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第十四話「人に言えぬ決意」

 結論から言って、俺は天草さんに浅岡の事を言えなかった。

 あの後すぐに、トレーニングを口実に俺は話を切り上げて天草さんと別れたのだ。

 浅岡を裏切りたくなかったし、友達と距離を置いてしまうと言っていた天草さんに仲の良い相手が出来るのも、望ましい事なのではないかと思えた。

 でももし、猫橋の言っていた事が事実で、そんな悲しい事が起こってしまったら、天草さんは心に深い傷を負うことになる。

「俺は……俺はロイヤルガードとして、どうすればいいのだ!? 教えてくれマリルちゃん!!」

 俺は自室のポスターの中のマリルちゃんに語りかけた。

 マリルちゃんはいつもと変わらぬ明るい笑顔を俺に向けている。

「……天草さんは、いつも笑顔でいる人だ。誰にでも平等に笑顔と優しさを与える人だ。でも、そうじゃない笑顔があるのだ。天草さんの、天草さん自身の為の笑顔……マリルちゃんの様に明るくて、眩しくて……」

 マリルちゃんは魔王に見初められ、人身御供(ひとみごくう)になりかけた所を冒険者の俺が助けた。

 なら天草さんは……?

「……よし!!」

 俺は覚悟を決めた。俺がやる事は、ロイヤルガードとしては恥ずべき事かもしれない。単に友人を信じる事が出来ない愚か者の所業なのかもしれない。

 だが万が一という事だけは阻止しなくてはいけない。

 俺は明日の夜、森王自然公園へ偵察に行く事を決めた。

 失礼だとは思うが、そこでの浅岡の様子を見て判断しようと思う。

 夜が明けて次の日、その日は金曜である。放課後は皆、週末の開放感を胸にいつもよりも浮かれている様に見える。

 そんな彼らとは全く対照的に、俺の神経はピリピリして緊張していた。

 どんな大義名分を掲げてみた所で、俺がやろうとしている事は覗きと変わらない。天草さんと浅岡が二人で会っている様子を盗み見ようというのだから。

 なんという不埒(ふらち)な行為だろうか。しかし俺は、覚悟を決めたのだ。

「なぁ高見沢、帰りにまたファミレスにココアでも飲みに行かねーか?」

「すまんな猫橋! 今日は急いでいるのだっ!」

「お、おう。また来週な!」

 俺は天草さんと浅岡とは目を合わせない様にしながら、そそくさと教室を出た。

 一瞬、猫橋に相談してみようかとも思ったが、なんだか恥ずかしくて言う気になれなかった。天草さんに浅岡には気をつけろと言えなくて、でもどうしても心配だから覗きに行くだなんて、なんだか小心者な感じがして情けない気もしたからだ。

 それから俺は急いで家に帰り、準備を整え、自分の部屋の窓際でひたすら天草さんが外出するのを待った。

 こういう時、家が隣同士というのはとても役に立つ。

 日が落ち、母から晩御飯が出来たと言われても、俺は(かたく)なに窓のそばを離れなかった。

 正直、あまり食べ物が喉を通る状態でもなかったし、天草さんが出かけるタイミングを逃してしまっては意味がない。

 窓際に張り付いて数時間経った頃、天草さんの家のドアが開き、肩から荷物を下げた天草さんが現れた。

 時は来た!!!

 俺は立ち上がり、腰帯を強く締めた。既に身は道着に包まれている。これがロイヤルガード高見沢鏡四郎の正装だ。

「よし……行くか!」


第十五話へ続く

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