第十六話「星見デートと覗き屋」
俺は林から林へ、闇に身を潜めながら天草さんを探した。しかし、なかなか見つからない。花壇の側のベンチ、噴水前の広場も確認したが天草さんも浅岡も見当たらない。一番可能性が高いと思っていた、街を見渡せる高台の広場にも居なかった。
くそっ! どこへ行ってしまったんだ天草さん! 俺が邪な好奇心に負けてしまったばかりにこんな事になってしまうなんて……! これでもし何か良くない事が起こってしまったら、俺は自分を許せんっ!!
主要なポイントは確認したので、今度はあまり行かなさそうな所を当たってみる事にした。開けてはいるが公衆便所が近い小さなグラウンド、たまにカップルがイチャついているアスレチックスペース、それらを回っても見つからない。
人目を避けながら林の中を数十分走り続けた俺は息が上がり、道着は汗でびっしょりになっていた。
もう駄目かと、半ば失意に襲われ掛けていた俺は偶然に、林の中にぽっかりとできた小さな草地を見つけた。
木々と茂みの中に隠れて、その空間だけが別世界の様に存在している。満月から降り注ぐ眩い月光が差し込み、林の中でそこだけがスポットライトを浴びている様だ。
あ、あそこに居るのはっ!?
林の中の異世界に二人の人影が見えた。それはまさしく、天草さんと浅岡だった。
神よっ! 感謝しますっ!
俺は珍しく三次元の神に祈りを捧げた。
よし、ミッション開始だ!
俺は闇に潜みながら、二人の風下側へと回り込む。話し声が聞き取りやすくなるだけではなく、俺の気配も二人に伝わりづらくなるので都合がいい。
よし、二人の表情も見えるし良い位置だ!
俺の居る場所は二人の正面のやや天草さん側寄り、しかもその辺りには身を潜めるのに丁度良い茂みや低木が多かった。
二人との距離は、およそ五メートル。
俺は地面と同化するかの様にべったりと地に伏せ、茂みの中に顔を突っ込み、二人に気づかれないギリギリの所まで近づいた。
「星がホントに綺麗だよねー。やっぱり今日来て良かっただろ?」
浅岡が天草さんに声をかける。
二人は隣に並んで地面に腰を下ろしていて、傍には天草さんが持って来たのであろう、小さめの天体望遠鏡が設置されていた。
少々早い様な気もするが、たぶん星を見るのは一段落して、お話タイムに入っているのだろう。
「うん。でもUFOを見つけるならもっとよく探さなくっちゃ」
「待った! もういいじゃない、座りなよ恵ちゃん!」
浅岡は天体観測を再開しようと立ち上がりかけた天草さんの手を掴み、また地面に座らせる。
ん!?
その際に浅岡は、より天草さんに近い位置に座り直した。しかも天草さんの手を握り続けている。
な、何て大胆なのだ浅岡っ!! 何故そんなにも自然に女子の手を握れるのだっ!! まだ愛を共有していない女子の手を握るなど、俺には考えられんっ!! 愛の作法とは、
一、愛を告白する
二、手を握る
三、キスをする
四、髪を触る
五、夜を共にする
これではないのかっ!?
浅岡の行為にカルチャーショックを受けながらも、俺は調査を継続する。
あ、天草さんの様子はどうだ?
「あ、あの、浅岡君……?」
天草さんは戸惑っている様子だが、その手を振りほどきはしない。
天草さんは浅岡の好意を受け止めているのか? いや、まだ分からんぞ!
「……恵ちゃん」
「はい?」
「俺、恵ちゃんと二人っきりになれて嬉しいよ。恵ちゃんが転校してきた日からずっと、こんな日を夢見てた」
浅岡は天草さんの目を見つめながら言う。
こ、この雰囲気は、行くのか浅岡っ!?
そして少しの沈黙。事の成り行きをドキドキしながら見守っていると、浅岡が動いた。浅岡は天草さんの方へ顔をゆっくり近づけていく。
な、なにぃーーー!!! 愛の作法その一が終わっていないというのに三だとぉーーー!!! どういう事だ浅岡!!! し、しかし、天草さんはどうでる!?
第十七話へ続く