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私が変わる予感

作者: 夜雛

この話はこれで終わりとなります。

特段続きを書くつもりもないので、歯切れが悪いかとは思いますが読んでいただければ幸いです。

私は放課後の教室が好きだ。


ほとんどの子は春に入ったばかりの部活動に行ってしまい、はほんの一握りの生徒だけが残っている、そんな空間。


窓から外を見れば、まだ暮れまいとする四時過ぎの太陽の下でサッカー部や陸上部などの体育会系がグラウンドで活動する姿が視覚で感じられる。


そして窓を開けば、「○○!走れ!」「パス、パスッ!」などといったかけ声が一斉に聴こえきて、これまた青春の音を聴覚で感じることができる。


そんな放課後の教室は特別な場所なのだ。


私が耳にイヤホンを当て音楽を聞きながら、今日の復習や明日の予習をしているといつの間にか教室には私一人になっていた。そんなことは特に気にせず、私はそれからもコツコツと自分で決めた課題を済ませていく。


一通りの課題を終えた頃には時刻は五時過ぎになっていた。


そろそろ帰ろうかな、と思い教室を出ようとするとドアが勢いよく開かれる。開いたのは私ではない。


「うわっ!驚いたぁ。宮本さんか。」


突然入ってきて驚きの声を上げたのは、同じクラスの本条君であった。


「もう教室には誰もいないと思ってたから、幽霊かと思ったよ。」


春に高校に入ったばかりで、同じクラスだからとはいえあまり喋ったこともなかった男子から話しかけられ、脳内は少し混乱してきていた。


なっ、なんでこんな自然に話しかけられるの!?私たちまだ「おはよう」「さよなら」くらいの一般多数に向けて言う言葉以外交わしたことないのに!!


彼はもしかして会話の天才なのかしら!?


こっ、こういうときは・・・ええっと、


「んじゃ、俺部活行くわ。じゃあな!」


うーんっと・・・えっ?


コミュ障ではないと自分では思っているのだが、こうやって言うべきことを考えていると本庄君は風のように去って行ってしまった。


「うん・・・それじゃあね。」


彼が行ってしまった後に頭の中で言いたいことがまとまり、ようやく言えた。


てか、もう遅いよね?


もう少し自然にお喋りできる程度にはならないとだよね、うん。


お喋りというのはとても難しい。大多数の人はそんなことないと思うかも知れないけれど、私にとっては少なくとも勉強なんかするよりもよっぽどである。


頭がおかしいと思うかも知れない。だって誰かとたわいのないことでも喋っていれば成立するお喋りと、カリカリコツコツと取り組まなければならない勉強だ。


頭を使いたいかと言われれば、どちらかと言えば使わずに暇していたい、そう思うのが人の性というものだ。


私もそう思う。


私も頭なんか使ってないで友達と


「昨日のテレビ見た?」


「あれでしょ!超面白かったよね!」


みたいな日常を過ごしたいとは思っている。


でも、そうはできないのが私の性なのである。


何かをする前にいろんなことを考えてしまい、それに一定の結論が出るまで口に出せない。声が詰まってしまって、音にならない。


さっきの本庄君との一件もそうだ。


本庄君の些細な問いかけに、「うん、じゃあね」と単純に答えられればよかったのだ。だけど、それを言う前に彼はどんな意図を持って私に話しかけてきたのだろうか、私たちの関係性を考慮してどう答えたら自然なのか、などなどそういったことが頭を占領してしまう。


どうでもいい思考だと思うよね。私もそう思っている。


でも、どんなにどうでもいいことでも気になっちゃうことってあるでしょ?


どうでもいいことが点を成して、線になって、そうして白い紙を真っ黒に染めてしまう。


頭を占領して、口を噤ませる要因になってしまう。


そうして私は小さい頃からの理解者を除いて、友達と言える人がいなくなっていた。


悲しくないとは言えない。


でも仕方ないと思えば悲しさも幾分かは和らいだ。


鞄に机一面に広げたノートや教科書をしまって、教室を後にする。


会話って一人でも練習できないかなぁ。


勉強は一人でもできる。だから、勉強は得意だ、とは言わないまでも他の人よりはできるくらいには思っている。


だってさ、ほら、練習に練習を重ねられるから。


練習を何度でも積み重ねることができれば、いざという本番だって乗り越えることができる。自慢ではないけれど、高校受験は学年で一位だった。


しかし、こと会話やお喋りなどの相手がいることとなると私はまるっきりであった。


だから、部活動が強制であった中学では一人で黙々と取り組める水泳部に入っていた。


水泳はチーム競技だ、といちゃもんを付ける人もいるだろうが、私はリレー競技などには一切関わってこなかったので実質一人競技といっても過言ではなかった。


冷たい水の中で、頭を空にしながらひたすらに泳ぐ。泳いでる最中は笛の合図があったら飛び込むとか、壁が近づいてきたらターンの準備とかそんなことしか考える必要が無かったから、こんな私でもギリギリ乗り越えることができた。


高校では部活に入ってないのかって?


もちろん入っていない。だって、強制じゃないから。


強制されてないのに入る必要も無い。そんな無駄なことに精神をすり減らすくらいなら、他に・・・やりたいことはないけど、ならやらない方がましであると思っているからだ。


あと唯一私でもできると思っていた水泳部はうちの学校には存在しない。


やる必要も無ければ、やれる競技もないのだ。


私にとってはむしろこの方が好都合なのだけれどね。


下駄箱までの長い廊下を歩きながら、私は未だに先ほどの本庄君との会話を反省していた。あそこはこうシンプルにとか、次はもっと軽い感じでとか。


いくら次を想定したって次もどうせ上手くはいかないのだろうと分かってはいたけれどね。

だって、練習相手がいないから。勉強みたいに練習に練習を重ねることができないのだから。


いや、もしかしたら一人でもできるかも知れない?


そんなとき私の頭にバカな思考が降り立った。


空気との会話。


それは、いもしない相手を想定して端から見たら空気と会話をすること。


これでも効果があるかも知れない。


思い立ったが吉日だ!


やってみよう!


そう思い、チラチラと誰もいるはずのない廊下で、誰もいないことを確認してそうして


「おはよ、みんな!」

「昨日のドラマ見た?」

「うん、そうだね」


とか「お喋り」をしてみた。


うんうん、一人だったら言える、言える!


「そういえば、本庄君って何部なの?」


「ん、俺?俺は弓道部だよ?」


「へぇ、弓道部なんだ!」


「そうそう。それがどうかしたのか?もしかして宮本さんも弓道に興味あるとか?」


「ちょっとね。なんかこうピュンッてかっこい・・・」


ん、なんかおかしいな?


空気が私の言葉に返事を返してきてない!?


私の妄想力がすごすぎてついには空気と会話できちゃった的な!?


いや、そんなわけないよね、


でも、なら、もし私の妄想じゃないなら


この返事は一体誰が・・・


目をガッと見開いて前をしっかり見つめる。


するとそこには、さっき教室で別れを告げた、いや一方的に告げられただけか、本庄君がいるではないか。


ももも、もしかしてさっきの会話、ぜぜぜ、全部・・・


とたんに私の口は鋭い針と糸で縫い付けられたかのように固く閉まる。先ほどまでは羽ばたいていた脳は地に落ち、地面を貫通してマグマを掘り起こしたかのようにヒートアップしていた。


「おお、宮本さんもそう思う?弓道ってかっこいいよな!」


恥ずかしくて死にそうな私を前に、弓道を褒めた「私」に本庄君が食い気味に話しかけてくるではないか。


「ん」


何か答えようにも、閉ざした口が開かない。


ブラブラブラと饒舌に弓道のことについて語る本庄君の言葉は私の焼け焦げそうな頭では処理できそうになく、左の耳から右の耳へと抜けていった。


「それじゃあさ、宮本さん、今からでも弓道部に入ったらどう?」


何か言わなくちゃ、何か言わなくちゃ、何か言わなくちゃ。


「うん、そうだね。」


訳も分からずとっさに出てきた言葉は適した返答であったが、私にとってはノイローゼの原因になりかねないものであった。


しかし彼の言葉が「・・・どう?」くらいにしか聞き取れていなかった私は


い、今私ちゃんと自然に言えたよね!


さっきの練習の成果がでた!


と内心喜んでしまっていた。


「そう?じゃあ一緒に行こうか。」


えっ?


本庄君の急な勧誘に私の頭は再び混乱のスパイラルに陥る。


一緒に行く?

私が?

どこに?

なんで?


「弓道部楽しいよ!」


高校では部活に入らない。入る理由は一切無い。


そう思っていた4月の決意は4月のうちに崩れ去ることになった。


ま、まさかこんなことになってしまうとは。


し、死にたい。

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