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第五話「愛の起源」

 『カッコいいよ!』だと、天草さんは、天草さんは……、


 どうかしているっ!!!


 言っておくが俺は馬鹿ではない。自分が世間一般的にどれだけ訳の分からない、意味不明な、イミクジピーマンな事を言っているかくらい分かっている。それを聞いて引かないばかりか、あまつさえカッコいいなどとのたまうなんて、しかも全く噓っぽくない!

「ねえ、高見沢君はなんで異世界に行きたいの? もしかして何か悩みがあったりする?」

「……」

 心を病んでると思われたのかな。

「あ、ごめんね、勝手に悩みがあるとか決めつけちゃって。でも、何かあるなら聞いてあげるくらい出来るから」

 天草さんは真っ直ぐな目で俺を見ている。

 心配してくれているのだろうか。俺にしてみれば心配されるのは的はずれなのだが、なんの悪意もからかいも無いその言葉が、素直に嬉しかった。

「中一の時に、あるゲームを買ったんだ。『エターナル・ストーリー』ってやつなのだが……天草さんはゲームしたりする?」

 天草さんは小さく首を横に振る。

「スマホのアプリゲームなら少しやるけど、それ以外は全然……」

「そうか。そのゲームは、事故をきっかけに異世界に飛ばされた主人公が仲間と共にファンタジー世界を冒険しながら、どうにか元の世界に帰ろうとするというやつなんだ。キャラクター達が凄く可愛くて、パステルカラーのイラストが世界観を優しく暖かく見せていて、そのゲームに俺は魅了されてしまった。学校から帰ると毎日六時間はやっていたな」

「ええっ、そんなに!?」

「とてつもなくハマっていたんだ。もの凄く楽しくて、毎日素敵な仲間達と一緒に冒険してる気分になっていた」

「とっても好きだったんだね」

「ああ。でもそれはゲームだから、しばらくすれば終わりが来る」

「ちゃんとクリアできたの?」

「いや、バッドエンドだった」

「そうなの!?」

「主人公は自分の世界に帰れず、冒険は一段落してパーティは解散。仲間達はそれぞれの道を進んでいった」

「それはガッカリしただろうね」

「ああ。でもガッカリしたのはバッドエンドだったからじゃない。物語の最後で、自分と一心同体だったはずの主人公はまた旅に出て、仲間達はそれぞれの将来に向かっていった。エンディングの曲が流れた瞬間に、なんだか、俺だけが一人ぼっちで取り残された気がして、寂しくて、悲しくて、涙が出てきた。結ばれはしなかったけど本当に好きだったヒロイン、心から信頼できる仲間達、全力で競い合えるライバル、みんな大好きだった。他人から見ればそれはたかがゲーム、作られた物語、作られたキャラクターだ。でも、現実じゃないそんな世界だからこそ、なんの偽りもない本当の愛や、友情がある。俺はたぶん、単純に異世界というより、もしかしたらあのゲームの様な世界を求めているのかもしれない」

 そこまで語った所で、不意にポロっと涙がこぼれた。

「高見沢君……」

「あっ、いや、これはっ! 天草さん申し訳ない! 長々と変な事を喋ったあげくに、くそーなんだこれはっ! どうかしているぞ俺っ!」

 天草さんは少し驚いた様だったが、直ぐに優しく微笑んだ。

「それが高見沢君の理由なんだね」

「……まあ、それが始まりと言うか、何と言うか。異世界への扉とか、時空の歪みとか、絶対に無いとは証明できない訳だし、もしかしたら、異世界に行ける事があるかもしれない。そう思って」

「それで、今日もトレーニングするの? その格好で」

 天草さんは俺の格好に目をやる。

 俺は空手の道着に身を包んでいた。

 親父が空手の有段者で、昔から仕込まれているのだが、トレーニングの時にはいつもこれを着ている。これを着ると気が引き締まるからだ。

 ……と言うか、道着を着こなしてる俺って、ちょっとカッコいいんじゃないかって密かに思っているからだ。

「ああ。外に出るついでにロードワークにいこうと思ってな」

「頑張ってるんだね」

「ま、まぁな」

 そんなこんなで俺達はコンビニに着いた。

 天草さんだけ中へ入り買い物を始め、俺は外で秋の夜空を見上げながら買い物が終わるのを待っている。

 ヒンヤリする夜風に吹かれながら俺は思った。


 ……なんだか天草さんって、変だな。


第六話へ続く

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