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第三十四話「クソ親父警報発令」

「ふふっ、お父さんが話したいってうるさいの」

「ぜひ行きたいのだが、ご飯時でもあるしお邪魔する訳にも・・・・・・」

「そっか、それもそうだね。ごめんね、高見沢君の家もご飯なのに」

「いや、いや! 俺としても挨拶はしたいと思っているのだ! だから迷惑でなければちょっとだけ・・・・・・」

 その時、天草さんの家のドアが開いた。中から様子が見えていたのか、外に出て来たのは今まさに話に出ていた天草さんのお父さんであった。

「こ、こんばんは! お久しぶりです!」

 俺は失礼の無い様に、天草さんのお父さんへ深く頭を下げた。

「鏡四郎君久しぶりだね。いつも恵から話を聞いているよ」

「そ、そうなんですか?」

「ハハハ、学校の話を聞くといつも鏡四郎君の事ばかり言うんだ! UFOの話と同じで止まらなくなるんだよ! それだけ好・・・・・・」

「お父さんっ!!!」

「おっとしまった! いや、ハハハ! これは参ったな!」

「は、はぁ・・・・・・」

 今いったい何を言いかけたのだろうか??

「まぁ、こんばんは! 鏡四郎くん、よかったら今日はうちでご飯食べていかない?」

 お父さんの後を追って出て来た天草さんのお母さんが、俺を夕飯の席へと誘ってくださる。

「でも、そろそろ我が家も夕食が・・・・・・」

 そこまで言いかけて、俺の脳裏に昨日のリビングでの出来事がよぎる。

 そう言えばクソ親父と愚兄が家に居るのだった・・・・・・。

「ぜひお邪魔させてくださいっ!!!」

 俺が自宅の飯を放棄するのに僅か一秒もかからなかった。

 天草さんのお宅で優雅な夕食を頂けるなんて俺は幸せ者だ。そう思った次の瞬間、近所迷惑なんか屁とも思わない野太くデカイ声が俺の背筋を凍りつかせた。

「おおーーー!!! そこに居るのは鏡四郎ではないかっ!!!」

「なっ・・・・・・!?」

 な、なぜこのタイミングでクソ親父があぁぁぁぁぁ!!!!!

 急に神の怒りに触れた親父の上に雷が落ちないかと願ったが、この現実世界では叶うはずもない。親父は俺の願いなど露知らず、大股でズカズカとこっちへ近づいてくる。

「親父の奴、最悪のタイミングだな・・・・・・」

「えっ、高見沢君のお父さん!?」

 天草さんが驚くのも無理はないだろう、親父は窮屈そうなパッツンパッツンの赤ジャージを着ていてその見た目は凄まじい迫力だ。ちなみにそのジャージは兄が高校生の時の物だ。どうやら買い物に行ってきたらしく、手にはスーパーの袋を下げている。

「おっ! 鏡四郎よ誰なんだこちらのカワイイ娘は、お前の彼女か?」

 親父は天草さんのご両親も居る前でなんとも恐ろしい一言を唐突に発するという暴挙に出た。

「な、何を言っているのだっ!? こちらの方々が、最近うちの隣に引っ越して来た天草さんご一家で、俺の同級生の恵さんとそのご両親なのだ!」

 どうやら親父は表門より内側に立っていた天草さんの両親に俺の言葉を聞いてから気づいた様で、急にパッと背筋を正して見せた。

 その様子を見て俺は内心ほんの僅か安心したのだが、結果的にはそんな事を思った俺は馬鹿だったと言える。

 親父は厳つい顔を逆に怖いくらい笑顔にして話し出した。

「おお、そうでしたか! こちらこそ不肖の息子がお世話になっております! こいつは次男ですので、いつでも婿に出せますから必要でしたら遠慮なくどうぞ! いや~、しかし貴方かなりのイケメンですな! お仕事は何を?」

 天草さんのご両親も親父の姿を見た瞬間はゴリラの様な体格に少し驚いた様子だったが、そこは大人、しかも天草さんのご両親である、何の疑問もなく失礼な言動をかます親父を前にしても柔和な笑顔を崩しはしない。

「私は大学病院で外科医をしております」

「お医者様ですかっ! その容姿で医者では女が寄って来て困るでしょうな! バレないように上手くやる、とっておきの工夫を教えましょうか? いや、奥様がこれだけお綺麗ならば夜は忙しくて他の女どころではありませんかな!? ガッハッハッハ!!! おっと、こうしてはいられない! 今夜のすき焼きの具材を早く持って帰らなくては! それでは私はこの辺で! 鏡四郎、お前も早く帰れよ!!!」

 親父は凄まじい暴風を吹かせるだけ吹かせて我が家へと入っていってしまった。

 絶句である。俺は時が止まった様に動けなかった。天草さん家族も一言も発さない。

 重苦しい数秒を全力で払い除けようと、俺は全身の力を振り絞ってブンブン頭を下げた。

「も、申し訳ございませんーーーーー!!!!! 父は一年振りに海外から帰って来たばかりで、まだ日本の礼儀を思い出せていないのです!!! どうか父の非礼をお許しくださいーーーーー!!!!!」

 俺は死刑も覆す勢いで謝り倒した。

「はっはっは! そんなに謝らなくてもいいよ鏡四郎君、気にしないでくれたまえ」

 天草さんのお父さんは怒る事もなく、広い心であっさりと親父の愚行を許してくれた。それどころか俺の必死の謝りようを見て優しく微笑んだ。

「あ、ありがとうございますっ!!!」

 頭を下げつつ横を見ると、天草さんのお父さんだけでなく、お母さんと天草さんも上品な笑い声をたてながら俺を優しく見守っていた。

 俺は天草さん一家の人間性に感動しながら、我が親父の品性に絶望していた。

 くっ、我が親ながらなんて下品なクソ親父なのだっ! 出来る事なら、天草さんのお父様のすね毛でも煎じて飲ませたいくらいだっ!

 本心を言えば、心から天草さんのお宅の晩御飯にお邪魔したかったのだが、親父に直接帰れと言われてしまったのでは、それを無視すると天草さん一家の体裁が悪くなってしまう。

 俺は涙を飲んで自宅に帰る事となった。

「あ~あ、すき焼きは好物だがつけ合わせがクソ親父と愚兄では食欲が出んな・・・・・・ん?」

 肩を落として自宅の玄関に入ると、見慣れない靴が一足揃えて置かれていた。

「・・・・・・ローファー?」

 誰のだろう、サイズが小さい様に見えるが、まさか母上の物か?

 その疑問はダイニングキッチンを覗いた瞬間に解けた。

 だが俺は驚きの余り声も出ず、その人物を見つめ続けていた。

「早く座れ鏡四郎!! お前が座らんと晩飯が始められんではないか!!」

「ママ今日はお肉を奮発しちゃったのよ~! キョウちゃんもすき焼きは大好物よね~!」

「我が高見沢家の末席でありながら家族を待たせるとは不届きな愚弟よ、俺の腹に住む悪魔が鳴いているぞ」

「あ、ああ・・・・・・」

 ようやく小さな声を押し出した時、俺が見つめていた人物は満面の笑顔で俺を迎えた。

「おかえり! キョウちゃん!」

 セーラー服姿でダイニングテーブルの一席に着いている彼女は不思議なほどその光景に馴染んでいた。

「た、ただいま・・・・・・!」

 そこにいたのは俺がついさっき隣町まで探しに行った相手、弥生だった。


第三十五話へ続く

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