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# -14


 この霧の中には有象無象の触手が潜んでいる。どこに潜んでいるのかはわからない。だがその事実を知った今、触手が常に体のどこかに絡み付く感覚がまとわりつく。気持ち悪い、一刻でも早くこの霧から出たい。ナイフを持つ手に力が篭る。

 そんなことお構いなしに触手は、ボクに噛み付こうと飛んでくる。


「いい加減――――鬱陶しんだよ!」


 そして半場、ヤケクソ気味にナイフで触手を横一線に切る。たかが触手一本切っても体力が無駄に消費されるだけなことは理解している。だが主に精神的な理由だが、何もしないよりマシだ。それに何事も行動しないと何も始まらない。

 そう思い信じ、前向きに物事を考えようとした矢先だった。どうやら早くも世界は応えてくれたらしい。


「……えっ?」


 思わず情けない声が零れ出た。いや、切った自分でも何が起きたのか理解できなかったのだ。

 切られた触手は他の個体と同じく体を霧状に姿を変えたのだが、触手が変化した霧は紫ではなく緑に変色する。そして連鎖的に周りの霧を緑に染め上げていく。だが霧はただ単に変色しただけで他には何も変化はない。しかし何もなく変色するとは考えにくい。もしここから新たな触手が生まれるなら来る前に仕掛けた方が得策だ。ボクは変色した霧にナイフを突き刺す。


 サクッ――


 何かが切れる音がした。

 何の音だったのだろうか。そんなもの、目の前で起きている現象を見れば一目瞭然だ。目の前の緑色の霧の塊にナイフが突き刺さっている。これ……本当に霧なのか?

 じっくりと霧だったモノを見ていると突然、ナイフで入れた切れ目から光が溢れ出てくる。その更に中は赤い、何かが膨張してうごめいている。


「もしかして、これって……!?」


 すぐにこの中で何が起きているのか理解できた。だが行動より先に霧の塊は爆ぜた。


「げほっ!ごほっ!」


 霧とは違う煙が辺りに充満して視界が眩む。土煙が器官に入りむせてしまうが、何とか外傷は無く、五体満足でここにいる。

 しかし一体なんだったのだろうか……。土煙が晴れ、緑の霧だったモノがあったところを見る。


「……へっ?」


 そこの部分だけぽっかり霧が晴れていた。

 唖然としながら目をこすり、もう一度確認してみる。やはり晴れている。

 これは触手を殺したと言うことなのか?それとも……。

 ボクは無心で違う場所を触手を切った時の様に霧を切ってみる。ナイフの刃が触れた霧は先程と同じく周りの霧を巻き込み緑色に変色し固まった。

 今度は先程と違い、緑の霧に何もしないで観察する。すると緑の霧は自然消滅し、霧が晴れた。


 ……何が起きたのか、やはり理解できない。だが霧をどうにかする問題は解決した。これは好機と考えるしかない。そう考えたボクは辺り一面をナイフでがむしゃらに霧を切り刻む。目的地はスーツの男たちが倒れた地点。

 固まりかけている緑の霧にも構わず刃を入れ、周りの緑の霧を誘爆させる。現象の発生原因はわからないが動作パターンはだいたい理解した。爆発した瞬間にボクは紫の霧の中に前転する。爆風は紫の霧が完全に遮断する。思った通りだ。

 迫りくる触手も即座に緑の霧に姿を変える。


「なんだなんだ!?」


 ふとゼブルの声が聞こえる。爆発の連続で思わず声をあげたのだろう。彼の声が聞こえた地点はわりかし近い。


(それなら一回、彼と合流しようか……)


 そう考え、声の方向にナイフを入れようとした矢先、目的の場所が見えた。そうなれば予定変更、合流は後回しだ。

 だが、とりあえず彼にも事の事情を話をしておこう。ボクはそのまま彼への道筋を切り開く。


「なっ!?」


 いた。

 ゼブルは突然に霧が晴れたことに驚き、思わず咥えていたタバコを落としていた。動揺するのも無理はないが、いつまで霧が晴れるか不明な今、驚いてる時間さえも惜しい。ボクは手短に考えをゼブルに伝えようと叫ぶ。


「ゼブル、恐らくこの霧の原因はあいつらの死体のところにあるはずだ! 死体の位置は特定できたから、そこに――――」

《そこへは行かせない》


 聞き覚えが無い声が四方八方から反響してボクの声を遮る。ボクはゼブルに伝達することを一時中断して即座にナイフを構える。


「どこにいる?出て来いよ」


 ボクは声に対して煽り立てる。これですんなり出て来てくれたら御の字なのだが……。

 だが想像通り、答えは何も返ってこず、代わりに地面が激しくい揺らぐ。


(……何の音だ?)


 揺れと共に何かが走ってくるような音も聞こえる。嫌な予感がしたボクは、とりあえずその場を離れようと少し後ろへと飛び下がる。

 すると先程まで立っていたところからは無数の触手が地面を突き破り現れる。判断が一瞬でも遅れていたらこの群れに食われていたのか……。もしこの群れに巻き込まれていたらと考えると目も当てられない……。冷や汗が頬を伝う。

 触手の柱は再び地中に戻り、触手たちが開けた穴の後ろから普通の人の肌色では無い色をした巨漢の男が現れる。

 どうやらボクの考えは間違ってないらしい。むしろビンゴなのだろう。だが、いやだからなのか、そう簡単に近づけさせてくれないようだ。


《味な真似をしてくれたな、小僧》

「そりゃどうも……邪魔だからそこをどけ」


 ボクは男の胸にナイフを突き立てる。だが男は避ける素振りもせず、ナイフは突き刺さる。


《……なんだ、それは?》

「ちっ……」


 確かに男の胸にはボクのナイフが突き刺さっている。だが男は苦痛で顔を歪めるどころかニヤリと口端をあげ、余裕そうな表情を見せる。見ただけで強靭そうな肉体だ。恐らくナイフの刃は内臓には達していないのだろう。そしてやはり傷口からは血は出ていない。出て来ない。その余裕そうな態度から、おそらく痛みすら感じていないのだろう。


「お前、人なのか?」

《人……か。私たちはお前らには到底理解できないクラスの者だよ》

「あっそ」


 意外にも答えを返してくれたが、聞くだけ無駄だったか。ボクは一旦距離を取ろうとナイフを引き抜こうとした。


「っ!?」

《どうした?このまま私と抱き合っていたいのか?》


 だがナイフが抜けない!何かにナイフの刃を掴まれている感覚だ。

 男が冗談交じりに笑う。


《ほらほら、早くしないと……》


 地面から再び地響きが聞こえる。


《時間も無いぞ?》


 再び紫の霧が辺りに充満する。地響きの音も次第に大きくなっていっている。恐らく先程と同じく地面からは触手の大軍が押し寄せているのだろう。そして再び張られた霧の中にも無数の触手が……。ナイフを捨てて距離を取っても丸腰では触手に太刀打ちできない……。これでは袋小路だ。


 頭の中には己の無残な姿が浮かび上がった。


 嫌だ、こんなとこでは終われない、終わりたくない。

 無様にもそう懇願し、目を強く閉じた――――瞬間、頭の中が真っ白になっていた――――。


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