劣勢のタクティクス 2
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(やっぱり……この一手には矛盾があるわ)
ブリオール国王都レグザムより北東に馬車で五日。
レプシーラ侯爵領にある侯爵邸の一室で、バーバラは一人チェス盤に向かっていた。
バーバラが腰を掛けている揺り椅子のすぐそばで、パチパチと暖炉が小さな音を立てている。
王都ではまだ雪は降っていなかったが、レプシーラ侯爵領では二週間前に初雪が降ったそうで、今も窓の外には粉雪が舞っている。
このチェス盤は、レプシーラ侯爵家に到着してからすぐに兄から奪ったものだ。白と黒の駒を出立前にアランに託した紙の通りにそれぞれ並べると、バーバラは難しい顔で唸る。
(あの狐ババアがこんな妙な手を打つはずがない。……何を企んでいるの?)
グロリアのことは昔からいけ好かなかった。
ジュールと婚約中も結婚してからも、何かにつけてバーバラに嫌がらせをしてきたグロリア。
それでも、ジュールが王になってからはおとなしくなった方だった。
理由は知らないが十二年前に突然王都を去ったとき、バーバラはこれでようやくストレスから解放されると安堵したし、実際この十二年、グロリアは政に口を出してこなかった。
レネーンをサイラスに、という話は何度かされたが、だからといって強引な手段に出られたことはない。
(どうして今になって口を出してきたのかしら?)
グロリアに指摘されなくとも、オリヴィアに付きまとっている悪評には、バーバラも早急に手を打つべきだとは思っていた。
アランの発言が招いた結果だが、それを今日まで放置していたことにはオリヴィアにも責任がある。それはバーバラもわかっているし、オリヴィア自身も理解していることだろう。
だが、それを差し引いてもオリヴィアは優れた女性だ。バーバラが手を打たずとも、悪評など数年もあればひっくり返してしまうだろうし、裏から手を回せば、それこそ一年もかからずにどうにかできる。
はっきり言って、ブリオール国内の未婚の令嬢でオリヴィア以上に優れている女性はいない。グロリアも馬鹿ではないのだから、彼女を少し見るだけでそれは理解できるはずだった。
グロリアがいくら身内のレネーンが可愛いくとも、レネーンは王妃の器ではない。それがわからないグロリアではないはずなのに――これほど強引な手を使ってきたのは何故だろう。
「バーバラ、入るよ」
眉を寄せて頭を悩ませていると、兄のレプシーラ侯爵が部屋に入ってきた。
「頼まれていた件だけど調べがついたよ。あと、サイラス殿下のところのリッツバーグだっけ? 彼からも情報が入っている」
「リッツバーグから?」
「サイラス殿下が情報をバーバラにも共有するようにって指示を出したらしいよ」
バーバラがレプシーラ侯爵家に到着したのは今朝のことだ。どうやらサイラスはバーバラがレプシーラ侯爵領行きを告げてからすぐに動いたらしい。
レプシーラ侯爵家にかけられた嫌疑は間違いなくグロリアやエバンス公爵が関わっているだろうから、サイラスが情報をよこしてくれるのは非常に助かる。
兄が持って来た紙の束を確認したバーバラは、大きく目を見開いて顔をあげ、それから大きく舌打ちした。
(あの狐ババア! だから嫌いなのよ!)
ばさりと紙の束をチェス盤の上にたたきつけたバーバラに、兄がギョッとした。
「ど、どうしたの、バーバラ?」
バーバラは兄を振り向いて、憤然と答えた。
「黒のクイーンは奪い取られていなかったってことですわ!」
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