第九話「浅岡の純愛?」
あ、天草さんの事が好きだと!? 浅岡のやつ、浅岡のやつ……!
「で、それを俺に言ってどうしようというのだ?」
そう、恋愛感情を持つのは個人の自由だが、浅岡はそれを何故に俺に言う?
「クラスのやつに聞いたんだが、お前が恵ちゃんの隣の家に住んでて、それで毎日一緒に帰ってるってホントか?」
浅岡は確認する様に俺を見た。
その事に関しては既に周知の事実ではあるのだが、いちおう俺の口からも聞きたいらしい。
「ああ、その通りだ」
「頼むっ、俺に力を貸してくれ高見沢っ!」
浅岡は拝む様に両手を合わせて言う。
「俺も何回か恵ちゃんを誘ったりしてるんだけど、全然乗って来ないんだよ。みんなで遊びに誘っても勉強したいとかって言って避けられるし、もちろん二人きりなんて全然ダメ。参っちゃうよ、ホント!」
「そ、そうだったのか……」
そんな事とは知らなかった。天草さんは浅岡達の誘いを蹴って、俺と一緒に帰ってたのか。別に自惚れる訳じゃないが、なんか浅岡よりも俺を選んでくれた様な感じがして、少し嬉しい気もする。
「そこでだ、お前が恵ちゃんと一緒に帰る時に、俺も混ぜてくれないか?」
「え!?」
「ホント、マジで頼むよ高見沢っ! 俺も仲間に入れてくれっ!」
「いや、しかし……」
俺は浅岡とは同じクラスだが、決して仲が良い訳ではない。好き嫌いという以前に、お互いにタイプが違い過ぎるのだ。浅岡が光なら俺は闇、アウトドアとインドア、社交的と内向的、モテと非モテ、イケメンとブサメン……いやノーマル、という様に、違うが故に合わないのだ。そんな奴と一緒に帰っても楽しい訳がない。別に俺は天草さんと二人きりで帰りたいとかいう訳ではないが、生理的に受け付けない奴と一緒に帰る苦行をなぜ敢えて背負わねばならんというのか。
うむ、断るしかないな。
そう思った次の瞬間に浅岡が発した言葉が、俺を思い留まらせた。
「頼むよ高見沢っ! お前だから安心して頼めるんだよっ!」
「お、俺だから??」
「そうだよ。他のやつだったら、せっかくあの恵ちゃんと二人で帰れるのに、わざわざ俺を混ぜたがる訳ないだろう」
俺だって混ぜたい訳ではないんだが。
「でもお前は、二次元の女の子が好きで、リアルには興味無いんだよな? それは嘘じゃないよな!?」
「あ、ああ、それはもちろん本当だ。嘘じゃ無い」
「だからだよ、そんなお前だからこそ安心して頼れるんだよ! 恵ちゃんと仲良くて、その上で決してライバルにはならないなんて、お前以上のサポーターは無いぞ! 頼むっ、一生の頼みだっ、力を貸してくれっ!」
こ、この男が言っているのは、それは、それはつまり……!
「つ、つまり、俺を他の誰よりも信頼できる男と見込んで、その心の内を俺に打ち明けたという事だな!?」
「そうだ!」
「俺が本当に二次元に心を捧げた、ロイヤルガード高見沢鏡四郎と信じて頼んでいるんだな!?」
「そうだ!」
「ならばもう一度聞かせてくれっ! お前が天草さんをどう思っているのか!」
浅岡は一つ深呼吸をしてから、思いのたけを言葉にした。
「恵ちゃんは今まで出会った女子の中で、本当に、一番タイプなんだ。一目惚れなんだ。毎日、気になって気になって、部活も集中できないんだよ。ヤバいくらい好きだわ」
「……そうか」
この男、ハッキリと言い切ったな。なにやら恥ずかしいセリフをいとも簡単に言い切ったな!
まぁ促したのは俺だが!
俺の前だというのに、真っ直ぐに気持ちを言葉にするなんて、そうとう勇気がないと出来ない事だ。
フッ、俺はどうやら、この男をイケメンというだけで誤解していたらしい。
「浅岡よ……」
俺は浅岡の手を取り、強く握りしめた。
「この高見沢鏡四郎、ロイヤルガードの誇りにかけて、お前の恋の助けとなる事をここに誓おう!」
「ホントかっ!? ありがとな高見沢! じゃあ放課後に、よろしく頼むっ!」
浅岡は爽やかな笑顔を残して校舎の中へと入っていった。
恋か、なんと美しいのであろうか。
甘酸っぱい青春の風を感じながら、俺はニヤケ顔で教室へと戻った。
「遅ぇじゃねーか高見沢、何してたんだよ?」
律儀に昼飯を食べずに待っていた猫橋がややイラついた様子で言う。
「いや、ちょっといい話があってな」
「ほー、何だよいい話って?」
「いや、実はな……」
俺はここだけの話、と前置きしてから事の成り行きを説明した。
すると猫橋は何やら不満げな様子で唸った。
「えぇー、マジでー!?」
第十話へ続く