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第二十二話「そしてクラスの俺は」

「いや~いい感じじゃないのお二人さん。仲睦まじくてなによりですなぁ」

 猫橋は腹が立つ程のニヤニヤ顔でイジってくる。

「ば、馬鹿を言うなっ! 俺と天草さんはそんなんではない!」

「いいっていいって言い訳しなくても。なんてったって、お姫様をお護りするナイトになったんだもんなぁお前! ニヒヒ!」

 猫橋にはあの日の事を全て話してある。

「だから茶化すなと言うに! 俺と天草さんは、言わば同じ戦場を駆け抜けた戦友! あの日の勝利は俺だけで掴み取ったのではない! 二人で掴み取ったのだっ!」

「うーん、初めての共同作業ってわけか。思い出深いねぇ~」

「うがーーー!!! 茶化すのではなーーーい!!!」

「ニャハハハハ! ほれほれ、とっとと教室行こうぜ!」

「ったく、猫橋のやつ・・・・・・」

 とまあこんな感じで、天草さんと一緒に登校する様になってからは猫橋にからかわれてばかりいる。腹が立ちもするが、そんなに嫌という訳でも無く、どことなくムズムズすると言うか何と言うか・・・・・・自分でもよく分からない感覚に戸惑ってしまう。

「・・・・・・どうしたのだ俺は」

 猫橋の後について教室に入り、自分の席に着く。

「ん?」

 机の中に手を突っ込むと、指先に何か変なものが当たる。

「またか・・・・・・今日は一体何なのだ?」

 恐る恐る取り出してみると、緑や青で鮮やかに彩られた四角い炭水化物が出てきた。

 それは大量のカビで装飾された食パンだった。カビの具合から見て、恐らく湿度の高い場所で数日程かけて育てたのだろうと思われる。

「・・・・・・」

 とまあこんな感じで、天草さんと一緒に登校する様になってからは学校の男子共から嫌がらせされてばかりいる。腹が立ちもするが、そんなに嫌という訳でも無い訳でも無く、どことなくイライラすると言うか何と言うか・・・・・・自分でもよく分からない殺意に戸惑ってしまう。

「い・・・・・・いったい誰なのだーーー!!!??? 毎朝毎朝欠かさず俺の机の中に変な物を入れていく奴はーーー!!! 昨日の正露丸(せいろがん)などはいいセンスしているではないかっ!!! おかげで机に入れっぱなしだった教科書まで臭くなってしまったぞっ!!! 恐れ入ったわっ!!!」

 俺はHR前の教室中に声を轟かせたが、男子が誰一人として俺と目を合わせない。

 どうやら男子共の間で反高見沢同盟が組まれているものと思われる。

 くっ、ロイヤルガードとは言わば数少ない選ばれし者! 時として孤独な戦いに身を投じなければならないと言う事か! これもまた、異世界へと向かう前の試練!!

「おっ、今日はカビパンか! 割と普通だな、つまんねーの」

「そうだよね! 今日くらいには犬のフンが入っててもおかしくないって思ってたのになー」

 猫橋と高杉さんが前の席で好き放題に言っている。

「人事だと思って勝手な事を言いおって・・・・・・。こっちは天草さんに知られない様に苦労していると言うのに」

 この事に関しては天草さんには秘密にしている。天草さんにはこんなつまらない事を気にして欲しくは無いからな。

「うーん、この感じだとたぶん明日も食べ物系で決まりかな! オレ百円賭けてもいいぜ!」

「えー! それじゃあねー、アタシは髪の毛に百円! なんかホラー映画みたいになる気がするー!」

「お前達はもう少し俺の事を気にしてくれんかなっ!?」

 高杉さんは怒る俺を見て更に面白がっているが、猫橋は調子に乗りすぎたと思ったのかゴメンゴメンと謝りながら俺をなだめる。

「まあそんな事されていい気はしないだろうけどよ、言ってみれば幸せ税みてーなもんさ。みんなお前をやっかんでんだよ。気にすんな!」

「それはそうかもしれんが・・・・・・」

「もしかすると、あのヤローの差金ってこともあるけどな」

 そう言って猫橋が見た先に誰が居るのか、俺は見なくても分かっていた。

 あの夜に闘いを繰り広げた相手、浅岡真也だ。

 同じクラスなのであの日以降も普通に顔を合わせているのだが、言葉を交わすことは無い。お互いに気まずさを抱えているのだ。あの日あった事を思えば当然かもしれないが。

「もう一度言っとくが気にすんなよ! もしあのヤローが何かやってるようなら俺がシメてやるし、少なくとも俺はお前の味方だからな!」

「うむ!」

 軽いノリで茶化している様でも、いつも猫橋は俺の心を支えてくれる。頼りになる男だ。

「猫橋クンがそういうならアタシも味方になったげる! 感謝してよね!」

「う、うむ・・・・・・」

 高杉さんは・・・・・・ただ茶化しているだけだろうな・・・・・・。

 さっき出て来たカビパンを丁重にゴミ箱へと葬ると、その直ぐ横の教室の戸が開いて天草さんがひょっこりと顔を出した。

「高見沢君、提出してたみんなのノートを運ぶの手伝って欲しいんだけど・・・・・・いい?」

「う、うむ・・・・・・!」

 戸の後ろに半分隠れながら、遠慮がちに頼むその仕草の可愛らしさは反則としか言い様が無い。俺は危うく赤くのぼせた顔を皆の前に晒してしまう所だった。

「ねぇ、猫橋クン! いいこと思いついたんだけど・・・・・・なんてどう?」

「・・・・・・って訳か、面白そうだな!」

 天草さんを手伝う為に教室を出ようとした時、何やら猫橋と高杉さんが話している声が耳に入った。その時は何の話をしているのか聞き取れなかったが、その日の放課後、二人の恐るべき企みが明らかになったのだ。

「ねぇねぇ! 次の土曜なんだけどさ、みんなで駅前辺りで遊ぶことになったから! アタシと猫橋クンと恵と高見沢クンの四人でね!」

「あ、言っとくけどこれ、もう決定だかんな! 恵ちゃんにはもうオーケー貰ってっから!」

「な、なにぃーーー!!??」


第二十三話へ続く

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