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第二十七話「変顔は青春の思い出」

  SINNOシネマに着いた俺達はさっそく何を観るか決める事にした。

 それぞれの性格を考えれば簡単に意見がまとまるはずも無い。

 と、思ったのだが案外直ぐに何を見るかが決定した。それはかつて大ヒットした超大作動物アニメのリメイク作品、全世界注目の話題作、それは・・・・・・。


『ナマケモノ・クイーン』

 豊かな食料と平和な日々が約束された祝福の土地、「日本自然動物園内ナマケモノの森」。将来のクイーン〈ビヨンセ〉は運動不足により母を失い、クイーンの座を狙う闇のナマケモノ〈ナオミ〉に王族の樹から落とされてしまう。滅多に下りない地上で彼女は運命を変える仲間と出会い、〈なぜナマケモノは一日に二十時間近くも眠るのか、なぜトイレは一週間に一回なのか〉その哲学的な意味を知っていく。クイーンとなる自らのデスティニーと向き合う為に―。


 まあ、あらすじはどうでもいいのだが。

 本当なら猫橋はアクションもの、高杉さんは恋愛もの、俺はファンタジー冒険もの、天草さんはホラーものを押していたのだが、らちがあかないので間をとろうとしたら何故かこうなった。

 その映画は少し前に始まったばかりだったので次回の開始時刻までには一時間以上の時間がある。

「まだけっこう時間があるな。よし、それなら暇つぶしに近くのゲーセンでもいこーぜ!」

「猫橋よ、お前ゲームはやらないんじゃなかったか?」

「家でやるゲームとゲーセンでダチと遊ぶのは別もんだろ! 中学時代は付き合いでよく行ってたぜ!」

「アタシもたまには行くよ! 夏なんかは中にいるとクーラー効いてて涼しいからちょっと休んだりしてさ!」

「ほう、みんな結構行っているんだなあ」

「高見沢クンは行かないの? 一番行きそーじゃん」

「俺はゲームなら家で済ませるからな、外でやる感覚にならんのだ。金もかかってしまうしな」

「でも友達と遊びに行ったりしないのー?」

「・・・・・・」

「あ、そっか! 高見沢クン友達いないんだった! 忘れてたー、ゴメンね!」

「ニヒヒ、聡美のやつ容赦ねぇな」

「私、ゲーセンって初めてなんだけど」

 天草さんの元にみんなの視線が集まる。

「え!? 恵まだ一回も行ったことないの? ホントに一回も??」

 天草さんはコクリと頷く。

「マジか!? 珍しいなそれはー、天然記念物ものだな」

「天草さんらしいという気もするな」

「てことは、これが恵のゲーセンデビューなわけね! じゃあさ、みんなでプリクラ撮ろーよ! 今日の記念に!」

「おお、いいじゃねーかそれ! ちょっと暇つぶし程度に思ってたけど、こりゃマジで遊びに行くぞ! 恵ちゃんの初ゲーセン記念だぜ!」

「よーし、天草さんの為に盛り上がっていくぞー! フッフーーーゥ!!!」

「お、お手柔らかにね・・・・・・」

 俺達はテンション高く意気揚々と近くのゲーセンへと乗り込んだ。

 そこは有名ゲームメーカーがプロデュースしている大きなゲーセンで、下は地下二階から上は地上五階まである立派なアミューズメント施設だ。

 中に入った俺達はさっそく二階にあるプリクラの一つに突撃した。

「まずは記念撮影ね! 恵となりに来て!」

「う、うん!」

「よっしゃ! オレ達は後ろいくぞ高見沢!」

「うむ! しんがりは俺に任せろ!」

 それから俺達はポジションを変えながら何パターンもプリクラを撮った。

「次は恵と高見沢クン前で並んでしゃがんで! ほらもっとくっついて! 恵は高見沢クンのほっぺにキスする真似して!」

「え・・・・・・は、恥ずかしいな」

「・・・・・・」

「ニヒヒ、カチコチじゃねーか高見沢! よし時間だぜ、3、2、1、ほいっと!」

 チュッ!

 柔らかいものが俺の頬に触れる。

「えっ!?」

 横を向くと、湯気が出そうな程に顔を真っ赤にした天草さんが唇を押さえていた。

撮影の寸前に猫橋が俺の頭を押さえ、高杉さんが天草さんの頭を軽く後ろから押したのだ。

「イェ~~イ! 大成功!!!」

「キャ~~! 既成事実よ! 高見沢クン責任取らなきゃね~~!!!」

「な、な、な・・・・・・!」

 状況を理解した俺は天草さんと並んだまま硬直してしまっていた。頬にはさっきの柔らかくも暖かい感触が新鮮なまま残っている。

 猫橋と高杉さんはハイタッチしてハシャギながら俺達二人をからかい全開のニヤニヤ顔で見ている。

 くっ、全てはこの二人の計略の上だったという事か! 腹の立つニヤニヤ顔をしていやがるぜ! 今思えば天草さんの好きなミルクティーを奢らされた所から、高杉さんの策にハマっていたような気がする!

「さ~あ、ノってきた所でどんどん撮ってこーぜ!!!」

 そこからもプリクラ撮影は続き、変顔してみたり、キス顔してみたり、とにかく勢いで色々と撮りまくった。

「はい、みんなどんどん書いてってねー! 時間無いよー!」

 撮った後は現像する前にメッセージやイラストで画像をデコレーション出来る時間がある。高杉さんは凄まじいスピードでカラフルに画面へ書き込みつつ、他の人にもペンを渡していく。

「な、何て書けばいいんだろう」

「何でもいいんだよ! 恵ちゃんが思ったこと全部書いちゃえばさ!」

「俺は・・・・・・ロイヤルガード参上、と」

「お前はどっかの暴走族かよ!」

 画像をデコレーションする時間はあっという間に終わり、出来上がったプリクラが取り出し口へと出てくる。

「アハハ! すっごいイイ感じー! さっそく切り分けちゃおか!」

 プリクラの近くには切り分ける為のハサミが用意されている台があり、高杉さんは人数分に切り分けて皆に渡していく。

「ニャハハハ! 高見沢のキス顔めっちゃキメェ!」

「なにおぅ! そう言う猫橋は超美白で完全に女の子ではないかー! 猫橋カ・ワ・ウィ・ウィ~!」

「んだとぉ! ぶっ飛ばすぞコラー!!」

「お前が始めたんではないかー!!」

「ハイ、高見沢クンが大きく写ってるやつ恵にあげるねー」

「えっ!? わ、私はそんな・・・・・・いいの?」

「いいのいいの! その代わり猫橋クンのキス顔はアタシのね!」

 その後も俺達は大騒ぎでゲームセンターを堪能した。

 レースゲームで競ってみたり、リズムゲームで遊んだりして大いに盛り上がった。俺の財布の紐もついつい緩んでしまって、新しいギャルゲーはしばらく我慢しなければならなくなってしまった。

「ふぅ~、まあそれもよかろう」

 俺はトイレに行ったついでにその近くのベンチに腰を下ろした。

 他の皆はUFOキャッチャーのコーナーでカワイイ動物のぬいぐるみを取るのに夢中になっている。俺はその様子を遠目に見ながらふと感慨にふけっていた。

「俺が女子と一緒にゲーセンで遊ぶ日が来るなんて、この世界での最後の日が近いのかもしれんな」

 異世界へ行く方法として、そのまま転移する方法と死んで転生する方法があると聞く。天草さんと仲良くなったり、高杉さんも一緒にゲーセンで遊んだりと少し前までは考えられなかった事が起こっている。それはつまり、俺の運命は実は後者の方で、神様がこの俺に三次元最後のいい思い出をプレゼントしてくれているのではないだろうか。

 俺は財布に仕舞っていたプリクラを取り出してじっと見つめる。

「ありがとう天草さん、猫橋、ついでに高杉さんも。異世界へ行っても皆の事は決して忘れないとこのプリクラに誓おう!」

 感謝、ただひたすらに感謝、それしかない。素晴らしい友人達へ、楽しい青春の思い出へ、人生初のプリクラへ、そして両親へ、世界へ、地球へ、宇宙・・・・・・。


『てめぇブッ殺すぞ!!!』


「えっ!? ちょ、ちょっと待て、まだモノローグ終わってないし! それにまだ転生する心の準備も・・・・・・ん? なんなのだ??」

 この建物にはエレベーターもエスカレーターもあるのであまり使われていないのだが、フロアの端にあるトイレの横にはいちおう階段もある。聞こえてきた物騒な声はその階段の陰の方から発せられた様だった。

 俺はさりげなさを装いながら立ち上がり、何とは無しにそっちの様子を見てみる。

 視界に入ったのは若い男と女で、同じ高校生くらいに見える。そして男が女の前に立ちふさがり、ひどく険悪なムードが漂っていた。

「オカシイだろそれよぉ!! そんなんで通ると思ってんのか!?」

 男は声のボリュームに配慮しながらも、女にかなり凄みを効かせている。男の髪には赤のメッシュが少し入っていて、立ち姿や雰囲気がなんとなくヤンキーっぽさを感じさせる。

「そんなの知らないし!! わたしの勝手でしょ!!」

 女の方も強気に言い返す。その様子から二人はどうやら知り合いの様で、通りすがりの女子がヤンキーに絡まれた訳ではなさそうだ。

 その女子は男からわざとらしく顔を背け、腰くらいまでありそうなロングの黒髪を撫でつけている。俺の目から見てその女子は結構な美人さんで、人の好みをどうこう言うつもりはないが、その男とはちょっと不釣り合いの様に思えた。

「これは痴話ゲンカと言うやつだろうか・・・・・・。まったく、公共の場所で始めるなんてな、これだから最近のカップルというやつは」

 呆れてその場を離れようと振り向きかける。

「ふざけんなよコラッ!!!」

「痛いっ!!」

「なにぃ!?」

 何とその男は平手打ちをかました。信じられない事に、いきなり女子の顔に平手打ちをかましたのだ。

「許さねーぞオレは!! このクソビッチが!!!」

「嫌ぁ!!」

 男の手がまた無情に振り上げられる。

「待てい外道!!!」

「あぁ!?」

 店員さんに通報しに行くという選択肢もあったが、俺はそれ以上見過ごす事が出来ず、その場で声を上げていた。

「なんだオメェは!?」

 ふっ、異世界へ行く日も近いのだ、予行練習しておくか!

「ふんっ!」

 俺は着ていたジャケットを出来るだけ派手に脱ぎ捨てて正義のヒーローの様にポーズをとる。

「通りすがりの正義の騎士! ロイヤルガード参上っ!!!」

「・・・・・・」

 どうしてなのか理由は全く見当もつかないが、何故かその場の空気がカチカチに凍りついた。

「・・・・・・あれ?」


第二十八話へ続く

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