第六話「三次元の試練」
少しの間ぼーっとして待っていると、コンビニから出て来た天草さんが小さなペットボトルを手渡してきた。
「はい、これ。案内してくれたお礼と、差し入れってことで。体を冷やして風邪ひいたらいけないしね」
天草さんがくれたのは温かいお茶のボトルだった。
生来のものなのか親の育て方の賜物か、自然に暖かい気遣いが出来る天草さんに俺は感心した。そして一つの疑問が浮かんだ。
「天草さん」
「はい?」
「天草さんは何で宇宙人に会いたいと思うのだ? 何か特別な理由でも?」
天草さんは良くできた女子だと俺は思う。学校ヒエラルキーでも容易に上位に入るだろう彼女が持つ趣味としては、それはやはり変わっていると言わざるを得ないだろう。
「それは……」
天草さんは帰り道を歩き出しながら少し考えて振り向く。
「ナイショかな」
天草さんは子供っぽく、はにかみながら笑った。
少し前を歩く天草さんの髪が風に吹かれ、その風は俺の方へと流れた。
花か果物の様な甘い香りとわずかな汗の匂いが届いた。
これは、天草さんの匂いか?
ドキンと一瞬、心臓が跳ねる様な鼓動を感じた。
な、何だ今のはっ! まさか……いや、そんなはずがない! この俺に限ってそんなはずは……!
「……あ、もしかして、怒った?」
固まったまま何も言わない俺を見て不安になったのか、首を少し傾げながら俺の目を覗き込んでくる。
「な、なんでもない! そうだ、これ頂きます!」
俺は動揺を隠すために、ペットボトルのお茶を勢いよく飲んだ。
「熱っ!」
買って間もないそのお茶はまだ十分に熱く、一気に飲むには早過ぎたようだ。
俺は熱さにむせてお茶を吹き出し、天草さんがくれたボトルも落としてしまった。
「大丈夫!? 舌、ヤケドしてない?」
そう言いつつ、天草さんは肩に掛けていた小さなポーチからハンドタオルを出して道着の襟元を拭いてくれようとする。
「いや、大丈夫だから気にしないで……って、あっ!?」
濡れた襟元にやった俺の手は、ちょうど同じ場所に伸びて来た天草さんの手をガッシリと掴まえる形になってしまった。
天草さんの手、小さいな……!
細くて華奢なその手は柔らかく、とても暖かかった。
ドキンッ!
ま、また胸がっ! まさかこれは、と、トキメキ!? この俺がっ!? マリルちゃん、セーラ、ティズ、メリっち、アン、キャロル、サラ姉、その他大勢の二次元美少女達に心を捧げたこの俺が、現実の女子に、だと!?
「あ、あの、高見沢君?」
「え、ああっ!? す、すまんっ! って、うぉわ!?」
慌てて手を離し、距離を取ろうと一歩下げた足の下には、さっき落としたペットボトルがあった。
俺は見事にすっ転び、無様な姿を路上に晒すことになった。
背中と尻から衝撃が身体中に広がっていく。
「いたた〜、ふ、不覚っ!」
「だ、大丈夫!? はい、掴まって!」
俺を助け起こそうと天草さんが手を出してくれる。
「いや、そんな……」
天草さんの手を借りるのをためらっていると、目の前で揺れる二つの膨らみに気がついた。
こ、これは天草さんのムネっ!
俺に手を貸そうと前かがみになった天草さんのワンピースの胸部分が重力に引かれて大きく揺れた。
制服姿の時はそこまでとは思わなかったが、天草さんは細身な割になかなか立派なモノをお持ちの様だった。ニットというワンピースの素材も、その二つの膨らみを柔らかそうに、魅惑的に見せていた。
ドキンッ! ドキンッ!
こ、こんなことが起こるだなんて思ってもいなかった。しかし認めざるを得ないか、こんなに心が熱くなっている……。
いや待て、心というか……熱くなっている……股間が。
……これは……性欲、か?
「な、なんて事だっ!! 俺とした事がーーっ!!!」
第七話へ続く