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# -18

「レキさん!!」


 二人の後ろ姿を見送り、完全に姿が見えなくなった頃、突如ボクの名を呼ばれ反射的に俯いていた顔をあげる。目に写ったのはこんな暑いのに構わずフードを被った女の子・(らい)()だった。


「雷恵?」


 雷恵は息を切らしながらボクの前まで駆けてくる。

 大量の買い物袋を振り回しているが中のモノは何一つ落としていないようだ。神業とはこのことだろう。

 いや、そんなことよりあの雷恵が息を切らしてまでボクのところに来るなんてどうしたのだろう。漠然と理由を考えていたら先程の、男たちの前にアラドスティアの連中が襲ってきたことを思い出した。もしかしてあいつらはボクを引き付けることが目的の囮で本当の目的はボクの周りを……!?

 こちらに来る雷恵をキャッチするように彼女の両肩を掴む。


「ひゃう!?」

「どうかしたの!? もしかしてアラドスティアのやつらが……!!」

「へっ? えっ? いや、違います」

「えっ?」

「ラースペントの方に、気味の悪い、色の霧が、出てて……」


 気味の悪い色の霧……あちらからも見えていたのか。まぁアパートの裏手だし、見えるか。普通に。

 何はともあれ、どうやら思い違いだったらしい。彼女の肩から手を離す。


「さっき、レキさん、ラースペントの方に行くって言ってたから……! 街の人たちは毒霧だって騒ぎ出して……。

 でも、無事でよかったです……!」


 彼女は息を切らしながら笑顔で告げて来た。思わず釣られて頬が緩む。

 しかし、雷恵がボクの心配なんてどうしたのだろうか?

 ボクは首を傾げる。


「皆さんはラースペントからの攻撃だとか言ってたんですが、なんだったんでしょうね?

 体調は大丈夫ですか? 気持ち悪かったりしませんか? あっ、頬から血が出てる……絆創膏あったっけ?」


 買い物袋で隠れて見えなかったポーチを取出し中を探る。中からは薄茶色の、至って平凡な絆創膏が出て来た。


「動かさないでくださいね」


 雷恵がボクの頬の傷に絆創膏を貼ってくる。いつもこんな傷口など自然治癒に任せているので異様に頬に違和感を感じる。


「はい、終わりました」

「んっ、ありがとう」


 フード奥の暗いとこからでもわかるぐらい明るい笑顔を見せる。ボクはそんな彼女に素直に礼を告げる。

 だが違和感は拭えない。今日の雷恵は絶対なにかおかしい。思い切って聞いてみることにした。


「ところで雷恵」

「はい?」

「いつもと感じ違うけど大丈夫?」

「えっ?そんなこと………」


 雷恵は言葉を止めると共にたちまち顔を赤くした。


「ぶ、無事だったらそれでいいんです! じゃ、じゃあ!!」


 そう言葉を残すとアパートの方に走り去ろうとした。


「あっ、ボクも今から帰るから一緒に帰ろうよ」

「へっ……ひゃっ!?」

「荷物持つよ」


 彼女が振り向く隙に彼女の荷物を持つ。絆創膏のせめてものお礼だ。


「あ、ありがとうございます……?」

「どういたしまして……?」


 雷恵が怪訝そうな顔で辺りを見回す。


「すいません、ちょっと失礼します。

 ……くんくん」


 そして急に辺りの臭いを嗅ぎ始める。


「どうかした?」

「……レキさん、なんかとても濃い血の臭いがするんですが。本当に何もありませんでした?」


 そう言われてみれば。

 ボクは咄嗟に体の至る所を確認する。全身真っ赤になるほど浴びた血が全て消えていた……。


「…………」

「レキさん?」

「うん、何もないよ」


 ボクは嘘をつく。


「強いて言えばケンカして頬をナイフで切られたぐらい?」

「その傷って……。それ大問題じゃないですか……」


 久しぶりに雷恵と談笑することが出来た。今はそれだけで良しとしよう。



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