そんなピリピリとした空気を感じた。


「オリヴィア・アトワールです。本日はお目にかかれて光栄にございます」


 できるだけ丁寧にカーテシーをすると、アベラルドの瞳が一瞬だけ柔らかく細められる。


「アトワール宰相のご息女か。彼にはとても世話になっている」

「ありがとう存じます。父に伝えます」


 サイラスはアベラルドとすでに面識があるので、オリヴィアよりは気安く話をしていた。

 挨拶を終えて、オリヴィアがホッとしたその時、アランの腕を引っ張るようにして、レネーンがこちらへ向かって来た。


(ひっ!)


 オリヴィアはレネーンの姿を見た途端、危うく悲鳴を上げそうになった。

 アランの言う通り、全身赤だ。ドレスも髪飾りもアクセサリーも、靴もグローブも全部。

 アベラルドに対するあまりの不敬さに、オリヴィアは小さく震えながらアベラルドを見たが、彼は表情を変えずにただただレネーンを見つめていた。


(無言なのが逆に怖いわ!)


 ジュールとグロリアを見ても、二人とも表情を変えず、事の成り行きを静かに見守っている。

 レネーンはアベラルドにカーテシーで挨拶をした後で、得意げに言った。


「本日はカルツォル国の儀礼にあわせて赤で統一して見ましたの」


 その一言がレネーンの口から出た途端、アランが耐えられないとばかりに視線をそらし、サイラスがオリヴィアの隣で額を押さえた。

 カルツォル国の儀礼で赤をまとったということは、自分はアベラルドと同等の高貴な身分だと言っているに等しい。ジュールでさえ遠慮して赤を避けたのにそれを言ってしまうのかと、オリヴィアは顔を覆いたくなった。

 アベラルドは鋭い視線をレネーンに向けたまま、口端だけを軽く持ち上げる。


「そうか。お気遣いいただき感謝申し上げる」


 到底感謝している声ではなかったが、レネーンは満足したように微笑んだ。


(王太后様はこの格好を知らなかったの?)


 知っていたら絶対に止めたはずだ。ここに来るまでレネーンの姿を見なかったのだろうか? しかし、レネーンのこの姿を見ても驚きもしないところを見ると、事前に把握していたようにも思える。


(まさか王太后様も、レネーンの言うカルツォル国の儀礼だとは思っていないわよね……?)


 思っていたらグロリアも赤で統一してくるはずだ。しかし彼女は控えめな白に近いクリーム色のドレスである。ならばやはりグロリアが関知しないところでレネーンは今日の装いを決めたのだろうか。グロリアが知っていて止めないはずがないから、今日のこれはレネーン勝手なの暴走なのだろう。


「レネーン、行くぞ。ダンスをするんじゃなかったのか?」

「もちろんですわ! それではアベラルド殿下、失礼いたします」


 これ以上アベラルドの前にレネーンを出しておけないと判断したアランが、レネーンをうまくダンスホールへ誘導した。

 オリヴィアもサイラスとともにアベラルドの前を辞して、会場の壁際へ移動する。

 オリヴィアとサイラスの視界の先では、レネーンが赤いドレスの裾をこれでもかとひらめかせながら、迷惑そうなアラン相手にダンスを楽しんでいた。


「レネーンって、本当……ずれているよね」


 サイラスが二人分のジュースを給仕から受け取りつつ言う。

 サイラスからリンゴジュースをもらったオリヴィアは、それに口をつけながら、無言で小さく頷いた。


(ちょっと前までのティアナもすごかったけど、違う意味でレネーンもすごいわ)


 アベラルド相手に「そちらの儀礼にあわせた」と言い張ったレネーンのあの自信はいったいどこから来るのだろう。

 アベラルドは何も言わなかったが、確実にレネーンに腹を立てていた気がする。アランの言う通り、アベラルドに目をつけられないためにも、今日はレネーンに近づかないようにした方がいい。


(たぶん、わたしと同じことを考えている人は多そうね……)


 ダンスをするレネーンとアランを遠巻きに眺めている人たちに気づいて、オリヴィアは貧乏くじを引かされたアランにひどく同情するのだった。




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