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# -13

 しかし、勝った……のか? 当たり前の疑問が脳をよぎる。だが簡単に倒せなかったからこそ、目の前の猟兵モドキは傷だらけなのだろう。その猟兵モドキは、ハンドピースをコンクリートに突き刺し、煙草を吸っていた。先ほどまでの迫力は微塵も感じられない。だが目は相変わらず険しいままだった。はやりまだ何かあるのか。ボクはゼブルに質問しようとしたが、それより早くゼブルの方から質問が飛んできた。


「なぁ、坊主。お前さん、ラースペントとプリオール。どっちに住んでるんだ?」


 だから坊主はやめろって……。

 思わず血だらけの髪を掻き毟る。血だらけの指に血が更に絡み付く。どうやら、この男はどう足掻いてもボクの事を『坊主』と呼ぶつもりだ。ボクはその呼称へ対して、諦めのため息をつきながらゼブルからの問いに答える。


「プリオール。

 で、あいつらは倒したの?」


 ゼブルはタバコの煙を吐き出し、今度はあちらがため息をつく。


「そうか」


 そう呟くとゼブルは再び煙草を咥え、黙り込む。一体何なんだよ……。


「あのさぁ、こっちの質問にも答えてくれない……か!?」


 こちらの質問にはなにも答えないゼブルに対し、ボクは文句を言ってやろうと口を開く。

 だがボクの質問の答えはゼブルの口からではなく、現象として現れた。急にどこからか「コポコポ」と何かが沸き立つ音がし始める。ボクはそれに警戒をするもどこで異変が起きているのか全く気付けないでいた。ゼブルは背中の羽を羽ばたかせ、ボクの隣まで跳躍してきて槍を構え直す。やっぱり、それで飛べたのか。


「わりぃな、坊主。お前の街、少し壊れるわ」


 ゼブルは少し寂しそうにそう告げる。……ゼブルの言葉の意味はなんとなく理解できた。今、敵対している奴は人が許容できるような生物ではないのだろう。全力でやらないとあっという間にこちらが飲み込まれる。それほど強大な何かなのだろう。

 別に街を守るヒーローになりたいとか、そんなことは微塵にも思ってない。だがいつもの、何気ない日常を壊されるのは不快だ。街を壊すなど、そんなこと絶対させてたまるものか。

 ボクは呼吸を整えるため、息を吐く。


 何かが沸き立つ音は徐々に大きくなる。その音は先程ゼブルが倒した異形の男たちの死体から聞こえて来ていたことに気付く。そして強烈な破裂音と共に奴らの肌と同じ青紫色の煙が死体から沸き立つ。

 さぁ、合体でも復活でも何でも来い。己に気合を十分入れ、対決に臨む。

 ―――だが男たちは実体化せず、煙は辺りに充満し、ボクらの視界が遮る。


「なっ!?」


 しまった……。

 まさか実体化する前に霧で視界を粗悪にするなんて。この状況では敵を確認するどころではない。


 ………ちっ。この状況は想像してなかったな。ボクはナイフを構えたまま立ちすくんでしまっていた。遠くからは何かを切る音が聞こえる。気付けばゼブルが近くにいなかった。


「うわああぁぁぁぁ!!」


 足元から小心者のアラドスティアの男の悲鳴が聞こえてきた。そういえば腕は切って使い物にならないし、ハンドピースも銃以外何も持ってないんだったっけ? あぁ、全く邪魔だな………。


「おい、せめて立ってこの場から逃げろ!!」


 ボクは声を張り上げ、男に命令する。だが返って来たのは男の弱弱しい声ではなく、何かを貪むさぼる音だった。

 なにかがそこにいる………。ボクは正面に向け構えていたナイフを男がいた方向に構え直す。


 刹那、足元から青紫の触手が顔を目掛けて飛んでくる。ボクは顔を咄嗟に右に傾け触手を躱す。

 これは…………。

 ボクはこの触手に何か既視感を感じた。そうだ、間違いない、あの異形の男の腕だ。この触手が男たちの伸びきった腕と酷似していることに気付く。

 飛んできた触手は伸縮して再び霧の中に消えたが、瞬く間もなく第二、第三の触手が四方八方から飛んでくる。ボクは全身を使いその攻撃を避ける。休む暇なんかない。全くしつこい。防戦一方で苛立ちが募る。それにただ避けるだけでは体力が消耗する一方で現状を打破には至らない。


 ボクは飛んできた再び顔面を狙い飛んできた触手を避け、触手が霧の中に戻る前に胴をナイフで切り上げた。やはり――――まずは攻めてみないと何も始まらない。

 案の定、触手は切れ、千切れた触手の頭は地に落ち数秒もがいた後、霧状になり消える。だがどういうわけか血が溢れてこない。

 人なら、仮に人でなくとも生物ならば必ず体内に血は流れているはずだ。しかし、なぜそれが流れ出ない?よくよく思い出すと先程ゼブルが刺した時も血は流れてなかった。

 考えられるのはただ一つ、こいつらに実体はない。魔術かなんらかの技術で作られた虚像に近い存在だと言うことだ。


 しかしなにはともあれ、どうにかしてこの霧を晴らさないとボクは永遠に籠の中の鳥だ。ボクは迫りくる触手を避けつつ、たまにナイフで応戦しながら霧を晴らす方法を考えた。最悪、ボクの魔術ではこの霧を晴らすことは出来ない。

 そもそもこの霧はどこから現れているんだ?そう、あの男たちの死体と思われていたモノがあった所からだ。ではあそこに原因があるんじゃないか?


 確信はないが考え方は間違ってないはずだ。だが霧が濃すぎてそこまで近づくことが出来ない……。そもそも方向すらわからない。こんなんじゃ、こちらの体力が先に尽きてしまう……。出てくるのは謎ばっかりで(らち)が明かない……。あぁ、イライラする。


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