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思いつき短編 その3




八戸出 萬は疲れていた。


激戦に次ぐ激戦が彼の心身を蝕んでいた……わけではない。それほどヤワであったならGOTUIで長生きする事はできないのだ。


いや……“ある意味激戦だった”のかと、萬はこの一年を振り返ってみる。






一月。


「姫始め! 素晴らしい文化ですわね! ということで欲望の赴くまま伝統文化を堪能致しましょう!」

「すでに床の用意は整っております」

「各種器具もこの通り」


とりあえず拳骨を食らわせておいた。






二月。


「邪を払い福を呼ぶのに、なにも豆まきだけに拘る必要はございません。と、いうわけで巫女ですわ!」

「袴はスカートタイプとズボンタイプの二種をご用意致しました」

「さらにロングとショートも選択可能。サイドのスリットからの侵入も可能となっております」


ちょっぷで迎撃しておいた。






三月。


「さ、雛人形は片付けました。もう後は嫁入りするだけですわ」

「結納の品は、こちらに」

「記者会見の会場もご用意しております」


うめぼし。






四月。


「桜! ピンク! 即ちエロス! というわけで、さあ!」

「酒の勢いで攻めてみました」

「未成年は真似してはなりませんぞ?」


アイアンクロー。ちなみに萬の握力は90を超える。






五月。


「本日は殿方が好き勝手できると聞いて参りました。つまり据え膳OKでFA?」

「もちろん独自解釈でございますが」

「異論はあるでしょうが受付ませぬ」


ハリセンは結構痛い。






六月。


「梅雨となれば部屋に籠もりがちになりますわね。適切な運動が必要だとは思われません?」

「主に床の上でいかがでしょうか」

「四人ともなれば色々な体位げふんげふん運動パターンが」


スリッパは人をしばくためのものではないが。






七月。


「海開き! 水着の季節ですわよ魅惑的な乙女の柔肌ですわよ!」

「なぜ室内限定かは考えない方向で」

「ビキニでしょうかワンピースでしょうかスク水でしょうか」


打ち抜くようなデコピンに開眼してしまった。






八月。


「浴衣。花火。つまり一夜の火遊びこそが夏の風物詩!」

「むしろ萬さまの浴衣姿の方がそそられるかと」

「そういうわけで是非とも、さあ」


連射式ゴム鉄砲。工作の宿題に使えるかも知れない。






九月。


「芸術の秋と言えば絵画。絵画と言えば裸婦像! さらに進んでボディペインティング! さあ欲望の赴くままにわたくしを彩ってごらんなさい!」

「特殊な白いぬとぬとした絵の具が喜ばれます」

「むしろ内側から彩った方がよろしいかと」


お望みのままぶっかけてやった。熱湯を。






十月。


「お菓子はあげませんからいたずらをなさいませ! さあトリックプリーズトリック!」

「もちろん肉体限定で。ぶっちゃけ性的な意味で」

「甘いという意味ではお菓子と変わらぬかもしれませんな」


ポン菓子用の機械を借りてきてぶっ放してやった。好きなだけ食らえ。






十一月。


「勤労感謝の日ですから普段の疲れを癒すためにマッサージなどいかがでしょう」

「これでございますか? エアマットでございますが」

「こちらはローションでございますが何か?」


ジャーマンスープレックスを編み出した先人はえらいと思う。






「……ふ……ふふふふふ」

 

俯いて陰鬱な声で嗤っていた萬が、突如面を上げて吠える。


「日本全国酒飲み音頭かあいつらは!? 毎月毎月毎月毎月!」

 

ノイローゼにならないのが不思議なくらいの状況であった。

いやあいつらの事は嫌いではない。慕ってくれるのはその、正直嬉しい。しかしそれとこれとは別問題。モーションを掛けているなどと言うにはあまりにもぶっちゃけすぎた、ドン引きどころではない攻勢を掛けられればこうもなる。愛が重いというか痛い。つーか酷い。

こうなんというか、もう少し大人しくならないものだろうか。誰かやつらに常識的な行動の仕方を教えてやれないものだろうか。


と、そこまで考えた萬の脳裏に――


「ん? 待てよ……」


――天啓のようなものが奔った。

 





~逆に考えるんだ。向こうが非常識な行動を取る前に、こちらが先手を打てばいいのだと~

 





それは確かに何者かの囁きだったのだろう。


天使か悪魔かまでは分からないが。











~思いつき短編年末特番・ぎゃくしうの萬~



 








ぽかん。蘭と従者たちの表情を表現するとそうなる。いや、彼女らだけではない、丁度司令部に居合わせた全員が同じような表情を晒していた。

 

いつも通りの業務が行われ、いつも通りに夜間サイクルへの交代時間へと移り変わろうとしていた。ただ違ったのは。

いつも通りに報告に現れたはずの萬が、退室する前に思いだしたと言った風情で自然にこう口にしたことだ。


「ああ司令……とおまけの二人よ。24日の午後、空いているか?」

 

その言葉の意味が一瞬理解できなかった。24日。12月24日である。苦・利・素・魔・素・異・部である。そんな日に男性が女性に声を掛ける用事と言えば一つしかないそれ以外にあろうはずがない。あの萬が、過剰なまでのモーションを掛けたら反撃以外のリアクションを取らなかったあの萬が! 誘いを掛けている!? その事実に思考を凍らせてしまうのは致し方がないと言えよう。

固まったまま何の反応も見せない蘭に向かって、萬が鼻を慣らしつつ言う。


「都合が悪かったか? じゃあ……」

「いえ大丈夫ですわ超OKですわ! 例え何かの用事が押し付けられてもはせ参じてご覧に入れます!」


逃してなるかとばかりに慌てて応える。二人の従者も首が折れんばかりの勢いで頷いていた。それを見て「そうか、なら……」と時刻と集合場所を告げる萬。地に足がつかない様子でそれを聞いている3人には、いつもの勢いはない。

言うだけ言ってさっさと立ち去る萬。蘭たちは放心した表情でそれを見送っていた。


「夢じゃ……ありませんわよね?」


放心したまま呟く蘭。頬をつねってみる。痛い。

彼女の後ろでは、従者たちが見事なクロスカウンターで互いの頬に拳をぶち込んでいた。


夢では、ない。その事実は徐々に彼女らの心に浸透し……。

もの凄い歓声が、司令部に響き渡った。











当日。待ち合わせた場所に集った4人は、すでにぼろぼろだった。


「聞くまでもないけど、おまえらもか」

「ええ、そのとおりですわ」

「まったくもって……」

「……いまいましい」


なぜだか24日当日になって押し寄せる仕事。謀ったかのようにではなく実際狙われたのだろう。誰が狙ったのかまでは言うまでもない。

その全てを、この4人は午前中で片付けた。そりゃもう獅子奮迅の地獄絵図だった。涙目になったのは一人や二人ではない。つーかこの面子以外の全員がマジ泣きである。具体的な描写が省かれるほどに。

押し付けるだけ仕事を押し付けたんじゃないかという事実に関しては目を瞑って欲しい。

後で総司令をフルボッコにしておこう。内心そう誓ってから4人は気持ちを切り替えた。


「それでその、今日はどのようなお誘いですの? ……わたくしとしましてはその、いきなりラブホテルとかじゃなければ大概OKというかなんというか」

「我々はそれでもかまいませんけれど」

「むしろウェルカム。最初からクライマックス上等でございますが」


もぢもぢしながらもやっぱりどっかおかしい3人の言葉に対して、萬は何言ってんのコイツらとでも言いたげな顔をして応えた。


「ドリーム入るのも大概にして、目の前の現実を直視しような。ここをどこだと思ってんだ」

「いやその確かに……“どう見てもただの商店街”にしか見えませんけれど」


何か美味しい店でもあるのかと思っていた蘭はちょっとがっかりした。であれば何の目的でここに連れてきたのだろうと首を傾げる彼女たちの目の前に、萬が何かを差し出した。


「こ、これは……」

「福引き券、でございますな?」


なんかえらい厚みだが一体これが何だというのか。萬の意図を謀りかねて3人は首を捻る。そんな彼女らに萬は容赦なく告げた。


「有里華さんの伝手でな、なんかやたらと貯まったんだが……俺が引くとろくでもない結果に終わりそうな気がするんでな、3人で代わりにやってくれ」


運が悪いことには定評がある萬からのお願いであった。お願いではあったのだが。


「つまりその、わたくしたちは単なる人手であると……」

「ちなみに一等は家族4人水入らずの温泉旅行だそうだ。混浴付きで」

「さあやいば、はずみ! ここが天王山ですわよ! 気合いを入れなさい!」

「承知! 我が主の御心のままに!」

「この一命を賭して、勝利を!」


めちゃくちゃチョロかった。


意気揚々と福引き所に向かう3人の背中を見やりながら、萬はわりとどうでもよさげに思う。

まあいくら何でも、全部ティッシュってことはないだろう、と。











からんからん。











どんよりと沈む空気。

“山ほどのティッシュを抱えた”3人の姿を見て、萬は天を仰いだ。


「…………まあ、そういう事もあるさ」


最初から期待してはいなかったが、ここまでとは。さすがの天地堂最高傑作も福引きを引き当てる強運は標準装備されてはいなかったらしい。されていても困るが。

やれやれと肩を竦めながら、萬は意気消沈している3人に言葉を掛ける。


「こんなところで運を消費したってしょうがないだろうよ。当たらなかったからって死ぬわけじゃないんだから」


その言葉に蘭がしょんぼりと肩を落して応えた。


「でも……折角萬が、期待してくれましたのに……」


その様子に、少し悪いことをしたかなあと思う萬だったが。


「温泉……混浴……あれもこれもと考えた魅惑の罠が……」

『はああああ』


即座に気のせいだったと思うことにした。

まあコイツらは所詮コイツらだと改めるまでもなく思いながら、萬は3人を促した。


「ホレ折角だ、ラーメンでも食ってくぞ。こっちのほうに美味い店があるそうだ」

『……はあい』


ラーメン好きの蘭ですら意気消沈したままだった。期待した分落されたのがよっぽど堪えたのだろう。ホントにコイツらはと鼻を鳴らしながら思いつつ、萬はさりげなさを装って「ああ、そうそう」と振り返り――


「ほらよ」

『?』


――ポケットから“綺麗にラッピングされた小さな包みを3つ”取りだし、それぞれ3人に向かって放り投げた。


「え?」

「あ?」

「……あの、萬? これは……」


包みを受け取ったままぽかんと間抜け面を晒す3人。問い掛けられたのは蘭だけだった。

彼女の問いに対し、萬はにっと笑って背を向ける。


「付き合ってくれた礼だ。大したモンじゃない」


せいぜい“山のように福引き券を貰うくらいの”手間と金しかかってないしと、言葉に出さずに呟く。決して、“この商店街にある有里華ごひいきの宝飾店の職人に頼み込んで創ってもらった”などとは、口が裂けても言わない。


え、あの、ちょっと待って下さいましなどと騒ぎながら慌てて追いかけてくる3人の声を背に受けて、萬はくくっと苦笑を浮かべた。


いつもの仕返しだ。せいぜい驚いて、喜びやがれ。











「うふふふふふふふふふふふふふ……」

「くすくすくすくすくすくすくす……」

「くくくくくくくくくくくくくく……」


翌日。ものっそい上機嫌な3匹が司令部にいた。

3人の元にはそれぞれ鈍く輝くものがある。


蘭の胸には太陽をあしらったペンダント。

やいばとはずみの首もとには、それぞれ月と星をあしらったチョーカー。


プラチナ製のそれらは、慎ましげながらも誇らしく光り輝いている。


『でゅえっへっへっへっへっへっへっへっへ……』


その日、3人の仕事ぶりは普段の数倍にも迫る勢いだったという。

ただ、周囲の人間はなぜか3人の様子に怯え、思いっきり仕事に支障をきたし全体的に効率は落ちてしまったという事だ。


なお一連の事態に対し思いっきり関わっていると目されていたTEIOWパイロットB・Y氏が完全黙秘を貫いたため、真相は闇の中である。






どっとはらい。















「我には? 我には!?」

「アタシもハブかあああ!」

「トップ記事にしますから! 脱ぎますから!」

「戦闘AIがプレゼント欲しがんなやターナはぼんぼんから貰っておけそれとルポライターはこっちじゃまだ出てないだろうがよ!」






今度こそ本当に終わり。






よっしゃクリスマスに間に合ったあああああ!

でも本編そっちのけな緋松ですどうも。


言い訳ですがクライマックスが近付いてきたせいか煮詰まり気味。短編とかはガス抜きです。ンなの書いている間に本編とか僕らのとか進めろやあとかいう声も聞こえてくるようなしますが気にしないで頂きたい。泣きます。


まあ何とか今年中に本編を一つ進めたいと思っておりますので、なにとぞご容赦を。

でわでわ。




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