第三十六話「女子が俺の聖域に……!」
「どしたのキョウちゃん、その顔?」
自室に戻った俺の顔を見て、ベッドに腰掛けて待っていた弥生は思わず出そうになる笑いをこらえながら尋ねた。
「・・・・・・時に男は信念の為に戦わなければならない時があるのだ」
大きく腫れ上がった顔をさすりながら、俺は心の中でクソ親父にリベンジを誓った。
「もしかして叔父さんとケンカしたの?」
「ま、まあそんな様なものだ」
「キョウちゃん達みたいな仲良し親子でもケンカするんだね」
「だ、誰が仲良し親子なのだっ! クソ親父は俺にとって宿命の敵も同然! 日本の道徳の為に俺がいつか成敗するのだっ! い、今はまだ無理なのだがな・・・・・・」
そう、残念ながら今の俺の実力ではあのクソ親父を倒す事は出来ない。悔しいが、あの人型ゴリラは強すぎる。先程も全力で挑んだのだが、思いっきりぶん殴られてこのザマだ。
「ふっ、こんなツラをして、恥ずかしい所を見られてしまったな!」
「んー、どっちかって言うと恥ずかしいのはこっちの方だと思うけど」
「え、何が?」
「たとえばこの女の子のゲームでいっぱいの棚とかー、同じようなゲームが平積みされたタワーとかー」
「なっ!?」
わ、忘れていたっ!! 俺の部屋はギャルゲーグッズで溢れているのだった!!! ギャルゲーが一杯詰まった『愛の宝物庫』と『栄光の塔』を女子に見られたーーー!!!
「いや、こ、これはな!? 何と言うか、全部素晴らしいゲームなのだっ! 練り上げられたストーリーもさることながら、音楽も感動的なものばかりなのだっ! そ、それから、それから・・・・・・もしかして、引いたか?」
俺は恐る恐る弥生に一番気になっている事を聞いた。
「うん、引いた」
「ガーーーーーン!!!!!」
心の準備をしていたはずなのに俺はメチャクチャにショックを受けた。思わずガーンと言ってしまう程にショックを受けた。
「そ、そんなにか・・・・・・?」
「ゲームはまだいいんだけどー、この抱き枕とかポスターはちょっとねー」
「うっ・・・・・・!」
抱き枕の『セーラ』と限定ポスターの『マリルちゃん』・・・・・・スマンッ!!!
「いやー! マニア気質というのかなぁ! 限定とか言われるとつい集めてしまうのだ! 集めてしまうと使わないのはもったいないからな! それでいちおう出してあるだけなのだ! いやー! 場所をとってしまって困る困る!」
「ふーん、そうなんだ」
セーラ!!! マリルちゃん!!! どうかこの俺を許してくれっ!!! これは嘘も方便というやつで、本当にそう思っているわけじゃないんだっ!!! ああっ!? セーラとマリルちゃんの視線が冷たいーーーっ!!!(気がする)
俺は叫びだしたいのをこらえながら精一杯にその場を取りつくろった。
「あーよかった! 正直言って引いたのは確かだけど、思ったほど重症じゃないみたいで!」
「重症って・・・・・・」
「よいしょっと! わー! けっこう柔らかいねー!」
「なっ!?」
弥生はベッドの抱き枕を、と言うか『セーラ』を、そのヒップで思いっきり押しつぶした。
しかも弥生はちょうどセーラの顔面にそのお尻を押しつけている。
ああぁっぁぁっぁぁ!!!!! セ、セェェェェーーーラァァァァーーーーーーー!!!!!
俺は床の上をのたうちまわりたい気持ちを必死に耐えて笑顔を作り続けた。
「どしたのキョウちゃん?」
「いや、べつに……」
もしかしたらこの瞬間、俺は世界で一番哀しい笑顔をしていたかもしれない。
「・・・・・・弥生、ちょっと横にズレて座ってくれんか?」
「なんで?」
「なんででも」
「んー? 変なの」
「ほら、もうちょっとこっちに」
「あっ!?」
俺は弥生の肩を持つようにして座る位置を動かした。
よしっ! これでセーラは大丈夫! 弥生にも俺の意図はバレていない様だ!
「キョウちゃん・・・・・・」
「何だ?」
「ず、ずいぶん大胆になったよね。肩に手をまわすなんてさ」
「ええっ!?」
言われみてハッとした。弥生をセーラの上からどかそうとした結果、弥生の肩を抱き、ベッドの上で並んで座っている。
な、なにいぃぃぃ!!! 何でこんな事になっているのだっ!? 違うっ!! そんなつもりじゃなかったんだっ!! セーラ信じてくれっ!!!
弥生は少し体を傾けて、俺の体にその体重を預ける。長い黒髪がサラリと俺の胸前に垂れ、俺の顎の下に弥生の頭が来る。
俺は心臓が口から飛び出しそうになるのを最大限の精神力で押さえつけ、平静を装って口を開く。
「い、いや、これはな弥生・・・・・・!」
「キョウちゃんって、よくこんな風に女の子を部屋に連れ込んでるの?」
「そ、そんな訳ないではないかっ! 俺はそんな軽い男ではない! この部屋に入れたのだって、子供の頃から考えても女子では弥生だけだ!」
「へぇー、そうなんだ! エヘヘ!」
弥生は俺の回答に気を良くした様子で、さらに体を預けてくる。
マ、マズイ! いくらなんでもこの距離感と個室というのはマズイ!! このままではふしだらな情欲に精神が汚染されてしまうっ!! 雰囲気を変えなくてはっ!!
「そ、そう言えば、弥生には付き合っている男がいるのではないのか? あの時、ゲーセンで一緒に居ただろう?」
この場合、実際に付き合っていようがいまいがそれは関係無い。男女二人きりの状態で雰囲気が高まりつつある時に他の奴の話題を出すことで場を濁すのである。
「違うよ、あの人とはただ遊んでただけ。キョウちゃんてば、もしかしてヤキモチ!? もう! キョウちゃんてばー!」
弥生は照れ笑いしながら俺の胸板を嬉しそうにトントン叩いている。
作戦失敗ぃぃぃぃぃーーーーー!!!!! 場を濁すどころかなんかイチャイチャ感が増してしまったーーーーー!!!!!
第三十七話へ続く
【この作品を読んでくれた皆様へ】
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作者が言うのもなんですが、私は彼らの事が大好きです!笑
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