第四話「コンビニへの道」
ぴゅうと吹く冷たい風が、夜道を行く俺に季節の変わり目を感じさせる。もうそろそろ秋も終わろうとしているのだろう。
十一月に入ったこの町の木々は少しずつ色づき、その様相を変え始めていた。遠くに見える高台にある森王自然公園では毎年美しいイチョウ並木が訪れる者を楽しませてくれるのだが、今年もきっと素晴らしい景色を見せてくれるに違いないだろう。
……などと、一人で浸っている場合ではない。どうしようか。
俺はチラリと隣を見る。
左隣を歩く天草さんもこちらをチラリと見て来たので、俺は慌てて目を逸らす。
な、何なのだこの状況はーー!!
そう、玄関でのやり取りの後、俺は近くのコンビニまで天草さんを案内する事になったのだ。
近くのコンビニまでなんてほんの数分あれば着く。しかし、その時間がどうにも気まずくてしょうがない。何か話そうにも、何を話せばいいのか分からない。ギャルゲーならこういうイベント時には選択肢が出てくるものだが、何か無いか!?
①今日はいい天気だね
②魔法試験の結果が心配だよ
③次の休みにどこか遊びに行かない?
えーと、①は無難すぎるし、ここはせっかくだし思い切って③かな。
「天草さん……」
「はい?」
「次の休みにどこか……」
って、これは昨日やったギャルゲーに出て来た選択肢そのまんまではないかーっ!!! 天草さんを誘ってどうする!!! 方向転換だ!!!
「じゃなくて、えーと、ま、魔法試験の結果が心配だよ!」
「……は?」
天草さんはキョトンとした目でこちらを見ている。
って、違うわーっ!!! 別の選択肢を選んでどうする!!! そうじゃなくて、えーと、うーんと……!
「ふふっ」
天草さんは小さく遠慮がちにクスクスと笑っていた。
「ど、どうかしたか?」
「高見沢君ってなんか面白いね。浅岡君達が言ってたのとはちょっと違うみたい」
「浅岡達が何か言ってたのか?」
「うん。高見沢君はすごく変わってて、異世界に行ってそこの王国のロイヤルガードって言うのになるのが夢だっていつも言ってる危ない奴だって聞いたよ」
そうか、あの野郎共め、さては俺を笑い者にして話のネタにしてやがったんだな! ふざけた奴らだ!
「本当なの高見沢君? それとも、それってネタのキャラとか、芸人さんみたいな?」
「キャラなどではないっ! 俺は本気でなりたいと思っている! いつかファンタジー世界に召喚されて、その国のプリンセスを護れる強い男に! だからこそ俺は、日々トレーニングをして努力を重ねているのだ!」
俺は天草さんの目を見てハッキリとそう言い切った。
そのせいで彼女にどう思われようが知った事ではない。そこだけは譲れない俺の志なのだ。
「……」
天草さんは少しの間、その真意を探るように俺の目を覗き込んでいたが、不意に微笑んだ。
「うん、いいねそれ! カッコいいよ!」
「な、なにぃ!?」
第五話へ続く