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第十一話「猫橋ってやつは」

「そ、そんなまさか……」

「まさかじゃねーよ! そのものズバリだろうが!」

 猫橋は苛立ちを紛らわす様にメロンソーダフロートを勢いよく飲む。

「猫橋よ、それ俺のメロンソ……」

「許せねぇっ! 図々しく割り込んで来たあげく、なんの権利でお前をのけ者にしやがんだか!」

「いや、でも、俺は浅岡に協力を約束した訳だし……」

「そう、お前はあくまで善意の協力者であって、浅岡の部下や手下じゃねー! なのにあのヤローは自分に都合のいいことはお前に協力させて、それが終わったら恵ちゃんと距離をとらせるなんて、勝手が過ぎんだろーが!! クソったれがっ!!」

「う、うむ、確かにな。……ところで飲み物注文していいか?」

 俺のメロンソーダフロートは既に空になっていた。次はホットココアを頼む事にした。

「まったく、ふざけたヤローだぜ!」

 注文を取った店員さんが去った後、少し落ち着いた猫橋は軽く悪態をついて席の背もたれに深く背中を預けた。

「し、しかしだな、好きな子に他の男を寄せ付けたくないという気持ちはよく分かるのだ。ギャルゲーにはたびたびライバルキャラというのが出てくるが、そいつらが馴れ馴れしくヒロインに話しかけるだけで、俺は殺意が湧くほどジェラってしまう! 燃え上がる様な殺意がジェラジェラとな! ジェラり過ぎてストレス性胃腸炎になってしまう程だ! それを思うと、浅岡に文句を言う気にもなれんのだ」

「ジェラジェラってなんだよ……。なら泣き寝入るのか?」

「な、泣き寝入るとかそういうんでは……」

「でもお前は実際に傷ついた、そうだろ? それが分からねーほど俺はバカじゃねーぞ」

「……う、うむ」

 少しの沈黙の間に、店員さんがホットココアをテーブルに置いていった。

 猫橋はゆっくりとココアを一口飲む。

「猫橋よ、それ俺のホットコ……」

「やっぱり許せねぇ! あのヤローはオレがシメる!!」

「な、何を言っているのだ猫橋!?」

「オレはなぁ、ナメられんのは嫌いなんだよ。そんでもってな……」

 猫橋は真っ直ぐな目で俺を見る。

「ダチがナメられんのは、もっとずっと嫌いなんだよ!!」

「ね、猫橋……!」

 何故に猫橋はこんなに怒っているのか、それはもちろん俺の為だ。俺の心が傷ついたのを察して仇を取ろうとしてくれているのだ。こんなに嬉しい事があるだろうか。

「猫橋よ、ありがとう!! 俺はっ、俺は今感動で魂が震えているぞっ!!」

「へへっ、よせよ高見沢」

「だが猫橋よ、もういいんだ」

「いいって何がだよ?」

「浅岡の事はもういいんだ。俺は確かに恋の手助けをすると約束した。そして俺は愛と誠実の騎士ロイヤルガードとして使命を全うした。それでいい。傷ついたのは確かだが、素晴らしい友人が、今それを癒してくれた。だからいいのだ」

「は、恥ずかしいことを真面目なツラして言うんじゃねーよ!」

「いや、恥ずかしくなんてない。俺は世界中に胸を張って言えるぞ! 目の前にいる猫橋猛という男は最高の親友だとな!!」

「よ、よせって〜! 声がでけーよ! 周りが見てるだろーが!」

「本当の事だ! 俺はリアルでこんなに胸が熱くなった事はない! こんな気持ちになれたのは他でもなく猫橋、お前だからだ! お前のお陰なんだ!! もうこれは、ほとんど愛……!!!」

「まずお前をシメるぞ、黙れ」

「……うむ」

 まったく、何も殺気を放たなくてもいいではないか、猫橋め。

「まぁ、では最後に一言だけ……」

「なんだよ!?」

「ありがとう、猫橋よ」

 俺は全ての気持ちを込めるつもりで猫橋にそう言った。

「……ば、バカヤロー。当たり前じゃねーか、ダチだからよ。じ、じゃあ、今日はこの後ちょっと用事あるからよ、先行くわ!」

 猫橋はそう言って立ち上がった。

 赤くなった顔から、照れ隠しなのが見え見えだ。

 まったく、恥ずかしがり屋さんめ。

「あ、そうそう、実際のとこは分からねぇが、浅岡は何人も女を泣かしてるって話を聞いてんだ。やることヤッたらポイ、みたいな話とかさ。恵ちゃんと話すことあったら、気をつけた方がいいかもよって言っときな。じゃな!」

「おう、ではまたな!」

 挨拶の後、猫橋は顔を背けながらそそくさとファミレスを出て行った。

「天草さんと話す事があったらか……」

 なんだか話すのも気まずいな。浅岡との約束がある手前、そんな話をするのも裏切りな気がするし。

 それに何より、俺は、浅岡のあの目を信じたい。

 俺は物思いにふけりつつ、ココアのカップを口に運んだ。

「……ん!?」

 ホットココアはほとんど空になっていた。

 猫橋のやつ、どうやら名前の割に猫舌ではないらしいな。

「……すみません店員さん、お水を頂けます?」


第十二話へ続く

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